【分譲マンションの漏水事故は無限責任?】覚えておきたい責任範囲と対策について

建物によらず発生すれば困りごとの漏水事故ですが、とくに分譲マンションなどの集合住宅は下階への影響が甚大になることもあり可能である限り防止したいものです。

ですが2015年における三井住友海上におけるマンション管理組合向け火災保険での支払い実績をみても、漏水事故は施設賠償責任と個人賠償の合計で約半分を占めています。

2015年,三井住友海上におけるマンション管理組合向け火災保険,支払い実績

戸建て住宅においても、2階の水回りから漏水し1階天井から水が滴り落ちるような状況になれば家電製品などを始め家具や建物に影響を与えますが、所有していれば自分自身への被害だけで済みます。

ですがマンションの場合そうはいきません。

階下などへの影響は共有部であれば分譲マンション所有者全員に影響し、また階下の所有者の財産にたいし被害を与えることになりますからその影響は計り知れません。

例として以下のような損害について賠償責任を追求される可能性があります。

●修理や補修では補いきれない物理的な損傷による美観の毀損
●物理的損傷や事故によるイメージ低下などによる資産価値の低下
●共用設備に損傷を与えた場合、復旧までの期間に与える居住者利便性の損失
●居住者間の損害賠償等などにともなうトラブルなどコミュニティへの影響

もっともこのような賠償請求に対応するため火災保険に加入し万が一の場合に備えるのですが、その発生原因や加入した保険(特約)によって補償される内容も変わります。

基本的には自らの不注意により漏水事故を発生させた場合には、その原因とされる相当因果関係を有する範囲で現実に発生した損害にたいし、賠償責任を負うとされています。

ただし例えば階下がテナントで、漏水事故の発生により休業した期間の休業補償を無制限に求められる場合など様々なケースもあるでしょう。

そのような請求をされたことにより、私たちに相談が寄せられることもあるでしょう。

そこで今回は分譲マンションにおいて漏水事故を未然に防止するため心がけたいポイントや、転ばぬ先の杖として覚えておきたい保険商品について解説します。

日頃からのメンテナンスや修繕箇所の確認が必須

解説するまでもないと思いますが、分譲マンションの専有部分は区分所有法により定義されていますが、それによれば「区分所有権は目的たる建物の部分」と、なんとも曖昧であることから管理規約でその範囲を具体的にしています。

基本的に専有部分は「天井・床・壁については躯体部分を除く部分(内法部分)」とされ、玄関扉については錠を含む室内側部分、窓や窓枠は専有部分に含まれないとされているのが一般的です。

専有部分以外の部分については共有部分とされますから、漏水事故の発生原因が共有部であればその責任は管理組合に、内法の配管不良などが原因とされれば専有部分の所有者がその責任を負うことになります。

ですから私たち不動産業者や所有者が劣化状況を確認するのは床から立ち上がった給水管や排水管になります。

その際に確認するポイントとしては以下のような点です。

① 給排水管の防水工事の経年変化、腐食状況を確認

とくに排水管の継手やパッキンの劣化などについては確認しておきましょう。専有部分の漏水事案のほとんどは経年変化による配管からの漏水です。
給排水管は冷温水が常に流れる状態になりますからその急激な温度変化によりパッキンなどは劣化しやすいものです。

② 排水管のつまり

キッチンにおいては食事カスなどが排水管に詰まり配水を逆流させることが多く、また洗面台やトイレでも同様に物が詰まったことにより逆流現象が生じます。

このような現象を未然に防止するためには、給排水管の経年変化については専門家による劣化診断を受け必要な対策を講じるのが近道で、排水管については定期的に排水管洗浄を実施すると良いでしょう。

立ち上がり配管の確認ポイント

給排水管を目視で確認する場合のポイントとしては、まず配管にサビが生じていないかを確認することです。

またバルブの取り付金具や水栓に緩みが生じていないか手で回して確認します。

配管

また配管の接続部分に漏れが生じていないか手で触り、同時に水漏れ後がないかを目視で確認します。

また蛇口などの付け根などの可動部に破損がないかも確認しましょう。

それ以外にも以下のような部分を確認すると微量な漏水の発生を確認することができます。

●水道使用料の極端な増加
●蛇口からの水の出が悪い
●蛇口や壁に耳を当てると水の流れる音がする
●トイレ便器内の水たまりが、使用していないのに揺れている
●キッチンや浴室の壁・床が使用していないのに濡れている
●給湯器の床などがいつも濡れた状態である

