2021年7月3日に発生した静岡県熱海市伊豆豆山の土石流被害から1年を経過しました。
令和3年8月31日に第49報としてまとめられた情況によれば死者26名、行方不明者1名、中等症3名、避難者は89世帯165名にも及ぶ悲惨な災害でした。
土石流の原因としては当初、7月1日から続いた記録的な大雨による影響とされていましたが、その後の調査で「人災」による影響が多分にあることが浮き彫りになりました。
当初の所有者・工事会社の杜撰な造成工事による影響です。
さらに住民の安全を確保するために必要な行政介入が、法律の壁により機能不全になっていたなどの事実が明るみとなりました。
宅地造成等規制法は市町村等に認められている権限もそれほど強くはなく、地方行政機関が「問題あり」と認識しても手を出せないことが問題であると有識者により指摘されていましたが、その危惧が具現化したのが伊豆の土石流災害でした。
この災害をきっかけにさすがの政府も迅速に対応し、令和3年年度末を期限として「都道府県等による盛土の総点検及び危険箇所対策」を指示し、各都道府県も速やかに調査を実施しました。
全国の総点検数は3.6万箇所でしたが、年度末までには約8割・2.8万箇所について点検完了の報告がなされ、それ以降も点検が実施されたことによりほぼ全ての地点で点検終了が報告されています。
点検結果により許可・届出等の手続きが取られていない盛土_743箇所
手続内容と現地の状況に相違があった盛土_660箇所
必要な災害防止措置が確認できなかった盛土_660箇所
廃棄物等の投棄等が確認された盛土_137箇所
重複を除いた総数1,375箇所で、問題が確認されています。
これらにたいしては行政上の措置が随時、実施されてはいますが、そもそも人命に関わる可能性のある盛土造成工事ですから法制度の強化・行為者に対する措置の徹底・法施工体制や能力の強化などが急務とされ、改正宅地造成等規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)が成立し来年、2023年5月から施工される見込みとなっています。
新聞やネットニュースでは総数1,375箇所もの盛土造成に住まわれる方々や、近隣住民による不安の声、早急な安全対策の要望に関して多くは語られていません。
当該住人に不安を与えないようにとの配慮によるものか、意図的に情報の公開を抑制しているのか、その原因は定かでありません。
ですが土石流に関しての問題提起などのコラムを多数、執筆している関係からでしょうか、筆者のもとに「自分が住んでいる盛土造成地が安全なのか不安なのだが、調べるにはどのようにしたら良いのだろうか?」などの相談が寄せられることがあります。
今回は改正宅地造成等規制法の内容と、一斉点検により調査された結果の確認方法について解説します。
「宅地造成及び特定盛土等規制法」の基本_何が変わったか?
従来の盛土に関しては森林法・農地法・自治体の条例など、当該地により法律や見解がことなることによる弊害がありました。
改正宅地造成等規制法は、「盛土に関しての法律は一本化しよう」という単純な発想ですが、なによりもそれが効果を発揮するでしょう。
行政区分や用途地域などに左右されず、全国一律に規制する法律です。
概要は以下のとおりです。
●都道府県知事等が、宅地、農地、森林等の土地の用途にかかわらず、盛土等により人家等に被害を及ぼしうる区域を規制区域として指定することができる。
●農地・森林の造成や土石の一時的な堆積も含め、規制区域内で行う盛土等を許可の対象とする。
※これまで曖昧であった知事の権限を強化して用途によらず区域指定できるように改正したほか、検査を免れる方法として悪用されることが多かぅた一時堆積などの逃げ道を封じることが目的です。
●盛土等を行うエリアの地形・地質等に応じて、災害防止のために必要な許可基準を設定
許可基準に沿って安全対策が行われているかどうかを確認するために定期報告の義務付けと検査の強化。
2.施工中の中間検査
3.工事完了時の完了検査
※中間検査や完了検査は当然として、施工状況の定期報告は効果的な方法でしょう。
●盛土等が行われた土地について、土地所有者等には安全な状態を維持する責務があることを明確化しています。
●災害防止のため必要なときは、土地所有者等だけでなく、原因行為者に対しても、是正措置等を命令できる。
●罰則が抑止力として十分機能するよう、無許可行為や命令違反等に対する罰則について、条例による罰則の上限より高い水準に強化されました。具体的には最大で懲役3年以下・罰金1,000万円以下・法人重科の場合には3億円以下が命じられます。
何よりも熱海のように拝金主義の所有者・原因行為者(工事会社)にたいして、必要な工事を手抜きして浮いた利益など「一撃で吹き飛ばす」罰金額の引き上げは効果的でしょう。
さらに懲役刑も定められましたから「杜撰な工事をしても割に合わない」と思わせる定めが抑止力になるでしょう。
宅地造成及び特定盛土等規制法についての改正ポイントはこれまでに解説したとおりで、概ねこのまま施工される予定ですが、現在、微調整が進められている状態であることは念頭におく必要があるでしょう。
一斉点検の調査結果はどのように調べる?
冒頭で触れたように、盛土造成による土地や住宅を顧客に紹介する場合、もしくは販売済みの顧客から「盛土造成地が安全なのか不安」と意見された場合、どのように調べるのが良いのかについて解説します。
必要なのは大規模盛土造成のスクリーニングつまり抽出ですが、これについては2020年3月から大規模造成マップが作成され公開されています。
聞き及びのない表現ですが、私達、不動産業者が普段から利用しているハザードマップポータルサイトにその機能が含まれています。
https://disaportal.gsi.go.jp/index.html
重なるハザードマップの「地図を見る」を選択し、次に知りたいのは土砂災害ではなく、あくまでも大規模造成地についての情報なので、すべての情報から選択をクリックします。
次に、「土地の特徴・成り立ち」をクリックします。
続いて大規模盛土造成地を指定します。
すると地図に「黒い点」のようなものが表示されますので、調査したいエリアを拡大していくだけです。
地図を拡大していくと、一団の盛土造成のうち、「安全性の確認が必要」な範囲が「緑」で表示されます。
緑で表示された範囲は直ちに危険性を伴うものではありませんが、少なからず「安全性の確認が必要」であると判定されたエリアです。
一斉調査の結果も随時反映されての表示であることから、不安な場合には各自治体に問い合わせをして確認するのが良いでしょう。
まとめ
不動産業者には宅地造成等規制法の警戒区域等や、ハザードマップの提示による「水害」に関しての説明が義務付けされてはいますが、今回、解説したような大規模盛土造成地における「安全性の確認が必要」なエリアについての説明は義務付けされていません。
直ちに危険が及ぶエリアではないことから、説明をする場合に正しく行わなければ逆に顧客の不安を煽る結果になりかねません。
販売をする立場としては使い所が難しい情報ではありますが、顧客の財産である不動産を提供するという観点からいえば、間接的に「人命を守る」という倫理観も必要ではないかと考えられます。
正しく情報を提示し、顧客から安全性について確認要望があれば適切に調査を実施するなど、納得して不動産取引できる土壌を形成することも私達の「使命」ではないでしょうか?