オーナーチェンジ物件を購入して立ち退き交渉は可能か?

中古マンションの販売物件が不足しているからでしょうか、最近立て続けに「オーナーチェンジ物件を購入して、賃借人に立ち退いてもらい自分で住みたいのだが可能か?」との相談をうけました。

念のため解説しますが、オーナーチェンジ物件とは投資物件(分譲マンションやアパートなど)を賃借人が居住したまま売買する、不動産投資の一形態です。

私の場合ではありますが「直接お預かりしているオーナーチェンジ物件であれば、事前に交渉する余地があります。他社物件だと対応はできません。取り扱い会社にお問い合わせください」と答えます。

さらに「オーナーチェンジ物件をそのままの形で購入し、所有者となってから立ち退き交渉する方が簡単なのでは?」と、追加質問されれば「確かにその場合には契約更新時など、交渉のタイミングが図りやすくなります。ですが、立ち退きの可否が不安定な状態では入居という目的がいつ達成できるか不明です。そのような博打的な購入はやめておいた方が良いでしょう」と答えます。

もちろん成約報酬は欲しいのですが、立ち退き交渉は簡単ではありませんし、契約の目的が「自己の入居」である以上、契約の目的を達成することができない場合に「動機の錯誤」を理由としてトラブルに発展する可能性も高いケースです。

取扱会社の販売担当者と親しければ、事前に打診する程度のことはできますがお互いにプロの不動産業者です。

逆の立場でも、「賃借人退去」を停止条件として契約するより、そのままオーナーチェンジ物件として販売する方が簡単ですし手間もかかりませんから、売主や賃借人を説得してまで引き受けることはしないでしょう。

このような相談案件が増加する理由としてコロナ禍による運送価格の上昇や、ライフスタイルの変化により世界規模で資材が高騰しており、日本においても新築の一戸建てや分譲マンション価格が、じりじり値を上げていると言った背景があります。

知己のある木材商社や設備機器販売会社のスタッフによると、価格上昇も深刻だが、もっとも懸念されるのは建築資材が日本に入ってこないこと、だとしています。

品質にウルさく買い付け価格が低い日本の商社では他国に競り負け、日本への輸入見通しが立たないのが現実のようです。

住み替え需要は世界的規模で発生しており、この現象は「ウッドショック」と呼ばれています。

ただし、木材だけではありません。

コンクリートや鉄筋など、原材料を輸入に頼る資材は同様の状況になっています。

短期予測では、受注しても建築資材が枯渇していることから着工遅延の現場が増加することや、契約済みにもかかわらず資材価格高騰による契約額変更などによるトラブルの発生が懸念されています。

このような状況下で中古住宅が活性化するのは道理です。

特にリノベーション工事が容易な中古マンション市場はこの傾向が顕著で、人気エリアの中古マンション市場は値を上げ、販売物件が不足しています。

中古マンション市場はリノベーション工事を前提として、環境重視や駅近など立地重視の要望が強く、そのような物件は市場に出ても足が速くすぐに売れてしまいます。

そのような人気マンションでも「オーナーチェンジ物件」は、所有する目的の違いにより販売開始から成約まで相応の期間を要することも多く、販売物件が見受けられるケースがあります。

ユーザーからすれば、希望マンションが手に入るなら立ち退き料を負担してでも「オーナーチェンジ物件」を購入し、自分で住もうとう考えても不思議ではありません。

そこで不動産コンサルである私のもとに、冒頭の相談が寄せられることになります。

実際に「オーナーチェンジ物件」は立ち退き交渉ができるものでしょうか?

また立ち退き料の目安はどのくらいでしょうか?

注意!! 安易に請け負うと、非弁行為になる

不動産業者が所有権及び賃貸人であると仮装して、賃借人に対して立ち退き交渉をおこなったことにより弁護士法違反(非弁行為)であるとされた判例(東京地裁平20・10・22 判タ1298_311)があります。

もしもあなたが、冒頭のような立ち退き交渉を依頼された場合に

「はい、大丈夫です。お任せください!!」

などと安易に請け負っては、絶対にいけません。

立ち退き交渉は、ある程度までの交渉でしたら私たち不動産業者でも可能です。

件数は定かではありませんが、実務として立ち退き交渉を行っているのは、弁護士よりも私たち不動業者の方が多いでしょう。

実際に私自身、建て替えを目的とする立ち退き交渉などは何度も経験していますし、大型店舗誘致のため、近隣まとめての立ち退き交渉も経験しています。

同様の経験がある方も数多くおられるでしょう。

ただし立ち退き交渉は、ある一線を超えれば弁護士の専従業務になります。

取り扱うには弁護士資格を有していなければならない「法律事件」とされ、これに付随する業務は法律事務に該当し、無資格で扱えば弁護士法違反(非弁行為)とされます。

非弁行為の線引き

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弁護士法違反(非弁行為)に関しての判例は数多く見受けられます。

