不動産媒介を主として事業展開している場合、報酬についてはその業務に係る上限額については、まず基本として昭和45年10月23日建設省(国土交通省)告示1552の第七において、同告示第一~第六までの規定による報酬以外の受領は禁止されています。
この売買などに関して受け取ることができる報酬の額については、令和元年8月30日に国土交通省告示第493号において一部改正されるなど、これまでに5度にわたり附則が施工されてきましたが基本的な部分について大きく変更されてきた訳ではありません。
多少、目立つものと言えば、400万円以下の低廉な空家などに限り、報酬計算で得られた額にくわえ調査費用なども勘案した上限19.8万円(ただしこの金額を請求できるのは売主または交換を行うものに限定されるので注意が必要)まで請求できるようになったことぐらいでしょうか。
媒介報酬は契約額により金額が影響を受けますから高額の物件ばかりを、さしたる問題もなく数多く契約できれば楽な商売なのでしょうが世の中そんなに甘くないのは皆様、御存知の通りです。
契約できるまでは無報酬ですから広告宣伝費や人件費などを含む経費はすべて持ち出し、長らく契約が途絶えれば毎月赤字です。
売却や購入検討者を創客するための苦労もそうですが、同業他社と競り合いながら選ばれるための労力も馬鹿になりません。
そのような目に見えぬ苦労をしながらの報酬ですから、一般の方からは「媒介報酬が高すぎる!」と言われ「いや~見えないところで苦労しているのですよ」と応じながらも内心で割に合わないと思うこともあります。
32年間にわたり不動産業に従事している筆者の経験として、何の苦労もなく報酬が得られる取引など年に2~3件もあれ上出来で、大半は大なり小なり問題が発生します。
さしたる苦労もなく数多く契約できるのなら「濡れ手で粟」の優雅なビジネスなのでしょうが、世の中そんなに甘くはありません。
筆者は日本の媒介報酬は安すぎると思っている人間の一人ですから、労力や作業量に応じた適正金額が、報酬上限などに縛られず請求できるようになるのが理想だと考えています。
そこで頭を過るのが、媒介報酬以外に請求することが認められている「特別依頼の請求」です。
このような制度があっても、請求できる条件や金額などについてご存じないかたは多いようです。
今回は特別依頼の請求について解説したいと思います。
媒介報酬をめぐるトラブル
媒介とは他人間の法律行為の締結に尽力する行為をいいますが、仲介と呼ぶほうが一般的でしょうか。
不動産の売買は取引価格が高額なことにくわえ権利関係も複雑になることから、当事者の一方または双方から依頼されて尽力するのが媒介業者の役割です。
通常の媒介業務であれば「1.不動産の売却」に分類されている各業務を中心として業務が行われますが、営業担当者などの知識や経験によって程度の差はありますが「2.不動産の売却に関連する行為」として税務や法務相談のほかインスペクションの斡旋・手配や土壌調査、リフォーム相談などにも応じているでしょう。
このうち通常の「1.不動産の売却」業務において特別依頼が発生する可能性としては、通常予定している範囲を超え広告掲載の依頼があった場合などでしょう。
また程度問題であるとした「2.不動産の売却に関連する行為」については、基本的な内容の説明を除けば弁護士や税理士・不動産鑑定士などの専従業務です。
この場合は専門士業などへ繋ぐことになりますから特別依頼の報酬に関しての請求権はそもそも発生しないことになります。
ちなみに筆者は通常業務の傍ら、「2.不動産の売却に関連する行為」に分類される様々な相談などにたいし、不動産コンサルティング業務として対応していますが、これは媒介業務とは全くの別物です。
そのため、あらかじめ媒介業ではないことについて説明を行い、不動産コンサルティング契約を締結しています。
この場合における報酬については、媒介報酬にように宅地建物取引業法による上限などは定められておらず、上限も下限も存在しないかわりに依頼者が納得する金額であれば問題はありません。
特別報酬請求の根拠法は
冒頭で解説したように一連の媒介活動により契約した場合においての報酬については宅地建物取引業法46条で定められており、これにより国土交通大臣の定めによる額を超えてはならないとされています。
これにより定められた告示規定以外の報酬を請求することはできないのですが、平成13年1月6日の国土交通省総動発第3号において示された見解から、依頼者の特別の事情により依頼された業務のうち、支出を要する特別の費用に相当する金銭で事前に承諾を得ている費用についてまで禁止されていないと考えることができるようになりました。
