建築価格が高騰を続ける現在でも、どうせ住宅を建築するなら「大手ハウスメーカーで建築したい」という方は多いでしょう。
私たちが媒介依頼を受け「土地情報」をレインズに登録すると、ハウスメーカーの営業担当から物問い合わせが入ることも多いでしょう。
また直接、問い合わせしてきた顧客と話をすると「良い土地が見つかれば、〇〇ホームさんに依頼しようと思って……」なんて話もよく耳にします。
およそ注文住宅を検討する方が1度は訪れるであろう「住宅展示場」では、各ハウスメーカーが威信をかけて建築した住宅がきらびやかに立ち並んでいますから、初めて訪れた方は圧倒されます。
展示場によっては全国展開していなくても、各地域で知名度の高い工務店さんなども軒を連ねますが、いずれにしても他社より少しでも客の目を引くために「贅」の限りをつくしたような最新設備機器が採用され、室内レイアウトもコーディネーターにより美しく華麗に飾り付けられています。
マイホームを夢見ている方には魅力的な空有であるのは間違いありません。
もっとも建築面積が過大で内装の華美も過ぎて「現実味がないよね」なんて言われることも多いようですが……
余談はさておき、住宅展示場への出展費用と年間経費は地域によってバラツキもありますが、モデルハウスの建築費も含めた出展費用は「億」で、年間経費は数千万円という単位です。
これらの経費にくわえ数多い社員給与や広告などの販管費などの諸々は、すべて建築価格に反映されます。
つい先日、鉄骨型大手ハウスメーカーの営業マンに聞いた話では、平均坪単価は150万円を超えているとのこと。
35坪程度の注文住宅で5,000万円を超えます。
さらに土地代+諸々の諸経費ですから、予算は「億」でみておかなければならない。
このレベルになると、共働きの公務員でもおいそれと手をだせる金額ではありません。
いったいどのようなユーザーをターゲットにしているのか疑問に思うのですが、くだんの営業マンに言わせれば「業績は前年対比で増加している」とのことでした。
ですが、そのような増加状態が今後も継続していくのかと言えば疑問です。
空き家問題の温床ともなっている住宅ストック戸数は年を追うごとに増加を続けていますが、それにたいし世帯数(人口を含め)は減少しています。
国土交通省が公開している住宅新設戸数を見ると2022年は85万9529戸と前年比0.4%増となっていますが、利用関係別で見ると注文住宅は前年比11.3%減の25万3287戸と大きく落ち込んでいるのがわかります。
このような注文住宅の今後について、㈱野村総合研究所が昨年(2022)5月に公表した「2019~2040年度の新設住宅着工戸数」の推計・予測によれば2030年には利用関係別でも全ての新設が減少するとしています。
当面、建築単価が減少する予測は成り立たず、新築注文住宅は「高嶺の花」になる。それでも自分の「城」となる住宅は欲しい。そのような方が目を向けるのが既存住宅です。
ストック市場では、すでに日本全体の世帯数を上回る量が確保されています。
物件によりけりですが、少なくても新築と比較すれば安価に手に入れることができる。それを再利用しようという考え方に移行していくのも自然な流れでしょう。
既存住宅を購入する世帯比率は、2040年には全住宅購入者のうち33%にまで達するのではないかと予測されています。もっとも、世帯数が減少していくので全体の取り扱い件数は微増となってはしまいますが……
既存住宅流通量を購入すれば少なからず手直しが必要とされますから、取引量増加に伴い増加が予測されているのがリフォーム市場です。
誰しも可能であれば注文住宅、無理だとしてもせめて新築住宅を購入したいと望むでしょうが、購入価格などを考えれば手が出せない。
それでも住宅を購入したいという思いがあるので既存住宅を選択し、可能な限り快適な環境を構築したいとの思いからリフォーム工事を行うのでしょう。
もっとも既存住宅とリフォーム、この二大市場が今後、増加していくという予測は現在状況をみれば誰しも予測できます。
ハウスメーカーも手をこまねいている訳ではありません。自社の建築物件については積極的に買取再販を行っていますし、リフォームにも力を入れています。
ですが、それだけではありません。
ハウスメーカーには圧倒的な「強み」があるのです。
大手メーカーを選ぶ人は「安心」を買っている
高額であっても大手メーカーで建築したいと希望するのは、もちろん各社がしのぎをけずる性能やデザイン面などに「惚れた」ことも理由かも知れませんが、それ以上に「大手だから安心」といった面もあるのでしょう。
住宅の性能も含めた建築知識全般は、素人では理解しにくい部分も多く「本当に問題なく建築されているか」の見極めが簡単にできるものではありません。
その点、大手であれば問題ないだろうし、何かあった時のメンテナンスにも柔軟に対応してくれるだろうし、保証もしっかりしているだろうと考え依頼するのではないでしょうか。
ですが全て「だろう」、つまりは希望的な観測に基づいた憶測なのです。
筆者は32年にも及ぶ不動産関連業務歴においてハウスメーカーに勤務していた時代もあり、現在でも大手ハウスメーカーの営業マンと付き合いもありますので内情については相応に知っています。
たとえ大手であっても「アフター連絡をしてもきてくれない」などの口コミは、インターネットで検索すれば驚くほどの量を確認することができます。
気をつけたい長期保証の落とし穴
大手ハウスメーカは安全・安心・長期保証を「売り」にしていますから、「住宅の品質確保の法律」で定められている10年保証は当然として、20年30年は当たり前、なかには「永年保証」を表明しているところもあります。
