【特定指定から管理不全へ‼】本格化する空き家対策措置を理解して不動産ビジネスにつなげる

令和5年1月31日に開催された国の審議会において、管理不十分な空き家を「管理不全空き家」として指定し、市区町村が行政指導を行えるよう法律を改正する方針が固められました。

増加を続ける空き家については様々な対策が検討されていますが、その中で最も注目をあびたのは2015年に施工された「空家対策特別措置法」でしょう。

この法律の施工により下記のような権限が市区町村に与えられました。

1. 空き家の実態調査
2. 空き家の所有者への適切な管理指導
3. 空き家の跡地についての活用促進
4. 適切に管理されていない空き家にたいし「特定空家」指定をおこなえる
5. 特定空家にたいする助言・指導・勧告・命令権の付与
6. 特定空家にたいする罰金や行政代執行権の付与

筆者は空家に関する法改正については複数回、不動産会社のミカタコラムに記事を寄稿していますが、空家対策特別措置法により最終的には行政代執行による解体が認められたにもかかわらず依然として数が増え続けています。

空き家数の推移,総務省

総務省によれば空家の数はおよそ350万戸とされており、そのうち特定空き家に指定された数はおよそ4万戸、つまりは約1%に過ぎません。

平成30年度住宅・土地統計調査

そのうち行政代執行により解体が行われた件数は482戸、およそ0.00014%です。

行政代執行が実施されると、各種メディアが大々的に取り上げるのでなにやら全国各地でさかんに行われているような印象を受けますが、実際には昨年までの7年間で482戸、年間で割返せば68戸/年です。

この少なさには事情があり、行政代執行による解体費用は当然、所有者に請求されますが所有者不明の場合や資力がない場合、いったんは各市区町村が負担しなければなりません。

最近の解体費用高騰については私たち不動産業者も身につまされているところではありますが、見積もりを取得すると予想を上回る金額であることもしばしばです。

高騰の背景には燃料や人件費の高騰などの理由はあるのでしょうが、解体費用の高騰が放置空家の原因になっているのでしょう。

市区町村も行政代執行で建て替えた解体費用が回収できれば良いのでしょうが、現行法で所有者の居所を特定するのは熟練した不動産業者でも困難なほどですから、いくら保有情報を活用できるとはいえ市区町村の担当者が努力しても特定できるとは限りません。

所有者が特定できなければ取りはぐれますし、また所有者が判明していてもお金が無いところから回収できませんから市区町村が負担した解体費用は貸し倒れ金となってしまいます。

個人財産である家屋を行政代執行で解体するためのハードルが高いという理由もあるのでしょうが、貸し倒れを恐れて踏み切れないというのが実情ではないでしょうか。

もっともこれは当初から予想されていた範疇でした。

次の一手として当初から検討されていたのが今回、解説する「管理不全空き家」の指定です。

所有者にとっても放置することにメリットなど存在しないことを説明して利活用、もしくは売却を勧めることは私たちにとってビジネスチャンスにもなるでしょう。

正確に理解して営業トークに活かせるようにしていきましょう。

空家の所有者が対策を講じる必要性が高まる

前段として特定空き家の指定要件について解説をしておきます。

国土交通省が市区町村にむけ特定空家等に対する措置の実施を図るために必要な指針(特定空家ガイドライン)では、特定空家の定義を以下のように定めています。

1. そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となる恐れがある状態
2. そのまま放置すれば著しく衛生上有害となる恐れのある状態
3. 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
4. その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

もっとも上記の要件に該当している空家であっても、市区町村が法の規定を適用し特定空き家の指定を行うためには助言又は指導から始まり、ついで勧告、命令へと順に手続きしなければなりません。

これは将来に向けての蓋然性を考慮したうえで特定指定することが求められているからであり、ある程度までは市区町村に裁量の余地があるとはいえ個人にたいする財産権の制約を伴う行為には慎重な手続きをしなければならないことが定められているからです。

ですから市区町村が空家にたいしての措置について独自の条例を定めていたとしても、助言や勧告などの手順を省略して規定することはできず、そのような規定に関しては法の趣旨に反し無効とされるのです。

このように煩雑な手続きが必要とされることも市区町村にとってはハードルの高いものですが、指定をする場合には最終的な行政代執行も視野に入れなければなりません。

つまり解体費用の捻出や貸し倒れリスクも含めての検討です。

実際に国土交通省で令和4年12月22日に第三回を終え、令和5年1月31日に四回目が開催された「空き家対策小委員会」における一連の議事録を見ても「空家があれば固定資産税の住宅用地特例が適用されるため除去が進まないのではないか」と言う点が何度も指摘されており、さらには特定指定することによる市区町村の手続き負担、費用回収への懸念、ノウハウ不足についても同様に議論されています。

特定空家として指定した場合は固定資産税などの住宅用地に関する措置として、住宅用地特例の対象から外すことができますが、前述したように助言や指導から始まる一連の手続きをしなければ適用できず、かならずしも多いとはいえない担当者の負担も大きいことから実用性に乏しいという点が指摘されてきました。

そこで空家と特定空家の間に、市区町村の負担が少なく、かつ空家を放置する所有者にペナルティーを与えられる措置の法制化が急務とされたのです。

NHK|【「管理不全空き家」指定し行政が指導へ 税の減額解除も 国交省】内の画像を元に作成。

今回の法制案が可決されれば特定指定の手続きを経ずに管理不全の空家にたいし、住宅用地特例の対象から外すことができるようになるのです。

最終的に行政代執行ができるとはいえ、市区町村の懐具合からすれば安易に解体費用の立替はできない、そもそも特定空家に指定するにも手続きが多くマンパワー不足の問題もあります。

