【今さら聞けない!】嫌悪施設の調査範囲と定義について

一般住宅の購入者は平穏に生活することを望み購入を検討します。

ですから購入物権の近隣に嫌悪施設が存在していれば平穏な生活を営むことができませんから、第35条1項において重要事項の説明が義務付けされています。

第47条第1項では不実告知を禁止すると同時に環境等など、購入の判断に重要な説明をすることが義務付けされています。

もっとも重要事項説明時にいきなり「二軒隣に反社事務所が存在しており……」なんて説明をいきなりすれば、契約も締結されないでしょうから事前調査をしてそれを予め説明してから購入意思を確認する必要があります。

くれぐれもぶっつけ本番はいけません。

特に共同仲介で買い方に入った場合には、売り側業者が重要事項説明書を作成することが多いのですが、嫌悪施設等の表記が正しく記載されているかは勿論、自身が見落としていた施設名等が記載されていないかを確認し、前者の場合には追記を要請、後者の場合には契約前に補足説明を徹底しておくことが大切でしょう。

ところで、重要事項説明に求められている売買対象物件の近隣嫌悪施設について、その具体的な対象物や範囲についてはご存じでしょうか?

過去に公共性の高いゴミ焼却場の建設予定が近隣にあることを説明せず裁判に至った事例も存在しています。

また契約締結後、引き渡しまでの間にそのような嫌悪施設の建築計画が公表されるようなケースもあるでしょう。

そのような場合には契約締結後であっても追加説明が必要とされるか、またどのように説明をするのが良いかで悩むものです。

今回はそのような嫌悪施設の説明範囲や方法等について解説します。

嫌悪施設の考え方

嫌悪施設が近隣に存在している場合には説明が義務ですから、その点についての事前調査が重要であることは皆様ご存じかと思います。

それでは近隣とはいったいどの程度までの距離を指すのでしょうか?

例えば養豚・養鶏場などの「臭い」は、季節風などに運ばれ広範囲に臭気を拡散することがあります。

とはいえ900メートルも離れているような場合、それを近隣とするかどうかで悩みます。

ある程度の距離があるからと説明を省略したら、引き渡し後に「こんな臭いのすることが予め分かっていれば購入していなかった!」と怒鳴り込まれてしまう(筆者の経験談です)

嫌悪施設については主観的な部分も多く、例えば大型スーパーやパチンコ店の他、道の駅なども大規模な駐車場を持っていますが、駐車場の管理状況が悪ければ夜中に集会場のように車が集まり奇声を上げるなどの行為が見られる場合もあります。

このような駐車場の存在が個人によっては嫌悪施設であると曲解される場合もあります。

筆者の経験ですが300メートル先にある小学校のグランドで、毎年恒例となる運動会の予行練習で流される音楽が耳に障ると、そのようなことが恒例行事としてあることを説明しなかったのは不動産業者の説明義務違反であるとクレームを受けたことがあります。

もっともこの時には時間をかけて嫌悪施設の定義について法的な見解から説明をし、最後には「これ以上、小学校の存在が嫌悪施設・もしくは瑕疵に該当すると主張されるなら裁判で決着をつけましょう!」と啖呵を切りました。

剣幕に押されたのでしょうか、その時は「何もそこまで言っている訳じゃく………」と、とたんにトーンが下がって何事もなく終えましたが、このように主観的な判断で距離・嫌悪施設の範囲を定めることは非常に困難であると言えるでしょう。

第47条第1項では、必ずしも嫌悪施設と考えられるもの全てを説明する必要はないとされています。

ただし購入者の判断に影響を与えるもの、ライフスタイルの違いにより生活に支障がでる恐れや健康に害を及ぼす等が予め予測できる施設が近隣にある場合、その説明が義務付けられていると考えたほうが良いでしょう。

例えば深夜を中心として仕事をするトラックドライバーの方は日中を睡眠にあてますが、隣の家がピアノ教室を開いており、夏場は窓を開けレッスンすることによりトラブルに発展するケースなどが考えられます。

もちろんピアノ教室は嫌悪施設に該当しませんが、購入者の職種や勤務時間帯等により生活に支障がでる恐れは容易に想定できますから、予め説明をしておくのが無難でしょう。

嫌悪施設の定義

通常「嫌悪施設」は騒音・振動を発生させる、もしくは煤煙や臭気(悪臭)・心理的に忌諱されるものなどがそれにあたりますが、明確な定義は存在していません。

これは法的にも同様です。

とくに心理的な忌諱の場合には主観により判断される場合も多く、裁判などにおいても受忍限度が争点として争われ、社会通念上明らかに嫌悪施設である場合を除き「専ら主観的な不快感にとどまる」とされる場合も多いからです。

