【正しく理解できていますか?】投資判断にかかせないレントロールの読みこなしと注目ポイントについて

物件を管理している場合、賃貸オーナーにたいし定期報告のために必要なレントロール。

物件管理を行っている方ならお馴染みの書類ですが、そうではない場合、見たこともないという方もいるかも知れません。

ご存じのようにレントロールとは物件ごとの契約情報、住戸名のほか契約者名や家賃、契約期間などの賃貸条件などの一覧表です。

賃貸オーナーが総賃料や未払い家賃など、所有する物件の稼働状況を一目で確認できるようにすることが目的ですが、もう一つ大切な役割があります。

それは投資物件の購入を検討する投資家が、収益性や利回り状況などについて判断するため利用することです。

ですがこのレントロールは賃貸オーナーへの報告のためか、それとも収益物件として売却するためなのか、目的によって記載内容に隔たりのある場合が多いのです。

そもそもレントロールには定められた法で定められた書類の型式は存在していません。

ですから盛り込む内容も自由なのです。

ちなみに不動産会社のミカタサイトでも、ミカタストアにおいて下記URLから入手できるテンプレートが無償で提供されています。

レントロールテンプレート(ひな形)

レントロール

賃貸オーナーに提供する報告書としては、このテンプレートをダウンロードして必要に応じデータを追加するなどして入力すれば目的を達することができるでしょう。

筆者は不動産コンサルティングを業としていますから、その一環として投資家などからの相談に応じています。

具体的には検討中物件について法的な見解を含む物件的な価値を始めとして、販売金額の適正値、近隣で競合する賃貸の賃料相場のほか出口戦略までを調査・検討し見解報告書を作成するセカンドオピニオンとしての業務です。

その際に「販売業者からこれを提示されたのですが……」と共有されたレントロールの多くは、投資検討に必要な情報が記載されていません(その後の調査で、入居者数が改竄されていたことが発覚したものもありました)

自社で管理しておらず単純に収益物件として販売依頼されたからなのでしょうか、満室時想定賃料のレントロールのみを提供したり、管理費や共有部の水道・電気代などの経費を計上せず、賃料がそのまま利益であると誤解させることが目的であると疑われるようなレントロールもどきが横行しています。

そのような物件はたいがいが「利回り18%以上」など、リスクがなく高利回りであると誤解させるような内容が販売資料に記載されています。

販売だけを目的とすれば、高利回りを謳うことは効果的でしょう。

「あくまでも満室時想定賃料を提示しているだけだから」と言われれば、法的に定められた記載事項などは存在していないのですから違法性があるとまでは言えません。

ですが、成功している投資家は下手な不動産業者よりものを良く知っています。

自分自身の大切な「お金」を投じ資産形成を行うのですから学ぶのも当然なのでしょうが、そのような投資家の多くが不動産業者にたいして不勉強さを指摘しています。

意図せず誤った内容のレントロールなどを提示すれば「投資家から金を巻き上げる意図で、わざと誤った情報を開示している」と受け取るでしょう。

無論、そのような意図が私たちになくても、正しい知識を有していなければ質問にたいして咄嗟にした回答が誤っているケースもあるでしょう。

「老後資金2,000万円問題」や年金負担年齢や支給開始時期の見直しばかりが原因ではないのでしょうが、世の中は空前とも言える不動産投資ブームです。

日頃、投資目的の物件販売をメインとはしていなくても、顧客から相談が寄せられる現象は当面続くと予想されています。

今回はそのような観点からレントロールの作成方法ではなく、私たちがレントロールを読みこなすための基礎知識と、投資家が購入を検討する場合に注目するポイントのほか、投資物件として販売する場合、検討者に提供したほうが良い補足資料について解説します。

レントロールの役割と現状

冒頭で解説したように、レントロールには国土交通省が推奨するひな型や宅地建物取引業法による定めはありません。

いたって自由です。

ですが複数の投資家から出資金を集め不動産投資事業をおこなう不動産クラウドファンディングにおいては「不動産特定事業法」により、直近5年間の全賃料支払状況などを盛り込んだレントロール(もしくは別の書式による情報)を提供することが義務とされています。

宅地建物取引業法,不動産特定共同事業法

不動産特定事業法では第18条の広告の規制により、業務に関して広告をするときは、不動産取引による利益の見込みその他主務省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならないと定められており、これに違反する場合には罰則が定められています。

宅地建物取引業法においても第32条において実際より優良であると誇大に表示し消費者などを誤認させるような誇大広告について禁止されていますが、これが微妙なところなのです。

レントロール自体が広告に掲載される訳ではありませんし、満室時想定賃料のレントロールを見て、投資家がリスクなしに想定利益を得られると思い込むのは自由だからです。

これもレントロールの記載内容が自由であるほか、宅建業法に特段の定めもないことが理由なのでしょう。

ですがこのような事実誤認を助長するレントロールなどのあり方については国土交通省庁も問題視しており、不動産DXの成長戦略の観点から標準的なデータコード体系の整備について検討されています。

そのような動きが本格化されれば、情報・電子化への必要性から情報相互間の互換性における必要性に応じ一定のルールが定められる可能瀬もあるでしょう。

もっとも現状ではデータ更新の頻度が業者まかせであり、最新の情報が反映されていない場合などにおいてはかえって混乱をまねきかねないとの意見が強く、また賃貸オーナーの多くがアナログ(紙に印刷された状態)でレントロールを受け取っていることから、過去の履歴が正しく保管されていないことも多く資料の信頼性が揺らぐとの指摘もあり、まだ先のことではあるのでしょう。

