【問題の多い業者は社名公表】国民生活センターの権限が強化される

国民生活センターは国民生活の安定及び向上に寄与するため、総合的見地から、国民生活に関する情報の提供及び調査研究を行うとともに、重要消費者紛争について法による解決のための手続きを実施している独立行政法人です。

昭和45(1970)年に特殊法人として設立され、平成15(2003)年から独立行政法人へ移行しましたが、具体的な役割は消費者基本法(2004年に消費者保護基本法が改定)に明記されており、センターとしての個別法として「独立行政法人国民生活センター法」が存在しています。

よく国民生活センターと消費者生活センターと混同している方を見かけますが、国民生活センターは国の機関として存在しており、たいして消費者生活センターは地方自治体の機関であるという点を除けば、どちらも行っている業務が重複していることによるのでしょう。

国民生活センターのホームページをご覧になった方ならご存じかと思いますが、不用品回収サービスのトラブルや投資信託・多重債務トラブルなど、現在、問題となっている様々な相談事例が公開されており、時代の傾向などを知るのに利用できます。

不動産に関しての相談も数多く公開されており、とくに「賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル」「訪問販売によるリフォーム工事・点検商法」のほか「投資用マンション勧誘」などの相談事例を数多く確認することができます。

筆者は不動産に関連する詐欺的手法の手口などを知る手段として、定期的に国民生活センターのホームページを確認していますが、これまで相談事例は確認できても原則として業者名は非公開とされていることから、対象とされた業者については「販売業者」などと表現されていました。

ですが「国民生活センターが独自の判断で個別の事業者名を公表できる」よう規定を盛り込んだ国民生活センター法改正案が政府によりまとめられ、消費者契約法の改正案と併せ今国会での成立を目指していることが新聞等各社により報道されました。

これまで、事業社名を公表する場合には厳格な内規によりその是非を判断していたことから、実際に公表されることはほとんどありませんでした。

ですが現在、話題になっている霊感商法による取消権の救済対象拡大を目的とした消費者契約法改正案の勢いに乗じ、国民生活センターが独自の判断で個別の事業者名を公表できるようになれば、公表された事業者の活動は大きく制限されることになるでしょう。

国民生活センターによる判断基準等はまだ明確にされてはいませんが、おそらくは反復継続して相談が寄せられ、その内容が悪質である判断される場合、事業者にたいし事実関係のヒアリング等を行い、その結果、重要消費者紛争手続きによる和解が可能かどうかをも含め事業者名公表を判断するのではないでしょうか。

国民生活センターにより事業者名が公開されれば、少なからず事業に支障が生じることでしょう。

また昨今の傾向として、軽い気持ちで国民生活センターに相談を持ちかけるケースも増加傾向にあると言われていますから、私達としては痛くもなく腹を探られ、さらに事業者名公表のリスクが高まることになります。

今回は国民生活センターの活動内容等を中心として解説したいと思います。

すでに事業者名が公開されている国土交通省ネガティブ情報

国民生活センターについて解説する前に、問題のある事業者名が全て公開されているサイトを紹介しておきましょう。

あまり一般的ではありませんが、国土交通省の管轄事業者について過去の行政処分歴等を検索することができるサイトです。

サイトは下記のURLから確認することができます。

https://www.mlit.go.jp/nega-inf/

ネガティブ情報等検索サイト

事業分野として「不動産の売買・管理」を選択し、次に処分年月日等の諸条件を指定すれば指示・業務停止・免許取消し等の行政処分のほか、そのような判断に至った概要や詳細を確認することができます。

ネガティブ情報検索サイト,不動産の売買・管理

具体的には下記のように処分理由を確認することができます。

「常勤で専ら宅地建物取引業の業務に従事することが必要な 専任の宅地建物取引士について、実際には常時勤務していないにも拘わらず、勤務している旨の虚偽の内容で免許申請 を行い、不正の手段により平成31年1月22日に法第3条第 1項の免許を受けた。  このことが、法第66条第1項第8号に該当するため」

「自社ホームページにおいて、専有面積及び間取り図を実際 の物件と異なる記載をし、並びに利用の制限に関する記載をせずに賃貸物件として広告したこと。  このことは法第32条の規定に反し、法第65条第1項に該当するため」

