
不動産業界において、特に1月から3月にかけてのいわゆる「繁忙期」は、一年の中でも最も物件の動きが活発な時期である。
この時期には新生活の準備として、多くの学生や新社会人、転勤者などが新たな住まいを探し始めるため、賃貸物件の需要が一気に高まる。
それに伴い、特に都心部の人気エリアにある物件は、非常に短い期間で次々と申し込みが入り、瞬く間に埋まってしまうという状況が日常的に発生する。
営業担当者としては、この動きの速さを的確に把握し、ユーザーに対して適切なタイミングで情報を提供することが重要になる。
しかしながら、この「物件がすぐ埋まってしまう」という現実を伝える際には、注意が必要である。
ユーザーに対してあまりにも焦らせるような言い方や、「今すぐ申し込まないと他の人に取られますよ」といった一方的な圧力をかけるような営業手法は、かえって信頼を損ねる結果につながる恐れがある。
特に、初めて部屋探しをする学生や、地方から上京してくる新社会人などにとっては、都心の不動産市場のスピード感に対する知識が乏しい場合が多く、営業側の焦らせるような言葉に不安や不信感を抱いてしまうこともある。
営業担当者は、物件の現状や市場の動向をしっかりと把握しつつ、ユーザーの気持ちに寄り添いながら丁寧に説明を行うことが求められる。
繁忙期においては、問い合わせを受けた時点ですでに物件に申し込みが入っているというケースが非常に多くなる。
これは営業担当者にとっても頭の痛い問題であり、「いい物件を見つけたのに、すでに埋まっていた」というユーザーからの落胆の声も少なくない。
こうした事態を未然に防ぐためにも、営業としては「今の時期は、物件が非常に早く動いています」といった市況の共有を、最初の段階で明確に行っておくことが重要だ。
ユーザーが市場のスピード感を理解していれば、仮に希望していた物件が埋まってしまったとしても、「仕方がない」「次の候補を探そう」という前向きな気持ちに切り替えてもらいやすくなる。
このような市況の説明は、ただ口頭で伝えるだけでなく、メールやLINEなどのやり取りの中でもテンプレートとして盛り込んでおくことが有効である。
たとえば「現在は新生活シーズンで多くの方が物件を探しているため、内見のご予約やお申し込みが集中しております。
人気の物件はお問い合わせから数日、場合によっては数時間でお申し込みが入ってしまうこともございます」というような文言を、返信の際の定型文として組み込んでおくことで、ユーザーに自然と市場の状況を理解してもらうことができる。
また、電話対応時にも同様の説明を丁寧に行い、「焦らせているわけではないが、今はそれだけスピード感が求められる時期です」という誠意ある姿勢を示すことで、ユーザーからの信頼を得ることが可能となる。
特に成約率の高い営業メンバーは、この「ユーザーに寄り添う姿勢」と「市況の共有」が非常に巧みである。
彼らは単に物件情報を提示するだけではなく、ユーザーの立場に立って今の市場をどう理解してもらうかを考えている。
その結果として、たとえ検討していた物件が埋まってしまったとしても、「あの営業さんが言っていた通りだな」とユーザーが納得し、次の提案に耳を傾けてもらいやすくなるのだ。
つまり、ユーザーとの信頼関係がしっかり築かれていれば、一つの物件が失われても、営業としての信頼が損なわれることはない。
また、フォローの質も極めて重要である。
検討中の物件が他の申し込みで埋まってしまった場合、そのまま連絡を終えるのではなく、「代わりにこのような物件はいかがでしょうか」といった形で迅速に代替提案を行うことで、ユーザーの不安や不満を最小限に抑えることができる。
こうしたフォローアップを丁寧に継続することで、ユーザーは「この営業担当者は本当に自分のことを考えて提案してくれている」と感じ、より深い信頼を寄せるようになる。
結果として、そのユーザーが最終的に契約に至る確率も高くなり、さらにはその後の紹介やリピートにもつながる可能性が出てくる。
営業という仕事は、単に物件を紹介して契約まで持っていくという一連の流れをこなすだけではなく、ユーザー一人ひとりの状況や気持ちに配慮しながら、最適な提案と対応を行っていくことが本質である。
特に繁忙期のように、ユーザー側にも焦りや不安がある時期には、営業側の対応一つひとつが契約に直結する可能性が高まるため、その重要性はさらに増す。
物件が早く埋まってしまうという現実は、ユーザーにとってはプレッシャーになり得る情報であるが、それをどう伝えるかによって営業の印象は大きく変わる。
だからこそ、「この営業担当者なら安心して任せられる」と思ってもらえるような説明力と対応力を磨いていくことが、営業としての成長につながる。





