先日、令和4年3月13日に掲載されていたDIAMOND onlineの不動産関連記事を見て心配になったと顧客から相談がありました。
相談内容は「現在、新築住宅を建築中なのだがこの記事を見て不安になった。このような検査会社を利用したほうが良いのだろうか?」という相談でした。
相談者から送付されてきたURLを開くと、確かに刺激的なタイトルです。
タイトルが「新築戸建ては『8割が欠陥住宅』施工不良が相次ぐ深刻な事情とは」ですから目を引きますし、現に建築をしている方であれば心配になるのも無理からぬ内容になっています。
まだお読みになっていない方は、下記のURLから確認することができます。
https://news.yahoo.co.jp/articles/4fd961b6c359551e81287d4b955d6d407161bff3
記事を執筆されたのは「株式会社さくら事務所」という建物現況調査、つまりホームインスペクションを主業として展開している会社の創業者です。
内容についてはリンクした記事に譲りますが、ようするに自社で行っている「新築工事チェックサービス」により、施行中の新築住宅を、自社のインスペクター(既存住宅の診断士)により検査を実施しているが、8割が欠陥住宅であるとの内容です。
記事中には診断をして欠陥指摘を行った部位の写真が豊富に掲載されています。
それらを見ると補強金物の付け忘れや耐力壁に構造用合板釘が打たれていないなどの状態が確認され、基礎と土台を緊結するアンカーボルトが入っていないなどの写真も載せられていました。
その他にも断熱材の充填不足、屋根板金との取り合い部における防水処理なども指摘されています。
確かに不動産業者である私が見ても「指摘されて当然でしょう」という内容です。
ただこれらの検査結果により「新築住宅の8割が欠陥住宅」という記事に結びつけるのは、さすがに如何なものでしょうか?
ご存じのように現在は品確法(建物の品質確保の促進に関する法律)により、新築販売業者には構造上主要な部分と雨水等の侵入を防止する部分などには10年以上の保証が義務付けられていますが、万が一の履行を担保するために併せて「住宅瑕疵担保履行法」が定められています。
ですから万が一、施工上のミスによる不具合が発生しても保険会社から支払われる保険金で補修を実施できるのです。
建築会社から瑕疵保険が申込みされた場合、引受先の保険会社は必ず自社による検査を実施します。
当然ですよね。
万が一の場合に保険金を支払う訳ですから、少なくてもその保険会社の定める基準以上の施工方法で建てられていなければ怖くて保険の引受ができません。
ご紹介した記事でも「検査は実施されているけれど…………」と、建築会社や保険会社による検査は実施されているのだが、と認めつつも現場管理者や保険会社は複数の件数を担当しているので忙しく、検査する時間が短いため見落されているのだと指摘しています(結局のところ、自社のような検査会社に別途依頼をすることが大切だと紐付けしたいのでしょうか)
セカンドオピニオンである「株式会社さくら事務所」は、徹底して時間をかけてチェックを行っているから施行不良を発見することができると論じているわけです。
冒頭の相談者からの質問のように本当にこのようなセカンドオピニオンの利用は必要なのでしょうか?
今回は同様の相談が皆様に寄せられた場合の回答方法と、建築知識を有していなくても時間さえかければチェックできる方法について解説します。
意図的に手抜きする業者はほとんど存在しない
余程の悪意を持っていない限り、品確法により一定金額の供託や瑕疵保証保険への加入が義務付けされている新築住宅において、欠陥住宅を建築するメリットなど存在しません。
建築原価を下げるための材料の間引きや、必要な工事を実施しないことにより人工代が下げられる程度が手抜き工事のメリットなのでしょうが、そのような行為は瑕疵保証保険による保証対象外となりますので、万が一の場合に自分の首を絞めるだけの愚かな行為でしょう。
品確法適用外の工事ならあり得るかも知れませんが、そうではない場合、瑕疵保証保険の引受会社は建築図面どおり施工されているか検査を実施している訳ですから材料の間引きなど通用しないでしょう。
となると記事で「欠陥」と指摘されている箇所は、見落としやウッカリと言った理由が大半なのではないかと推測されます。
実際に記事に掲載されている写真を見ると、欠陥と言えば間違いなく欠陥、ただし意図的ではなく「ウッカリ忘れた」という部分がほとんどです。
もっとも雨仕舞の処理など、写真で見る限りにおいても問題のある施工ですからそのまま放置してよいものではありません。
もっともインスペクションで指摘をされなくても、その後の社内検査により工事管理者等が発見して是正されていたかも知れません。
確かに処理は甘い、ですが工事監理者などが入念にチェックしていれば事前に防止することができる部位ばかりです。
私自身、相応に建築知識も有していますから図面さえあれば施工検査を行えますし、要望によりオピニオン的な立場で現場に足を運ぶこともありますが、金物の取り付けを忘れているようなものは別として、釘の打ち忘れ程度であれば存在しない住宅のほうが珍しいくらいです。
ですから記事で使用されている「欠陥」という用語が適切かどうかは別としても、建築現場の8割に指摘事項が存在しているというのは頷ける話です。
