【省エネ基準適合義務化】は待ったなし。今から覚えておきたい基礎知識

2025年に全ての建築物に省エネ基準適合を義務化する「改正建築物省エネ法」が、2022年通常国会で成立しました。

併せて、これまでは一定の条件を満たせば、実質的に構造計算の届出等が不要など建築確認申請の簡略化が認められていた「4号特例の範囲を縮小」する改正建築基準法が成立したことにより、もはや全ての建築物は一定以上の構造と性能を有していなければ建築が認められないことになります。

改正建築物省エネ法,対象

すでに令和3年4月1日より、原則全ての住宅・非住宅の設計業務委託を受けた建築物については、設計士による省エネ住宅についての説明が義務化され、顧客には省エネ基準に合致する建物の建築を希望するか判断する方法が行われていますが、法改正により「選択しない」という判断ができなくなります(そもそも、それ以外の家は建築できなくなるのですから)

改正建築物省エネ法,改正前,改正後

私達、不動産業者は新築住宅の設計施工に直接関わりがなくても、新築建売住宅販売の委託を受けるなど、販売を手がけることはあるでしょう。

ですから最低限、「省エネ基準とは何か?」そして、法改正により新築住宅が受ける影響は何かについての基本は、ある程度まで正確に理解しておく必要があります。

そこで今回は基礎としての省エネ住宅についての解説を行います。

改正についての認知度は高いが……

建物省エネ法や建築基準法が改正されても、その全容を建築士が理解している状態ではないようです。

今回の改正法について、建築実務者がどのように捉えているかを調査するため、日経クロスティックと日経アーキテクチュアが、22年5月に実務者アンケートを実施しています。

建築物省エネ法,把握

興味深い内容であるため筆者もアンケート結果を興味深く見ましたが、「おおむね内容を把握している」が51.3%と過半数を占める一方で、「法改正を聞いたことはあるが、内容を知らない」が33.5%と3割を超えています。

さらに「知らない・分からない」8%の解答を加えると、じつに4割を超える設計実務者は内容を正確に理解していないことが確認できます。

もっとも今回、成立したのが省エネ法に留まらず、建築士法や建築基準法にまで及んでいるのですから、設計士ではあっても錯綜する情報を把握するのが困難であるといった実情があるのではないかと推察できます。

そもそも省エネ住宅ってなに?

省エネ法や建築士法が改正されても、販売を主とする仲介業者や営業マンが、何かをする訳でありません。

直接的に業務が増加するわけでもありませんから、あまり興味を持てないといった事情もあるでしょう。

ただ2025年からの新築住宅は全て「省エネ法に適合している住宅」になるだけのことです。

ですが、ローコスト住宅が「ローコスト」ではなくなるという点については、理解しておく必要があるでしょう(ローコストと呼べるほど値段の安い住宅の建築が困難になるという意味です)

木材は言うのに及ばず全ての建築資材が値を上げており、執筆時点においても値段が下がる要因は見当たりませんが、大手ハウスメーカーなど、すでに基本性能を省エネ基準に適合させているところは今まで通りの住宅を建築するだけですから販売価格も大きくは変わりませんが、「将来的に厳しくなるのは理解しているけれど、その時になれば考えれば良いよね~」と考え、性能よりも価格重視で建築していたローコスト系の会社への影響は甚大でしょう。

適合住宅にすれば間違いなく「価格が上がる」からです。

理由を説明しましょう。

住宅,省エネ基準

省エネ基準に必要なのは、

●地域により定められた外皮性能を満たす
●一次エネルギー消費量基準値内の設備を採用する

の2つです。

ですから施工精度などの建築レベル(質)を上げる必要はなく、断熱材や窓に性能の高い部材を採用し、給湯器・照明器具・冷暖房機などの性能を高効率タイプに変更するだけのことです。

あくまでも計算上で、それぞれの要件を満たせばよいということになります。

基準に達していることを証明するため届け出資料の作成手間は増加しますが、国土交通省から無料計算ソフトもリリースされており、必要な数字を入力するだけで外皮計算等は行なえますから慣れてしまえばそれほどの労力とまでは言えません。

