新築住宅を購入もしくは建築する場合、誰しも終生の住まいにしたいと考えていることでしょう。
ところが実際には片道切符で戻る予定が立たない急な転勤辞令や転職、リストラなど様々な理由により築浅物件が市場に出回ります。
私達、不動産業者としては資材高騰により値のあがる新築戸建てや分譲マンションにたいし、適正価格で販売する築浅物件は引き合いも多く、売却依頼は嬉しいものです。
ですが築浅物件を扱う場合、住宅性能とくにZEHについての知識は不可欠になるでしょう。
査定時において性能の違いによる建物評価を適切に行わなければ、顧客の信頼も得られず、同業他社と競争に破れるからです。
建物省エネ法改正案が2022年6月13日に可決されたことで、2025年から省エネ基準の適合が義務化となりますから、それだけに住宅性能は世間で注目されています。
この傾向は新築に限らず中古住宅の購入を検討する方も注目しているポイントです。
省エネ基準は現在まだ義務化されていませんから、築浅だからと言って全ての住宅が省エネ基準以上の性能を有している訳ではなく、窓の隙間から風が侵入してくる住宅もあるなど、大手のハウスメーカーを中心として全棟ZEH宣言を行う一方で価格と見映えを優先した省エネ基準以下の新築住宅が混在しているのが現状です。
中古物件を販売するには少なからず建物について説明できる知識は必要ですが、これまでZEHに関する説明をおこなうのは新築を建築販売する工務店やハウスメーカーの専売特許だとの意識が強く、私達、媒介業者はZEHという言葉は知っていても、その定義や性能等に関し知識を有していると言えません。
ですが最近、ZEH住宅が中古市場に出回るようになりました。
今後、ZEHを始めとする住宅性能の違いを理解することは、築浅物件を適正に評価できることに通じ、ひいては販売依頼を取得するうえで必要な知識になっていくでしょう。
今回はそのような背景も踏まえ、住宅性能に関し認知度の高いZEHについて解説をおこないます。
ZEHのおさらい
ZEH住宅とはnet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略語で、定義としては「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギー等を導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」とされています。
具体的には下記条件を全て満たしている住宅がZEH住宅であるということです。
② 定められた性能を有す高効率な設備システムを導入している。
③ 再生可能エネルギー等の設備の導入をしている。
以降でそれぞれ求められている条件について解説します。
求められる断熱性能
断熱性能については各地域の外気温傾向や標準的に利用されている設備機器等の実態を踏まえ、令和3年4月以降は下記8つの地域区分に分けられています。
つまりZEH住宅とは、各地域で定められた断熱性能以上を有している住宅だと言い換えることもできるでしょう。
ちなみにこれまで断熱性能と表現してきましたが、正確に表現すれば、求められているのは外皮平均熱貫流率と平均日射熱取得率それぞれの数値です。
「外皮平均熱貫流率とは」住宅内部の床・外壁・屋根(天井)・開口部から外部へ逃げる熱量を外皮全体で平均した値のことで、単純に言い換えれば「室内からどのくらい熱が逃げるか」を表すUA値のことで、単位はW/㎡Kです。
数値が低いほど室内から外部へ熱が逃げにくい、つまり外皮性能が高いことになるのですが、もっと簡単に表現すれば「外気温の影響を受けにくい」ということです。
続いて「日射熱取得率とは」窓からの日射がどのくらいあるかを表します。
平均日射取得率になると住宅全体の日射取得量を天井、壁、床、窓などの外皮の合計面積で割った値となりηAC値と表現されます。
この数値は、大きいほど日射による熱が侵入しやすいことを表しますが、地域区分としては5~8のみ計算することになっています(寒冷地等については平均日射取得率の計算は不要とされています)
この2つの数値により住宅性能が判断され、求められた数値以上の住宅は冷暖房機器をそれほど利用しなくても室内温度を快適に維持できる、つまりは省エネ住宅としての基本性能を有しているということです。
基本的にZEHとは、平成28年省エネルギー基準を満たし、かつ下記の数値以上の性能を満たしている住宅となります。
1・2地域:0.46 W/㎡K 以下
3地域:0.56 W/㎡K以下
4地域:0.56 W/㎡K以下
~7地域:0.60 W/㎡K以下
外皮平均熱貫流率は上記の計算式を用いて計算することも出来ますが、屋根や外壁等それぞれの部位を個別に計算する必要もありますし、無料の外皮計算ソフトが様々な会社から提供されていますので手計算で行われることはありません。
もっとも、すでに出来上がっている住宅の場合あらたに計算する必要もありませんから、理屈だけ覚えておけば十分でしょう。
利用できる設備機器も限定されている
高効率な設備システムと言われても具体的に分かりにくいのですが、ZEHでは特にエネルギー消費量の大きいとされる暖冷房・換気・照明・給湯の4項目について、ZEH基準を満たした設備を導入し、それにより従来よりも一次エネルギー消費量が20%以上削減できていなければなりません。
ZEH補助金を申請するには国立研究開発法人 建築研究所のホームページで公開されている「エネルギー消費性能計算プログラム」を用いて計算すると指定されていますが、その計算プログラムにおいては設備機器情報を入力すれば自動計算されるようになっています。
例えば暖冷房機器としてエアコンを採用する場合、定められた温度条件における消費電力1kW当たりの冷房・暖房能力であるCOPを、提供されている区分表を利用し、定格冷房エネルギー消費効率区分の基準を満たすことを確認した上で選択します。
結局のところ暖冷房・換気・照明・給湯の各項目で基準を満たす商品を選択すれば、一次エネルギー消費量は従来と比較して20%以上削減されるということです。
