【当事者の自宅で契約していてもクーリング・オフで契約解除される!】正しく学んでおきたい特商法の基本

訪問による違法・悪質な勧誘行為を防止して消費者の利益を守るための法律、それが「特商法」です。

この法律の正式名称は「特定商取引に関する法律」ですが、法律としては昭和51年法律第57号ですが、令和4年6月22日に「訪問販売又は電話勧誘販売先における住宅リフォーム工事の役務提供に係る過量販売に関する考え方」が別添に追加されたことにより運用が刷新されました。

悪質な訪問行為や電話勧誘による住宅リフォーム工事の問題や、インターネットオークションなど、時代により変化する消費者問題に対応していくのが狙いです。

法律の名称どおり、この法律の対象となるのは「特定商取引」ですが、具体的には訪問販売・通信販売・電話勧誘販売など下記図のような7種の類型が特定商取引とされています。

7種の類型が特定商取引

これら「特定商取引」として類型された営業活動などをキッカケとして契約を締結した場合、一定期間内であれば申込の撤回や契約解除が認められています。

この制度がクーリング・オフです。

宅地建物取引業法でも第37条2で「事務所以外の場所においてした買受けの申込みの撤回など」を定めており、宅地や建物売買におけるクーリング・オフを認めています。

もっとも不動産取引においてクーリング・オフが適用されるのは業者が売主の場合のみですから、媒介業務、つまり一般消費者間の契約を私たちが媒介した場合には適用外となります。

このようなことは基本ですから皆様もよくご存じかと思いますが、事務所などで契約を締結したから「クーリング・オフによる解除はできません!」と言い切れないケースがあるのはご存じでしょうか?

契約締結の経緯や勧誘方法によっては、定められた事務所などで契約を締結した場合においてもクーリング・オフを認めた判例が存在しているのです。

今回は特商法の基本と、クーリング・オフについての基本的な考え方について解説します。

定められた場所について

まず売買契約を行う場所、つまり「事務所等」の解釈についておさらいしておきましょう。

「等」と表現されているので具体的にはどのような場所まで含まれるのか気になるところです。

この場合の事務所等とは、以下で記載した4箇所であると考えて差し支えありません。

① 本店(主たる事務所)
② 支店(従たる事務所)
③ 継続的に業務を行うことができる施設(販売所などで、専任の宅地建物取引士の設置義務を満たしている場所)
④ 契約当事者が自ら売買契約に関する説明を受けることを申し出た場所(自宅・勤務先など)

これらは基本ですから詳細な説明については不要だと思いますが、注意したいのは④にあげた自宅や勤務先です。

この場合、その場所を指定するのは契約当事者であることが求められます。ですから当事者の休みが不規則で、なかなか事務所にこられない場合などにおいて、私たちが「だったらご自宅に伺いますから、そこで契約しましょう」と誘導した場合にはクーリング・オフが適用されます。

また申し出があったからといって、当事者の行きつけである喫茶店などで契約締結した場合もクーリング・オフが適用されます。
あくまでも当事者が自分のフィールドで、リラックスした状態で判断できる環境、つまりは自宅や勤務先に限定されていると理解しておきましょう。

意思表示が優先される

よく「買受の申込は主たる事務所で行い、契約の締結は当事者の希望により喫茶店で行った。この場合、クーリング・オフの対象となるのか?」といった質問を受けることがあります。

この場合、クーリング・オフの対象にはなりません。

前項で解説した内容と矛盾していますし、定められた場所以外で契約を締結しているのだから「そんなの変だ!」という方がおられるかも知れません。

たしかに宅地建物取引業法第37条2を文面どおり解釈すると、申込は事務所で行われているからクーリング・オフの対象外、契約の締結は喫茶店で行われているからクーリング・オフの対象になると考えてしまいます。

ですが申込と契約の場所が違っている場合「安定した状態で購入の意思表示をした場所が優先」されると、宅建業法の条文でも示されているのです。

ですから申込をした場所が定められた事務所等であった場合、クーリング・オフの対象とならないとされる訳です。

もっとも買受の申込は売買契約ではありません。

民法の規定によれば意思表示が明確であれば、たとえ契約書が存在していなくても「諾成契約」も認められますが、私たち不動産業者は契約に関し宅地建物取引業法に則った契約の締結が求められます。

クーリング・オフの対象とならないからといって直ちに「違約なのだから違約金を支払え!」などと言うことはできません。

不動産購入申込書は購入の意思表示を示す書類ではありますが、それ単体で法的な拘束力を有するものではないからです。

私たち不動産業者は当事者が購入の意思を固めたと認識すれば、それを証するため購入申込書を記載して貰ってから契約関連の書類などの準備をします。

そのような労力を使っているのに、締結前に簡単に解除されれば、腹もたちますし何とか違約にできないのかと考えるでしょう。

契約締結の条件として契約当事者の要望による手直し工事などを締結前に行っていれば、損害賠償の請求については検討できますが、そうではない場合どうしようもありません。

法の理屈は別として、実際には契約の締結を優先する方が正解だと言えるでしょう。

説明漏れに要注意!