また地震などにより突発的に漏水する場合もありますが、そのような場合には慌てずに応急処置として水道のメーターボックス内の止水栓を閉める、もしくは漏水している部位の止水栓をドライバーで閉めることにより給水を遮断できます。

漏水,対策

このようなポイントを覚えておけば漏水事故を未然に防ぐことができるでしょう。

特に空家状態で販売をしているマンションなどは私たちに管理責任がありますから、こまめに確認するよう心がけたいものです。

保険内容や範囲を理解して加入しておくことが大切

これまで解説したようにマンションで漏水事故が発生した場合、専有部分に立ち上がっている配管などが原因とされる場合には所有者(居住者)責任になります。

この場合「階下の所有(居住)者や管理組合などにたいする賠償責任」「自己が所有する専有部分及び家財などへの補償」の2つについて対策を講じておく必要があります。

分譲マンションなどを媒介した場合、保険についてどのような商品に加入すれば良いのか相談を受ける機会も多いと思いますので、漏水に関しての保険について解説しておきましょう。

その場合に利用されているのが「個人賠償責任特約」「火災保険の水漏れ補償」です。

それぞれ別個の保険ではありますが、保険会社によってはトータルアシストとして両方を補償する商品も存在しています。

筆者は顧客に両方の特約を付保することを薦めていますが、それぞれの違いについて解説しておきましょう。

個人賠償責任特約は火災保険に限らず自動車保険や傷害、損害保険の特約として加入している場合もありますが、日常生活において他人の所有物などに損害を与えた場合や他人に怪我をさせた場合など法律上の賠償責任を負った場合に負担する損害金を保険で補うための特約です。

つまり漏水事故について加害者である場合に適用される保険です。

漏水事故を発生させ階下の住戸の天井や床、家電製品や家具などに損害を与えた場合はこの個人賠償特約により損失を補填することはできます。

注意点としては多くの個人賠償責任保険は、損害の算定を「時価」としていますので経年変化による下落率を考慮した金額までしか支払われません。

また漏水事故により不自由な生活を強いたことにたいする慰謝料なども補償されないケースが多く加入した保険によっては頼りない場合もありますので、加入前は特約による補償内容について十分に検討しておく必要があるでしょう。

また万が一漏水事故を発生させた場合には被害を与えたかとの交渉は自ら行わなければなりませんが「示談交渉つき」のものに加入していれば、面倒な交渉ごとは保険会社が対応してくれますので同様に検討しておくと良いでしょう。

漏水の被害者となった場合にはその加害者(上階居住者や管理組合)が加入している賠償責任保険により損害を保証してもらうことになりますが、前述したように時価算定であることがほとんどですので新しく買い替えをしようと思ってもそれに見合わない保険金しか支払われないこともあります。

そのような場合に備えるため、自身が加入している火災保険に「水漏れ補償」を新価基準で付保していれば同グレードのものを新しく購入できる金額が支払われます。

つまり自分を守るために加入する特約です。

これは自らの過失により家財などに損害を与えた場合にも適用されますので、自宅の給排水設備の破損などによりフローリングや壁クロスなどにたいする修繕費用も補償してくれます。

ただし蛇口の閉め忘れなどにより損害については自己責任となり保険金が支払われませんので注意が必要です。

まとめ

住宅ローンを利用する場合には、万が一にでも火災により担保物権が滅失するなどして担保割れが発生することを防止する目的から火災保険への加入が義務とされています。

たとえ強制ではなくても万が一に備え火災保険に加入するのは大切なことですが、金融機関が強制としているのはあくまでも「火災」にたいする保険加入のみで、それ以外、たとえば今回、解説した漏水のほか風災や水害・雪害などいわば住宅総合保険などへの加入は任意とされています。

ですがご存じのように、これら損害保険に関しての請求の大半は火災以外です。

ですから、どのような補償内容であるかを吟味して加入しておく必要があり、どのような理由から保険会社を紹介してほしいと依頼される場合もありますし自社で保険募集人資格を有した担当者により斡旋している場合もあるでしょう。

ですが何か問題が生じた場合に相談が寄せられるのは、取引に関与した営業マンであることが多いでしょう。

ですから不動産業者は自ら保険商品を斡旋しているかどうかによらず、最低限の保険に関しての知識は有している必要があります。

とくに今回、解説した分譲マンションの漏水事故などは加害者と被害者が心情的にこじれる場合も多いものですから、相談されてから慌てないよう基本的な知識について学んでおく必要があると言えるでしょう。

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