【宅地造成等規制法から盛土規制法へ改称】内容について理解していますか?

令和4年3月1日に「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、変更点についてコラムで解説しましたが、その時点では改正案に過ぎず、成立に向けて令和4年3月29日に審議入りしました。

この審議を経て衆議院及び参議院の両議院で可決されることにより「盛土規制法」が正式に成立し公布されます。

変わるのは法律名称だけではありません。

都道府県知事等、許可権限者の許認可権限が引き上げられるとともに、農地や森林造成や土石の一時的な堆積にまでを漏れなく規制の対象として許可の対象とすることにより、これまで充分ではなかった法律の規制を強化して包括的に管理することができるようになります。

成立以降は重要事項説明において説明する内容や、都道府県知事による新たな規制区域の指定も行われますから、法律の概要理解も含め、関連情報の取得に気を配る必要があります。

法改正の背景に静岡県熱海市の盛土崩壊による大規模な土石流がありました。

筆者も注意深く、災害発生後における造成を指示したとされる開発業者や、不正に気がついていながらも抜本的な対策を講じることが出来なかった自治体に関しての情報入手も行っていますが、現在までのところ事故調査員会等の報告書に基づく質疑等による原因究明に留まっており長期化の様相を見せています。

現行の「宅地造成等規制法」は、権限や罰則が脆弱であることから、それを補う意味として自治体が独自に「土砂条例」等を制定し、違法な盛土造成等を抑制しようとしていますが、その盲点として条例が定められていない自治体に土砂が持ち込まれてしまえば手の出しようがありません。

宅地造成等規制法

結局、限りなくグレーな残土処理等が行われているのに手出しが出来ないような状態が発生する要因となっています。

盛土造成法案では、盛土により人家などに被害を及ぼし得る区域を規制区域と指定し、区域内で行う盛土などに知事の許可を必要とします。

新しく森林や農地まで広く規制区域としますが、グレーゾーンである区域外にたいして盛土行為を防ぐ定めは設けられておらず、衆院本会議でもその点についての質問が寄せられていました。

今回は多少、不動産知識からは逸脱しますが法律案が閣議決定されてから成立・公布までの流れと盛土造成法により強化された罰則、そして都道府県知事に付与される権限の強化について解説します。

法律が出来るまで

不動産関連の法改正案などが検討されると大騒ぎになることがあります。

実際に不動産業者の集まりなどで

「〇〇法が改正になるようだから、すぐにでも書類を変更しなければならないと思うのだが、奥林さんはそのような方面に強そうだからアドバイスをくれないか?」

といわれることがあります。

確かに様々な方面でコラムを執筆するほかにも不動産コンサルをしている関係上、法整備や不動産関連法改正などの情報には目を配り、必要に応じて調査を実施するのを日常の業務とはしていますが、閣議決定されたからと言って直ちに法律が公布される訳ではありません。

おそらくは、上記のような質問が発せられる背景に法律の公布についての流れが理解出来ていないことによるのでしょう。

法律の改正が必要となった場合も含め「法律が公布」されるまでには、基本的に下記のような手順が必要となります。

1.法律案の作成

内閣に提出される法律案原案は、所轄省庁によって作成されています。

各省庁は所轄行政の遂行上決定された政策目標を実現するため、新たな法律制定または既存の法律改正や廃止方針を決定するのが建前ですが、実際には何かことが起こって社会的な問題が生じてから法案が作成されています。

日本の法制度の特徴とも言える流れではありますが、我が国において「特措法」がやたらと多いのも本格的な憲法論議を避け、場当たり的に対症療法を積み重ねてきたことによるツギハギだらけの内容となっているからです。

もっとも第一事案を基に関係省庁との意見調整も、利害関係者による縄張り争いにより紛糾することが多いらしいですから、その後の審議会や公聴会における意見聴取等において「あまりツッコまれない」程度の内容に納める必要があるのかも知れません。

そのような過程を経て、法律案の見通しがつくと、主管省庁は法文化の作業に着手し原案が作成されます。

2.内閣法制局における審査

内閣が提出する法律案は、閣議に付される前に内閣法制局による審査が実施されます。

この審査は本来であれば、法律案を作成した主管省庁から内閣総理大偉人宛の閣議請議案の送付を受けてから開始されるとなっていますが、実際には予備審査で進められています。