定められた場所で契約を締結した場合には対象外とされますが、それ以外の場所で契約の締結を行った場合、8日以内であればクーリング・オフによる解除が認められています。

注意したいのが起算日です。

契約締結時にクーリング・オフについての説明が行われていれば、締結日から起算して8日が期間とされます。

ですが、ウッカリとクーリング・オフについての説明を怠っていたとしたら、たとえ契約が締結されていても起算が開始されません。

つまり全額の支払いが完了するまでは、いつでも書面によりクーリング・オフを宣言し契約の解除ができることになります。

クーリング・オフは「告げられた日を起算日とする」と法律で定められているからです。

この場合「契約書に記載されている」という主張は通用しません。

多少、話を脱線しますが、そもそもクーリング・オフの説明は宅地建物取引業者の義務とされていません。

なぜ「義務とされていないか?」

説明を怠れば自分が不利になるだけだから、わざわざ義務化する必要はないだろうという考えに基づいています。

ですからクーリング・オフが適用される内容について定め、回避したいのであれば定められた場所で契約の締結をするか、それが無理ならクーリング・オフについての説明をした方が「ア・ナ・タのためですよ」としているだけに過ぎません。

売買契約書には契約解除に関する定めが記載されていますが、特商法はそれ以前、つまり意思決定に関して消費者を保護するための法律です。

正しく理解するように注意しましょう。

判例を見てみよう

不動産の売買契約に関し、クーリング・オフが適用されるかを争った調停や判例は数多く存在しています。

これまで解説したように適用除外として定められた場所で契約の締結を行った場合、原則としてクーリング・オフは適用されないのですが、勧誘方法により原則が覆されている判例が存在しています。

どうやら勧誘方法についても理解しておかなければならないようです。

そんな判例を紹介しておきましょう。

平成15年4月の名古屋高裁で出された判決です。

建売住宅を販売している宅地建物取引業者を被告、クーリング・オフによる契約解除を求めた購入者を原告として争われた裁判です。

宅地建物取引業者は建売住宅の販売を開始するにあたり、当該地隣家のポストに「隣地の土地の件でご挨拶にまいりました」と記載した代表者の名刺を投函しました。

その後、原告と被告は電話でやり取りを行い隣家で建売住宅が計画されていることから購入を検討し、原告が被告宅を訪問して仮契約(本契約ではない)を締結し、手付金を支払いました。

なお仮契約書には、原告が別の場所に所有する土地建物を等価交換として購入する旨の特約が設けられていました。

この土地建物には農協による抵当権が設定されていたことから、原告は農協に抵当権付け替えの相談をしにいきますが応じてはもらえませんでした。

また契約書には等価交換の記載はあるものの、いったんは代金全額を支払って購入しなければならない旨が記載されていました。

農協による抵当権付け替えに応じてもらえず、売買物件をいったん決済しなければならない。

当初の計画に狂いが生じたことから、原告はクーリング・オフによる解除による契約解除ならびに手付金の返還をもうしでましたが被告は応じず、原告が提訴に及びました。一審の地方裁判所では請求が退けられたことから原告が控訴した事件です。

判決で原告の主張が認められました。

争点となったのは「意思表示」についてです。

被告は原告から電話で売買の申し入れがあったと主張しましたが、これは採用できないとされました。

この理由について裁判所は「仮に原告から被告に電話したものであったとしても、それは名刺投函により機縁を作ったうえで言葉巧みに勧誘したことが推測される。また被告は物件販売のため原告の自宅を訪問したともいえる」として、実質的に原告の意思によるものではないという判断をしました。

そのような考え方からすれば、原告の意思による自宅での契約行為ではないのだから「特定商取引に関する法律」で定められた場所での契約であるとはいえずクーリン・オフの対象となるとしました。

名刺や広告を投函し機縁をつくるのは、私たち不動産業者にとって当たり前におこなう販売活動の一貫ですが、問い合わせがあったからといって、先方から自宅などへきて欲しいなどの要望がない限り、相手に自宅へ訪問すれば、それは訪問販売と同じ扱いとされてしまう点には注意が必要でしょう。

仮に、その訪問により申し込書や契約の締結が行われてもクーリング・オフの適用外とはされず、またこれら紛争において「顧客の意思により訪問したのかどうか」については、私たち不動産業業者に立証責任があることも覚えておきましょう。

まとめ

取引が媒介の場合には特段、意識する必要もないクーリング・オフですが自らが売主、もしくは不動産業者が売主である物件を媒介した場合には今回のコラムで解説した内容について理解しておくことが必要です。

またクーリング・オフの起算日についても、契約すれば当然に開始されるのではなく、クーリング・オフについての説明が行われてからの日数であるという点については理解が必要です。

勧誘方法・契約場所・説明の3点に気をつけていれば、それほど神経質になる必要はありません。

ですが契約後、8日間は無条件の契約解除ができる制度は、せっかく契約してもそれまでの労力が無駄になってしまうのですから可能であれば避けたいものです。

そのためにも特定商取引の類型とクーリング・オフについては正確に理解を深めておく必要があると言えるでしょう。

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