【地盤について顧客からの質問】そもそも地盤ってなんだろう?

住宅を新築する場合はもちろん既存住宅においても関心が高まる地盤。

地盤が悪ければ新築時において表層改良や柱状改良(支持杭)が必要となり、当然にその費用が上乗せされます。

土地価格が安いからと喜んでいたら地盤改良工事で結局は総額が割高になることなど珍しくありません。

新築の場合は地盤保証がついていますから万が一不同沈下が発生しても保険により修復してもられますが、既存住宅の場合、補償の有無を確認しておくことは大切です。

地盤改良工事が一般化したのは平成12年のことです。

「住宅の品質確保の促進等に関する法律施行令」が制定され、基礎を含めた柱や床などの住宅基本構造部分について10年間の瑕疵担保責任を販売業者に義務付けたことが契機となっています。

ですからそれ以前に建築された住宅については各業者の判断で地盤保証を付保している場合とそうではない場合があります。

もっとも地盤保証の期間は工事期間+引きし日から10年ですからすでに保証期間が切れている場合もあるでしょう。

それでも保証を受けるために地盤改良工事等が施され、その前提として地盤調査が行われているのですから安心度合いの違いは雲泥の差です。

建物不同沈下は地盤改良工事が行われていないころが原因となる場合が多いものの、それだけではありません。

盛土造成工事の不備や不可抗力である地震の影響を受けての液状化、洪水による地盤侵食、近隣での過剰な地下水の組み上げが原因になるなど様々です。

ちなみに地盤保証保険に加入していても地震・噴火・洪水・津波のほか爆発・暴動など不可抗力に起因する損害は保証対象外です。

そのような説明をすると、「不同沈下が発生した場合における費用の目安はどのくらいですか?」と質問されるのですが、沈下の程度や選択する復旧方法などにもよることから一概に言えません。

目安としては平均的な下屋の大きさ(15~25坪)の場合で300~800万円程度でしょう。

実際に見積もり金額を見て躊躇される方がほとんどですが、不動産沈下により傾いた住宅に住み続ければ平衡感覚に異常をきたし頭痛・吐き気・目眩などの健康被害を及ぼすばかりか、食欲減退を誘発し鬱状態を引き起こすなど健康面に少なからぬ影響を及ぼします。

傾いた住宅を販売しようとしても、その状態について告知しなければなりませんから売却にも苦労するでしょう。

筆者はこれまでにも不動産会社のミカタコラムにおいて数度、地盤に関する記事を寄稿しています。

それらは地盤に関する調査義務や情報の収集方法について解説しているもので、「地盤とはなにか?」といった基本についての解説は行っていません。

そこで今回は「そもそも地盤とは」という点を中心に解説していきます。

地盤とは何か

地盤は地表からおよそ100Mまでの部分を指します。

地質図を目にしたことがあるかたも多いと思いますが、日本におけるほとんどの地盤は2つの層で成り立っています。

約1万年前以降にできた沖積層(ちゅうせつそう)とそれ以前にできた洪積層(こうせきそう)です。

沖積層と洪積層はことなる時代に出来上がりましたので性質に違いがあります。

このうち安定している地盤は古い方、つまり沖積層です。

ですから「このあたりは地盤がよくて……」と言われるエリアは沖積層が表層近くまで達していることが多いのです。

地盤調査報告書には地質図や推定土質が添付されており、調査地盤を構成しているのが粘土・シルト・砂・れき、であるなどと表記されているかと思います。

地盤調査報告書

砂分が多ければ砂質土、粘土や泥が主体であれば粘性土、砂利が多ければ礫質土になりますが、このうち粘性土の場合には長い年月をかけ水分が抜けていくことにより発生する「圧密沈下」が懸念され、砂質土では建物の過重で即時に土の中の水が抜け発生する「即時沈下」の可能性を疑います。

また当該地が古くは沼地などであった場合には植物が折り重なってできた「腐植土」により地質が構成されている場合もあります。

この場合は体積が圧縮しやすく極端な軟弱地盤となる場合が多く、また柱状改良工事で使用したセメント系硬化剤が固まりづらく「固化不良」を起こす可能性があることから工事会社にとっても鬼門と言われる地質であると言われています。

