2023年2月13日にプレスリリースやニュースリリース配信サービスを行っているPRTIMSが不動産業者にとって興味深い記事をリリースしていました。
事故物件とそのガイドラインについて、不動産業者の意識、認知度に関するアンケート結果です。
アンケートを実施したのは東京を中心に成仏不動産事業を展開している株式会社マークス不動産で、アンケートは日本全国の20~70代の不動産業従事者である男女547名を対象に実施されています。
とくに目を引いたのが以下の調査サマリーです。
●77.5%が事故物件を取り扱ったことがないと回答
●44.6%がガイドラインの存在を知らないと回答
筆者はご覧いただいている不動産会社のミカタで、過去数度に渡り事故物件に関してガイドラインの解説や事故物件の販売方法などに関してのコラムを寄稿しています。
また自身が実務のほか、不動産コンサルを「業」としているため全国の様々なクライアントからの相談に応じ事故物件を速やかに販売するための方法などについてアドバイスしています。
ですから筆者にとっては事故物件、いわゆる「告知あり物件」は常に身近なものであると感じていましたが、アンケート結果を見るとそうでもないようです。
ガイドラインは通常「事故物件ガイドライン」と呼ばれていますが「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が正式名称です。
国土交通省からの正式なリリースは令和3年の10月8日のことでした。
コラム執筆時点ですでに1年半は経過していることになります。
ガイドラインはその名称のとおり取引の対象となる不動産において、過去に人の死に関する事案が生じていた場合、宅地建物取引業者による適切な調査や告知の判断基準を設けることを目的として宅地建物取引業法上、業者が負うべき義務の解釈について定められたものです。
最近では物件資料で「告知事項あり」と記載されているものを見かけることが多くなり、それなりに認知もそれなりにすすんでいると思っていたのですが、アンケート結果だけを見れば半数弱はガイドラインの存在を知らず、また8割弱の不動産従業者が事故物件を取り扱ったことがないらしいのです。
解説をするまでもなく人間は「死」から逃れることはできません。
ですから独居高齢者の居住中物件を扱う場合や、賃貸管理を手掛けている場合などにおいては少なからず「死」の現場に遭遇することもあるでしょう。
そこで今回は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」による見解も交えながら実際に事故に遭遇してしまった場合の対処法などについて解説したいと思います。
事故物件の判断基準
まずガイドラインについておさらいをしておきましょう。
正式名称が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」であると解説したように、ガイドラインで扱っているのは物件内で死亡事故などが発生した場合の告知についてです。
告知が必要な事故物件の場合、買主や借主が契約を締結するかどうかの判断に重要な影響を及ぼすのは当然のことです。
ですがガイドライン策定前は、告知について明確な判断基準が示されていなかったこともあり、取り扱う不動産業者により判断基準も曖昧で、それを原因としたトラブルが多かったのです。
そこでガイドライン策定時点(令和3年)の裁判例や取引実績に照らし一般的に妥当であると考えられるものを整理し、まとめたものが事故物件ガイドラインです。
実際には個々の不動産取引において人の「死」の告知を原因として紛争が生じた場合、その民事上の責任は取引当事者からの依頼内容や締結された契約内容によって個別に判断されます。ですから事故物件ガイドラインに基づく対応を行ったからといって必ずしも民事上の責任を回避できるというものではありません。
そのような前提からガイドラインで示されている対応を行わないからといって、そのことだけをもって直ちに宅地建物取引業法違反に問われることはありません。
ですが対応の不備によりトラブルが発生した場合、指導に入る行政庁もガイドラインを参考にしていることから遵守するのにこしたことはないということです。
ガイドラインの適用範囲や告知が必要とされるケースについてまとめたものを下記に列記しておきます。
●対象は居住用不動産に限られる(オフィスなどは含まれません)
●疑われる特段の事情がなければ、自発的な調査は不要
●調査は売主・貸主からの物件状況報告書もしくはその他の書面への記載を求めることで、適正に行われたとされる。
●死因や遺体の損壊状態などについての詳細な告知は必要ない(告知ありだけでよい)
●自然死・日常的な不慮の事故による場合には原則として告知不要
●ただし上記のような原因の「死」でも、長期間発見されず腐敗が著しいことから特殊清掃や大規模リフォームを実施した場合には告知が必要(賃貸のみ特殊清掃などの実施後3年経過するまでが目安)
●集合住宅の場合、通常人が使用しない共用部においては特殊清掃などが実施されていても原則として告知は不要(ただし事件性、周知性、社会に与えた影響が特に高い事案を除く)
●上記までによらず買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合は告知が必要。また買主・借主からとくに問われた場合には調査の範囲内で告知が必要。
これらの内容は基本ですので正確に覚えておくようにしましょう。
事故を発見したら
前項で告知が必要とされるガイドラインの内容について解説しましたが、お読みになれば分かる通り私たち不動産業者は売主・貸主にたいして「正直に回答してくださいね」と書面による告知してもらう以上の積極的な調査は必要ないとされています。
また自然死や日常的な不慮の事故が原因である「死」については原則として告知する必要はありません。
ですが、発見が遅れた場合などは腐臭が壁や床にまで染み込んでいますから、特殊清掃や床の張替えなどを実施しなければ「臭い」が残ります。
