査定訪問した後に、査定書を作成しながらつい考えてしまうのが競合他社の査定額です。
査定依頼を受けたのが1社だけであるという揺るぎない自信があれば良いのですが、情報源が一括査定サイトであった場合や、訪問時にさりげなく「どちらか他の業者さんに重ねて査定依頼をされていますか?」と質問し、そうであった場合には「少し上乗せして金額を提示したほうが良いのかな」なんて考えがよぎってしまいます。
解説するまでもないことですが、不動産には適正な相場がありますから値付けを高くすれば広告掲載しても問い合わせがなく、結局は段階的に価格の見直しが必要とされることになります。
物件が早期に売却できる要因は様々ですが、そのなかでも売出し価格は重要な要素になります。
売り主が納得する範囲内で、かつできる限り低めの値ごろ感のある販売価格が望ましいことについて説明は不要でしょう。
売主の誰もが少しでも高く売りたいと考えるのは当然ですから、私たちはその希望を把握しながらも適正な金額で納得してもらえるよう心を砕くわけですが、中には「本当に販売するきがあるの?」と疑いたくなるような高値で査定し、ひとまず専任などの媒介契約を締結してから反響がないことを理由に段階的に価格を下げていく手法を、いまだに得意としている業者もいるわけですから、判断に迷うところです。
そこで今回、紹介したいのが不動産マッチングサービスである『タクシエ(TAQSIE)』を運営する三菱地所リアルエステートサービス(㈱が、日本トレンドリサーチと共同で行った「不動産を売却する上で重要なこと」についてのアンケート結果です。
アンケート結果については下記のURLから確認することができます。
不動産売却を考えている72.1%が、売却を決めるうえで「査定額がもっとも重要だと思う」 売却経験者との違いは?
今回はこのアンケート結果を題材として、不動産売却を検討している方が重要視している内容について考えてみましょう。
質問内容と注目すべき結果
調査は昨年2022年12月29日から2023年1月4日までの間、インターネットにより全国の男女を対象として1,767人にたいして行われました。
質問内容は以下のようなものとされています。
質問1:あなたは「不動産売却」をしたことがありますか?
質問2:「不動産売却」を今後考えていますか?
質問3:「不動産売却」をする上でもっとも重要なことは何だと思うか、当てはまるものを選んでください。
質問4:それがもっとも重要だと思う理由を教えてください。
質問5:「不動産売却」をする上でもっとも重要だと思ったことは何か、当てはまるものを選んでください。
質問6:それがもっとも重要だと思った理由を教えてください。
質問自体、わたしたち不動産業者の興味を引く内容なのですが最初の質問である不動産売却経験のある方は全体の27.7%(約490人)でした。
そこで売却経験のない72.3%(約1,278人)にたいして、今後不動産売却を考えているかについて質問したところ11%(約140人)が考えていると回答しています。
次の質問である「不動産を売却する上でもっとも重要なことは何だと思いますか?」というのが、私たちが最も注目するポイントですが、この質問の対象は不動産の売却を考えている11%(約140人)にたいして行われています。
結果は……
第二位である仲介担当者を大きく引き離し「査定額が重要である」と回答しているのです。
ですが「やっぱり査定額か……」と落胆することはありません。
次項で少し深掘りして考えてみましょう。
情報の収集に長(た)けている若い世代ほど適正価格が大切と考えている
査定額が重要であると回答した理由について幾つか紹介されていましたので、下記に転用しておきます。
●安すぎても困るし高すぎて売れなくても困るから(20代・女性)
●納得できる金額でないと売却できないので(30代・女性)
●すぐ足元を見られて損させられそうだから(40代・女性)
●不動産を売却する以上は、できるだけ高値で売りたいと思うから(50代・女性)
●いかに住宅購入額と、売却額の差を少なくするかが、もっとも大事だと思うから。(50代・男性)
●会社によって査定額が違うので出来るだけ高く売りたい(60代・女性)
これら回答結果だけ見れば「やっぱりみせかけであっても査定額なのか……」と思いたくなるかも知れませんが、筆者が注目するのは「高すぎて売れなくても困る」と回答した20代女性の意見です。
私たち不動産業者の本音から言えば買取金額を提示する訳ではありませんから、査定額を高くすることなど簡単です。
ですが不動産は、最終的には相場並の価格による取引に収束していきますから、明らかに高い金額で販売できる可能性はありません。
結局のところ高値で専任媒介契約を引き受けても、反響がないことから媒介報告書には「反響なし」と記載するしかありませんし、費用対効果も得られないことから広告掲載も消極的になってしまうでしょう。
もっとも確信犯として高値で受け、段階的に価格を下げていく手法も存在しますが少なくても正攻法であるとは言えません。
このような手法は信用できない不動産業者の手口としてネット上でも拡散されていますから、あえて「火中の栗を拾う」と言われるような手法を選択することは慎むべきでしょう。
誰しもが所有物件を少しでも高く売りたいのは当然ですし、購入金額より低く売却して「損」をしたくありません。