営業トークとしては「ZEH住宅ですから、冷暖房や給湯などの設備機器に使用されるエネルギーは、従来と比較して20%以上されるもの使用されています」といった感じで説明すれば良いでしょう。
創エネ設備について
再エネ設備を導入することは基準であるZEH住宅の要件とされていますが、再エネ設備は太陽光発電だけではありません。
風力や地熱のほか水力・バイオマスも再エネシステムです。
ですが上記のようなシステムを一般家庭で導入することはコスト面において現実的ではないことから、ZEHにおいては「再エネ=太陽光発電」とされるのが一般的です。
そこで気になるのは求められる発電量です。
前項までに解説した外皮性能等計算により算出された一次エネルギー消費量を「プラスマイナスゼロ」にすることが標準的なZEHの要件ですから、30~40坪前後の住宅においては6kW以上10kW未満であることが多いでしょう。
もっとも太陽電池アレイの種別や方位、屋根の形状等により搭載されている枚数も一律ではないことから、各住宅で保管されている図面等で確認するしかありません。
例えばパネル1枚単位の定格出力が200wであると仮定すれば、平均的な発電量を得ようとすれば35~50枚のモジュールでアレイが構成されているはずです。
中古としてZEH住宅を扱う場合、プラスマイナスゼロの最低限として太陽光発電が搭載されているか、それとも余剰分も発電できるよう搭載されているかは大切な部分ですから必ず確認したいものです。
またFIT(固定買取制度)による売電契約が継続している場合には購入者による名義変更が必要とされます。
FITによる売電期間は10年ですから、名義変更すれば残りの期間と売電価格を引き継ぐことはできますが、売電契約に関わる名義変更に必要な書類は、申請する電力会社により異なりますから、後になって慌てないよう事前に各電力会社に確認しておく必要があります。
また買取期間が終了している場合や、残りの期間が短い場合には蓄電池を導入して自己消費をするか、売電価格が安くなっても購入してくれる電力会社を探すなど予め対策を考えておく必要があります。
色々なZEHがあるから分かりにくい
さて基本的なZEHの知識としては上記までを理解すれば良いのですが、世間では標準的なZEHの他にニアリーZEHやZEH-Mなどの用語が入り乱れています。
そこでZEHの種類について整理し解説します。
まず一戸建てについては標準的なZEHの他、下記の種類が存在します。
●Nearly ZEH(ニアリー・ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)
●ZEH Oriented (ゼロ・エネルギー・ハウス指向型住宅)
違いは再エネを含んでの一次エネルギー消費量ですが、ZEH Orientedの場合には再エネ導入の必要がない、つまり外皮性能と高効率設備の導入だけで要件を満たし太陽光発電の搭載は不要ですから外観上は一般住宅と変わりありません。
そのような住宅において顧客が「うちの家はZEH住宅です!」といった場合、ZEH Orientedの要件は満たしているのでしょうが、申請されたZEHであるのか、単に性能を満たしているだけの住宅であるかについて申請書控え等で確認したほうが良いでしょう。
次にマンションですが、下記のような種類に分けられています。
●ZEH-M(ゼッチエム)
●Nearly ZEH-M(ニアリーゼッチエム)
●ZEH-M Ready(ゼッチエムレディ)
●ZEH-M Oriented(ゼッチエムオリエンテッド)
こちらも戸建てと同様、一次エネルギー消費量が再エネを含み収支ゼロとなるのはZEH-Mのみ、それ以降は再エネを含む一次エネルギー消費量は大きくなり、ZEH-M Orientedでは再エネの導入が不要とされています。
上記までの表には記載されていませんが、省エネ基準で一次エネルギー消費量マイナス25%以上をクリアすれば「ZEH+(ゼッチプラス)」さらに蓄電池や燃料電池を備えれば「次世代ZEH+(ゼッチプラス)」になりますので覚えておきましょう。
これらの違いは査定価格にも影響を及ぼすことですから、ZEHの種別を理解しておく必要があるでしょう。
ZEH中古住宅の建物評価はどうする?
不動産業業者の利用率が増加している査定システム等において、上記までに解説したZEH種別までを選択し、それを踏まえて算出されるようにはなっていないでしょうから、性能等の評価については各自が調整する必要があるでしょう。
建築会社により坪単価等はことなりますが、最多販売価格帯を基準とすれば、ZEH住宅の建築単価は割高になっている場合がほとんどです。
義務化されている訳でもないのに、あえて割高となるZEH住宅を建築した顧客の多くは、建築をする過程でZEHについて学びこだわりのある場合も多いでしょうから、適正に評価する必要があります。
そのような顧客にたいし、省エネ基準に達していない住宅と築年数が同等であるからと再調達価格を度外視し、一律で計算すれば媒介依頼を受けることは難しくなるでしょう。
建物の使用状況や間取り、経年劣化の状況により建物評価は影響を受けますが、標準的なZEH住宅の場合には、一般住宅評価プラス15~20%を目安とするのが妥当ではないでしょうか。
まとめ
今回はZEHについて解説を行いました。
性能等に関しては解説したZEH以外にも二酸化炭素排出量を抑える対策をほどこした低炭素住宅や、長期に使用するための構造及び設備を有す長期優良住宅などが認定も含め制度化されていますが、ZEHと比較すれば普及率が高いとは言えません。
もっとも上記のような性能等を有す住宅は、それだけに顧客のこだわりが強く、査定時には適切に評価することが求められます。
2025年からは省エネ基準の適合が義務化されますが、私達の扱う中古物件は様々な年代や性能等を有していますから、注目度されている住宅性能等に関しては継続して学び続ける意識が大切だと言えるでしょう。