不動産オーナーに提案する出口戦略のポイント

不動産投資の出口戦略は不動産を取得するときに考えるものであって、取得後に考えるのでは意味はありません。

しかし不動産オーナーのなかには、出口戦略をまったく考えず取得している方もいます。

ここでは管理を依頼されている物件のオーナーに、出口戦略もなく物件の取得や運営をしていることがわかったとき、管理会社の立場から提案したい出口戦略について解説します。

不動産の出口戦略の必要性

すでに不動産を取得しているオーナーに対しては、改めて「出口戦略」の必要性を理解してもらうことが大切です。

出口戦略はこんなときに必要

出口戦略がなぜ必要か? を理解してもらうには、出口戦略が必要となるシチュエーションを説明するのがよいのです。

出口戦略つまり賃貸運営していた物件を売却する必要性が生じるのは、どのようなときなのでしょう。

1. 物件のあるエリアが都市再開発されることになり、地価が急激に上昇し大きな売却益が見込める
2. 最寄り駅のある路線廃止が5年後と決まり、数年後には売れなくなってしまう

上記の例は極端な市場環境変化のケースですが、№1のケースでは売却益が充分生まれ、歓迎すべき売却のタイミングですが、№2は逆にあってはほしくないケースです。

このほかにも賃貸経営上の条件変化により、売却する方がよいと判断するケースがあります。

1. 法定耐用年数が経過し減価償却費の計上ができず税負担が増える
2. 返済が完了し支払金利の計上がなくなり税負担が増える
3. 大規模修繕に多額の費用が見込まれ売却する方が少ない負担ですむ

などにより売却の決断をするシチュエーションは必ずあるものです。

売却することになるケースを取得時にいろいろ検討しておくと、いざ売却が必要になったとき、慌てることもなく冷静な判断が可能です。

戦略的にタイミングを見計らった売却を、常に検討することも必要といえるでしょう。

前述の市場環境の変化は取得時に予想がつくこともあります。

「もし、こうなったら売ろう! 」といった心構えは取得時にしておくほど有利な展開を導きだすことができるのです。

キャピタルゲインからインカムゲイン

以前は不動産投資をする場合、自然に出口戦略を考えていたものです。

何故なら以前の投資は「キャピタルゲイン」つまり、売却益を目的とした投資スタイルでした。

しかし20年以上前にあった「バブル崩壊」により、土地の価格は上昇しつづけるものという概念が崩れ、キャピタルゲインから継続的な賃料収入を重視する「インカムゲイン」に投資スタイルが変化しました。

キャピタルゲインを目的とした場合、取得時には必ず「売却する価格目標」を設定し購入します。

しかしインカムゲインが目的となってからは「毎月の賃料収入」だけに着目するようになり、投資物件の売却を取得時に考えることが少なくなっています。

賃貸用物件に限らず建築物には寿命があり、いつかは物理的にも経済的にも機能を失うときがきます。

完全に建物の機能を失ったときは “土地” としての価値しかなくなってしまうのです。

単純化すると取得した価格と売却するときの価格差がキャピタルゲインです。

インカムゲイン重視の現代であっても、少なからずキャピタルゲインを見込める物件もあり、投資の最適化を考えると出口戦略はより必須のものといえるのです。

不動産の出口戦略の立て方

出口戦略を考える場合、キーワードになるのはやはり “キャピタルゲイン” です。

キャピタルゲインを考える場合、取得時と売却時の価格比較を次の式でおこないます。

取得時:総資金=自己資金+借入金
売却時:売却価格=手残り+一括返済金+売却経費

ここで「売却時の手残り」と「取得時の自己資金」の比較をおこなうのです。

「手残り」が多ければ取得時の自己資金の回収が可能となり、賃貸運営期間中のキャッシュフローを加えて、トータルの収益はプラスであったと計算できます。

逆に「手残り」が少なく自己資金の回収ができない場合、賃貸運営期間中のキャッシュフローから自己資金を補填する計算となります。

つまり単純に「売却価格-取得価格」で損得を考えるのではなく、自己資金を軸にしてその回収率を重視すると、売却時期のシミュレーションが可能になります。

キャッシュフローの悪化が売却タイミング

入居率の低下や賃料相場の低下により、収入減が生じるとキャッシュフローは悪化します。

他にも減価償却期間の終了もキャッシュフローが悪化する原因です。

仮に税引き後キャッシュフローがゼロに近い物件の場合、保有する期間が長引くと、想定される売却価格は徐々に低下し、トータル収益はどんどん悪化します。

さまざまな空室対策をおこなってもキャッシュフローが改善しない場合は、できるだけ早く売却してしまうことが望ましい場合もあるのです。

収益性の悪くなった物件を売却し、条件のよい物件と入れ替える提案は、プロパティマネジメントの面からも管理会社がおこなうべきことです。

大規模修繕や空室対策としての大がかりなリフォーム工事は、内部留保の取り崩しや借入の増加など、キャッシュフローを悪化させる面もあります。

収支バランスを検討したうえで判断することを、オーナーにアドバイスすることも大切です。

キャピタルゲインの先送り

出口を急がず保有しつづけ次代に相続することも、ひとつの方法でしょう。

キャピタルゲインを得る権利が承継され、むずかしい判断を保留することができます。

長いスパンで値上がりが見込める立地条件では、このような考え方も成り立ちます。

また相続人にとって取得費は、譲渡所得の上で算入されるものであり、実際に自身が負担したものではありません。

キャピタルゲインの多寡にかかわらず、相続人のほうが出口戦略は描きやすいものです。

ただし築年数の経過した物件は、大規模修繕の必要性や物理的な耐久性の検証は必要です。

状況によって大きな維持管理費のため、保有することが意味のないケースもあります。管理会社には、先々を見通せる判断力が必要でしょう。

更地で処分するキャピタルゲイン

築古物件のなかには土地代同様で取得できる物件があります。

戸建でもアパートであっても同じで、表面利回りが極端に高い物件です。

出口戦略を考えるにあたって、あまりむずかしい要素はありません。

5年~10年経過後に土地として売却することを予定します。

売却するまでに賃料収入から解体工事費分と取得時・売却時の経費、および賃貸事業の必要経費が捻出できると、差額はすべて利益になります。

値上がりによるキャピタルゲインはありませんが、損失することはなく堅実な不動産投資といえるでしょう。

注意したいのは売却タイミングの見極めです。

アパートの場合は退去があいつぎ、自然に空室が増えていくのが理想的です。

解体を理由に退去を促すのは「立退き料」という別な課題が生じてしまいます。

更地にするのがむずかしい場合は、土地代相当でオーナーチェンジという選択肢もあるでしょう。

まとめ

出口戦略に関する考え方をご紹介しました。

不動産に限らず資産投資には必ず出口戦略が必要です。

管理会社にとっては、直接的に管理ビジネスに関わることは少ないですが、適切な出口戦略の提案はオーナーとの信頼関係を高める効果があります。

管理物件それぞれの将来を見通して、出口戦略をチェックしてみることも大切なことです。

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