結局のところ内閣法制局において憲法や現行法との関係、立法内容の方の妥当性や意図、表現や条文の形式等が妥当であるか審査したものが、内閣法制局に送付され、最終的な審査をおこない内閣官房に回付されています。

3.国会提出のための閣議決定

閣議によって請議された法律案が異議なく決定されれば内閣総理大臣から国会に提出されます。

ただし実際には、それらの業務について内閣官房が行っています。

4.国会における審議

国会に提出された法律案は、原則として議員議長は法律案に関して妥当であるとされる委員会に付託します。

以降は委員会で審議されますが、国務大臣による法律案の提案理由説明から始まり、質疑応答を交えた審査に入ります。

この委員会による質疑・討論に関しての審議終局を経て、本会議へ移行します。

本会議においても委員会による審査と同様の審議・表決の手続きが行われます。

5.法律の成立・公布

憲法に特別の定めがある場合を除き、衆参両義による可決で法律が成立します。

成立後は、内閣を経由して奏上された日から30日以内に公布されます。

「公布」とは成立した法律を一般に周知させることが目的ですが、実際には「国民が知ることのできる状態」と解されています。

なお公布された法律の効力が現実に発動され、作用する状態になるには公布だけでは足りず、「施行」が必要です。

施行は法律番号が付され、法律の附則で定められた日になります。

具体的な変更点と覚えておきたい罰則の強化

今回の「盛土法」への改正契機は静岡県熱海市での盛土崩落による大規模な土石流災害の発生でしたが、それ以前から有識者の間で盛土に関する規制が充分ではないエリアが存在していることが指摘されていました。

そのような問題指摘に対して「沈黙」していた政府が、起こるべくして発生した大規模災害等により世論が注目して批判が高まると、慌てて法改正等に着手するのはよくあることです。

今回の改正により変更される概要は以下のとおりです。

1.都道府県知事等の権限強化

都道府県知事の権限が増し宅地・農地・森林等、土地の用途によらず盛土等により、人家などに被害を及ぼしうると考えられる地域を規制区域として指定できるようになりました。

なし崩し的な逃げ道をなくすため、土石の一時的な堆積も含め、規制区域内における盛土等は全て許可の対象とされます。

盛土等に関する規制について

また規制禁止区域内の地形・地質等に応じて、災害防止のために必要な許可基準について都道府県知事が自由に設定出来るようになり、その許可基準に沿って安全対策が講じられます。

安全対策が正しく講じられているかを確認するため施工状況の定期報告・施行中の中間検査・工事完了後の完了検査も強化されます。

2.責任所在の明確化

盛土工事が行われた土地について、工事に関与した時点の土地所有者等が将来に向け安全な状態を維持する責務を有することを明文化しました。

また熱海の反省もあるのでしょうが、原因行為者つまり下請けで工事を行った業者等に対しても是正処置を命じることが出来るようになりました。

3.罰則の強化

抑止力を目的としての罰則が強化されました。

具体的には無許可行為や是正命令に違反するなどの場合において、懲役刑と含む罰則が引き上げられます。

現行の宅地造成等規制法に基づく条例等においては懲役2年以下の懲役または100万円以下の罰金が上限ですが、法案では具体的な金額にまで言及していないものの、より高い水準に強化するとされています。

宅地造成等規制法,罰則

筆者の予測ですが、用途によらず懲役3年以下または罰金300万円以下まで引き上げられ、かつ1億円以下の法人重課税が全域において適用になるのではないかと見ています。

命令違反は割に合わないとする抑止が目的ですから、この程度は当然であると考えられるからです。

法改正により求められる都道府県知事の対応

自治体に対して大幅に権限が強化される改正法は一般社会では必要であると好意的に受け入れられています。

ですが各自治体のマンパワーが法律を遵守するほどに充実しているのかといった疑問も囁かれています。

盛土造成法の施行後は民間の工事だけではなく、公共工事においても建設残土の処分先確保の徹底が求められます。

自治体は残土処分のマニフェストを確認するだけではなく、実際に一時堆積等の現地における最終的な処分状況まで発注者である自治体に欠かせられるからです。

産業廃棄物処理法においては、建設残土のみの場合は産業廃棄物に該当せずマニフェストが不要ですが、盛土造成法により残土の一時堆積も包括されることになりますので今後はマニフェストが必要になるでしょう。