先程紹介した小学校における運動会予行練習の「音」に関してのクレームで、最終的に筆者が強気に出たのも裁判所の判断基準を理解していたからです。

ただし宅地建物取引業保証協会の見解としては、具体的に下記のような施設については説明が必須とされています。

想定される影響 具体的な施設例
騒音・振動 主要幹線道路・高速道路・鉄道・飛行場・地価軌道・航空吉・物流施設等
煤煙・臭気 工場・下水処理場・ごみ焼却場・養豚・養鶏場・火葬場・飲食店排気口等
危険を予見させる ガソリンスタンド・高圧線・危険物取扱工場・貯蔵庫・反社事務所等
心理的な忌諱 墓地・刑務所・風俗店・葬儀場等

さらに宅地建物取引業法において第35条第1項関係で「最小限の事項を規定したものであり、これらの事項以外にも場合によって説明を要する重要事項があり得る」としていることから、顧客が主観的に嫌悪する施設であると推定される場合には全て説明をする必要があると解される表現がされています。

結局のところ嫌悪施設までの具体的な距離や、上記図のような明らかな嫌悪施設を除き明確な判断基準が示されていないことから、私たち不動産業者はそれらを踏まえて説明するかどうかの判断を個別にするしかありません。

嫌悪施設までの距離に定めはあるのか?

定義が曖昧であると同様に、嫌悪施設からの距離についても定めがありません。

距離もそうですが、嫌悪施設による影響がどの程度まで低ければ説明義務を免れるかといった基準も存在していません。

結局のところ、地図上で判断するだけではなく実際に物件周辺を踏査して、想定される嫌悪施設を確認し、売主や近隣住民にヒヤリングするほか、管轄の役所に出向き嫌悪施設による近隣問題が発生していないかなどを確認するほかないでしょう。

そのうえで購入検討者の職種やライフスタイルなども総合的に勘案し、嫌悪施設による影響を予測した上で説明の要否を判断するほかありません。

また契約から引き渡しまでの間に新たな嫌悪施設の建築計画が公表された場合などにおいては、施設の着工・竣工時期・規模や施設概要・近隣説明会などによる影響度合い資料(対策等の資料など)をまとめ補足として説明をしておくのが望ましいでしょう。

補足説明であることから宅地建物取引業法第35条書面(重要事項説明書)である必要はなく口頭説明でも構わないと考えられますが、後日紛争を回避するためには第35条書面補足文書として作成し、買主から署名・捺印を得ておくことをお勧めします。

この場合、新たな嫌悪施設の建築計画により契約解除が出来るかどうかの問題が生じますが、瑕疵又は売主の告知義務違反を理由とするのは難しいと考えられます。

これは嫌悪施設建築による近隣への影響度合いは未知であり、かつ売主の認識も売買契約締結時点では存在していなかったことが理由です。

同様に不動産会社の調査方法に明らかな落ち度がない場合を除き、業者への責任追及も困難でしょう。

買い主には気の毒ですが「運が悪かった」と事実を受け入れてもらうしかありません。

もちろん手付金の放棄、もしくは違約金を支払うことによる契約解除は可能です。

まとめ

今回は今更聞けない嫌悪施設について、その定義や嫌悪施設までの距離まで含めて解説しましたが明らかに近隣にある社会通念上において嫌悪施設である場合を除き、不動産業者の判断に委ねられていることがお分かり戴けたでしょう。

筆者は「不動産会社のミカタ」で、様々な不動産関連法の改正に関してコラムを執筆していますが、近年だけを見ても審議中も含め所有権移転義務化・盛土規制法改正・省エネ基準法改正・令和4年税制改正など、様々な法律が刷新されています。

それ以外にもマンション管理適正評価制度や賃貸住宅の「原状回復をめぐるガイドライン」「宅地建物取引業者による人の死に関するガイドライン」など、知らないではすまされないルールが数多く定められています。

それだけ不動産業者、特に重要事項説明書を作成し説明する宅地建物取引士の責任は重くなっています。

常に時代や情報に敏感に、知識拡充を怠らない姿勢が大切だといえるでしょう。

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