2020年7月17から宅地建物取引業法施行規則が一部改正されたことにより、重要事項説明書には水防法(昭和24年法律第196号)の規定に基づいて作成され範囲のハザードマップを添付して、当該物件の概ねの位置を示すことが義務付けられています。
改正の背景には大雨による河川氾濫や地震による津波被害など、水災害による損害を未然に防止する目的があります。
ところが、がけ崩れや家屋倒壊、液状化による不同沈下などの損害をもたらす地盤強度(地耐力)についての具体的な説明方法や範囲については定めがありません。
ですが地耐力に関してのトラブルにより裁判になった場合、不動産業者には調査や説明の義務があると判決されているのはご存じでしょうか?
「義務がない」のではなく「説明方法や範囲が、宅地建物取引業法で定められていない」だけなのです。
地盤に関する説明は必要ないとの意見が大半。でも、実際は
定めがないにもかかわらず地耐力不足が購入後に発覚した場合において、仲介業者の調査不足を理由として提訴されるケースが数多くあります。
これら裁判の判例では、「仲介業者が地耐力に関して説明を怠ったことは、説明義務違反である」との原告主張を認め、多額の賠償金支払いを認めたケースもあります。
一般的な不動産業者の間では、中古住宅や土地売買の地盤に関して説明は不要という認識が一般的です。
業者同士の集まりなどでこの話をすると「地耐力は建築前に建築会社が独自調査するものであって、我々に調査義務はないでしょう」などの他にも
「知識もないのに下手な説明をすると、揚げ足をとられることになりかねない」
との意見が聞かれます。
ですが実際の裁判では上記で紹介した意見の大半は否定され、「仲介業者には地盤に関する説明が必要であり、業者はその調査を怠った」として賠償金の支払いを命じています。
今回この記事を執筆するにあたり判例や宅地建物取引業法の関係を精査しました。
結論として地盤に関しての説明義務は以下のように判断されます。
●判例から勘案される、添付書類を含めた説明方法には一定の基準が存在する。
●宅地建物取引業法で明確に記載はしていないが、地耐力に関する説明が必要であると示唆される表記は存在する。
ちょっと手間をかけるだけで余計な裁判に巻き込まれない、もしくは裁判になっても説明責任を果たしていると判断される重要事項説明への書記載方法は存在します。
今回は余計なトラブルに巻き込まれないように、費用をかけず地盤についての調査記録としての添付書類と、重要事項説明書への記載方法について解説します。
通常説明している内容では足りない
重要事項説明の一般的なフォーマットでは、下記の書式で砂防法や地すべり等防止法など該当箇所にチェックし説明を補足する程度に留まっています。
確かに「地滑り防止法」などの対象区域は、地盤が軟弱で過去に地滑りが発生しているなどの理由により定められている地域ですが、チェックだけで当該地の地盤についての説明が充分であると言えません。
ましてや、これらの地域に該当していなければ説明が不要という認識を持ってしまいます。
説明範囲が定められていないことから具体的な調査方法や必要とされる添付書類にはどのようなものがあるか、理解がされていないのが現状でしょう。
まず理解しよう。日本は世界第4位の地震大国だという事実!!
国土交通省気象庁では日本付近で発生した主な被害地震のデータを公表していますが、震度5以上の地震は毎年発生しています。
それ以下の震度まで含めると直近1年間(2020年3月1日~2021年3月6日)だけで469回発生しています。
UNDP(国連開発計画)がまとめた1980年~2000年にかけての国別地震頻度では中国・インドネシア・イランに次いで第4位と、残念なデータが公開されています。
2016年以降の5年間で発生した震度5以上で家屋倒壊などの被害をもたらした地震は下記のとおりです。
2017年(平成29年_4件)
2018年(平成30年_3件)
2019年(平成31・令和元年_6件)
2020年(令和2年_4件)
大規模水災害は地震の影響による「津波」によるほか、大雨による河川の氾濫ですが、同時に軟弱地盤の沈下や崖崩れなどを引き起こします。
当該地のボーリング調査まで必要か?
