年間受注棟数といっても会社の規模感を抜きにして語ることはできません。
また、必要経費も違えば、格安住宅を取り扱っているならば、受注頭数を増やさなくては勘定が合いません。
力のある工務店であれば、地元の総合住宅展示場に出展するケースも珍しくなく、その場合は出展料なる経費も見なくてはダメです。
粗利益やら社員の給料やらも複雑に絡んでくる話ですが、今回のコラムでは一般的な話も含め、あまり知られいない話も織り込みながら話を進めていきます。
ざっくりではこんな感じ
1.都内零細工務店S社の事例
社長と面識があるのですが、都内でお父さんの代から経営を続けるS工務店。
長男が社長、次男が専務、長女が経理という典型的な家族経営工務店です。
現場監督、設計、事務などの社員を含めて総勢6人態勢ですが、年間受注は以下の通り。
②リフォーム受注・・・23件
この数字だけは何とも言えないので中身を見ていきましょう。
①の新築受注ですが平均単価は3,800万円。
利益率が概ね25%ですので、全体で4,750万円という計算になります。
②のリフォームは23件の受注となっていますが、このうち大型リフォームと判定できる1,000万円以上が3件あります。
小さなものは15万円という工事もあり、その多くは100万円前後です。
こちらの利益率は30%程度です。
良好な受注実態
結論からいきましょう。
S工務店の経営状態は良好だと推察できますが、新築受注をリフォーム受注が補っているとも分析できます。
顕著な傾向が見て取れるわけはないのですが、リフォームはすでにS工務店のサブメインとなっているといってもよい数字です。
年間新築受注目標は6棟だが利益率が高い
これがS工務店の目標ですが、おおむねクリアーしているといえます。
さらに付け加えるならば利益率がしっかりしている点。
この評価点が高いと私は思います。
利益率が恐ろしく高いとまでは言えませんが、利益率を極限まで絞って受注している工務店が増えている状況と比較すると、この利益率のすごさがわかります。
2.関西の規模がやや大きい地場工務店T社の事例
次にご紹介するのは、それなりの規模を持つ会社で、地域の総合住宅展示場にも出展しています。
ですから、ハウスメーカーとは規模感が比較になりませんが、その地域では一定の知名度と信頼がある住宅会社になります。
こちらの会社の具体的な数字を見て行きましょう。
②リフォーム受注・・・3件
新築を年間40棟やっているのは、それなりの規模であることを示しています。
ただ問題はその利益率。
40棟をやってはいるものの利益率は20%を切っています。
従業員は30人程度ですが利益率が低いため、この受注棟数では自転車操業とまではいかないものの、決して楽ではない経営だと思います。
平均的な利益率が20%を切っていると書きましたが、私の知っている限りでは、利益率が一桁という物件も実際にはあったようです。
格安住宅を販売
これには理由があります。
ローコストというか格安住宅をメインに扱っているからです。
格安といっても50%の利益を取れば、たとえ請負金額が1,000万円であっても500万円が利益ということになります。
こちらの会社も設定された利益率は高いのですが、現場の発注ミスや追加工事などの見積もりが甘いということに加えて、営業と設計の連携感の無さやレベルの問題で、当初予定した利益率から毎回のようにガンガン削られてしまうのです。
単純計算ですが、2,000万円の建築脅威契約を利益率30%で2件取ったとしましょう。
その場合の利益は1,200万円となります。
ところが、同じ2,000万円の建築請負契約を利益率20%で2件取ったとすると、その利益は800万円となります。
手間はまったく同じなのに、2件の工事で400万円もの差が出てしまうわけです。
これと同じ比率で 2,000万円の建築請負契約を30%の利益率で6件とれば、その利益は年間3600万円になります。
しかし、利益率20%になると、年間の利益2,400万円となりその差額はなんと1,200万円にも膨らむのです。
こうして計算をして行くと 低い利益率で年間に6件の契約をするのと、高い利益率で年間4件の契約をするのはほぼ同じ儲けとなるわけです。
しかし実際には、6件仕事をする手間と比較して、4件であれば煩わしさや忙しさが大きく減少するので、見かけの利益以上のメリットが会社にもたらされるわけです。
利益率を無視して棟数を狙いの行くのは愚の骨頂
「棟数を下げても利益率を取りに行きます」と宣言したある部長
小規模工務店を念頭に置いて話を進めているのですが、次の事例は真逆の話になります。
グループ全体で年間1,000棟を軽く超える企業があります。
Wハウスとしておきますが、若くしてWハウスの営業部長に抜擢されたD部長の話です。
営業部長に昇進したD部長ですが、社長に対して「棟数至上主義は目指しません。利益を重要視します」と宣言。
これに驚いたのは社長です。
利益が大事なのはこの社長も百も承知でしたが、やはり着工棟数や契約が専門新聞等に「地域一番」「 Wハウスが〇〇県でトップ」 と報道されるのを目指していたわけです。
この社長の気持ちは私もよく分かりますが、抜擢されたD営業部長の能力と決断力が素晴らしかったと思います。
自分を抜擢してくれた社長の夢をつぶすというか、ある意味経営方針に逆らうことになるわけですから、通常はなかなか言い出せることではありません。
しかし、住宅会社の経営において、棟数よりも利益率が大事だということを確信していたD部長は、社長に対して自分の意見を述べると同時に早速この方針を徹底させたのです。
どうやって利益率を上げたかという話は、別のコラムで取り上げたいと思いますが、小規模で工務店を経営している社長に言いたいことは「棟数よりも利益率」 この一言に集約されます。
急改善した利益率
D部長が誕生したその翌年、Wハウスの利益率は実際に急回復しました。
商品が変わったわけでもありませんし、なにか大きく社会情勢が動いたわけでもありません。
この経緯を間近で見ていた私だから言えるのですが、会社の利益を上げることは、考え方ひとつであると断言できます。
Wハウスは確かに規模の大きいグループですが、利益率を上げた原因と言いますかきっかけは、どんな小規模な会社であっても完全に真似ができます。
本記事執筆講師が動画にてわかりやすく解説
工務店営業社員の育て方 「24年にわたって現場で営業育成をしてきたノウハウの一部をご紹介」
積水ハウスと 零細工務店で営業を経験したのち独立した私は、以後24年間に渡って現場で営業指導を行ってきました。
コンサルティング現場ではさまざまなことを行ないますが、今回の50分のビデオではコンサル現場で実際に行っていることも交えながら、3点にポイントをまとめて解説しています。机上の空論ではなく、すべてが 現場で実践してきた内容ですので、是非とも最後までご視聴ください。
今年度はひとり親方の 大工さんから、上は年間2000棟以上こなしているパワービルダーの社員研修まで幅広く行っていますが、規模の大小に関係なく、ある事を徹底的に忠実に実行すれば 受注が伸びていくのです。