「被処分者の事務所の所在地が確知できないため、宅地建 物取引業法第67条第1項の規定により県公報でその旨 を公告したが、30日を経過しても何ら申し出がないため」

実際に処分された詳細な情報が掲載されていますので、自社の活動に該当しているところはないかを確認するほか、初取引する業者について調査するために利用するのも良いでしょう。

国民生活センターの活動とは

前項で紹介した国土交通省ネガティブ情報は「知る人ぞ知る」といったサイトですから、一般的な認知度は低いといえます。

たいして国民生活センターは消費者安全法により都道府県では必置が義務とされ、市町村においては努力義務ではあるものの全国で724箇所ものセンターが設置され、その認知度は著しく高いと言えるでしょう。

センターの特徴は全国共通の電話番号で相談できる気楽さにあり、国民動向調査においてその周知度は70%を超えるとされています。

国民生活センターは相談業務がメインではありますが、相談だけで終わるものではありません。

あくまでも消費者のため簡易・迅速に被害の回復を図ることを目的としていますから、当事者による和解がゴールとされています。

さらに裁判によらない紛争解決手続(ADR)による被害救済が行えることも特徴です。

もっとも基本は当事者による自主的な交渉のために必要とされる情報提供や助言がメイン(約8割)ですが、法律や医療など専門知識が必要な案件については他の適切な機関を紹介するほか、当事者間で自主的な解決が困難な場合には相談員によるトラブル解決の斡旋が行われます。

このトラブル解決の斡旋がADRです。

国民生活センターは法務大臣から認証を受けたADR機関ですから、解決手続きに着手すれば時効の中断等の法的効果も付与されることになります。

ADRで扱われるのは同種多数性による被害が重大であるとして全国的に重要な紛争、つまり「重要消費紛争」が対象とされます。

基本的には斡旋や調停に相当する「和解の仲介」と、当事者間の仲裁合意に基づき第三者の判断に委ねる「仲裁」の2種類があり、委員長から指名された委員・特別委員が仲介委員または仲裁委員として担当し、原則非公開で行われます。

ただし非公開ではあっても、ADRの要件が全国的に重要な紛争であることから、国民生活の安定・向上のために必要がある認められる時は概要が公表されます。

具体的には手続き終了事案のうち約3/4についての概要が公表されています。

そのうちの一部については事業社名も公表されています。

つまり、これまでは事業者名を公表するには前提としてADRが実施されている必要があったのです。

ちなみにADRの実施状況は平成30年177件・令和元年204件・令和2年166件とそれほど多いとは言えませんが、情報が公開されている平成21年度の106件から以降、微増している傾向が見受けられます。

国民生活センター法の改正案が成立すれば、ADRを経ず事業社名が公表される可能性が高まります。

認知度の高い国民生活センターに事業者名が公表された場合、実務への影響がどれだけあるのかは想像できるというものでしょう。

まとめ

筆者は過去に国民生活センターからの事情聞き取り連絡を受けたことがあります。

特別依頼費用請求の妥当性や、不動産のコンサルティングにおいて当事者の相手方が不満を持ったことにより国民生活センターに相談したことが原因でした。

そのような相談内容についての聞き取り調査でしたが、特段の落ち度も無かったことからその旨を主張し、それ以降は動きもありませんでした。

ですが不動産関連の苦情であっても宅建協会等より、やはり国民生活センターへの相談の方が多いのだなと感じました。

インターネットの普及により、飲食店の予約をするにも事前にその店の評判などを調べてからという方が多いでしょう。

ましてや高額な不動産の売買を依頼する訳ですから、その会社が何か問題を起こしていないかを調べることは多いのではないでしょうか?

口コミ情報もさることながら、行政等によるネガティブ情報が公開されていればその影響は甚大だと言えるでしょう。

身から出たサビの部分はあるかも知れませんが、場合によっては企業が致命的な影響を受ける可能性もあるでしょう。

国民生活センターの事業者名公表条件等について具体的にされてはいませんが「独自の判断で公開可能」とされていることから、ADRに移行した場合にはかなりの確率で公開されるのかも知れません。

コンプライアンスの遵守は何も不動産業者に限られたものではありませんが、「千三つ屋」などと揶揄された従来のダークなイメージが最近になってやっと緩和されてきたのですから、私たちは背筋を正し問題が生じないよう業務遂行を心がけていく必要があると言えるでしょう。

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