賃貸仲介業での接客時やチャットでのユーザーのやり取りにおいて、かなり厳しい希望条件をユーザーから突きつけられることがある。
たとえば、築浅、BT別、独立洗面台等の設備希望、かつ駅近の立地希望のユーザーの希望賃料が、実際の賃料相場と大きく乖離していたりするケースがそうだ。
このような時、不動産会社の営業メンバーは心の中でこう呟いてしまう「この条件だと、まず無いですよ・・」。
当然のことながら賃貸仲介業に従事しているメンバーは、商圏エリアの賃料相場はかなり細かく頭に入っている。
エリアや物件の設備や築年数を組み合わせた、かなり精緻な相場情報が頭の中に入っているだろう。
逆に言えば、こうした知識は賃貸仲介業を行ううえでは必須の知識とも言える。
一方ユーザーはといえばこういった「相場観」というものは、当然のことながら殆ど持ち合わせてはいない。
全く部屋探しをしたことのないユーザー、もしくは初めて引っ越しを検討するエリアなどに部屋探しをするユーザーが、自分の希望賃料が相場に対して適正かどうかを即座に判断することはかなり難しい。
では、時間が経てばこうしたユーザーは、希望エリアの正確な相場観を身に付けて物件探しをすることができるだろうか?
これに関しては、身に付けることができるユーザーとそうではないユーザーの二つに二分されるだろう。
ユーザーの物件探しの方法として、一番利用されるのはポータルサイトである。
ポータルサイトで自分自身の希望のエリアや賃料、条件で検索を行い、1件もしくは2件に絞る。
こうしたユーザーが圧倒的に多いだろう。
当然のことながら数万件のなかから絞られた物件は、かなり「お得」な物件か、もしくはやや「癖のある」物件などになる。
「癖のある」物件というのは、たとえば期間限定の定期借家の物件のような特殊な条件の物件がそうだ。
いずれにしても相場より安い物件であることは間違いない。
先述したように、部屋探しを始めた大半のユーザーはこの数万件のなかから残った「1.2件」の内見を希望し、不動産会社に問い合わせをする。
あまり検索しないまま問い合わせをしてしまうことで「相場よりかなり安いほんの数件の物件の募集賃料」がユーザーの相場観になってしまうことになるのだ。
一方で正確な相場観を身に付けるユーザーは、最終的に候補物件を数件に絞るものの、かなり「広く、多く」検索をする。
募集賃料を上下したり、エリアを変えたり、設備条件を入れたり外したり、など。
そうすることにより、なんとなくの相場観を身に付けることができる。
勿論、どちらのユーザーが良いか悪いかの話では全くない。
ただ「検索に時間をかけず相場観が頭に入っていないユーザー」と「相場観が頭に入っているユーザー」とに二分されるという話だ。
賃貸仲介においてポイントになるのは、前述した「相場観が頭に入っていないユーザー」の成約率を向上させることが、重要なポイントになる。
そしてこうしたユーザーに相場観を伝え、理解して頂くことこそが、仲介業のキモとなる。
「ご希望の賃料のご条件だと、なかなか物件はありません」
この言葉だけをユーザーに伝えるだけでは、まず成約には至らない。
ユーザーへ相場観を理解して頂くには以下のような作業が必要になる。
ユーザーに相場観を付けてもらうのは、それなりに時間を要してしまうのだ。
ユーザーに対して相場観を身に付けて頂く接客術を順番に紹介すると、
①条件を度外視し、希望エリアと希望賃料だけの条件で物件情報を多数提示する
ユーザーの希望の設備や条件を一旦無視し、ユーザーの希望賃料と希望エリアの二つの軸のみで検索し、その検索結果と物件の提示を行う。
②希望賃料を度外視し、希望エリアと希望条件だけの物件情報を多数提示する
次は、上記の条件を逆にし多くの物件情報を提供する。
これにより「エリアの相場」と「ユーザーの希望条件」の乖離を縮めることができる。
勿論、こうしたやりとりはメールやチャットではなかなか難しい。
あくまで対面での接客時に行うことが前提だ。
③広域なエリアで希望条件、希望賃料に見合う物件情報を多数提示する
上記2つのやりとりを経て、ユーザーの希望条件に合うエリア相場の物件を提示する。
ここでポイントなのは「無理に営業しない」ことだ。
あくまで最適な物件の提案は、ユーザーの相場観をチューニングした後である。
無理に他のエリアに振ろうとすると、ユーザーは不信感を抱いてしまう。
ここまで実施しユーザーの理解を得られると、はじめて「ユーザーの相場観」というものが出来上がってくる。
ここから改めてユーザーにヒアリングを実施し、物件提案を行っていく。
仲介業務を行っていると、ユーザーとのやり取りが非常に膨大になってしまい、工数が増加していくことがある。
その原因の殆どが、仲介会社の「相場観」とユーザー独自の「相場観」が合っていないことが原因のようだ。
相場観のないユーザーは、「他に良い物件があるのではないか」と感じてしまい、なかなか申込まで至らないケースがある。
そう考えると表現が難しいが、「ユーザーへの育成」のような観点が仲介メンバーには必要かもしれない。
過去多くの優秀な仲介メンバーを見てきたが、漏れなくほぼすべての優秀なメンバーが部屋探しのユーザーに対して、現実の賃料相場を理解させることができていた。
そう考えると、かなり成約率向上において上記の営業活動は重要なポイントになるだろう。
ユーザーへの相場観の「育成方法」は他にも様々にあると思うので、是非社内でいろいろな施策を考えてみてほしい。