そのような顧客意識が、先程の回答理由にもちりばめられています。
ですが、日本における不動産業者の地位は、アメリカなどと比較していまだに「千三つ屋」とのイメージが高齢者を中心として根強く高齢になるほど回答コメントにも現れていますが、わからないことはネットで調べることが状態化している若い世代にはそのような先入観はあまりないでしょう。
インターネットの普及による知識格差の形骸化については、いまさら解説する必要もないでしょうが、顧客がネット情報で検索している査定についての情報を上回るほど精密な査定書を作成し、根気よくその内容について説明することにより信頼も得られるでしょう。
そのような内容を裏付けるのが、次項で紹介する不動産売却経験のある方の回答結果に見られる「重要だとおもうこと」の変化です。
結局は担当者が誠実に対応すれば、査定額が適正だと納得できる
不動産売却をしたことがあると回答した27.7%(489人)にたいして「不動産を売却する上でもっとも重要なことは何だと思いますか?」と質問した回答結果は以下のようになっています。
まず注目したいのが「査定額が重要」と回答した方が減少していることです。
査定額が首位であることには変わりありませんが、売却検討者においては査定額が重要と72.1%もの方が回答していましたが、売却経験のある方の回答結果では55.6%となっています。
代わりに急浮上したのが仲介担当者です。
そこで11.4%から24.9%へ、まさに倍以上の躍進を遂げています。
実際に売却経験のあるかたの回答ですから真実味があります。
ではどのような点で仲介担当者が重要であると回答したのかを見てみましょう。
●専門的な知識があって、そのうえで売主と買主に必要なことを的確に進めてくれたから(50代・女性)
●自分だけでは売却がスムーズに進まなかったと思うから(50代・男性)
●信用できる人物であるかどうかが重要であると思う(60代・男性)
●査定額はある程度の基準があるが、それを取り持つ業者の仲介人が相手先を探し交渉して、売り手の方の言い分や希望価格帯、さらには売却時の様々な手続きをしてくれるので、親身になって相性が良い人でなければなかなか不動産売買はうまくいかないことが多いから。(60代・男性)
●担当者が信頼できると、提案を受け入れやすく、取引を安心して任せられる。(70代・女性)
●私的には査定価格をも含め仲介業者が鍵を握ると思う(80代・男性)
自由記載方式ですので意見は多岐に分かれますが、問題なく不動産取引を終えることができたのは知識と経験のある担当者の力量によると回答されている点と、相性の問題などが重要であるとされています。
この際、高く売りたいという要望が根底にあっても、信頼している担当者からの提案であれば適正価格などの提案も納得して受け入れやすいとの傾向が見受けられます。
このような結果を見るまでもなく、インターネットでは不動産の売買で満足した結果を残すには営業担当者が鍵であるといった内容の記事が数多く、中には「担当者選びが全て」と喝破しているものもあるほどです。
顧客が大切な不動産の売却や購入をする際にはインターネットにより情報収集する方が多いのですが、私たち不動産業者も選ばれる担当者になるべく精進する必要があるのでしょう。
それではそのようなサイトにおいては、営業担当者を見極めるためにどのようなポイントが大切であるとしているのかを見てみましょう。
表現方法は様々ですが、要約すると以下のようなポイントが大切であるとされています。
1.レスポンスが早く、コミュニケーション能力に秀でている。
2.様々な不動産関連知識に精通している。
3.良いところだけではなくリスクも正確に伝えてくれる。
4.信頼できる人柄である。
5.全てにおいて段取りがスムーズである。
選ばれる担当者になるためにも、上記のようなポイントを意識しながら日頃の業務に対応していくのが良いでしょう。
まとめ
不動産を売却もしくは購入する際に重要だと思うことに関してのアンケートは、今回解説したものに限らず、様々な会社などで同様の調査が行われています。
調査対象ごとの年齢や売買経験の有無、所得などの諸条件により回答結果も異なりますが、そのような複数のアンケート結果をつぶさに見ていき、帰納法により共通点を見いだし推論すると今回解説したような内容にいきつきます。
端的に表現すれば、売却も購入も価格が大切であるという当然の心理。
とくに売却の場合には、査定金額の高さが重要であるという極めて当然の意識です。
「損」はしたくないけれど不動産には相場があるのも何となく理解している。
そこで、希望する金額が妥当なのか、併せて適正な金額は幾らなのかを不動産知識にたけ、説明の上手な信頼に値する営業担当社に話を聞きたい。
そして、売却であれば希望金額にできる限り近い形でより早く売却したい。
購入であれば、より条件に近く予算内の物件を購入したいという要望があるのでしょう。
とはいえ、予算や諸条件も人それぞれですから100%の条件を満たすことが難しいのは皆、分かっています。
そこで、前述した条件を満たす優秀な担当者を見極め、取引を成就したいという意識が働くのでしょう。
今回、解説したアンケート結果によらず、私たちは広く情報収集して学び、選ばれる担当者として成長できるよう精進したいものです。