【電子契約システム導入は本当に必要?】悩むアナタへ

IT重説全面解禁に続いて、契約行為を全てオンライン上で完結できる「電子契約」が2022年5月18日から解禁されたことにより、不動産業者の間でも「電子契約って一体、何?」とか、「すぐに導入したほうが良いのか?」とかなどの話題が、不動産関連業者の集まりなどで話題にされているのを耳にすることが多くなりました。

「不動産業者はIT音痴」と言われているのは昨日・今日の話ではないのですが、「電子契約関連」のコラムを執筆しているからでしょうか、時折、筆者のところにどこで調べたのか突然、問い合わせが入ることがあります。

インターネットではこのような「電子契約」に関して、電子契約サービスを提供する会社を筆頭に様々な記事が散見されますが、それらを見れば時代は電子契約へ動いていることは理解できても「自分たちに使いこなせるのか?」や、この場合はどうするんだといった疑問が新たに湧いてきます。

システムを提供している会社は複数ありますが、それらの料金プランを見ると必要最小限の機能だけであれば¥10,000円/月前後(別途送信件数ごと¥200円が必要だったりします)で、書類管理やシステム連携などの機能が充実するほどに金額があがります。

試しに最小限の機能だけを導入すれば年間で¥120,000円前後ですから、5千万円以下の軽減税率である印紙代¥10,000円で計算し年間12件扱えば「チャラ」に出来ると考えてしまいます(印紙代を自社で負担している場合です。仲介の場合、貼附する印紙代は売主・買主負担ですからこの計算自体が成り立ちません)

契約金額,本則税率,軽減税率

それ以外のメリットとしては下記のようなものが挙げられます。

●時間節約(当事者の合意があれば時間を気にせずに契約ができる)
●郵送代不要(書類の郵送を必要としない)
●印刷不要(契約書等の印刷・製本等の手間が不要)
●署名・捺印不要

さて時間節約については書類を予め郵送する手間はありますが、IT重説であれば時間を気にせずできますから、実際には郵送手間と料金、印刷・製本不要のメリットが大きいのではないでしょうか?

もっとも住宅ローンの申込みは、添付書類も含め電子データによる提供は認められていませんから、結局のところ印刷がまったく不要と言うわけでもないのですが、少なくても原本作成の手間が省略できるメリットは大きいでしょう。

ここで問題となるのは、最低限として年間で約¥120,000円のシステム利用料の「モト」が取れるか・社員がシステムを使いこなせるのか・契約当事者に電子契約の承諾が得られるのかといった諸問題です。

あくまでも筆者の見解ですが、年間の取引件数も少なく社員が社長と事務員さんだけなどの小規模事業は様子見もありですが、それなりに取引件数もあり相応の社員が在籍しているならば「スグに導入すべし!」です。

今回は筆者が実際に質問を受け、回答している内容も交え上記の結論に至った理由を解説します。

そもそも印紙代はなぜ不要に?

まず電子契約には全ての契約当事者による「合意」と、システムに対応できるという前提が必須とされます。

誰か1人でも対応できない、もしくは「応じない」となった時点で電子契約は成り立たず、印刷・製本・印紙の貼附・署名押印が必要になります。

印紙代の貼附が不要なのは、書面による契約書原本が作成されていないからです。

端的に表現すれば電子契約により全ての取引が完結されていれば、その後、それらの書類が印刷されても「印紙の貼附は不要」ということです。

「印紙税法」には印紙税課税に関して下記のような定義があります。

(1) 印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること
(2) 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること
(3) 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと

ここで注目ですが、電子取引についての記載はないのです。

ですから国税庁は「電子契約にかかる文書は印紙税が非課税」とは明言していません。

あくまでも印紙税法に記載がないので、見解として

「注文請書や契約書等の調製行為を行ったとしても、現物の交付がなされない以上、たとえ電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える」

との意見を表明しているのです。

現物交付されていないのだから印紙税を賦課する根拠が見当たらず、不要としているのです。

署名・押印不要の理由は?

