筆者は不動産実務の傍らご覧頂いているコラムの寄稿、一般の顧客を対象に不動産コンサルティングを行っています。
相隣トラブルや相続に関する相談が多いのですが、それ以外でも様々な相談が持ち込まれることがあります。
つい最近のことですが、とある方の紹介でお怒りムードの方から相談を受けました。
この方を仮にAさんとしておきましょう。
詳しく内容を聞くとAさんは某媒介業者から中古マンションの紹介を受け内覧し、気に入ったことから満額での買付証明を売主側の媒介業者(以降業者C)へ提出したとのこと。
満額ですから相手方も異存なく契約準備が進められていましたが、同時並行で業者Cが自社の顧客であるBにたいし、Aさんが契約準備を進めているはずの中古マンションを紹介し気に入ったBさんも買付証明を入れ契約準備に入ったとのこと。
通常であれば業者Cの動きは発覚する可能性は低いのですが、たまたまAさんとBさんが知り合いであったことから発覚し「無断でこんなことをしているなんて、まるで詐欺じゃないですか‼」と腹を立て、業者Cを追い詰める方法はないだろうかと相談にこられたのです。
ちなみにAさんとBさんはまだ契約には至っておらず、Aさんに物件を紹介した某媒介業者の担当者は「ひどい話ですけれど、まだ契約していた訳ではないですからねぇ……。相手方が何か言ってくるまで待ちましょう」と、なんとも弱腰で頼りないとのことでした。
話を聞く限りでは両手狙いの行動でしょうが真偽を含め業者Cに確認を行うのがセオリーで、その返答次第で動き方を考えるケースです。
多少手間が増えるだけで手数料が「倍」になるのですから、別れよりも両手が良いのは当然です。
もっとも悪質な両手狙いによる囲い込みを防止するため不動産業者にはモラルが求められていますし、広く物件情報を共有し不動産取引を活性化することを目的にレインズが運営され、専属専任・専任媒介については登録が義務とされている訳です。
ですが囲い込みの温床となっているのは登録が義務とされた専属専任と専任媒介であり、ひどい場合には新規登録された物件が初日から「商談中」になっていたりします。
ご存じのように登録は専属専任で媒介契約締結から5日以内、専任では7日以内とされていますからその間に商談が成立した可能性はありますが、物件確認をすると取り扱い物件のほとんどが商談中ですと返答する業者もあるほどですから「本当なの?」と疑いたくもなります。
不動産業界ではさして珍しくもない物件の囲い込みですが、ペナルティも含め追い込む方法はあるのでしょうか?
今回はそのような点について考えてみましょう。
覚えておきたい媒介業者の責務と努力義務
そもそもですが元付けとなった媒介業者には、広く情報を共有し売主のために積極的に販売活動を行う義務が存在すると解されます。
ですから一度受領した買付証明書に値段交渉などの要素が存在する場合は別として、満額で購入希望が出され売主もそれを承諾しているということですから、それを断るには相当の理由が必要となります。
話を聞く限りでは業者Cが両手契約をしたいという身勝手な理由以外、特段の理由が見当たりません。
例外として、満額の申込であったとしても購入希望者の年収や自己資金、融資に関して客観的に判断できる問題が見受けられる場合などについては、売主と協議したうえで申込を拒絶することはできますが、今回のケースではそのような動きがあったようには見受けられません。
であれば売主の承諾なしに自己の利益のためにAさんを排除しようと画策していると推察され、このような行為は宅地建物取引業法31条で定められた宅地建物取引業者の業務処理の原則、すなわち「宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない」とする定めに反し、かつ売主に相談をしていないのであれば業務処理状況報告の義務も果たしていないことになります。
この場合、考えられる罪状としては業者Cの売主にたいする詐欺行為があると考えられ民法96条(詐欺又は脅迫)や刑法246条(詐欺及び恐喝の罪)に該当するとして10年以下の懲役刑となります。
また宅地建物取引業法31条の信義則違反や民法709条(不法行為に基づく損害賠償の請求)にも該当することになります。
実際にはそこまでの罪状で提訴され争われることは少ないでしょうが、囲い込みを発端としてトラブルが発生すればこれまでに解説したような罪状に該当することにもなりかねませんので注意が必要であることは覚えておきたいものです。
対応されているかどうか疑問が残るレインズの物件取引ステータス