計算シート,省エネ建築

大手ハウスメーカーなどではすでに全棟実施している作業に過ぎないからです。

その様な労力の負担増加だけであればそれほど慌てるほどのことでもないのですが、問題は価格です。

大概の場合、性能と価格は比例して高くなります。

「安くて性能が良い」は理想ですが、なかなか思うようにはいかず価格の安い物は性能もそれなりというのが世の常です。

これまでは、「省エネ住宅」を選択するかどうかの説明が義務とされていただけですから「省エネ住宅にすると、お値段が上がってしまいますが……」なんてトークを展開すると、「それほど光熱費が変わらないのなら、別段、省エネ住宅じゃなくてもねぇ」なんて誘導とも思える話法も通用したかも知れませんが、義務化になればそうはいきません。

基準に達していない住宅は建てられないのですから、適合させるための部材や設備を使用するしかないのです。

求められている基準_外皮性能

省エネ基準で求められる外皮基準(断熱性能)は、住宅全体からの熱損失量を天井、壁、床、窓など、外皮合計面積で割った値です。

単位は外皮平均熱貫流率(UA値)で表記され、数値が小さくなるほど熱損失が少ない、つまり断熱性能の高い住宅となります。

外皮平均熱貫流率

UA値の計算は全地域に必要ですが、栃木や新潟より南に位置する区分5以上の地域では、同時にηAC(イータ・エー・シー)という、単位あたりの日射により建物内部で取得する熱量を、冷房の使用期間で平均し外皮面積で除した数値が求められます。

つまり日射により室内温度が上がれば冷房により温度調整を必要とするので、ある程度まで日射による影響を抑制しなさいということです。

外皮平均熱貫流率,地域区分

ちなみにZEH住宅に求められる基準は下記の図のように、省エネ基準よりも少々レベルは上がるのですが、実際にはそれほど差があるわけでもありません。

ZEH基準,省エネ基準

ZEH住宅であるためには創エネシステム(太陽光発電等)も必要となりますが、一定規模のメーカーに対して太陽光発電搭載の義務化を検討する東京都に追随する都道府県が出てくる可能性を考えれば、創エネシステムの搭載は別として、ZEH基準相当を標準性能にする業者が増加するかも知れません。

求められている基準_一次エネルギー消費量

外皮性能と同時に求められているのが「一次エネルギー消費量基準」です。

ちなみに一次エネルギーとは、加工されていない状態で供給されるエネルギー(石油・石炭・原子力・天然ガス・水力・地熱など)のことですが、それにたいし一次エネルギーを転換・加工して得られるエネルギー(電力・ガス・石油精製品など)は二次エネルギーと呼ばれます。

照明やエアコンなど住宅設備機器の多くは「電力」を消費しますから、エネルギー分類により「二次エネルギー消費量を計算する必要があるのでは?」と思ってしまいますが、省エネ法の定めでは、使用されるエネルギーの熱量は「一次エネルギーの使用量を換算する」と定められていることから、電気についても同様の換算方式が用いられています。

一次エネルギー消費量

一次エネルギー消費量は、暖冷房設備や換気設備など、採用された設備に使用されるエネルギー総量で計算されますから、エネルギー消費量の多い冷暖房設備や給湯設備は高効率タイプ以外の選択肢はないにしても、キッチン水栓に手元止水機能つきの物を採用したり、お風呂の浴槽を保温タイプにしたりなど、それほど高額ではない設備を上手に組み合わせ数値を稼げばクリアすることが可能です。

設備機器等の全てを、高効率タイプにする必要はないと覚えておけば良いでしょう。

まとめ

建築メーカーで営業マンとして働いている方を除き(そのような営業マンでも外皮計算等が出来る方は少ないと思いますが)細かい計算方法や、使用部材の断熱性能などを覚える必要はありません。

省エネ基準が義務化されれば、全ての新築は要件を満たすことになるのですから、いわば「普通の家」になります。

「住宅は性能」と、自社性能の優位性をPRして業績を伸ばしているハウスメーカーは数多くありますが、省エネ基準が義務化になれば建売や注文住宅・アパートまで含めすべての建築物が省エネ基準に合致していることになりますから、「当社の性能は一味違う」といった切り口に変わるのでしょうか?

いずれにしても義務化は3年後に控えています。

今回、解説した省エネ基準の基本だけは理解しておく必要があるといえるでしょう。

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