令和4年4月1日より成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
これにより18歳に達すれば成人となり、親権者の同意を必要とせず自由意志で契約が行えるようになりました。
法的に成人となれば未成年者取消権は行使できませんから、何か問題が生じても当事者本人の「責」とされます。
このような成人年齢引き下げについては、法制定前にも賛否両論ありました。
反対派の意見として根強かったのが、成人年齢に達したからと言ってただちに社会的・精神的に成長する訳では無く、問題が生じるとのものでした。
このあたりの反対派は人権派弁護士に多かったこともあるのでしょうか、法改正は仕方がないとしつつも日本弁護士連合会は「法改正そんなに急いでどこに行く!?」との題名で、疑問点と問題点を指摘していました。
ご存じのように、人間は誰しも失敗と成功経験を積み重ねながら大人としての自覚が芽生えていくものです。
いつの時代においても「実年齢にたいして精神年齢が低いのではないか?」との指摘はよく聞かれる話ですが、それを差し引いても今回の改正において国民に対しての説明責任や議論が充分に果たされているとは思えません。
改正理由について政府は「少子高齢化が急速に進む中、若者の自立を促進する」なんて理由をあげていますが、その前に若年層の自立を支える仕組みづくりが先行していなければなりませんし「諸外国の多くが18歳成年制だから」なんて説明は、理由にもなっておらず諸外国に追随する意味が分かりません。
冒頭で紹介した「未成年者取消権」は、精神的に未熟な若者をマルチ取引や金融トラブル、クレジット契約から守る最後の砦でしたが、それ以外にも労働契約解除権など、労働時間や業務内容などについて不利益にならぬよう若者を保護する法律でした。
もっとも、すでに施行された法律に異議を唱えても意味がありません。
私たち不動産業者は成人年齢引き下げにより業界が被るリスクを回避するため、対策と知識拡充が必要です。
特に賃貸契約に関して。
住宅ローンを扱う金融機関等は、成人年齢が引き下げになった以降も独自の審査基準により当面は融資を受け付けないとの方向性を示しています。
安易な契約による貸し倒れリスクを回避する意味でも妥当な判断でしょう。
ですから売買についてそれほど心配はないかと思いますが、賃貸に関しては家賃保証会社等の審査基準にもバラツキがあり、保証会社等を利用していない自主管理の賃貸オーナーも数多くいます。
若年層は契約行為に関しての知識や理解が不足しており、安易に契約を結ぶ傾向が高いことからトラブルの発生率が高いといった傾向があります。
20歳前後を比較した消費者相談件数においても「マルチ取引で約12.3倍」「ローン・サラ金相談で約11.3倍」もあります。
独立行政法人国民生活センターに寄せられている賃貸住宅トラブル相談では20歳未満及び20歳代の相談比率は全体にたいして2016年に19.6%でしたが、そこから年々微増し2021年は20.9%になっています。
2020年4月に民法が改正され「原状回復義務と収去義務等」の内容が明確になり「全体の相談件数が減少しているのに関わらず」です。
成人年齢の引き下げにより、このような賃貸トラブルがさらに増加する可能性が有識者から指摘されています。
今回はそのような若年層における賃貸トラブルの事例や傾向、さらに新成人と賃貸契約を締結する場合の注意事項について解説します。
若者に注意喚起されている消費者トラブル
成人年齢が引き下げられてことによる様々な関連記事を目にするようになりましたが、先程、紹介した独立行政法人国民生活センターでも、ホームページ上で新成人に対し消費者トラブルに巻き込まれないように専用ページを組んでの注意喚起をおこなっています。
このページは連作方式の「注意喚起シリーズ」との名称で「10万円の全身脱毛可能」との広告を見て無料カウンセリングを受けたところ、言葉巧みにレーバー脱毛70万円也の契約を締結し、後日、クーリングオフを求めたがクリニック側が認めてくれないとする、ありがちな美容医療トラブルから始まっています。
続けて情報商材に暗号資産、健康食品の定期購入トラブルや怪しいアルバイトまで社会の悪しき縮図のように消費者トラブル事例が紹介されています。
そして10本目で「賃貸借契約を理解してトラブルを防ぐ」との記事が掲載されました。
記事の中では注意喚起として契約書の書類内容を確認する重要性、とくに禁止事項・修繕に関する事項や退去する際の費用負担に関する事項について注意を促すと同時に、特約事項がある場合には必ず確認するように呼びかけています。
また入居前の貸主側立ち会いによる入居前現状確認や、傷や汚れが存在している場合には写真を撮っておくなど、賃借人視点での注意事項を丁寧に紹介しています。
またトラブルが発生した場合には国土交通省による「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考に、貸主側に説明を求め、費用負担について話し合いが大切であるとしています。
筆者がコラム題材として使用することの多いこのガイドラインですが、皆さんは正確に内容を把握しているでしょうか?
