【SUUMOが仲介手数料無料表示を解禁‼】正規報酬の請求が困難になる時代は到来するのか?

「あなたのところは手数料を値引きしてくれるの?」

最近、顧客からそんな話をされることが増えたと、とある不動産業者の営業マンから聞きました。

仲介手数料の「値引き」に対応している不動産業者が増加しているからなのでしょうか?

ご存じのように媒介報酬は上限が定められているだけですから、それを下回る金額であれば自由に設定できます。

値引きしようが無料にしようがお咎めはありません。

両手取引の場合で売主からの報酬が確保できるのであれば、買側に手数料を請求しない、つまり「仲介手数料無料物件」として広告を出せば目を引くでしょう。

問題はどのような媒体にその情報を掲載するかです。

紙媒体を含め全ての自社広告に「キャッチ」として載せるのは当然ですが、賃貸・売買によらずユーザーの多くがインターネットを利用して物件探しをしていることは明白です。

そのような理由からもっとも効果が得られるのは不動産ポータルサイトでしょう。

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不動産業者の多くは自社で運営するwebサイトに「力」を入れていますが、予算やデザイン、専門人材登用の有無・メンテナンス頻度などによりアクセス数もことなり、その効果には大きな隔たりがあります。

ですが不動産ポータルサイトであれば企業規模によらず、全社が同じ土俵(デザインや表示内容)で勝負できるのですから予算が許すのであれば利用しない手はありません。

ただ問題が1つあります。

不動産ポータルサイトの運営会社が定めたルールにより、諸費用や仲介手数料に関しての掲載がNGとされている場合、「仲介手数料無料物件」として情報を露出することができないことです。

ですがそのようなルールも、全ての不動産ポータルサイトで変わる可能性がでてきました。

不動産ポータルサイトでは圧倒的シェアをほこる「SUUMO」において、2023年4月から物件表示に関する規定が変更され、これまでは全面禁止であった仲介手数料や諸費用についての掲載が解禁されたからです。

既存住宅の購入者が参考にしたサイト

これにより、すでに「SUUMO」では「仲介手数料無料」物件が相応数掲載されています。

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このような仲介手数料や諸費用掲載についての見解は、不動産ポータルサイト運営会社の全てが足並みを揃えている訳ではありません。ですがシェア率首位のサイトが動いたのです。

他のポータルサイトも追随していく可能性は高いでしょう。

今回はSUUMOにおいて「仲介手数料無料」として掲載されている物件の傾向や、それによりもたらされる業界全体への影響やリスク、これから皆さんが「仲介手数料無料」について検討しなければならないかについての考察も含め解説したいと思います。

現在掲載されている仲介手数料無料物件の傾向

筆者が調査した限りにおいてSUUMOで「仲介手数料無料」と表記されている物件は、そのほとんどが新築分譲マンションや一戸建ての「売主」による掲載です。

また中古の場合でも買取再販物件、つまり業者自らが「売主」の物件です。

つまり、そもそもが媒介報酬を請求することができない物件です。

元付業者として売主から手数料を徴収し、買主にたいしては請求しない。

つまり純粋な意味で「仲介手数料無料」物件が掲載されているケースはほぼありません。

業者間の軋轢や顧客トラブルに懸念

よい機会ですので、自社ホームページなどで売主もしくは買主の「仲介手数料無料」をPRしている会社の報酬パターンについて解説しておきましょう。

詳細はことなりますが、概ね下記3つに分類されます。

パターンA
専属もしくは専任媒介の場合、売主無料・買主1.5%など(自社客付の場合)

パターンB
専属もしくは専任媒介が原則で売主正規(もしくは半額)・買主無料

パターンC
専属もしくは専任媒介の場合、売主無料(自社客付の場合)・買主正規

会社により多少の違いはありますが、A・Bのパターンは買主の媒介報酬を無料(もしくは値引き)しています。

Cは売主の媒介報酬を無料とするこにより「売り依頼」を取得するための手法ですが、この場合、レインズに登録し、他社による客付けで「分かれ」取引となった場合には報酬が得られません。そのため、他社による客付けの場合は1.5%などとしていることが多いようです。

筆者が懸念するのはA・Bパターンの場合、元付け業者で契約すれば仲介手数料が無料(もしくは値引き)なのですから、そのような物件を客付けした場合、顧客から「なんで売担業者で契約すれば手数料無料なのに、アンタのところで契約すれば手数料が必要になるんだ」と詰め寄られるケースがあるということです。もちろん法に反している訳ではありませんが、説明して理解を得るのは面倒です。

それならば端からその会社の物件は紹介しないという発想になってしまう。

レインズへ登録義務が課せられているのは、広く情報を共有することにより主に「売主」にたいするデメリット(物件の囲い込みなど)を防止するためなのですが、A・Bパターンはその原則に反していると思うのは筆者だけでしょうか?