冒頭でアンケート結果において事故物件を取り扱ったことがない不動産業者は8割弱であると紹介しましたが、残る2割の方はどのような事故物件に遭遇しているのでしょうか。
孤独死・自殺・殺人・火災などが並んでいますが、不動産業に従事していてもこのような物件を一度も取り扱うことなく終える方が多いのかもしれません。
ですが32年に渡り間不動産業に従事している筆者は、巡り合わせなのかこれらすべての事故物件を取り扱った経験があります。
さらに孤独死や自殺の発見者になったことも一度や二度ではありません。
経験のある方ならご存じかも知れませんが生物の腐敗臭というものは独特な「臭い」です。
人によって生ゴミが腐敗したような臭いだと言う方もいますが、筆者はそれとは違うと感じています。
うまく表現できませんが一度でもその臭いを経験すれば、たとえ室内に入らなくても、あたりに漂う臭いだけで「怪しい……」とわかるようになります。
孤独死などの発見は、辺りに漂う悪臭により近所の方が通報するなどが発端となることも多いのですから、尋常ではないほどの悪臭であると想像できるでしょう。
もっとも好き好んでしなくても良い経験ですから、避けられるならそれに越したことはありません。
ですが私たちは不動産業者です。業務において賃貸管理や居住中物件の取り扱いもあるのですから遭遇する可能性は一般の方より高いと言えるでしょう。
遭遇したときの参考にしていただくため筆者の経験を2つほど紹介しておきましょう。
比較的低廉な賃料で入居者も独居高齢者の割合が多かった賃貸マンションにおいて、共用部の清掃状況などを確認に出向いたときの話です。
とある階層の一体に「異臭」が漂っていました。
臭いの強い部屋にあたりをつけインターフォンを鳴らしても反応がありません。
そこで同階の住人を訪問したまたま在宅中だった住人に、いつごろから異臭が発生していたか、〇〇号室の住人さんを最近みかけたかを訪ねました。
結果、もともとそれほど頻繁に顔を合わせる人でもないが最近はまったく見かけた覚えもなく、臭いについては2~3日前から特にひどく漂うようになったとのこと。
放置された生ゴミが腐敗している可能性はありますが、経験したことのある「あの臭い」です。
入居時に登録されている携帯電話に連絡しても電源が切れている状態で応答がなく、連帯保証人に連絡するも最近、話をしたことがないとのこと。
事件性が疑われる可能性が高いことからオフィスへ連絡しスペアキーを持ってくるように指示すると同時に警察に連絡して状況を説明、居室への侵入立会を依頼しました。
ちなみに入居中の賃貸に正当な理由なく無断で立ち入ることは民事上の不法行為になりますし、刑事上でも住居侵入罪(刑法130条)に該当することになりますので侵入する際には細心の注意が必要です。
通常、警察はこのような連絡をしても気軽に立ち会ってくれることはありませんが、過去に同様の事案で発見者になっていたこともあり対応してもらえました。
結果は……。
ご想像の通りです。
この事案では腐敗の状態が著しく、臭気も壁ボードまで浸透し床にも体液の浸透があったことから特殊清掃では復旧が難しく大規模修繕を余儀なくされました。
次に高齢者が単独で入居している物件を販売していたケースですが、近隣に所要があったことからご機嫌伺いにいったところ乗用車があるのにもかかわらず不在でした。
顧客は足の悪い方でしたので車以外ではあまり外出をされない方でした。そこで気になり、庭を経由してリビングまで回り込みこみ中を覗き込むとカーテンは開かれテレビが付けっぱなしになっていました。
気にはなったのですが、その後の用事もあることからいったんは現場を離れ翌日、再度訪問してみました(その間に数度、電話での連絡を試みています。またポストには訪問した旨のメモを名刺に書き込み投函しました)
ですが、翌日も同じ状況でテレビも付けっぱなしです。
同日の夜に再訪したところ、カーテンも閉められずあいも変わらずテレビも付けられた状態。
さすがに疑わしいので、娘さんが車で2時間程のところに住んでおり連絡先も知っていたことから荷電し状況を伝えました。
翌日、娘さんから電話があり本人に何度連絡をしてもつながらず、心当たりに連絡しても覚えがないとのこと。そこで「心配なので合鍵をもってそちらへ行くので一緒に立ち会ってもらえないか」とのことでした。
了承し、時間を待ち合わせて娘さんと一緒に屋内へ入ったところ、お風呂に浸かったままの状態で発見されました。
その後は警察への連絡のほか事情聴取で終日業務にならなかったことはいうまでもありません。
筆者はこれと類似するようなケースを片手でたりないほど経験しているので、不動産業者であればいたって普通かと思っていました。
事故物件の告知以前に、不動産業者であれば筆者と同様のケースに遭遇する可能性はあるのですから、その際の対応法などについて心がけておきたいものです。
まとめ
同業他社と話をすると「できれば事故物件は扱いたくない」と口をそろえて言います。
またクライアントからの相談では「事故物件であることを告知すると、申し訳ないのですがウチでは取り扱いできません」と断れられたという話もよく耳にします。
筆者は巡り合わせによるものか孤独死・自殺・殺人・火災などの事故物件すべてに関与した経験がありますが、なにも好き好んで経験をした訳ではありません。
ですが事故物件であるからといって取り扱いを忌諱することは、不動産業者としていかがなものかという思いはあります。
不動産業者にはライフスタイルを決定づける不動産という資産について、専門性を発揮し公正な立場から安全かつ円滑な取引を遂行することが求められます。
そのために契約当事者などの消費者にたいし、取引に関する知識や経験、調査能力や柔軟的な発想により社会貢献することが求められ、その中には当然に事故物件も含まれます。
ガイドラインにより詳細な説明は不要となったのですから憶測や噂話などを交えず事実だけを端的に告知すれば、購入検討者も「別に気にしない」と言われる方が以外におおいものです。
事故の発生により不動産を「負」動産にしないためにも、正しい知識をもって査定などを行い取引活性化に寄与したいものです。