署名や押印が不要である理由を理解するには「電子契約」について学んでおく必要があります。

電子契約には「契約当事者の合意」が必要ですから、売主・買主にたいして「電子署名って何?」といったあたりから説明を始めなければならないからです。

もっとも説明だけではありません。

最低限、電子取引が可能な程度のネット環境やパソコンスキルが必要です。

年配の方や、あまり得意ではない方は、説明の時点から嫌悪感を示し、「そんな面倒くさいことをせず、普通の方法で良いでしょう!」となる可能性が高いでしょう。

話を戻しますが、不動産に限らず作成を義務付けられている一部の契約を除き「諾成契約」、つまり「売ります・買いました」で契約は成り立ちます。

ですがそれでは「言った・言わない」など後日紛争になる可能性が高いので、契約書が作成されます。

そこに署名・押印をするのは民事訴訟法第228条「文章の成立」の第4項において「私文書は、本人又は代理人の署名または押印があるときは、真正に成立したものと推定する」と定められているからです。

電子契約においてはシステムを導入していることを前提として、以下のように「契約の真正性」が担保されます。

「電子署名」※本人又は代理人の署名とされる
「電子証明書」※印鑑証明書の代わりとなる
「日時証明」※契約を締結した日時の証明
「タイムスタンプの刻印」※その日時以降に文書が改ざんされていない証明となる刻印

これらにより締結された電子契約データは企業内サーバーやオンラインストレージ上に保管されます。

データで保管されたものは「電子文書の改ざんや署名の偽造が防止され、署名の本人性が担保できる」状態になっています。

これらにより署名・押印が不要とされているのです。

システム導入は早いほうがよい理由

「電子契約」については結局のところ、当事者理解や利用する者の熟練度・知識が求められるという問題点が指摘されています。

不動産業者としても「とりあえずやってみるか」というほど簡単ではありません。

Zoom等によるIT重説も、「いまだに一度も行ったことがない」と胸を張る方を見かけるほどです。

そもそも同業他社に電子契約の話題を振っても、メリット・デメリットが正確に理解できていない「方」が大半ですから……

ですが近い未来、不動産は電子契約が主流となります。

導入をしても「スグ」にフル活用出来るとは思いませんが、早い段階で慣れ親しんでおけば習熟度が増し、きたるべき時代に備えることができます。

ご存じのように民事裁判に限り、申立から口頭弁論や証人尋問、判決・訴訟記録の閲覧にいたるまでをオンラインで完結させる改正民事訴訟法等が2022年5月18日、参院本会議において賛成多数で可決、成立しているのですから、ノンビリとしていればすぐに時代に取り残されることになるでしょう。

Zoom,IT重説

もっとも契約当事者の皆が、「電子契約」に対応できる可能性は現在において著しく低いのは先程、説明したとおりですから不動産業者が「当社も時代に乗り遅れてはイケナイ!」と慌ててシステムを導入しても、実際に使用される可能性は低いと思われます。

なんせ最低限、下記のポイントは押さえておかなければならないからです。

1. エンドユーザーに対する電子契約の告知
2. 契約に関わるすべての人が電子契約の対応が可能であること
3. 電子契約を推進するための社内体制及び教育

特に共同仲介などで電子契約に対応できない業者が関わった場合、どこかで紙の書類が発生してしまう。

システム導入をしても、完全電子化はもう少し先だと思います。

まとめ

いかがでしたか?

今回は電子契約についてよく質問される内容を中心に、慣れ親しんでおくためにはシステム導入を急いだほうがよいという筆者の私見を中心としてコラムを作成しました。
お読み戴ければ分かる通り、システム導入をしても契約当事者が対応できないことから実際に利用されるケースは、現在のところ多いと言えないでしょう。

費用対効果を考え、「まだ先でいいや」というのも一つの考えですから、そのあたりは皆様次第だと思います。

ですがIT技術が加速度的に進歩している現状ですから、イザという時に慌てることのないよう情報を入手して、総合的に判断していくことが必要だと言えるでしょう。

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