私たち不動産側も内容を正確に理解して、トラブルに備える心構えが大切です。
とくに社会経験の乏しい新成人と契約を締結する場合には、契約書の約款について丁寧な説明を心がける他、トラブル事例などを参考に失敗しがちな内容などの説明もおこなっておくと良いでしょう。
新成人の単独契約により懸念されるトラブル増加
ここではPIO-NET(パイオネット)と呼ばれる全国消費者生活情報ネットワークに蓄積された相談件数データから過去のトラブル件数等について解説します。
PIO-NET(パイオネット)は独立行政法人国民生活センターと、全国に点在する消費生活センターを結ぶオンラインネットワークです。
2021年、つまり旧法の定義により賃貸契約の締結が未成年である場合には親権者同意により契約が締結されている状態において2020年は6,405件、2021年は4,888件でした。
2020年と2021年を比較して1,517件、相談件数が低下していますが、冒頭で解説したように2020年4月に民法が改正され「原状回復義務と収去義務等」の内容が明確になったことによる影響と推察されます。
ここで小ネタですが「原状回復義務と収去義務等」の改正と「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は別物です。
よく混同されているのですが、国土交通省による「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は平成10年3月に取りまとめられたもので、平成23年8月に裁判事例及びQ&Aが追加され改訂版とされた以降は手が入れられていません。
民法改正により原状回復義務と収去義務等が具体的に示されたことにより、ガイドラインに定められた範囲や定義も連動して効果が得られるようになったということです。
ルールが浸透したことによりガイドラインを遵守する限りにおいてトラブルを未然に防ぐ一定の効果が得られているのでしょう。
ただし全体の相談件数が低下しているのに対し、20歳未満及び20歳代の相談比率は微増して2021年は20.9%になっているのは冒頭で解説した通りです。
断言とまでは言いませんが、高確率で新成人による相談件数は今後、増加していくことでしょう。
トラブル事例や傾向を知るのが近道
賃貸住宅トラブルを未然に回避するには、経験則も含めセンターなどに寄せられている相談事例などを把握して予め対策を講じることです。
参考までに事例を見てみましょう。
事例1ですが………何ともなりませんよね。
事務所で合法的に契約が締結され、その後、顧客の自己都合で解約している。
清掃費用は返却していますし「鍵を受けとってもいないのに‼」と言われても、賃貸借契約は有効です。
このような私たち不動産業者からすれば「当たり前でしょう」という事案も消費生活センター等に相談が寄せられているという実情について理解しておく必要があるでしょう。
続いて事例2です。
ありがちな原状回復費用についてのトラブルですね。
ハウスクリーニング費用は良いとして、非喫煙者でペットも飼っていない部屋に対して壁・天井のクロス全面張り替えを請求、かつ現場を見なければ判断はできませんが風呂の鏡なども含め通常損耗の範囲ではないかと推定されます。
契約書に原状回復に関する記載もなく「原状回復義務と収去義務等」と「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」も遵守されていません。
業者責任が指摘される事案です。
もっとも賃貸住宅を扱っている方ならご存じのように、賃貸住宅に関するトラブルは契約・入居中・退去時に、それぞれ同様の傾向でトラブルに発展します。
このような不動産に関しての慣習や関連法に関し、一般の顧客もそれほど詳しいわけではありませんが社会人経験が相応にあれば、こちらの説明が拙かったとしても相応に理解が得られ、また疑問点があれば質疑応答されるのでしょうが、新成人の場合には望むべくもありません。
それは致し方がないと理解して、トラブルになりそうな事項等については詳しく説明を心がけ、説明の途中であっても理解度を確認するなどの対応が必要でしょう。
まとめ
新成人との契約トラブルを回避するには、結局のところ予めトラブルになりそうな点を把握して、契約締結時においては理解度を確認しながら慎重に契約を締結するようにする以外に方法はありません。
このような配慮をせず「質問されなかったから理解している」とばかりに、短時間で契約を締結すると後日においてトラブルが発生する確率が高まるでしょう。
若年層は与えられる世代であり、言い方を変えれば「他者依存」の傾向が高いものです。
歳を重ねれば自己責任という「感覚」も身についていくのでしょうが、それには時間も必要ですし個人差もあります。
「20歳未満の新成人とは契約しない!」というのも皆さん次第ですし、新成人をターゲットとして積極的に取り込み、業績を伸ばすのも同様です。
決定された法律に順応して業績につなげ、また想定されるトラブルをどのように回避するかを考える必要があるでしょう。