過去の裁判で中間者を介在させ報酬を二重どりしていたケースや、媒介によらず売買契約による転売で不当利得を得ていたケースでは事案は裁判により損害賠償を命じた判例も存在しています。
これらは囲い込み自体が争点ではなく、専属や専任媒介契約による1社独占の優位な状態を悪用し自社の利益を得たことによる判例ではありますが直接的ではないとは言え物件の囲い込みが温床となっています。
このような物件の囲い込みについて国土交通省は問題のある行為だとして、2015年(平成27年)にレインズのシステム改変を要請し翌2016年月4日から「取引状況管理機能」を導入したのはご存じのとおりです。
これは専属または専任の依頼者がレインズの登録状況を直接確認できる、いわば「ステータス管理機能」ですが、これによりレインズの物件情報項目に【取引状況】が追加されました。
原則としてステータスで「公開中」とされている物件については客付業者への紹介は拒否できないとされています。
もっとも内覧日の日程条件や売却方法、相手方への条件を付けることは可能とされています。
また買付証明を受領した場合には、「公開中」から「書面による購入申込あり」にステータス変更に変更し、取引状況補足欄には書面を受領した日付を入力、また破棄の依頼があった場合も同様に受け付けた日を入力することが義務付けられています。
これら補足欄の入力は売主都合により一時的に紹介を停止する場合などにおいては、取引状況補足欄に客付業者に伝えるべき情報を入力することが義務付けられています。
これらの入力には期限が設けられており、買付関連はそれぞれの申し出日から2日以内に行うとされています。
これら登録状況については、売主が直接レインズの登録状況を確認できるようになっており、レインズに登録した際に依頼者に必ず渡さなければならない登録証明書に付与された確認用IDとパスワードにより、機構ホームページにアクセスし「売却依頼者物件確認画面」からログインして登録内容が確認できるようになっています。
この「取引状況管理機能」については専属または専任の媒介契約締結時には「登録内容の確認手順について十分な説明をおこなうこと」とされていますが、実際のところどうなのでしょうか?
筆者が物件確認をしても、ステータスが「販売中」であるのに「商談中です」と平気で言われることも多く、その際に物件ステータス状況について質問すると登録を忘れていたと回答されることがほとんどです。
そのような状況ですから、依頼者にたいし登録内容の確認手順について十分な説明が実施されているとは思えません。
レインズ登録義務違反により早期に売却できず損害が生じた場合には、民事責任としての債務不履行を求めることはできますが宅地建物取引業法において具体的な罰則は定められていません。
国土交通大臣や都道府県知事による必要な指示処分(宅地建物取引業法第65条1項)がせいぜいですから、悪質な場合における同法第2項以降の業務停止処分に期待するしかないのでしょう。
冒頭の相談に話を戻しますが、相談者は買い側ですからレインズの物件ステータスを確認することはできません。
そこで筆者が確認したところステータスは「販売中」のままとなっていました。
その旨を説明し、どうしても納得ができないのであればこの事実をもって所属保証協会の相談窓口もしくは都道府県などの指定窓口に相談されてはいかがかと説明をしました。
まとめ
今回は囲い込みにより翻弄された相談者からの話を題材として解説した訳ですが、レインズの物件ステータス状況登録についてはウッカリと入力が遅延することもあるでしょうし、また登録が義務であることを知らない方が多いのも事実です。
筆者個人としては、購入検討者用に独自のIDなどを発行してステータス状況を確認できるようにしても良いと思っているのですが、いろいろと弊害があるからなのかそのような話が議題にあがることも少ないようです。
買付順位などについては業者間の慣習もありますし、また価格交渉の有無や申込者の属性、自己資金などにより元付け責任としてある程度選別する必要(そのような状況でも、売主に申込書受領の報告をしない理由にはなりません)はあるでしょう。
当事者として本格的に裁判で争う場合は別として、誠実な不動産業者としてはレインズの物件ステータスについては正しく状況を反映させることはもちろん、物件ステータス状況を確認しあきらかに囲い込みではないかと思慮される場合にはそのような矛盾点を指摘して、不動産業者としての矜持を保つよう諭すしかないのでしょう。