もっともいずれのパターンにおいても元付け業者が「両手取引」しても報酬が目減りするのですから、いわば痛みを伴う手法です。

冒頭で述べたように媒介報酬は上限が定められているだけなのですから、これについては自由な発想で構わないと思います。

ですが「売主仲介手数料無料」をPRして物件を集め、元付け業者になってしまえば「後はどのようにでも料理できる」とばかりに、囲い込みなどの手法を駆使して売主の不安をあおり、最終的に「買い取り」に持っていこうという「腹」を持つ業者の存在も確認されていますので、手放しで自由にすれば良いとまでは言い切れません。

仲介手数料無料を検討すべきか

不動産業に限らず「企業にとってお金は血液」です。

どれだけ理想論を語っても先立つものがなければ目的を達成することはできません。

事業規模、社員数、広告宣伝費などの販管費を例年通りとすれば、そこから得られる売上期待値は予想できます。何も手を打たず劇的に業績が跳ね上がることはありません。

インフレにより消費者物価指数も上昇、広告宣伝費も値上がりしました。これまで投下した予算以上に割当なければ例年通りの反響も期待できない。

このような厳しい経営環境でも歯を食いしばり事業展開している私たちですが、媒介報酬のみに売上を依存している仲介業者の場合、仮に全体の3~5割程度見込まれる両手媒介報酬を、全て「片手収入」とした場合に経営が成り立つのでしょうか?

不動産営業にしても給与に占めるかなりの部分が売上金額に比例する「歩合」が占めますから、すべて「片手報酬」とした場合、それ以前の給与と同等の金額を稼ぎ出そうとすれば契約件数を増やすしかありません。

「仲介手数料無料」をPRすることによりユーザーからの反響は増加するのでしょうが、それがただちに目減りした売上金額を補えるほどの成果につながるかは疑問です。

両手仲介であれば労力がほとんど同じで売上は2倍になるのですから、合法である限りそちらを選びたいのが人情でしょう。不動産営業マンの多くは「金銭面」についてシビアですから、労力の割に実入りが少ないと判断すれば、優秀な営業マンほど他社へ移籍してしまいます。

仲介手数料無料を謳う業者は「利益相反となる両手取引に異議を呈す」と崇高な使命を抱いているケースを除けば、売上が目減りしても元付業者となり扱い件数でカバーすると腹を括っている、もしくは相応の資本がありここで一気に他社との差別化を加速させたいと考える業者に大別されるのではないでしょうか。

利益相反関係について

仲介手数料無料をPRしている会社は、自社ホームページで「なぜ仲介手数料を無料としているか」についてその理由を掲載しています。

もっとも良く目につくのが「両手取引は利益相反にあたる」という主張、次は「お客様のために費用負担をできるだけ低く」というなんとも曖昧な理由です。

実際は他社との差別化を図り「売り情報(もしくは買い)をより多く集めるため」の苦肉の策だとは思うのですが、崇高な使命感を持ち実践している会社もなかにはあるのでしょう。

両手取引が「利益相反」にあたるかについてはよく議論されますので、ここで少し解説をしておきます。

不動産の売買契約前までと定められた重要事項説明は、宅地建物取引士の専従業務ですからそれ以外の「士業」は手出しできないと思われがちですが、弁護士は含まれません。法務資格の最高峰である弁護士は重要事項説明に限らず税理士の専従業務などまで、全ての業務を独占的に行える、まさに治外法権的ともいえる権能(資格登録は必要とされます)を有しています。

ですから弁護士はその権能により不動産売買を行うことはできるのですが、両手取引を行えば弁護士法第25条に規定された「利益相反」に該当するとして、弁護士会から業務停止や懲戒・最悪は除名処分を受ける可能性があるのです。

宅地建物取引業法では黙認されている両手取引(利益相反)は、弁護士法の見解では断罪される。

実際になんとも不思議なのが両手取引なのです。

このような利益相反が認められる根拠としては「慣習法」が援用されているというのが筆者の見解です。つまり「社会の成員の間に存在する一定の慣行のうち、その慣行が成員によって法的拘束力があるものと意識されているもの」という慣習法を援用し、不動産業界では「両手取引」が慣習として行われてきたのだから「そのあたりはよしなに」という考え方がまかり通ってきたのでしょう。

もっとも、不動産相場には地域格差があり、総じて物件価格の低い地方で「両手取引」が禁止されれば、経営がなりたたず撤退する不動産業者が数多く現れるでしょう。

国民経済における不動産業の位置付け

国土交通省がまとめた「不動産産業ビジョン2030」によれば事業所も含めた不動産業者のおよそ9割は社員10人以下で構成されているとしています。

広告宣伝費に投下できる金額も全国展開する大手業者とは比較になりませんから、少しでも「安く」情報を入手できるようポスティングに汗を流し、不慣れなYou Tubeで顔を売り、SNSでこまめに情報を発信するなどの努力を続けているのです。

そのような現状を身にしみて実感している筆者としては、グレーであるとは理解しつつも囲い込みの温床にせず良心的に販売努力をするという前提で「両手取引は必要である」と考えています。

ですが冒頭で述べたように、そもそも媒介報酬は上限を下回る設定は自由なのですから、各業者がそれぞれの考えに基づき、買側報酬を「無料」にするのも自由、そしてその理由を自社のホームページなどで表明するのも自由です。