さまざまな判例を見ると、地耐力や軟弱地盤に関しての説明義務が宅建業者に存在していると確認できます。
新築住宅の場合には建築会社がその責任において地盤強度(地耐力)を確認しますが、自社でボーリング調査などを実施できる訳もなく地盤保証会社などに依頼して調査をおこないます。
現在、国内における代表的な地盤保証会社には下記のようなところがあります。
●株式会社地盤ネット
●一般社団法人ハウスワランティ
●株式会社GIR
●一般社団法人地盤総合管理センター
●一般社団法人地盤保証検査協会
これら専門業者にたいして私たち仲介業者が地耐力の調査を依頼することができます。
実施した場合には詳細な報告書が提供されることから、顧客も安心も出来るでしょう。
一般的な住宅敷地の調査費用は5~7万円が目安です。
ただし判例を見る限り、仲介業者にたいしここまで詳細な調査を仲介業者に求めていません。
あくまでも買主が要望したときに、費用負担をどのようにするか打ち合わせをしてから依頼する程度の認識で良いでしょう。
判例から見る、必要な添付書類
調べて見ると、地盤に関する裁判事例は数多くあります。
私たち仲介業者として参考になる事例としても下記のようなものがあります。
東京地方裁判所平成19年(ワ)第7620号損害賠償請求事件(平成21年10月9日)
神戸市地方裁判所昭和56年(ワ)第1457号損害賠償請求事件(昭和61年9月3日)
上記も含めた判例を勘案し、必要とされる説明範囲をまとめると以下の点を満たせば問題はないと考えられます。
つまり「無償で調査できる当該地近隣の地盤の程度」を説明すれば足るということです。
無償で利用できる添付情報の入手先
前記で解説した情報は下記、各サイトで公開されています。
基本的にこれらのサイトにおいて、説明責任を果たす程度の情報は無償で提供されています。
http://www.kunijiban.pwri.go.jp/jp/
GEODAS(ジオダス)
https://www.jiban.co.jp/geodas/
地盤安心マップ(運営会社_地盤安心ネット)
https://jam.jibanmap.jp/map/main.php
ジャパンホームシールド_地盤サポートマップ
https://supportmap.jp/#13/35.6939/139.7917
添付書類の例として「ジャパンホームシールドの地盤サポートマップ」を紹介します。
図を見れば分かるように、地図上に異なる色の丸印が記載されており、色ごとに軟弱地盤や普通の地盤などを確認することができます。
このように視覚的に当該地の近隣地盤が推測できる情報を添付すれば、購入者や売主が売買条件として地耐力のボーリング調査を有償で実施するかどうかの情報提供をおこなったことになり、情報添付に関しての責任は果たされることになります。
判例を見ても地耐力は購入を決定する重要な要素であるとされていることから、売主や買主に対しては事前に知り得た調査情報を開示しておくほか、重要事項説明書の水害ハザードマップ説明欄に近い「その他に関しての記載欄」などに下記の様な文言を入れておけば良いでしょう。
記載文言は一例ですが、記載のポイントとしては以下の3点を満たせば説明責任を果たしていると考えられます。
2.有償での地盤調査は可能であると説明し、売主または買主の判断により実施(または未実施)したこと。
3.実施・未実施を問わず調査結果(無償データ)は重要事項説明書の添付書類とすること。
判例から見る、必要な説明範囲
口頭による事前説明のポイントには、以下の点に注意して説明を行うようにしましょう。
2.知っているもしくは調査により知り得た土地性情の説明は必要であること。
3.地盤の軟弱の程度を告知すれば良い。ただし、専門知識がないからとの理由で説明を行わないということは容認されない。つまり、知り得た事実について添付書類を以て説明すれば説明責任は果たされていると解される。
結論的には売主及び買主がおおよその地盤強度について理解し予め地盤調査をおこなう、もしくは建築時に地盤改良工事の必要性があると認識できる程度の情報を提供すればよいと考えられます。
実際に、軟弱地盤が問題となるのは液状化や地盤沈下(不同沈下)が生じた場合です。
たとえば、『大きな地震によって地盤沈下が生じた』という場合には不可抗力であると判断され、土地の瑕疵にはあたらないと考えられます。
一方では『微弱な地震で地盤沈下が生じた』という場合には、判例でも土地の瑕疵と判決されています。
これらのことから買主が地盤の程度について事前に知っていた場合,瑕疵担保責任は生じないと理解して問題がないと解されます。
つまり、万が一地盤沈下が生じた場合にも私たちの説明責任については果たされていると解釈され、不要な裁判に巻き込まれる可能性が著しく低くなります。
まとめ
今回、解説した地耐力の調査や説明は、たいした労力も必要ありません。
たったこれだけのことで、意図しない裁判に巻き込まれることがなくなります。
実際に裁判を提訴され、説明責任の不備により賠償責任を命じられた業者の多くは冒頭であげたように「地耐力についての説明は、宅建業法の説明事項じゃない」と憤慨したことでしょう。
記載方法が定められていないというのは事実ですが、買主が購入を決定する重要な要素であることに違いは無く、「購入動機の要素の錯誤」を主張されればどのような判断が下されるかは過去の判例が示しています。
顧客の不利益を防止するとともに、私たち自身の身を守る意味でも、今回ご紹介した内容を実践することをお勧めいたします。