【市町村の空家対策計画は8割以上で策定】あらためて理解しておきたい空家法

国土交通省庁が全国1741市区町村にたいしておこなった調査によると、空家対策計画の策定終了が1,397市区町村(80%)に達し、法定協議会の設置についても全体の54%にあたる947市区町村で設置されたようです。

平成27年に施工された「空家等対策の推進に関する特別措置法」は通称で空家法と呼ばれていますが、第14条で「特定空き家に対する措置」が定められています。

特定空き家に指定された所有者に対し、除去・修繕・立木の伐採のほか周辺に生活環境の保全を図るための措置が、権限として市区町村に大幅に認められ、法施工時は話題になりました。

時折ニュースで報道される行政代執行による解体も、この措置によるものです。

とはいえ市区町村もいきなり行政代執行に踏み切るわけではありません。

所有者にたいし助言や指導が行われ、次いで勧告、その後、一定期間を経ても正当な理由がなく応じない場合には猶予期限を付けて勧告が「命令」に変わります。

それでも履行しない場合、行政代執行法の定めに基づき市町村自らが行為を実施、もしくは第三者にこれをさせることができるとされています。

この空家法第14条による勧告等については、法律が施工された平成27年から昨年(令和3年)までに33,943件、講じられています。

そのうち行政代執行による解体は140件ですから、法の施工から執筆時点までの期間で割返せば年20件程度です。

全国規模の件数としては、あまり多いと思えません。

空き家,行政,対応

実績を見る限りにおいては全体の約90%が助言・指導で是正され、勧告や命令、最終的な行政代執行まで至っているのは僅かとされています。

ですが助言や指導にたいし所有者が素直に応じ、措置を講じているのかといえばそうではなく、法定協議会が設置されていないためその次の段階に進めないなど、市区町村により隔たりもあるようです。

筆者が実際に車で商圏をぐるりと廻るだけで、手入れされていない放置空き家が目につくのですから、増加を続ける空家に対し、市区町村も手が回っていないという実情もあるのでしょう。

ですが空家対策計画の策定も大半の市区町村で終了し、法定協議会の設置も半数を超えました。

2024年から施工される相続登記義務化を控え、外堀は埋まりつつあります。

ここで改めて空家法の理解を深めることにより、放置している所有者に対し、そのままの状態を続けることに何一つメリットが無いということを説明できるようになれば、販売物件の増加にも繋がるのではないでしょうか?

今回は空き家対策についてのおさらいも含め、勧告や行政代執行までの具体的な流れについて解説します。

罰則のおさらい

空家に関しての罰則等は、特定空家に指定されてからの適用です。

特定空家に指定されても、助言や指導の段階ではあくまで市区町村からの「お願い」ですから、措置を実施しないからといって罰則の適用はありません。

ですが助言や指導が行われた時点で、迅速に措置を実施する必要があります。

助言や指導が、市区町村からの重々しい書面により行われるイメージが一部にはあるようですが、そんなことはありません。

電話で指導が実施されることもあることから、つい軽く考えがちです。

ですが助言や指導の後に待ち構えているのは「勧告」です。

各市町村で空家対策計画の策定に活用されている「特定空家に対する指導手順マニュアル」によれば、助言や指導については書面によることが望ましいとされているだけで、口頭によることも許容されており、電話対応も口頭指導に含まれるとされています。

特定空家に対する指導手順マニュアル

ですから電話等で助言や指導が数度、実施され、その後、何も措置を行わず放置すれば「勧告」へと進みます。

この時点で固定資産税等の住宅用地特例が除外されますから、固定資産税は約6倍に跳ね上がります。

さらに放置を継続し、命令まで進めば50万円以下の過料です。

助言や指導から勧告へ至る期間については各市町村におかれた協議会によりまちまちですが、物件の整理や工事の施工に要する期間を合計したものを基準とするとされており、参考としては「特定空き家の措置に関する適切な実施を図るためのガイドライン」に関してのパブリックコメントが参考にされています。

木造住宅の全部除去については31日、一部除去で138日

木造以外では全部除去については43日、一部除去で112日

必ずしもこの日数で段階が上がっていく訳ではないでしょうが、それほど猶予はないと理解しておく必要はあるでしょう。

また命令等が発せられた場合において「お金がない」というのは正当な理由とはされません。

特定空家に対する指導手順マニュアルにおいてもたんに措置をおこなうための金銭がないことは「正当な理由とはならない」と明示されているからです。

私達、不動産業者が注意したいのは特定空き家とされ指導や助言が行われている物件を売買した場合、すでにその物件はデータベースに記録されていますから、新たな購入者に対して日をおかず助言や指導が実施されることです。

特定空き家の売買を行った場合には購入者に対し、速やかに措置をとる必要があることを予め説明しておかなければなりません。

基本的には指導や助言以上の措置が取られている場合には、所有権が変更されてからといって失効される訳ではなく、迅速に助言や指導、勧告への手続きが進められるということです。