あくまでも各社の考え方に基づき自由に競いあうのが良いと思っています。

迎合しなければならないか

過去に利益相反、つまり両手仲介は本当に合法なのかについて公的な提言は繰り返されてきました。

「いずれ両手取引は規制される」と言う意見をよく耳にしますが、筆者は当面、心配ないと考えています。

筆者の知る限り、昭和61年に建設省建設経済局が監修した「21世紀への不動産産業ビジョン」において「両手志向から片手至高に転換すべき」と提言され、平成4年同誌でも「取引当事者双方の立場に1つの業者が関与することは利益相反の恐れがある」とされ、さらに平成6年には不動産媒介契約研究会により「両手志向は最終的に排除されなければならない」と提言されています。

これ以外でも40年にもわたり(実際にはそれ以前から)何度も議題に取り上げられながら、その都度、なし崩し的に議論が収束された歴史を顧みても、両手取引が禁止される可能性は低いと思うからです。

ただし「囲い込み」の温床が「両手仲介」にあるには皆さんご存じのとおりです。国土交通省も「囲い込み」が横行している事実は把握しており、「不正が発覚した場合は改善の指示処分を下し、従わない場合には業務停止処分もありうる」としていますが、、一部中小のみならず知る人ぞ知る大手でも支店や営業単位で平然と「囲い込み」が行われています。

レインズ登録ルールの改正やステータス管理の導入などにより多少、減少傾向にあるようですが、抜本的な解決には至っていないのが現状です。

それよりも筆者が懸念するのは、それでなくても集客率の高い大手不動産会社が「SUUMO」の仲介手数料無料表記の解禁にあわせ、そのような制度を部分的にでも導入した場合における業界全体への影響です。

現在までのところ「仲介手数料無料」として掲載されている物件は、媒介業者であっても「売主」である場合がほとんどです。

そのような状態であることから直近で影響が確認されている訳ではありません。

ですがこれからは様々な会社が少しでも情報を集めるための苦肉の策として媒介報酬について検討していく可能性もあり、大手が介入してくる可能性もまたあるでしょう。

圧倒的なシェア率をほこる不動産ポータルサイト「SUUMO」による、仲介手数料や諸費用についての掲載解禁が業界全体に及ぼす影響は少なくありません。圧倒的に元付けシフトが強くなります。

当面は掲載情報をこまめに確認し、他社の動向を覗いながら自社の方向性について検討していく必要があるでしょう。

「仲介手数料無料」の表記が解禁されたことによる弊害

最後になりますが「SUUMO」が仲介手数料や諸費用についての掲載を解禁したことにより、他のポータルサイトも追随していくであろうことは予想できます。

それによりどのような変化が訪れるのかについて考察してみましょう。

不動産業の法人数は右肩上がりで増加しています。

不動産業,法人数

それに伴い、不動産業の従業者数も平成27年以降、過去最高を更新し続けています。

従事者数の推移,不動産

法人数は増加していますが、その57%は従業者1~4人の小規模な会社です。さらに9人以下の法人まで合わせれば全体の77%にまで達します。

従業者規模別事業所数

つまり小規模な不動産会社が増加し、そこに属する従業者もまた増加している。

それにたいし不動産の取引件数は微増に留まっています。

つまり少ないパイを数多くの業者が奪い合っている状態なのです。

そのような状況では、なりふりかまわず売上げを上げなければいずれ立ち行かなくなります。

そんな厳しい時代に、「SUUMO」が仲介手数料や諸費用についての掲載が解禁されました。

手数料無料表示は間違いなく目を引きますし、反響にも期待できます。

ですが、掲載するためには売主もしくは元付けとして売却物件を持たなければならない。

業者によっては売り物件を集めるため、売主手数料を値引き(もしくは無料)にして募集する業者が増加する可能性があるでしょう。

もっとも買主手数料無料で不動産ポータルサイトに掲載して両手で成約しても、片手の半額程度の報酬しか得られませんが、買客情報が得られるというメリットはあります。

そのように考えれば、報酬の目減り分はある意味で広告経費だと割り切ることもできるでしょう。

売却相談の数が増えれば、交渉次第で買取に移行できるチャンスも増加します。

中には物件を「囲い込む」み、うまく買取に誘導することを目的とする会社が現れるかも知れませんが、そのあたりはモラルの問題でしょう。

そのような売却物件募集が常態化すれば、業界全体として「手数料自由化」のイメージが顕著になり正規報酬を請求しづらい時代が到来するかも知れません。

それによる混乱状態が蔓延すれば「利益相反についての議論」が蒸し返され、両手取引が禁止されることになりかねません。

結果的に業界全体の停滞をまねく危険性もあるでしょう。

まとめ

筆者が今回皆様にお知らせしたかったのは、「媒介報酬無料表記」の是非ではありません。

影響力の強い不動産ポータルサイトで「仲介手数料無料」表記が解禁されたことにより、他のポータルサイトも同様の表記が可能になりやがて「仲介手数料無料」だけを条件として検索するユーザーが増加していく可能性があるということです。

そのような時代に備え、自社はどのように対応していくべきか。

今後の事業展開も含め考える時期が到来したのかも知れません。

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