私はビルダーや工務店のコンサルティングをしていますので、行く先々で営業マンとは頻繁に会話をしています。
会話のメインはもちろん受注の話ですから、競合に勝ったり負けたりした実例を、いやというほど耳にするわけです。
今日からしばらくの間、現場で私が聞いた競合に勝った話の中から興味深いものを取り上げていきましょう。
中には、ただ単純に価格が安かっただけ、との事例も多数ありますが、 それはあまりに面白くないので、それ以外で「なるほどね・・・」 と言えるような競合勝ち事例をどんどん上げていきます。
初回の今日は【レスポンスの速さが競合に勝ったとしか思えない事例】をご紹介しましょう。
「レスポンスが早かったと言われました」
今回の主人公は新卒2年目のA君です。
住宅展示場の接客を本格的に始めてからまだ一年しか経っていないので、それまでの受注実績は新築を4棟とリフォームの大型案件を一件とっていました。
悪くもないが良くもないという数字だと私は判断していますが、直近で取った新築案件の話になります。
私「今回は有名どころのハウスメーカー2社を相手にして結果的に競合勝ちしたのだけど、お客さんはあなたのどこを評価したんだろうね?」
A君「ただただ一生懸命やっただけで私もよくわかりませんが、お客さんから直接言われたのは、私のレスポンスが圧倒的に他社と比べて早かったということです」
住宅会社決定理由の上位に必ず食い込んでくる理由がこれ
A君はお客さんにこのように言われたということですので、間違いなくこのことが受注を取った最大の理由といって問題ないでしょう。
特にインパクトのある話ではありませんし、目新しい理由でもありません。
しかし、レスポンスが早いことは、皆さんが想像している以上に住宅会社決定の理由になるのです。
積水ハウスで私が営業をやっていた時代も、このことは徹底して意識をしていました。
「とにかく早く対応しろ。これだけで相当有利に立てるからな」
新卒で入った展示場の店長は、常日頃から私にこのような指導をしていたので体に刷り込まれていることもありますが、記憶をたどるとA君と同じような経験を何回もしています。
初契約の方もそうでしたが「森君は動きが早いね~」とご主人に評価してもらったことを、今でもはっきり覚えています。
積水ハウスの看板で取れた部分はもちろんあったはずですが、競合相手も全国有名ハウスメーカーでしたから、看板だけで取った受注ではないでしょう。
それ以降、商談ベースに乗ると「少しでも早く返答しよう!」と自分に言い聞かせながら仕事をしていました。
私の顧客取材でも最上位に来るのが素早い営業の対応
このコラムでも散々書いていますが、私は長年にわたってお客さんの取材を重ねています。
この記事を書いている11月29日も1件のZoom取材をこなしました。
12月も5件のZoom取材があるのですが、これらの取材でお客さんに対して住宅会社決定要因を聞くと、営業の素早い行動をあげる方がほぼ全員なのです。
住宅営業も不動産営業も関係なし
工務店の方がこの記事を主に読んでいただいていると思いますが、 新築とは全く縁のない不動産会社の方も、それなりにいらっしゃると思います。
営業のレスポンス速度は、新築営業でも不動産営業でも全く関係ありません。
私が偉そうに言わなくても、皆さんすでに分かっている話だと思いますが、 実際にそのようなスピードで行動している営業マンがどの程度いるかと推測するに、せいぜい10%から20%だろうと私は確信しています。
「〇〇ホームさんは遅かったわよ」
A君はレスポンスが非常に早かったと評価されたわけですが、裏を返せば、競合相手の営業マンは相対的に遅かったといえます。
そして実際にも、最後まで残らなかった住宅会社の営業マンのことを、このお客さんはA君に話していたのです。
A君であれば翌日に返事があるところを、某工務店の営業は2~3日後になっていたとのこと。
さらに別会社になると、お客さんから催促をしてやっと返事が来たことすらあったようです。
ちなみにこの会社は、誰もが知る有名ハウスメーカーですが、このレスポンスの遅さが原因で、お客さんは早々に見切ったそうです。
お客さんが最も感動したA君の対応力
私はA君にさらに突っ込んでヒアリングをしました。
レスポンスの速さをお客さんが評価したのはわかったのですが、その中でも最もお客さんの心を掴んだ行動が何かを知りたかったのです。
