【接道している私道所有者が他界して、現在の所有者が不明】この物件は購入すべきか?

面倒だけれども避けては通れないのが私道に接する土地・建物の売買です。

査定依頼のあった時点で取得する法14条地図や公図で、道路に地番が割り振られていれば私道である可能性が高まり、道路部分の登記情報を取得し個人名もしくは企業名などが確認されれば「私道確定」です。

その場合には再建築が認められる道路であるか、幅員は4m以上あるのか、再建築時にセットバックは必要なのかにくわえ、通行掘削同意の取得など様々な業務が追加になります。

さらに本格的に販売を開始する場合にはあらかじめ同意書を取得しておく必要がありますから、ハンコ代の交渉や支払いが必要となる場合もあります。

このように何かと手間が必要とされる「私道」絡みの土地建物ですが、先日、私道に接している既存住宅の購入を検討している方から下記のような相談が寄せられました。

「私道所有者を調査したところすでに故人であり、現在の所有者が不明である。道路自体は公衆用道路に指定されているようだが、将来的に相続人が相続をした場合、通行拒否や使用に関しての費用を徴収するような話にはならないだろうか。このような物件は購入しないほうが良いのか。また再建築をする際に問題が生じることはないのか?」といった内容です。

物件を紹介した媒介業者に聞いたほうが良いのではないかと助言したところ、物件担当は新人さんらしくシドロモドロで、さらに上司という方が出てきて説明をしてくれたのだが、少し踏み込んだ質問をすると答えに窮し、とてもではないが信用できないとのこと。

私道に関しての調査やその見解は、熟練の不動産業者でも悩むことがありますから珍しくもない話ではありますが、今回はこのようなケースにおける見解について、道路に関しての基本的な定義も交え解説いたします。

理解しておきたい道路の種類について

そもそも道路とは何でしょうか?

道路と聞いてすぐに思い浮かぶのは「道路法」ですが、この法律の第2条では「一般交通の用に供する次条各項に掲げるものをいい」となり、各条項として高速道路・一般道路・都道府県道・市町村道とされています。つまり、これに該当していない道路は、道路法上における道路ではないのですね。

それ以外とは農道や里道など下記に分類されている道路です。

道路の種類

このように道路法以外の道路には「私道」も含まれていますが、私道の全てがここに分類される訳ではありません。

市町村には道路法第8条により「路線の認定」権限が付与されており、私道であっても市町村の区域内に存在する道路を認定し、市町村道とすることができるからです。

もっとも、もとが私道であっても市町村に認定されれば市町村道となりますから、基本的に所有権は市町村に移され「公道」と表現できる道路になります。

私たちが悩むのは、このような道路法上の道路ではありません。

建築基準法42条で定める道路の定義に含まれているかどうかです。

建築基準法第42条は「道路の定義」についての法律ですが、第1項は1号~5号まで、同法第42条第2項が該当し、それぞれ以下のように定められています。

●第1号_道路法による道路
●第2号_都市計画法・都市再開発法・新都市基盤整備法などによる道路
●第3号_条例の制定もしくは改正の規定が適用される以前から存在する道路(既存道路)
●第4号_都市計画法などにより2年以内に事業が予定され特定行政庁が指定した道路
●第5号_道路法・土地区画整理法などに適合する道で、築造しようとするもの(民間)が特定行政庁から指定を受けた道路(位置指定道路)

●建築基準法第42条第2項_都市計画などの変更・条例の制定・改正・建築基準法施工時以前から家が立ち並んでいた道幅1.8m以上4m未満の道路で特定行政庁の指定したもの(みなし道路)

ですから私たちが「私道」であるとして、その所有者と交渉が必要となる可能性があるのは建築基準法第42条第1項3号(既存道路)もしくは建築基準法第42条第2項(2項道路もしくは、みなし道路と呼ばれる)にほぼ限定される訳です。

既存道路・位置指定道路・みなし道路は混同されがちなので、その違いについては正確に理解しておきましょう。

所有者不明の2項道路にひそむ危険性

道路についての定義を解説した後に、冒頭の質問事項に潜む危険性について考えて見ましょう。

まず、聞き及んだ当該地(私道)の状態を整理してみましょう。

1. 当該地は建築基準法第42条第2項道路に面しており、所轄行政庁への調査によれば公衆用道路(地目は宅地)として認定されている。
2. 道路所有の名義人は1名(故人)であり、死亡から3年を経過しているが相続による名義変更手続きなどはおこなわれていない。
3. 当該私道に接する近隣居住者は6軒(当該物件含む)存在しており、当該私道はこれら居住者の日常生活道路として使用されている。
4. 近隣住民への聞き取り調査の結果、過去に通行料などの負担を要請されたこともなく、また故人の親族関係などについて知っている世帯は存在しなかった。

このような条件下ですが、まず相談者が心配をしているのは突然、相続人が現れ通行・掘削費用の徴収や使用差止め請求されることです。

ですが私道は公衆用道路に指定されており、実際に近隣居住者の日常生活道路として使用されている状態です。

不特定多数の通行の用に供されていることについて疑う余地はありません。

このような状態で相続人がその使用について規制や妨害行為を行った場合、東京地裁判決平成12年5月の判決で見られるように妨害行為を差止める排除請求が認められる可能性が高いと思われます。

ただしこれまで私道所有者が道路使用料などを徴収していないからといって、新たな相続人がそのまま何も徴収しないかどうかは不明です。

道路として使用できるということと、その所有者(相続人)がハンコ代などの権利を主張してくることは別の問題だからです。

ですからハンコ代などが常識的な金額である限り、私道所有者の権利濫用には当たらないと考えられますので、その際には利害関係者を交えての協議は必須でしょう。

また「私道所有者が不明の状態では再建築時に関して不安だ」と懸念されていましたが、行政処分により公衆用道路となっているのですから公益上の利益が認められ、たとえ所有者不明の状態が継続(新たな所有者が名乗りをあげても同様)していても建築確認申請に影響を及ぼす可能性は低いと考えられます。

また再建築時における上下水道の引き込みなどに関しても、下水に関しては下水道法第11条により地権者不明でも公共の福祉が優先されるという観点から工事が可能であり、水道工事は原則として受益者負担が原則ではあるものの、現在住宅が存在しているのであれば既設管を再利用することも可能です。

そもそも平成9年12月18日の最高裁判例においても、位置指定された道路の水道・下水・ガス管などの掘削については原則として所有者の承諾は不要であると判断しています。

ですが原則不要であるとは言っても、新たな所有者が現れた場合には掘削に関しての同意を得ておかなければ後々トラブルが予測されますから、円滑なコミュニケーションを継続するために必要です。

承諾を得ず工事を実施できるということと、他人の土地を掘削することによる「損料」を負担することは別の問題ですから、通行同意と同様に掘削同意にハンコ代などが請求される可能性があることまで否定はできません。

私的自治の範囲で通行料や掘削の支払いを「良」とする慣行が存在しているのですから、それを権利濫用だといえるほどの根拠もまた存在していないからです。

まとめ

今回は筆者のもとに寄せられた相談内容を題材として一定条件下にある「私道」について解説しました。

冒頭でもあげたように、私道に接する土地・建物の取り扱いは「面倒だからヤダ」と言える訳ではありません。

不動産業者であれば避けては通れない案件であり、だからこそ道路に関しての法律や定義、そして私道トラブルに関しての判例などについては機会があれば目を通し、知識を拡充させていく必要があると言えるでしょう。

それができてこそ、知識があり信頼できる不動産屋であると評価されるのですから。

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