自治体の多くは包括的な立場で対策を担う部署が存在しておらず、何よりも土木系専門職が圧倒的に不足しているという実情があります。

法律が改正されても各知自体が即座に対応できるか疑問が残り、各自治体も当面は人材育成や補充などの対応に追われることでしょう。

法改正の趣旨を理解し、知識拡充が必要とされる理由

筆者は不動産会社のミカタで熱海土石流災害関連のコラムを複数回、紹介しています。

これは不動産が「人を幸せにするために活用されるべき財産」であるべきだという思いがあるからです。

不動産は英語でreal estate(リアル・エステート)と表現しますが、単純に不動産・物的財産と訳される以外に「真実の財産」とされる場合もあります。

国交省の統計によると、個人による不動産購入者のおよそ80%以上は生涯一度きりであるとされています。

その不動産が人を幸せにするどころか、不幸の温床となることがあるのは皆様もご存じのとおりです。

「正直不動産」という漫画が人気を博し、令和4年4月5日からNHKでドラマ放映されますが「千三つ屋」とも揶揄される不動産業者は日本において社会的な信用が著しく低い。

もっとも皆様の不断の努力により従前より多少は向上してはいますが、弁護士や大学教授と肩を並べるほどに社会的信用力のある海外の不動産業者と比較すれば残念な限りです。

米国シカゴに本部を置くIREM(Institute of Real Estate Management)は、プロパティマネジメントの専門家が集まる国際的な不動産経営管理士の所属する団体であり、日本においても米国本部から認定されたIREM JAPAN CPM®が活動を行っています。

CPM®は国際的な基準として「不動産投資分析」「ファイナンス」「リーシングやマーケティング」「メンテナンス」「人材管理」「改善プランの作成方法」「オーナーへの改善提案手法」といった賃貸経営を成功に導くために欠かせない知識を納めた個人にたいし与えられる称号ですが、学習過程でもっとも重視されているのが「倫理」です。

筆者もCPM®資格を有している訳ではありませんから、皆様に資格取得を推奨している訳ではありませんが、興味深いのは資格取得のカリキュラム上において徹底的に「倫理の遵守」を重要視している点で、資格取得後においても行動や業務において倫理的に問題がある場合には審査のうえで罰則を科すとしていることです。

日本においても不動産業者が所属する各協会等で「協会倫理規定」が設けられていますが、あくまでも協会会員としての企業に対し品位の保持・法令の遵守等ごく当たり前の規定が定められているに過ぎず、専任の宅地建物取引士においてはこれら規定を遵守して誠実に業務を遂行させることを管理・監視することが責務であるとされている程度です。

協会倫理規定

倫理規定はわずか12条項程度ですから、その気になればすぐにでも丸暗記できる程度の内容です。

試しに周りの方に質問してみてください。

全ての条項について答えられる方は、はたして何人いるでしょうか?

このように「倫理の遵守」の徹底を個人に対して罰則付きで求めているCPM®等の考え方とは隔たりを感じます。

今回の熱海土石流の根本原因は、大雨による不確定要素などの影響もありますが、利益重視で杜撰な工事を指示した業者や、そのような指示に異議を唱えず工事を実施した施行者に倫理的な欠如にあったのではないでしょうか。

まとめ

ハーバードメディカルスクールに所属する研究者たちが75年間もかけて行った「人生を幸せにするものは何か?」という研究レポートがあります。

レポートによれば「家族や友人、会社や趣味の仲間たちとのつながり」を持っている人は健康で長生きすると発表していますが、もう一つ「いざという時に頼れる人がいる」方は幸福度が高いという結果が出ています。

生涯に一度きりとなるかも知れない不動産を提案する私たちだからこそ複雑な不動産関連法規を学び知識拡充すると同時に、倫理感を喪失すること無く営業活動に従事し、末永く顧客に信頼される不動産業者でありたいものです。

Twitterでフォローしよう

売買
賃貸
工務店
集客・マーケ
業界NEWS