すると、意外な答えが彼から返ってきました。
「奥さんにこんなこと言われました。お客さんの家で折衝していて夜の8時ぐらいになったのですが、そのとき図面の軽微な変更依頼をされたのです。それを事務所に帰ってから手作業で修正して、翌日の10時にお宅にお邪魔して届けたんですよね。そうしたら、奥さんがものすごくびっくりした顔するんですよ」
夜遅くまで仕事をしてくれたことに感動してくれた
夜8時までお客さんの家にいて、それから事務所に帰って仕事をすれば、相当な時間になることは誰でも見当がつきます。
翌日の朝10時に変更プランを届けに来てくれたということは、A君が遅くまで自分のために仕事をしていたことは、誰にでも簡単にわかります。
私は平成初期に住宅営業していましたが、その頃の感覚から言えば夜の10時11時にお客さんのプランをコーヒー片手に書くことは当たり前のことでした。
が、働き方改革のこの時代においてはこんな時間に働いているということ自体が、お客さんにとっては衝撃的な事実だったわけです。
A君が言うには、この一件があってから、さらにお客さんの信頼が厚くなったと肌で感じたとのことでした。
今の時代、皆さんにこれを真似しろと私からは言えませんが、お客さんがこのような感情を抱くのは事実です。
何としてでも契約を取りたければ、たまにこんな事があってもいいのではないでしょうか。
バカ丁寧な態度も好評だった要因と推測
私が直接お客さんに聞いたわけではないのですがA君は、バカ丁寧な気遣いも、奥さんに評価されていた可能性が高いと自己分析していました。
車のドアを開けてお客さんを待っていた
これは奥さんに事あるごとに言われるらしいのですが、自社が所有するショールームにA君の車で相乗りしてお連れした時の話です。
ショールームの中で別のスタッフからカーテンの説明を受けている間に席を外したA君は、ショールーム案内がそれで終わりになるので、早めに自分の車に戻ってドアを開けてお客さんを待っていたのです。
「ハイヤーじゃあるまいし、そんなことされたら恥ずかしいじゃないの~(笑)」
奥さんはそのときこう言ったらしいのですが、何かあるたびにこの時のシーンを奥さんがニコニコしながら話すらしいのです。
「その時の私の対応を評価してくれたというか、かなり気に入ってくれたような感じがしてならないんですよね」
これはA君の自己分析ですが、おそらく的を射た分析だと私は思っています。
営業力以外で加点を重ねたA君
話をまとめると、スピーディーな対応に加えて、夜遅くまで仕事をしてくれたこと、そしてハイヤーの運転手のようにドアを開けて待っていてくれたことが、 A君の受注獲得に大きく貢献したことはほぼ間違いないと思われます。
間取り、価格、設備、アフターサービスなどの内容が、もちろん住宅業者決定の大きなポイントになるわけですが、今回のケースはこれ以外の部分が大きかったというか、それが決定要因になったとすらいえる案件でした。
まとめ
今回は営業のレスポンス速度が他社に勝ることによって受注を取れたと分析される案件のご紹介でした。
文中にも書きましたが、この内容を軽視することはやめたほうがいいと私は強く進言いたします。
どうしても営業テクニック的なことを求めがちですが、お客さんはこんな初歩的で単純なことを高く評価するどころか、これが住宅業者決定の最大のポイントになることが往々にしてあるのです。
社長や幹部の方がこの記事をお読みであれば、今一度、前線の営業マンの対応スピードをチェックしてみてください。
本記事執筆講師が動画にてわかりやすく解説
工務店営業社員の育て方 「24年にわたって現場で営業育成をしてきたノウハウの一部をご紹介」
積水ハウスと 零細工務店で営業を経験したのち独立した私は、以後24年間に渡って現場で営業指導を行ってきました。
コンサルティング現場ではさまざまなことを行ないますが、今回の50分のビデオではコンサル現場で実際に行っていることも交えながら、3点にポイントをまとめて解説しています。机上の空論ではなく、すべてが 現場で実践してきた内容ですので、是非とも最後までご視聴ください。
今年度はひとり親方の 大工さんから、上は年間2000棟以上こなしているパワービルダーの社員研修まで幅広く行っていますが、規模の大小に関係なく、ある事を徹底的に忠実に実行すれば 受注が伸びていくのです。