そのうち不動産取引における非弁行為にかんしての判例を精査すると、線引きが見えてきます。

まず立ち退き交渉を、「法律事件」にしてはなりません。

立ち退き案件の法律事件は賃貸人(所有者)を代理して、

「賃借人と直接に賃貸借契約を合意解除し、実際の退去や明け渡しまで代理」することです。

これらに違反すると弁護士法72条(非弁行為)違反とされています。

これを理解して、私達が立ち退き交渉を手掛ける際には下記のことを遵守すれば問題は生じません。

A.賃借人に、所有者から依頼され「立ち退きの相談」にきたという立ち位置を明確にする。
B.契約合意解除は当事者間でおこなう(メッセンジャーや、立会人としては問題ない)
C.代理行為の部分で「報酬」を得ず、また「反復継続」する意思はないこと。

つまり実質的に判断する権限がないことを宣言し、あくまでもサポートとしての立ち位置を明確にすることです。

詳しく解説しますと、判例で弁護士法違反(非弁行為)とされる場合の判断基準は下記の4つになります。

1. 依頼内容が法律事件に該当するか
2. 実際の稼働が、上記A~Cに抵触していないか
3. 立ち退き交渉で「報酬」を得ているか(売買による正規の仲介手数料は別件ですので問題ありません)
4. 反復継続する意思があるか。

特に3と4についてですが、報酬を目的として代理業務を取り扱えば「法律事務」であるとされ、弁護士法違反となります。

報酬はあくまでも売買成立による仲介手数料のみです。立ち退き交渉は売買を目的として派生した業務であり、交渉による報酬を目的としていないことが肝心です。

また「反復継続」には複数回という結果を伴う必要がなく、そのような意思があれば1回限りでも該当します。

私自身、何度も立ち退き交渉をおこなっていますので反復継続していますが、法的な解釈で「報酬」と「反復継続」は対となっています。つまり立ち退き交渉により「報酬を得て、かつ反復継続する」と読み替えていただければ違いが理解できます。

立ち退きには正当事由が必要

賃貸借契約の合意解除に正当事由が必要なことはご存じでしょうが、裁判によっても簡単に認められるものではありません。

法的な正当事由は下記に記載した借地借家法の要件を満たす必要があります。

① 借地借家法第26条要件(建物賃貸借契約の更新等)
「建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新しない旨の通知又は条件を変更しなければ更新しない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする」

② 借地借家法第27条(解約による建物賃貸借の終了)
「建物の賃貸人が賃貸借の解約の申し入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申し入れの日から6月を経過することによって終了する」

この解約の申し入れ条件に該当するのが正当事由ですが、判断基準は厳格に定められています。

A.建物の賃貸人及び賃借人(中略)が建物の使用を必要とする事情

B.建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引き換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申し出をした場合におけるその申し出を考慮して、正当の事由があると認められる。

簡単に言うと、明け渡しが必要な正当事由もしくは、賃借人が納得する金額の提示です。

明け渡し正当事由は、裁判によっても簡単に決着がつかないケースも多く、オーナーチェンジ物件を購入して「自分が住みたいから立ち退きをしてくれ」と言っても正当事由として認められることはありません。

ですので「財産上の給付」つまり、妥当な立ち退き料を提示して合意にいたれば、正当事由が成立したことになります。

信義則に影響を及ぼす、例えば「夜中に大音量で音楽を鳴らす」などの迷惑行為が日常的な場合や、賃料遅延が反復継続している場合など、良好な関係が維持できない場合に相応の期間をもって催告し、契約解除することは正当事由ですが、今回のようなケースでは該当しません。

立ち退き料の相場

さまざまケースでの立ち退き交渉を手掛けてきましたが、立ち退き料の相場はケースバイケースであることからこれと言った金額の目安はありません。

結果的に安くなるケースもあれば、高額となる場合もあります。

提示金額の計算根拠としては以下のようなものが考えられます。

1. 引っ越し代・移転先の敷金や礼金・仲介手数料
2. 転居までの期間、賃料免除
3. 6か月以内の移転先賃料の負担
4. インターネット回線やケーブルテレビなどの移転費用
5. 移転に伴う慰謝料

これらの費用を勘案して妥当な金額を定めますが、私の場合にはまずこれらの費用をひっくるめて、現行家賃6か月相当の金額を目安として、賃借人の反応を見ながら金額交渉をおこなうようにしています。

もちろん取り扱い案件(店舗付き住宅の退去に伴う営業補償金など)により提示金額の根拠も変わります。

まとめ

今回の記事ではオーナーチェンジ物件を、入居を目的として購入する危険性や、実務として立ち退き交渉を行う際の注意点について解説しました。

立ち退き交渉は不動産上級者が取り扱う案件ですので、初心者のうちは手を出さないようお勧めします。

ですが、そのような依頼が回ってきた場合に慌てないよう、理論武装も含め備えておくことが大切です。

また記事と関連性がありませんので割愛しましたが、オーナーチェンジ物件の場合には一般的な住宅ローンの使用ができません。

アパートローンなど、金利や審査基準が異なるローンを使用することになり収支計算なども必要となります。また、居住用の各種税制優遇(住宅ローン控除)も利用することができません。

不動産初心者の場合には定期的に自身のスキルを棚卸して、可能な限りイレギュラー取引を避けることが大切です。

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