
最近では、賃貸仲介業における単価の減少により、売上を十分に確保することが難しくなってきた。
こうした背景から、安定収入を見込める賃貸管理業へとシフトし、全体の収支改善を図ろうとする仲介会社が増加している印象だ。
その流れの中で最も重要なのが、効率的かつ継続的に管理物件を獲得していく体制の構築である。
現在、管理物件の獲得方法は以前に比べて大きく変化している。
かつて主流だったオーナーへの直接訪問やDM(ダイレクトメール)による営業は、情報が限られた時代においては有効だったが、今やその効果は限定的だ。
代わって主流となりつつあるのが、ウェブマーケティングやブランディング戦略、そしてマーケティングオートメーション(MA)ツールの活用である。
これらを駆使することで、より効率的に見込みオーナーを獲得し、信頼関係を構築することが可能になってきた。
情報発信型のオウンドメディアを通じて、自社の専門性や管理実績を積極的に発信し、検索エンジンを経由して興味関心を持つ層を引き寄せる。
実際に、ある地域密着型の管理会社では、自社メディアで「相続対策としての賃貸管理」や「収益性を高めるためのリフォーム事例」などの専門記事を週1回更新することで、オーナーからの相談件数が3倍に増加したそうだ。
また、YouTubeでのセミナー配信や物件管理ノウハウの動画化によって、他社と差別化されたコンテンツ展開を行い、認知度を大きく高めることができた事例もある。
さらに、リスティング広告やSNS広告を活用し、ターゲット層への接触を強化する事例も多い。
たとえばFacebookやInstagramの広告で「空室に悩むオーナー向け無料診断」を訴求し、ランディングページへ誘導したところ、目標数値よりも多くの資料請求につながったというケースもある。
さらにそこから自動で配信されるステップメールにより、オーナーの興味度合いをスコアリングし、アポイントのタイミングを最適化する仕組みも整えられている。
こうした取り組みが功を奏して営業メンバーの負荷を減らしながらも成果の最大化が図られるようになった。
またMAツールの導入事例として、Salesforceなどを活用している企業では、問い合わせから契約までのプロセスが可視化され、追客の抜け漏れが防げるようになった。
特に定期的なフォローメールや分析機能を活かすことで、顧客との継続的な関係構築が可能となっており、契約率の向上に貢献している。
ちなみにこれらの手法を効果的に取り入れるためには、段階的な導入ステップを踏むことが重要となる。
まず最初に行うべきは、自社のターゲットとなるオーナー層の明確化と、ペルソナ設定である。
年齢層、所有物件のタイプ、悩みや課題などを整理することで、発信すべきコンテンツの方向性が定まる。
その次に、オウンドメディアの設計とコンテンツ企画に着手する。
SEOを意識した記事構成やタイトル設定、動画や図解なども交えて分かりやすく情報提供することで、訪問者の信頼感を醸成できる。
続いて、広告運用やSNS施策を並行して開始する。
最初から大きな予算をかけるのではなく、少額からテスト配信を行い、反応率やクリック単価、コンバージョン率を見ながら調整していくことが肝要だ。
一定の成果が見え始めた段階で、MAツールの導入を検討するとよいだろう。
導入時には、営業チームとの連携を密にし、ツールに登録された見込み客の対応フローを整備する必要がある。
その後は、データを活用した改善とPDCAサイクルの継続が欠かせない。
配信メールの開封率やクリック率、問い合わせ後の契約率などを定期的に分析し、改善ポイントを見つけて施策に反映していく。
これを習慣化することで、ウェブ施策の質が次第に高まり、より安定した物件獲得につながっていく。
その一方で、ただ集客手法を変えるだけではなく、サービスそのものに差別化を加えることも不可欠である。
たとえば、24時間対応のトラブルサポートや、スマートフォンを活用した契約・管理システムの提供は、オーナーの不安を軽減し、利便性を高める要素となる。
また、リノベーション提案や将来の売却を視野に入れた出口戦略のコンサルティングを組み合わせることで、単なる管理会社ではなく、不動産資産のパートナーとしての位置づけを明確にできる。
このような取り組みを推進するには、自社がどのような理念や目的を持って賃貸管理業を展開しているのかを明確にすることが前提となる。
なぜ自分たちがこの業務に取り組んでいるのか、どのようなプロダクトを提供したいのかといった根本的な問いに答えを持っていなければ、どれほど技術的に優れた手法を用いても長期的な信頼獲得には繋がらない。
結局のところ管理物件の獲得とは、単なる営業活動の結果ではなく、会社全体としての姿勢と価値観が市場にどう伝わっているかの現れとも言える。
訪問や紙媒体によるアプローチを否定するものではないが、時代の主流はすでにウェブマーケティングとブランディング、そしてデータ活用による効率的な営業に移行している。
今後はこれらの手法をいかに組み合わせ、自社の強みに変えていくかが、成功の分岐点となるはずだ。