本年度(2023)6月より消費者契約法が改正されます。
消費者契約法は、情報の質や量・交渉力などについて事業者と消費者には相応の格差が生じることを前提に、それによる不均衡を防止し消費者利益を守ることを目的として平成13年4月1日から施行されています。
政府は施工後も数度に渡り附則の追加や一部改正を行なってきましたが、今回の改正では「契約の取消権」や「事業者の努力義務の拡充」などが盛り込まれています。
不動産業者の最も馴染み深い法律と言えば宅地建物取引業法と民法で、この2つを確実に抑えておけば、かなりの確率で宅地建物取引士試験に合格できますから必至に勉強した方も多いでしょう。
試験に合格するためであればこの2つに時間を割いて確実にマスターするのが常道で、広範囲に渡る法令上の制限やその他関連知識については、改正法を中心に過去の出題傾向などから問題の傾向を分析して試験に備えるのが一般的です。
ですが不動産実務においては、宅地建物取引業法や民法ももちろん大切ではあるものの、建築基準法や都市計画法、税法に関連する知識や、今回解説する消費者契約法も確実に理解しておきたい法律です。
言い換えれば不動産業者は宅地建物取引業法や民法には精通していて当然、それ以外の関連法についてどれだけの知見を有しているかがプロとアマの境目を分けると言えるのかも知れません。
そこで今回は、不動産の契約にも影響を及ぼす消費者契約法改正について解説したいと思います。
理解しておきたい現行法の取消権
消費者契約法では改正前も「消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し(第4条)」が盛り込まれていましたが、これは重要事項の不実告知・将来における変動不確実な事項について断定的判断を提供するほか、営業マンが自宅に長時間居座るなどの行為があった場合にのみ申込みもしくはその承諾を取り消すことができるとしていました。
上記のような不当勧誘は「誤認類型・困惑類型」に分類され制限されてきたのですが、改正により困惑類型に新たな禁止行為が追加されます。
ねんのためそれぞれの類型について解説をくわえておきます。
誤認類型
重要事項における不実告知がこれにあたります。
「購入の意思決定に影響を及ぼす重要な事実についての不実告知」と言い換えた方がわかりやすいかも知れません。
具体的には消費者に不利となる情報を故意または重大な過失により告げないことですが、不動産業においては事故物件の不実告知や、近隣で高層建築物の建築計画があることを知りながら将来的に日照や眺望に影響が出る可能性を説明しないなどの行為が該当します。
また「この周辺の土地は確実に値上がりしますから、いま買わなきゃ損しますよ」なんて明確な根拠も提示しない不確実な情報を、さも確実であると誤解させるような説明も誤認類型に分類されます。
困惑類型
消費者契約法第4条第3項に規定されている「勧誘するに際し住居または業務を行っている場所から退去すべき旨の意思表示を示しても退去しない」もしくは「当該契約者の締結について勧誘している場所から退去する旨の意思を示したにもかかわらず退去させない」行為がこれにあたります。
いわゆる退去妨害や不退去のことです。
改正の経緯とポイント
消費者契約法に改正に向け消費者庁では2019年12月から複数回に渡り「消費者契約に関する検討会」を開催してきましたが、その中で「超高齢化社会の進展」と「コロナ禍によるオンライン取引の増加」は特に重要であるとされました。
つまり環境変化に対応した法律の改正は喫緊の課題であるという前提で検討されたのです。
そのような経緯を経て改正が検討されていたのが以下の4つについてです。
1. 取消権の追加
2. 解約料の説明についての努力義務
3. 免責範囲が不明確な条項を無効とする
4. 事業者の努力義務を拡充
それを踏まえ同法第4条第3項の契約取消権を行使できる勧誘について、下記の様な行為が追加されました。
具体的な行為として上げられたのが下記の3つです。
●勧誘することを告げずに、退去困難な場所へ同行し勧誘する行為
●威迫する言動を交え、相談者への連絡を防止する行為
●契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にする行為
不動産業者においては内覧のため自らが運転する車に顧客を乗せて連れ回し、タクシーが通らない山中などで契約を迫るなんて行為をすれば該当します(かなり悪質ですが、一昔前はこんな手法を使う営業マンがいるとの噂を聞いたことがあります)
また親や友人などに相談してから決めたいという顧客にたいし「子供じゃないのだから、自分の購入(賃貸の場合は居住)する物件ぐらい自分で決めましょうよ」なんて恫喝を交えた営業トークを用いれば該当するでしょう。
また投資用不動産を斡旋する場合において、加齢により判断能力が低下した高齢者などにたいし「預け入れ金利も安いし年金だけじゃ今後の生活も不安でしょうから、現金で投資用不動産を購入して資産形成と現金収入の安定化を実現しましょうよ。皆さん、口には出さないけれど購入していますよ」などと、ことさら不安を煽るようなトークも該当する可能性があります。
「即案即決」は不動産営業の理想ですが、気負いすぎて当事者に考える隙きを与えないような営業展開を行うと、せっかくの契約が消費者契約法第4条第3項に基づき無効なんてことになりかねませんから注意が必要です。
まとめ
今回は2023年6月から施行される改正消費者契約法について解説を行いました。
不動産の契約行為については消費者契約法が密接に関わりをもつことから理解を深めておきたいところですが、併せて覚えておきたいのが独立行政法人国民生活センター法の一部が令和5年1月5日から改正されていることです。
消費者契約法における取消権の行使期間伸長も念頭におきたいところですが、国民生活センターのADR(重要消費者紛争手続)が強化されている点についても併せて覚えておきたいところです。
改正の発端は社会問題にもなっている霊感商法の取締強化ですが、これにより国民生活センターや地方公共団体はこれまで対応することができなかった情報提供、つまり適格消費者団体の求めに応じて差止請求権を適切に行使するため必要な限度内において消費者紛争に関する情報を提供できるようになりました。
また消費者の重要な利益を保護するため特に必要と認められるときには、紛争当事者である事業者名などを公表できるように改正されています。
これらの改正は、消費者保護を重視するとともにコンプライアンスを遵守しない事業者を牽制することが目的です。
誠実に業務を行っている限りにおいて神経質になる必要はありませんが、改正法においては契約締結にあたって事業者が考慮すべき情報については「個々の消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験」を統合的に判断し適切に提供することが努力義務とされたように、これまで以上に留意して説明責任を果たす必要があると言えるでしょう。