これを見ると、「さすが大手メーカーは長期に保証しているんだな」と思われるかも知れませんが、そう単純なものではありません。
10年目以降の保証延長を受けるためには、「建築メーカーによる点検・メーカーが指定した箇所の営繕工事」が絶対条件です。
さらに、皆様ご存じのように大手ハウスメーカーの営繕工事費用は安くない。
それも当然で、下請け業者の見積もりに自社の利益をのせて顧客に提示しているのですから当然です。
もっともメーカーが保証するのですから利益を得ていても当然ではありますが、驚くほど「高額」です。
筆者はよく、不動産コンサルでこのような大手メーカーの延長保証の手直し工事見積金額が妥当なのかチェックして欲しいと依頼され、目を通すことがあります。
項目も必要な部分を拾い出していますし、数量も正しく記載されているのはさすがです。
けれども、それぞれの「単価」が恐ろしく高い。
筆者が日頃から付き合いのある信頼ができる確かな技術を持った職方に依頼すれば、おそらくですが「半額以下」に収まる場合もあるでしょう。
各メーカーが保証を延長し「責」を負うのですから「暴利」とまでは言えませんが、工事を実施しなければ延長保証は打ち切られます。
冒頭の鉄骨型大手ハウスメーカーの営業マンによれば、10年目の営繕工事の目安は「坪10万円」程度とのこと。
35坪程度の住宅で350万円です。
10年目といえばほとんどの方は住宅ローンを支払っている最中でしょうから、350万円もの費用を拠出するのも簡単ではないでしょう。
そのために貯金をしておくにも、年間35万円、月々約3万円を10年目に訪れる営繕費のために貯金しなければならない。
もっとも高くつくのは外壁の塗布ですが、光触媒のサイディングやガルバリウム鋼板などを採用していれば、メーカー保証は別として、まず10年目の塗布は必要ありません。
15年目以降に検討すれば充分でしょう。
窓まわりなどのコーキングなど(使用部材により異なりますが)も同様です。
もっとも保有している性能が失われる前に適切なメンテナンスを行うことは、放置して大掛かりなメンテナンスが必要になることに比べれば良いことです。
また各メーカー独自の方法で建築された住宅を一番に理解しているのは、提供しているハウスメーカーであることは間違いありません。
費用はさておき、「安心な住宅を購入したい」と考えて選んだ顧客にとっては、メーカーによる点検実施後に提示された工事は「安心を継続する」という意味では必要なのかも知れません。
ですが延長保証という大義名分があるものの、減少を続ける着工棟数と利益を、大手だから安心と建築した顧客を「囲い込むことにより補っているのでは?」と考えてしまうのは筆者だけではないでしょう。
保証を継続するために割高なメンテナンス工事を実施するか、それとも保証が打ち切られるのを理解したうえでリフォーム会社に依頼し、費用を安くあげるかは所有者の判断次第ではありますが、メリットとデメリットを比較したうえで判断することが大切でしょう。
保証が継続中の物件を中古で売買する場合、届け出は必須
費用はさておき、所有者がこのような工事を実施しハウスメーカーの延長保証を継続して受けている状態で中古住宅として売却する場合、各ハウスメーカーごとに定められた方法により新たな所有者登録をしなければなりません。
これを怠った場合、せっかく継続している延長保証が打ち切られることになりますので、媒介業者が取引する場合にも注意が必要です。
このあたりの判断基準は各メーカーにより見解は様々ですから、取り扱う場合には延長保証などに関する約款を読み込むしかありません。
建築メーカーの同意は当然必要であるとのはもちろんですが、購入者とハウスメーカーは直接の契約関係にはあたりませんから「承継できない」としているところも多いようです。
メーカーによっては、「売却時の承継について同意する」としているところもあります。例えばPanasonic Homesの場合、以下のような手続きを経ることで購入者に保証が譲渡されます。
1. 売主から保証者(登録業者)に連絡
2. 保証者と売主が「保証書承継の確認書」に基づき、現在までに実施されたメンテナンス状況、 経年変化の状況などを確認し、保証内容を確認
3. 保証者が売主から保証書を回収し、あらたに「保証承継確認書(2通)」を作成
4. 保証者から「保証承継確認書(1通)」及び「保証書」が買主に渡される
5. 保証者は、以上により「訪問管理システム」に新たな所有者を登録。それ以降は締結された保 証は購入者にたいして適用され、予め定められた頻度で定期点検などを実施される。
注意していただきたいのは、常に売主・保証者・買主の三者が絡むということです。
どのハウスメーカでも物件の引き渡しが終わってからの申請は、条件違反であるとして受理されせん(あくまでも各ハウスメーカーの保証対象者は、従前の所有者だからです)
売却を開始する前の確認事項であると覚えておきましょう。
まとめ
今回、解説したようにメリット・デメリットが存在するハウスメーカーの長期保証。
囲い込みの温床とも揶揄される割高な補修工事を実施して「安心」を継続するかの判断もそうだが、そのような実態を理解した上で中古住宅として販売する場合、そのような保証を承継するのかの判断は、継承が認められているかの確認も含め購入者に説明しなければならない事項でしょう。
もっともすでに付与される保証については承継することにデメリットはありませんが、定期点検後の考え方については充分に説明し理解を得ておく必要があると言えるでしょう。