私たち不動産業者が日頃から利用するレインズで検索すると、オーナーチェンジ物件が数多くヒットします。
物件種別は戸建て・分譲マンション・アパートや賃貸マンション1棟売りなど多彩です。
中でも築年数が経過した分譲マンションの比率は高く、賃貸人居住中物件であることもしばしばです。
筆者が主に北海道を拠点として不動産実務を行っているからでしょうか、国土交通省が公開している「国民経済における不動産業者の位置づけ」の投資・運用状況において、Jリートの動向ではあるものの、地方都市における不動産運用率が上昇しているのですから特にそう感じるのかも知れません。
この様な現状からオーナーチェンジ物件を現在、取り扱っている業者の方がこのコラムを読まれている可能性は高いと思います。
そこで質問なのですが、査定時において販売理由を質問した場合どのような答えが帰ってきたでしょうか?
現在入居中であり、想定した利回りが確保できているのであれば売る必要はないはずです。
明確な「売る」理由が存在しなければ、媒介手数料などを負担してまで売却する理由はありません。
筆者が実際に扱ったオーナーチェンジ物件において、最初に質問をした際の売却理由は以下のようなものでした。
●物件を売却し、その資金を利用し規模の大きな物件に投資したい。
●5~10年間保有し、減価償却できたので当初の予定通り売却する
●オーナーチェンジ物件を相続し、相続人が運用に興味がないので売却したい
どれもがもっともな内容でありポジテブとも言える売却理由ですが、これを素直に信用する訳にはいきません。
当初の計画通りに運用が行われ投資目的が達成できていれば良いのですが、購入から売却までの期間が短い、具体的には5年以内、かつ入居者がいるのに売却する場合には注意が必要です。
購入当時の相場を大きく下回る価格で購入し、近隣の不動産価格が高騰し、売却により多額のキャピタルゲインが確保できるなどの例外を除いては近年の物件価格騰により、ここ数年は都心部の利回り4~6%程度しか確保できない現状です。
普通に考えれば修繕費や諸費用などまで含めれば、短期間で投資額を回収できている道理はありません。
そこで「ずいぶんと短期で売却を検討されるのですね。何か問題でもありましたか?」と訪ねますが、初回面談ではなかなか本音を話してはくれないものです。
もっとも余計な労力を使わないために、テスクロを繰り返しながら本音を引き出すのが不動産業者としての腕の見せどころではありますが、うまく話を聞き出すと本音がでてきます。
よくあるのが賃貸人とのトラブル、そして利回りが悪く借入金の返済などの理由による「損切り」です。
損切りの場合には、金融機関への返済状況を確認しなければ場合によっては「期限の利益喪失目前」なんで可能性もありますし、賃料減額請求や相隣関係トラブルで係争中などは、購入検討者に伝えなければならないネガティブ情報です。
ネガティブ情報は、場合によってプライバシーにかかわる内容が含まれる場合もありますから、開示する内容については十分に検討する必要もあり、また売主に説明し開示の同意を得ておく必要もありますが、その判断基準はどのようなものでしょうか。
今回は開示が必要なネガティブ情報の判断基準について解説したいと思います。
情報提供時期はいつ?
オーナーチェンジ物件に限らずではありますが、私たちが把握したネガティブ情報については、一体どこまで提供して良いのか、また提供する場合においてその時期はどのタイミング(重要事項説明時)が良いかで悩むことがあります。
ネガティブ情報は購入者が物件購入の判断に重要な影響を及ぼす可能性がありますから、宅地建物取引業法第47条1号で規定される「重要な事項の告知義務」に該当します。
ですから、遅くとも契約締結の交渉に入った段階までには提供している必要があります。
ただし賃借人との間に賃料やその他の内容でトラブルが発生しているなどの情報は、真剣に購入検討している顧客以外には軽はずみ提供してよいものではありません。
筆者の場合、買付の意思表示を確認できた、もしくは媒介契約書を締結してもらうことを条件に判断に迷うネガティブ情報を開示するようにしています。
コラムを読まれている皆様には説明する必要もないのでしょうが、専属専任・専任・一般などの媒介契約は、「売り」だけではなく「買い」の依頼があった場合にも締結が必要です。
国土交通省庁が定めた標準媒介契約書においても「依頼の内容」についてのチェックがあり売却・購入・交換とされているのはそのためです。
余談になりますが、筆者は不動産業界に入りたての頃、物件の内覧を希望する新規顧客にたいし、押印を必要とする媒介契約の締結が必要なのか悩んだことがあります(周りの諸先輩で、新規の買い客と媒介契約を締結している方は誰一人いませんでした)
「売り依頼」の場合、媒介契約を締結せずレインズ登録や広告などの販売活動を行うことはできません。