危険推定地域と指定区域、そして罰則強化

地盤と同様に念頭に置きたいのが地形区分です。

私達が取り扱う不動産も大別すれば山側から山地・丘陵地・台地・低地に分けられます。

ですが丘陵地から低地にかけて人工的な地形として盛土や埋立地が存在している場合もあります。

2021年7月に発生した熱海土石流災害などは、山地における内水氾濫により発生した土石流の影響を杜撰な盛土造成工事の宅地が受けきれず甚大な被害を及ぼした典型です。

危険推定地域,指定区域

その後、国土交通省が全都道府県にたいし危険盛土の一斉点検を指示、その結果危険であると推定される地域が全国で36,000件も存在していると報告がなされ世間が驚愕しました。

これを受け土砂災害を防ぐための法改正が検討され、その結果「盛土規制法」が本年(令和5年)5月26日から施行されました。

これにより盛土崩落で住宅に被害が出る恐れのある場所については都道府県が独自に「規制区域」として指定できるようになりました。

規制区域内についての造成工事は当然に許可制となります。

国土交通大臣,農林水産大臣,基本方針,盛土

災害防止のために必要な許可基準が設けられ、施工についても定期的な報告や中間検査、完了検査を盛り込んだほか、土地所有者だけではなく工事を行った業者など原因を生じさせた行為者にまで責任が及ぶように改正されました。

違反した場合には最高で3億円(法人の場合)の罰金と懲役3年を科すとされていますから不心得業者の数は減ることでしょう。

おおよその地盤情況はどのように知る?

当該地の推定土質などを知りたい場合には地盤調査による、もしくは近隣で行われた地盤データを参考にするしか方法はありません。

ただし目安となる基本的な地形分類や表層地質だけを知りたい場合には国土交通省が提供している「国土数値情報ダウンローダサイト」を利用すれば、無料でデータを取得できます。

国土数値情報ダウンロードサイト

このサイトでは行政区域や鉄道・道路・河川・地価公示・土地利用メッシュ・公共施設など国土に関する様々な情報が提供されています。

筆者も日頃から愛用していますが、使いこなせば様々な調査に利用できるでしょう。サイトへは下記URLから入ることだできます。

https://nlftp.mlit.go.jp/kokjo/inspect/landclassification/land/l_national_map_5-1.html

ウエブマッピングシステムなど面白い機能が満載なのですが、今回は地盤に関する解説ですので国土調査のうち「土質分類調査」について紹介します。

土質分類調査

国土数値情報ダウンローダサイトから国土調査→土地分類調査→20万分の1土地分類基本調査へとすすめてください。

開かれるページでは地形分類図・表層地質図(平面的分類図)・土壌図を確認できます。

また一部の地域に限定されるものの起伏量・谷密度図・傾斜区分図・表層地質図(垂直的分類図)・土地利用現況図なども確認できます。

地形分類図・表層地質図(平面的分類図)・土壌図

表層地質図においては砂・粘土・泥炭など固結積類物が色分けされ表示されていますので、主観的にどのような表層地質であるか確認できるでしょう。

表層地質図

地形分類図・表層地質図・土地利用現況図・起伏量谷密度図など図面が変わっても、基本的に色分で分類されていのは同様ですので見比べればすぐに理解できるでしょう。

まとめ

当該地の支持基盤はどのあたりか、つまり地耐力について質問されれば「地盤調査を行わなければ回答できません」としか返答できません。

ただし地質の傾向についてであれば表層地質図を提示して説明できます。

また起伏量・谷密度図などを活用すれば土砂災害の可能性についての説明も可能でしょう。

新築の場合であれば引き渡し後10年間は天災など不可抗力を除き引き万が一の不同沈下について保証されます。

コラム内で解説したように、保証期間が満了していても地盤調査が行われ適切な措置が施されている住宅、もしくは平成12年4月1日以降に建築確認が提出された住宅であればひとまず安心できるでしょう。

それ以前に建築された地盤調査や適切な措置がされていない既築住宅においては、不動沈下の発生確率は格段に跳ね上がり、万が一の場合、復旧には過大な費用が必要になります。

媒介業者には地盤についての調査は義務とされていません。

ただし顧客が快適に暮らせる住宅を斡旋するという不動産業者の矜持からすればリスクについて説明することも必要でしょう。

不動産のプロとしては、今回解説した地盤に関する基本的な知識を念頭にして説明するよう心がけたいものです。

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