【契約不適合責任の免責は万能ではない‼】不動産業者なら知っておきたい特約が無効とされるケースについて

瑕疵担保責任が契約不適合に改められたのは2020年4月1日の民法改正からで、コラム執筆時点で法施行から3年を迎えようとしています。

重要事項説明などにおいても契約不適合という用語が使用されていることから、順応性の高い若い不動産営業マンなどの場合には「瑕疵」の説明が正確にできない人が見受けられるようになりました。

旧民法時代において「瑕疵」の定義は「社会通念に照らし通常有すべき性状・性能を有していないことに加え、当事者の合意」がその要素とされています。

具体的には契約を離れた抽象的な捉え方ではなく「契約締結時の内容に照らし、通常または特別に予定されていた品質・性能を欠く」状態であるか、もしくは「ある事柄を瑕疵とするかどうかの当事者の合意」がその要素とされていたのです。

契約不適合が適用されるようになってからは、単純明快に「契約の内容に適合しない場合の売り主責任」と解されるようになり、当事者の合意が優先されることになりました。

この考え方は改正後の債権法も同様で、旧法の債務不履行は「責にきすべき事由」だったのですが、「契約及び取引上の社会通念に照らし責に帰すべき事由」に改められ当事者合意を優先する形になったのです。

このように当事者の合意を優先する形は法体系上で「英米法」に分類され、公法を中心とする「大陸法」とは異なり私法を中心とする考え方です(ちなみに日本は英米法と大陸法が混在している、いわば良いとこ取りの法体系となっています)

このような考え方に基づき瑕疵が契約不適合責任に改められると同時に、契約不適合責任の免責、つまり買主が容認した範囲において売主はその責任を免れるという考え方が生まれたのです。

これにより築年数の経過した住宅などにおいて「契約不適合責任の免責」を特約とした場合には、仮に入居後いきなり漏水事故が発生しても売主にたいしその責任を追及することができないことになるのです。

ただし「契約不適合責任免責の特約」は万能ではありません。

特約があっても無効とされ、その責任を負う場合もあるのです。

今回はどのような場合に契約不適合責任の免責特約が無効とされるかについて解説していきます。

契約不適合責任免責の特約が万能ではない理由

契約不適合責任の免責については民法第572条がその根拠とされていますが、同法では「知りながら告げなかった事実についてはその限りではない」ともされています。

よく契約不適合責任の特約をつけるのであれば物件状況報告書を作成する必要はないと勘違いされている方をみかけますが、それは誤っています。

契約不適合責任の有無によらず不動産を購入する以上、その不動産を利用しようとする目的が存在します。その目的を達することができないのであれば、はなから購入などしないでしょう。

たとえば古家を解体してあらたに建築をしようと考えていた物件に土壌汚染が確認された場合など、その浄化に多額な費用が必要となったら「おいおい、ちょっと待ってくれよ」となるでしょう。

あらかじめそのような事実を知っていれば、そもそも購入しなかった可能性が高いでしょう。

売主がその事実を知らなかったとしても発覚後「目的を達することができない重大な事由があった」としてトラブルに発展する可能性は高いでしょうから、知っていながら故意に事実を告げなかった場合の責任は重大です。

そのような場合の責任まで含め「無」とするほど、契約不適合責任の免責は万能ではありません。

ですから契約不適合責任の免責とする場合においても物件状況報告書により告知を行う必要があるのです。

また不動産業者などが売主である場合においては、消費者と事業者との間の情報や交渉力の格差による不当な契約による不利益を防止するため「消費者契約法が適用」されます。

消費者契約法第8条では売主や施工業者などが損害賠償責任をすべて免責とする特約については無効であると規定しており、宅地建物取引業法においても同様の定めがされています。

つまり宅地建物取引業者が自ら売主である場合においては「契約不適合責任免責」の特約が、そもそも認められていないということです。

そのため特約を設けたとしても無効とされ、目的物の引き渡しから2年以上の契約不適合責任を負う必要があります。

これは基本的な部分ですから、コラムをお読みの善良な不動産業者の皆様であれば遵守されていることでしょう。

ところが筆者がコンサルティングの一環として投資家からの依頼により購入検討中の物件調査を行うと、売主が宅建業者であるにもかかわらず媒介業者を介入させ、販売資料に「契約不適合については免責とする」と記載されているケースをよく見かけるのです。

あたりまえの話ではありますが、媒介業者が関与していようと売主が宅建業者である限り契約不適合責任が免責とされることはありません。

察するに知識不足の顧客にたいし、あわよくば契約不適合責任を免責として契約しようという腹積もりかもしれませんが、この場合、売主と媒介業者どちらも消費者契約法ならびに宅地建物取引業法違反とされる可能性が高いでしょう。

「バレなければ良いだろう」という考えなのでしょうが、少なくても筆者がそのような状態であることを確認した場合には購入を検討しているクライアントに「業法違反の可能性が高い手法で販賣をしている会社の物件は、何かとトラブルが予見されますから購入を見合わせた方が良いのでは?」とアドバイスしています。

その他、注意しておきたい内容

注意,呼びかけ

契約不適合責任について免責とする場合、物件状況報告書により正しく告知されていればそれほど問題が生じることもないのですが、前述したように故意にその事実を告げていなかった場合には保護されません。

もっともそれは程度問題であり、相続などにより取得し手入れしていなかった古家の場合、誠実に告知をしても「発見していない」もしくは「知らない」とするしかないでしょう。

そのような場合においてまで物理的な欠陥や傷などについて「知っていただろう」と言われてはたまったものではありません。

このような場合、その欠陥などにより契約の目的を達することができないなどの重大なものである場合を除き「この程度であれば……」と穏便に処理されるのが通例です。

その場合でも、管理不全となっている理由なども含め告知しておく必要があるでしょう。

また買主に物件を紹介する際には「契約不適合責任の免責」が販売条件であることを十分に説明し、内覧時などにおいてはそれを踏まえて状況確認することが大切でしょう。

また売主にたいしては「知っていたという故意に等しいと解される重大な過失がある」場合には民法第572条が類推適用される可能性が高いことを説明し、物件状況報告書の記載について正しく告知するよう促したいものです。

まとめ

今回は契約不適合責任の免責について解説しましたが、特約を設けていたとしても無制限に免責される訳ではないということについてご理解いただけたでしょう。

民法の条文で契約不適合責任は「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」に生じるとされていますが、これは引き渡し後にのみ適用されると読み替えることもできます。

つまり引き渡し前に再度、内覧が実施され物件状況報告書に報告されていなかった不適合が確認された場合にはどうなのだろうという疑問が残されているのです。

実際に「契約不適合責任の免責特約」を設けていながらも、引き渡し前に発見された不適合により契約の目的を達することができないとして修繕を求め争われた裁判もあります。

買主の購入目的や告知内容などにより裁判所の判断も分かれているようですが、売主が免責による特約の利益を確実に得るためには、私たち不動産業者が作成する契約書の文言についても留意する必要があると言えるでしょう。

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