このような煩雑な手順を必要とする特定空家指定前の住宅所有者にたいし、住宅用地特例の対象から外す措置が行えるようになれば、市区町村も固定資産税収の増加が期待できるうえ空家の増加を抑止でき、さらには特定指定空家のように最終的な行政代執行の費用負担について頭を悩ませる必要もなくなるのですから積極的に動けるようになるでしょう。

つまりこれまで諸事情により見逃されてきた管理不全状態の空家が、一気に「管理不全空家」に指定される可能性が高まることから、所有者にとっては固定資産税が安くなるとの理由で放置されてきた空家を残しておくメリットはなくなり、残されるのは倒壊等著しく保安上危険な状態などから予想されるリスクだけになるのです。

法改正を盛り込んだアプローチで顧客を囲い込む

現状では対策案の段階ですから、ある程度の方向性が定められたに過ぎません。

ですがこれから具体的な要件などが審議され、施工に向けての動きが加速化していくことでしょう。

これまで解説した内容をお読みいただければ、空家の増加を抑制するためには一般的な空家と特定指定空家の間に、新たに管理不全空家を設けることは必然であると理解できるでしょう。

この法律改正案が可決され、施工される日もそう遠くはないということが予想できます。

それでは「管理不全空家」の要件とはどのようなものでしょうか?

現在までに公開された内容からは敷地内に雑草が生い茂っていたり、窓が割れたまま放置されていたりなど空家の管理状況が悪い状態であれば管理不全空家として指定できることが想定されています。

所有者が遠方に在住しているケースなど、まめに手を掛けられない状態であれば指定される可能性は高くなるでしょう。

この法律案は、空家を放置することで発生する保安、衛生、景観に対する悪影響について所有者に啓蒙することも目的の一つとされています。

空家,放置,問題,影響

つまり管理できない状況で放置していてもメリットはないのだから、利活用や売却なども含め具体的な方法を考えてくださいねということです。

国土交通省が令和元年に3,912人を対象に行なった「空家所有者実態調査アンケート」の結果をみても約3割は「空家のままにしておく」と回答されています。

全体の2割は賃貸・売却などの利活用を検討していますが、そのうち38.2%の方は考えるだけで何も実行していないのです。

空き家の将来の利用意向

空家にしている理由については下記のような様々な理由があるとされていますが「将来必要になるかもしれない」や「特に困っていない」のほか「住宅が古い・狭い」などの物件的な理由などが目立ちます。

空き家にしておく理由

利活用の方針が明確で管理も適切に行われているのであれば良いのですが、そうではない場合、つまり当人は困っていなくても近隣住民の方からすれば保安、衛生、景観などの面で迷惑している可能性もあるのです。

ですが「管理不全空家」が法制化されれば雑草が伸び放題で近隣に迷惑をかけているような場合には固定資産税の居住用財産特定から除外され、下記のような税制上の恩恵を享受することができなくなります。

小規模住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200平方メートル以下の部分)
固定資産税:価格×1/6、都市計画税:価格×1/3
一般住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200平方メートルを超える部分)
固定資産税:価格×1/3、都市計画税:価格×2/3

このような先行きを私たちが理解して、広告や営業トークなどで「ご存じですか?雑草の駆除を怠ったり建物の管理を放置すれば、空家があっても固定資産税が6倍になる可能性があるのです‼」といった切り口でアプローチすることは効果的でしょう。

2025年4月からは所有権や住所移転登記も義務化されますし、空家の増加を防止する措置は外堀から埋められています。

早い段階から空家の所有者にたいし積極的にアプローチすることは、私たちにとってビジネスチャンスになるでしょう。

まとめ

筆者が空家の所有者にアプローチして「管理もできない状態で空家のまま放置することにメリットなど存在しません」と諭しても「いや~分かってはいるのですけどねぇ」と煮え切らないことが多いものです。

雑草が伸び放題で家屋の劣化が著しい状態でも、固定資産税が安いことから解体を考えずのんびりと構えているからなのでしょう。

そのような方に話をするため、あらかじめ業者の方に解体見積もりの概算を作成してもらうのですが、なかなかの金額です。

家屋だけではなく、敷地に庭石や樹木などがある場合にはなおさらです。

築年数が30年以上経過してさらに放置されていれば劣化状況も著しく、利活用するにも本格的なリノベーション工事が必要とされます。

程度によっては新築したほうが長期的にみて割安であるほどです。

更地にして相応の利益が生まれるのなら良いのですが、そうではない場合、積極的に対策を講じようと考えられないのは仕方がないかも知れません。

ですが、法律が改正されればそんなに悠長なことを言ってはいられません。

現在であれば各市区町村が「空家再生等推進事業」の一環として老築危険解体工事補助金などの名目で助成金や補助金を受けられる可能性もありますが、改正が決定すれば申請が殺到し補助金などの原資は一気に使い果たされるでしょう。

そもそも自治体が制度として予算組をしているのですから、それほどの金額を予定している訳でもありません。

そのような点も踏まえ、空家所有者にアプローチするメリットは充分にあると言えるでしょう。

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