ただ、そのような指摘箇所を発見した場合には職方に指示して、是正してもらえば良いだけです。
もちろんお客様の大切な財産を建築している訳ですから、そのような「ミス」を容認する訳ではありません。
ですが、人間である以上「ミス」は起こりうるのですから、そのためにダブルもしくはトリプルのチェック体制を社内で実施し「ウッカリ」が生じないようにすることが大切です。
再発防止のためにミスをした個人を責めるのではなく「何故ミスが発生したのか」及び「再発防止のためどうするか」を考え、その方法を全体に定着させることが、外部のインスペクション会社を利用して「現場のあら探し」をするよりも建設的な考え方でしょう。
もちろん社内的には「ウッカリミス」が多い職方などには、個別に注意や指導を実施して再発防止に努めてもらうことも大事です。
ご紹介した記事では「検査は実施されているけれど…………」と、建築会社や保険会社による検査は実施されているのだが、と認めつつも現場管理者や保険会社は複数の件数を担当しているので忙しく、検査する時間が短いため見落とされているのだと指摘しています(結局のところ、自社のような検査会社に別途依頼をすることが大切だと紐付けしたいのでしょうか)
施行チェックはマニュアルがあれば大丈夫
建築知識が相応になければ現場に赴いて施行漏れなどを指摘するのは気が引けるものですが、遠慮する必要性はありません。
誰しもが最初から建築知識を有している訳ではありません。
学ぼうという意思を持って現場に足を運ぶことです。
ただし、現場に赴いてただ眺めているだけでは成長しませんから、少なくても工事監理者の業務と、建築会社の施工基準程度は凡そ理解しておきましょう。
工事監理者の仕事は主に下記のようなものです。
• 材料・資材の発注、下請け業者の手配(原価管理)
• 各仕上がりチェック及び是正指示(品質管理)
• 現場内の労働環境調査、近隣住民への対応(環境管理)
• 不安全箇所の確認・是正、不安全行動に対する指示・指導(安全管理)
上2つの工程管理・原価管理は、相応に経験や知識がなければ理解が及ばないところですが、それ以降の品質管理・環境管理・安全管理については「問題があると感じれば指摘して良い」部分です。
ただ指摘をするのにしても主観的な意見では、下手をすると難癖になってしまいますから少なくてもチェックマニュアル等と比較して、理路整然と指摘するほうが良いでしょう。
自社の施行チェックリストやマニュアル等が存在する場合にはそちらを利用したほうが良いでしょうが、そのような書類が存在しない場合などにおいては技術基準の基本である住宅金融支援機構で公開されている書式等を利用すれば良いでしょう。
新築住宅(一戸建て等)の物件検査申請書式は下記URLから入手できます。
https://www.flat35.com/business/download/shinchiku_kodate_index.html
必要に応じて書式を入手して、現場に赴く際にはメジャーや水平器程度は持参してチェックシートと建築図面から施行に問題がないかを確認すれば良いでしょう。
最初のうちは壁ボードに打ち込まれている「釘」のピッチも、いちいちメジャーを当て確認しなければ適正かどうか判断できないものですが、経験を積めば見ただけで雨仕舞などの防水処理や前述した釘ピッチなどの不適合も指摘できるようになります。
まとめ
冒頭で記載した私への問い合わせも「記事を見て心配になったので、このような会社に依頼したほうが良いのでしょうか?」というのが相談の趣旨でした。
結論から言えば「第三者のチェック機関に依頼して検査を実施すれば施工上の不具合を未然に防ぐ可能性が高まりますし、安心もできますね」とお答えしました。
ただ必要かどうかという点については、手放しで賛成できませんとお答えしました。
建築に関しての請負契約は、請負者が建築計画に基づき設計された仕事の完成を約す契約です。
ですから瑕疵のない完成物件を建築する義務を負っています。
義務を履行するためには建築中の検査や、不適合が発見された場合の是正も含まれていますから現場管理を含めて請負会社が自社で確認を実施して是正するのが本筋でしょう。
第三者のチェック機関に依頼すれば費用がかかります。
例えば「株式会社さくら事務所」のホームページに掲載されている料金表を見ても基本コースで¥60,000円(税別)からとなっており、床下や屋根など確認箇所を増やすほどに料金が増加します。
大切な住宅の建築です。
この料金を「安心料」と考えれば納得もいくかも知れませんが、記事で解説したように私の知る限り意図的に手抜きをする建築業者はいません。
ただ忙しさから見落としや「ウッカリ」が発生していることは否めませんが、それであれば施主・営業担当を問わず頻繁に現場に赴きチェックするほうが先決でしょう。
「建築知識がないから………」なんてことは気にする必要もありません。
建築図面やメジャーを持参して、携帯カメラなどで施工状況の写真を撮り難しげな「顔」で頷く。
知識のある専門家に有償で依頼するのも一つの方法ですが頻繁に現場に赴くことにより、工事監理者も施行をしている職方も良い意味での緊張感を持つようになりますから、暗黙のプレッシャーを与えることにより「ウッカリ」防止にもつながるでしょう。