不動産投資リスク,投資判断

投資物件を購入する投資家は、価格や立地、部屋数や間取り・築年数などについての情報を重視するのはもちろんですが、同時に権利関係要因(テナントなどがある場合の契約関係)や構造要因(耐震性など)のほか管理状態や適切なメンテナンが行われているかについても重視します。

それは賃貸物件の価値の源泉は日々の管理の「質」であることを理解し、継続的な管理は必須だと考えているからです。

言い換えれば、適切な管理がされていない物件の資産価値は日々、劣化していると言えるでしょう。

このような観点から投資家は、提供された情報や説明内容の齟齬に着目し、管理形態や運営のあり方についても留意するのです。

そのような運営状況を端的に読み取ることができる資料の一つが、レントロールだと言えるでしょう。

レントロールの読みこなし方

必要に応じ賃貸オーナーに報告するために自ら作成するケースや、元付けから入手したものを顧客に提供する機会がある以上、私たちは正しくレントロールを読みこなせなければなりません。

そこで、この項ではレントロールを読みこなす際に注意したいポイントについて解説します。

下記のレントロールは、不動産会社のミカタで提供されているテンプレートを利用して筆者が解説用に作成したものです。

レントロール

レントロールはできるかぎり端的に表現されているのが好ましいので、図のように1枚で入居状況や賃料、保証金の額や契約期間などが表示されているものが一般的に利用されています。

このレントロールを参考に注目するポイントについて解説します。

1.資料に記載された数字のバラツキに注目する

上記のレントロールを見れば一目瞭然なのですが、同様の間取りであるのに賃料がことなることがあります。

なかには理由が不明のまま、敷金(保証金)を徴収していない部屋があったりします。

まず賃料についてですが築年数の経過により建物は劣化していきますから、経年変化によって入居希望者も減少していきます。空き家のままでは収益が得られませんから、必要に応じ賃料を見直すのは当然のことです。

また近隣に大型店舗が誘致されるなど、諸条件により賃料相場も変動しますから募集時期によって変化するのが賃料だといえます。

賃料について意見する場合には、このような変動率を加味しながら近隣の賃料相場を㎡単価で調査を行い、賃料の適正値を把握すると同時に提案することができるでしょう。

2.面積による坪単価を把握する

不動産会社のミカタにおいて提供されているテンプレートでも、賃貸面積と賃料、共益費などの情報を入力すれば自動で坪単価計算をしてくれます。

レントロールの坪単価

前項で解説したように近隣で競合する賃貸物件のうち、築年数や規模、構造などにおいて類似する物件の募集状況や賃料を参考に戦略を練るためにはレントロールの坪単価(もしくは㎡単価)を把握しておくことが大切です。

2.固定資産税や管理費などの経費も正確に把握する

物件を所有していれば当然に必要となる固定資産税のほか、適切に管理をおこなうための管理費や修繕費用、共用部の電気代なども大切な情報です。

年間経費

築年数が経過すればそれに伴い大規模修繕が必要となる可能性もありますし、その時に必要な費用も日頃から適切に小規模修繕を実施していることにより軽減します。

維持管理にどれだけの予算を投下しているかなどの情報は、レントロールを読みこなす上で大切です。

3.駐車場などがある場合、稼働率も大切

提供されているテンプレートには駐車場についての記載項目はありませんが「その他」に入力し、備考欄に「駐車場契約あり」と記載すれば用は足りるでしょう。

駐車場,稼働率

またテンプレートはエクセルでダンロードし数式なども自由に追加できるようになっていますから、空白のスペースに下記のような駐車場欄を設けることにより、稼働率も把握できるようになります。

利回りに影響を与える大切な収入源なのですから、把握しておくべき情報であると言えるでしょう。

またレントロールには記載されていないことが多いのですが、滞納状況や敷地外駐車場契約の有無などについては別紙などでその内容を確認する必要があるでしょう。

また入居者属性や保証会社の利用の有無なども確認事項だと言えます。

それ以外にも退去時の手直し費用や共用部の修繕内容、入居者の属性などについてはレントロールに記載しきれるものではありません。ですが収益率に影響を与える情報ですから管理を引き受けている場合には別途資料として記録しておくべきですし、また収益物件として顧客に紹介する場合にはそれらの書類の提示も必要です。

このようなポイントについては立場によらずきちんと確認しておく必要があるでしょう。

まとめ

コラム内で解説したようにレントロールには定められた書式が存在しません。

ですから管理会社によって記載されている情報には隔たりがあり、また投資家への販売を目的としているのか、それとも賃貸オーナー向けに情報提供するかによって記載項目も変化します。

今回、紹介した不動産会社のミカタから無償提供されているテンプレートは満室時想定賃料なども盛り込まれており、どちらかと言えば収益物件として販売する際に適したレントロールですが、数式を追加することによりどのようにでも変更することが可能です。

国土交通性も本腰をいれレントロールを統一した書式にしようとしていますし、何よりも不動産DXが浸透していく過程においては必要とされる作業でもあるでしょう。

昨今の投資ブームにより、私たち不動産業者が「収益物件は専門外でして……」と言っているようではビジネスシャンスを逃すことになりかねません。

レントロールの意味合いや読み取り方を学んでいくことは、避けて通ることができない必要な知識であると言えるでしょう。

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