ただし、この特別の事情については諸説あるので厄介です。
たとえば売り急いでいる顧客から、予定している広告方法や回数を超えて掲載などの要望が出された場合、それに応じるには計画外の費用が必要になります。
ですが頻度を増やしただけでは、媒介報酬に包括されると考えられます。
根拠としては国土交通省告知第9、同省宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方において第46条1項で示された考え方によります。
依頼者から特別に依頼されたことにより行われる広告においても、特別依頼として請求できる広告料金相当額は「掲載料などが正規売買報酬の請求金額でまかなうことが相当であるとはいえない多額の費用を必要とする広告である」と見解されているからです。
ですから普段利用していない物件ポータルサイトに掲載するほか、当該物件だけを印刷したポスティングの配布回数を増やした程度では請求できないということです。
この程度の宣伝広告費は営業経費として通常の報酬範囲に含まれるとされます。
もっとも、特別依頼の報酬は広告に限定されているものではありません。
例えば物件調査などについての経費も含まれるとされています。
物件の販売依頼があり査定をするだけであれば取得する書類なども程度問題でしょうが、重要事項説明書を作成する場合には登記識別情報や14条地図、道路台帳や下水道管埋設図などの証明や書類にくわえ詳細な現地調査が必要とされます。
業務エリア内であれば、これらの調査に必要とされる経費は当然に報酬の範囲内で処理しなければなりませんが、遠隔地で交通費のほか宿泊を伴うなどの事情がある場合など、通常調査に必要とされる経費を上回るときには依頼者の特別の依頼により支出する費用として、事前に依頼者に具体的な金額を提示し承諾を得ることにより受領することはできると考えられています。
ただしこれらは媒介報酬として請求するのではなく、あくまでも特別依頼に要する費用として別途に請求しなければなりません。
これは地盤調査やインスペクションなどについても同様なのですが、依頼者の希望により専門業者を手配して調査を行った費用などについても、特別依頼の費用として請求することができます。
これらのことをまとめると、特別依頼報酬として請求するためには以下のような条件を満たしている必要があるということです。
1. 依頼者が通常の媒介業務以外であることを認識し、かつ依頼することにより媒介報酬とは別の費用が発生することを理解した上で依頼を行っていること。
2. 特別依頼については必要な費用について事前に見積書などを提示し、業務内容や金額などを確認させてから依頼の有無を確認すること。
3. 依頼内容によっては別途委任契約書などを締結しておくこと。
これらの要件を念頭において手順を踏めば、特別依頼の請求は合法的に請求することができます。
特別広告については昭和57年にその合法性について争われた東京高裁(判時1058号)の裁判があり、このときに裁判所は特別依頼報酬について見解を示すとともに「依頼者から特別の広告を行うことについて依頼があり、その費用負担につき異議なく依頼者の承諾が得られた場合に限り、広告の料金に相当する額の金印を受領できるものと解するべき」としています。
請求を巡ってトラブルにならないよう、特別依頼費用については事前段取りが大切であるということでしょう。
まとめ
今回は媒介報酬以外に請求できる特別依頼報酬について、請求できる判断基準を解説しました。
コラムをお読みになれば分かる通り委任者の承諾が前提であるとしても、承諾が得られたからといって何でも請求して良いものではありません。
一般の方と私たち不動産業者には、情報収集が容易になったとはいえ純然たる知識格差が存在しているからです。
不動産サイトの掲載料や紙媒体広告の印刷、折込料金などについて詳しく知っている方はほとんどいないでしょう。
ましてや広告会社からの請求を受け取るのは私たちですから、その金額に法外な利益を載せたとしても顧客には判断できないのです。
一昔前は実際に広告掲載をせず「これだけ、特別に広告掲載しました」と言って、具体的な根拠や配布枚数を提示せず請求していた業者の話を耳にしたこともあります。
特別な費用が必要とされるインスペクションや地盤調査の費用は当然に請求できるとしても、遠隔地の物件調査は販売金額により正規の媒介報酬では経費倒れになる場合もあります。
そのような経費については特別依頼として請求できますが、報酬額の上限を超える報酬を受領する場合にはくれぐれも慎重に行う必要があると言えるでしょう。