立ち入り調査は突然に

協議会は各市町村における「空き家対策計画」の作成及び変更、実施に関して協議するため組織されます。

構成員は市町村長のほか、市町村の議会議員や法務・不動産・建築・福祉・文化等に関しての学識経験者などから選出されます。

実質的に各市町村における「空屋等対策計画」は、協議会の構成員を中心に基本方針や調査事項、特定空家に対する措置の事項等が定められることになります。

ですが、実際には協議会の設置状況と空き家対策計画の策定件数の比率は合っていないのですが……。

空家の所有者が恐れるのは「特定空家」に指定されることのはずですが、実際に放置している所有者に「特定空屋に指定されると後々、面倒ですから早く処分するなり対策を講じる必要がありますよ」と説明しても、今ひとつピンとこないようです。

それだけ言葉は知っていても、どのような弊害があるのか理解できていないということでしょう。

そのような方々に理解しやすく説明をすることは私たち不動産業者の仕事ですから、特定空家等の定義についても正確に理解しておく必要があります。

特定空家等の定義

空家の定義は「居住等、使用されていないことが常態にあるもの」ですが、特定空家は「空家の常態化により倒壊もしくは保安上危険性が確認できる、もしくは衛生上有害であるほか、著しく景観を損なっている状態」です。

この定義により管理されている空家とそうではない空家を分類するため、市区町村市町には空家法第9条による立入調査が認められています。

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立ち入り調査の前には所有者に対し調査が実施される旨の連絡を入れることが定められてはいるのですが、それは5日前までに行うこととされているだけです。

さらに当該所有者に対し通知するのが困難であるときはこの限りではないとされていることから、数度の連絡で不通の場合などにおいては立会なしで調査が実施されることも多いようです。

所有者の知らない間に立ち入り調査が実施され特定空き家に認定されれば、いきなり助言や指導が実施されることになります。

大半の市区町村は書面で立ち入り調査の旨を事前に連絡しているようですが、職員の人員不足などを理由にそうではない場合も多いようです。

いずれにしても何らかの手段により連絡は入るのですから、特定空家に指定されてから「そんな話は聞いていない!」と声を荒らげても後の祭りです。

所有者に通知をおこなうため、住民票や戸籍謄本、固定資産税課税台帳やマイナンバーなどを利用することが認められていますから、未登記で所有者の特定が困難であるときを除き大概は所有者が特定されます。

行政代執行による解体

空家に関して措置を行える法律は、空家法だけではありません。

廃屋撤去等に関しては、空き家法以外にも下記のような法律に定められています。

まず建築基準法(10条)では建築物が著しく保安上危険な場合、又は著しく衛生上有害な場合においては特定行政庁が所有者等に対し、除却、修繕等必要な措置を命令することができると定めています。

また消防法(3条)では火災の予防に危険があると認める場合、消防長又は消防署長が所有者等に対し、屋外における消火、避難等消防活動に支障となる物件の除去を命令することができます。

さらに道路法(44条等)で、沿道区域の立木等が道路に倒壊した場合の道路交通の支障を排除するため、道路管理者が当該土地等の管理者に対し、必要な施設を設ける等の措置を命令することができるとされています。

もっともこのような法律はあるものの、世間的にはあまり知られていませんから放置空家に関しての措置は、空家法が最も有名でしょう。

措置の中でも特に目を引くのが、行政代執行による解体です。

ところで行政代執行のほかに略式代執行があるのはご存じでしょうか?

所有者が特定できている場合には行政代執行、特定できていない場合には略式代執行として解体が実施されるのですが、前者は解体に要した費用は所有者の負担とされますが、後者については所有者が特定されていませんから財産管理制度の費用で補填、つまりは税金で賄われるということです。

もっとも所有者が特定されれば費用は請求されますので、登記義務化により所有権移転をしたらいきなり請求がくるなんてことがあるかも知れません。

ですが実際に略式代執行が実施されているケースでは、所有していた法人が解散し、所有者不明となったケースが多いようです。

最新の公開情報で行政代執行による解体件数は140件ですが、略式代執行はその倍以上、342件もあります。

行政代執行による解体

燃料費や人件費の高騰もあり、解体費用も上昇しています。

さらに行政主導で解体が実施される場合、解体費用も割高になりますから放置を続けても良いことなど一つもありません。

まとめ

空家法により放置空家にたいする罰則が強化されてから今年(2022年)で7年を経過しましたが、空家の件数は減少するどころか増加を続けています。

放置されている理由は様々でしょうが、売却すれば良い値段で売れるだろう地域においても管理されていない空家が目につくこともあります。

やはり相続問題で揉めているなどが理由でしょうか?

2023年からは一定要件を満たした場合に相続人が取得した土地を手放し、国に引き取って貰える制度(相続土地国庫帰属法)が施工されますが、条件が厳しく一般的とは言えません。

私達、不動産業者としては空家として放置することにメリットは存在しないということを、正しく所有者に伝えるために知識を学び、自らのビジネスに繋げていくことが結果的に増加を続ける空家の抑制に繋がり、ひいては社会貢献にも繋がるのでしょう。

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