ですが「買い」の場合には、媒介契約の締結なしに「内見」などの営業活動を行えることが不思議でした。
諸先輩に質問しても誰一人として納得できる理由を説明できる方はおらず「長年の慣習でそうなのだから、心配する必要はない。売買契約締結時に併せて取得すれば問題ない」と言った感じでした。
そこで宅地建物取引業法を読み込み自分なりに解釈したのですが、媒介契約についての定めは宅地建物取引業法第34条2に記載されており、具体的には「宅地建物取引業者は、宅地または建物の売買または交換の媒介契約を締結したときは、遅滞なく、次にかかげる事項を記載した書面を作成して記名・押印し、依頼者に交付しなければならない」となっています。
ここでは「媒介の契約を締結したとき」に媒介契約書の作成を義務としているだけです。
ですから締結をしない場合には書面の作成も必要ないと解釈できます。
さらに媒介契約は民法上、「準委任契約に基づく事務の委任」と、それに基づく業務遂行、つまりは「委任の規定」が準用されています。
委任契約は本来、要式を必要としておらず諾成契約(委任者と受任者の意思表示で成立)で成り立ちます。
つまり「物件を探してください」もしくは「この物件を見たいのですけど」という顧客にたいし「分かりました、それではご案内の準備をしますので、その間にこちらのアンケートにご記入ください」というやり取りをするだけで、準委任契約は成立しているという解釈もできるのです。
これにより媒介業者による実務上の営業行為については、媒介契約の締結がなくても準委任契約により行うことができるのです。
購入の意思表示などが示され買付証明を差し入れる(重要事項説明前でも可)などのタイミングで媒介契約を締結すれば、宅地建物取引業法上も問題ないとされるのです。
余談が長くなりましたが、私たちがネガティブ情報と提供する場合に気をつけなければならないのは、開示する内容によっては個人情報保護法の規定や民法の不法行為規定に抵触する可能性があることです。
いくら準委任契約が諾成契約で成り立つとは言っても、守秘義務を求めることはできません。
そこで万が一の情報漏洩を防止し、漏洩行為による契約解除や具体的な損害が生じた場合において違約金を請求することができるよう、「購入」を依頼とする媒介契約の締結が不可欠なのです。
万全とまでは言えませんが、賃貸オーナーのプライバシーに関わるネガティブ情報の提供も、媒介契約締結後であれば提示することができるという解釈ができるからです。
よく聞くオーナーチェンジ物件のネガティブ情報
あくまでも筆者の経験によるものですが、よく聞くネガティブ情報は以下のようなものです。
●家賃滞納者が複数いるなど、収支に影響を与える状態が頻繁に発生している。
●賃借人や、近隣トラブルが発生している(もしくは頻繁に発生している)
●大規模修繕が必要な状態であるが、その費用が捻出できない。
●空室率が高く、募集してもなかなか埋まらない。
●告知義務に該当する内容ではないが、複数回人が亡くなっており近隣で「いわくつき物件」として有名である(筆者の体験談ですが、このような物件の室内に一人でいた時、不可思議な経験をしたことがあります)
●地盤沈下が原因ではないかと疑われる「傾き」が発生している。
●敷地内のブロック塀が傾いており、すぐにでも撤去・補修を実施しなければ通行人などに被害を与える可能性が高い(費用がかかる)
上記は必ずしも開示が義務とされない内容も含まれてはいますが、購入判断に影響を及ぼす内容ではないでしょうか。
まとめ
オーナーチェンジ物件は所有権と同時に賃借権(入居者がいる場合)も売買するという以外、とくに取引態様が変わるものではありません。
賃貸オーナーが管理会社を利用している場合には、レントロールの提供も受けられます(自主管理の場合には作成手間が必要とされる場合もありますが)
多少注意が必要なのは「敷金」などの取り扱いぐらいでしょうか。
ですが今回、解説したように義務付けられた内容を除くネガティブ情報を告知する判断が、私たち不動産業者に委ねられていることについては理解しておく必要があります。
コラムで解説したように、ネガティブ情報には賃貸オーナーのプライバシーにかかわる内容が含まれていることも多く、むやみに開示する訳にはいきません。
不動産現況報告書に正しく記載してもらうように促し、それに基づき物件状況の説明をすることに問題はなく私たち不動産業者の責任は果たされるのですが、「調査の過程で知りえた購入判断に影響を及ぼす重要な内容」については精査し、告知をするかどうかを適正に判断しなければなりません。
インターネットで「オーナーチェンジ物件」を検索すると、「不動産業者に騙されないために」などの記事をよく見かけますがカーテンを閉めきり、空き室を入居中に見せかけたりレントロールを改竄したりなどの手法は別として、告知判断を誤ったことによりトラブルが発生していることについては十分に気をつけオーナーチェンジ物件の取引ができるようにしたいものです。