わからないことは専門書や辞書を紐解き調べる。
そのような方は極端に少なくなり、「ググる」との言葉が広く認知されているようにインターネットによる検索が圧倒的に多くなっています。
それもパソコンではなくスマホを利用してのお手軽検索が一般的。
筆者はコラムを執筆している関係上、語彙や法律条文などを調べるため広辞苑や判例六法などは書籍版を愛用していますが、それらの権威ある書籍も電子版が普及しており好みに応じ好きな方を選択できます。
便利で手軽、使い勝手が良いなどの理由から出版業界はかっての勢いはなく、電子版に活路を求める傾向が高くなっていますがその傾向はますます顕著になっていくでしょう。
よく耳にする「Z世代」は、1980年頃から1990年代中盤に生まれた「Y世代(ミレニアム世代)」に続く世代を指しており、一般的には1990年代以降に誕生した「28歳以下(執筆時点)」の方々を指します。
この世代はデジタルネイティブ世代とも称され、義務教育前後の時代から当然のようにインターネットを利用している傾向が高いと言われています。
成人年齢が18歳に引き下げになったことから、18歳以降10歳年上までの年齢層については賃貸契約はもとより売買の契約も可能ですから、すでに私たちの契約対象になっています。
またそこからさらに10年も経過すれば、住宅購入年齢の中心となる38歳に順次達していきますから、世代間ギャップに惑わされずその指向性などについて知っておくことは将来に備える意味でも必要なことです。
そこで知っておきたいのが、Z世代はどのような媒体を利用して部屋選びをしているかです。これについてはリアル拠点とシナジーでライフスタイルデザインを追求するとしている「ハウスコム株式会社」が『2023年度“部屋選び”に関する調査』と題したアンケーを実施してその結果を公開しています。
今回はアンケート結果をサンプルとしてそれ以外の調査も参考に、今後、主要な顧客になるZ世代が不動産業者にアプローチする契機について検証し、反響を得るためにはどうすればよいかを勘案し、今後、私たち不動産業者が取り入れるべき方法について考えてみたいと思います。
DX導入が失敗するのは社内コンセンサスが得られていないから
皆さんは『世界を変える破壊的技術』との表現を聞いたことはあるでしょうか?
消費者庁が令和元年12月17日に発表した「消費者を取り巻くデジタルの現状と課題」の中で用いた言葉ですが、世界のトップであるコンサルティング企業マッキンゼーが2013年に予想した12のデジタル技術を指しています。
これは「破壊的イノベーション」、つまり既存の市場で求められる価値を低下させつつ、新しい価値基準を市場にもたらすイノベーションと解釈しても良いかもしれません。
実際に5GやITの発展により、2013年当時は印刷書面が主流であった契約書も電子契約が普及するなどデジタル時代の商取引は予想を上回る発展を続けています。
情報の入手や購入に関してはもはや地域格差は解消されつつあり、実店舗が最寄りになくてもAmazonなどを利用すれば世界中の事業者から購入できるようになりました。
ITには疎いと言われてきた不動産業界も、このような状況にたいし手をこまねいている訳ではありません。先進的に不動産とDXの融合を国家レベルで推進している国においてはその動きが加速しています。
例えばシンガポールは国土を丸ごと3D化したプラットフォームである「バーチャル・シンガポール」の構築を推進しており、環境・防災・インフラ・管理など幅広い分野での活動に生かしています。
このように先進的な取組をしている各国にたいし、普及率が相応であると思われがちな日本は世界的に見れば遅れているとされています。
例えばヨーロッパ諸国を中心に日・米も含めた38カ国が加盟するOECD(経済協力開発機構)における「職場のデジタル化」の調査において、日本は平均値を下回っています。
「もの造り」については日本が一歩先んじているされたのは昔の話で、デジタル先進国である目安となる国民視点のデジタル化に政府がとれだけ「力」を入れ、また成果を残しているかをランク付けした早稲田大学デジタル政府・自治体研研究所による「世界デジタル政府ランキング2022」を見ると、日本は10位(前年は9位)に過ぎません。
順位が上がらぬ理由の一つとして、デジタル化やDX導入に対する抵抗の根強いことがあげられています。
技術的な理解不足や組織としての取り組み方、人材育成の確保など、企業がデジタル化を促進する際には様々な事前準備が必要とされ、それを怠ると反発や批判が露見します。
導入しても社内の協力が得られない。
そのようなシステムを顧客が利用するはずもありません。
私たちがデジタル化やDXを導入する場合には、社内や顧客から信頼を得るために情報の透明性やセキュリティ対策などに最大の注意を図ることが重要だということです。
そのような意識改革の遅れが、技術的には充分なレベルに達しているにもかかわらず導入が遅れる原因となっているのかもしれません。
「そんなはずはない。モバイル端末は国民に広く普及し、様々なサービスを利用しているではないか」と反論されるかたもおられるかと思いますが、確かにモバイル端末の普及率だけに目を向けると100%に近い所持率です。
ですが先進的なプラットフォームやアプリが提供され、それを実際に顧客が喜んで受け入れ使いこなせているかと考えれば、必ずしもそうではないはずです。
筆者の個人的な見解ではありますが、技術的な観点だけを見れば日本が他国に遅れている訳ではなりと考えています。
ですがデジタル・テクノロジーへの理解不足や組織としての取り組み方、人材の育成や確保の観点においてはまだまだ改善の余地がある。
不動産業とDXの親和性が高いのは公然の事実とされていますが、必要性や導入による業務効率の改善について説明をしても懐疑的な方が多い。
もっともこれは不動産業界だけの話ではありません。
業界によらず企業文化・人材・組織面がDX導入の障壁となっていると、多くの経営者が考えているからです。
ですが、企業が不動産DXの導入に躊躇している間に近未来において顧客の中心となるZ世代の指向性は変化しているのですから、取り組みは継続していかなければなりません。
You Tubeは情報収集のために利用されている
主観的には、不動産DXは売買より賃貸の方が進んでいる印象を受けます。
ですが実際には注文住宅メーカーによる導入が最も進んでおり、また利用もされているのです。
国土交通省による「住宅市場動向調査」においても数値で報告されていますが、全国に実在するモデルハウスを仮想空間に一堂に集めた「メタ住宅展示場」が2022年8月よりサービス提供されているほか、固有の住宅展示場で展開されているモデルハウスをVRで内覧できるシステムが展開されるなど導入度合いを確認できます。
「不動産業界のDX推進状況調査」が不動産テック4社・メディア2社の合同で行われ、その結果が2022年8月2日に公開されていますが、不動産DXは「導入すべきだと思うか?」との質問にたいし「推進すべきだと思う」が98.4%に達しています。
今後、最も導入を検討しているのは「電子契約システム」で、次いでIT重説・電子申込などへと続きますから、どちらかと言えば契約実務を効率化することが優先されているようです。
業務の効率化がDX導入理由の一つですからこれは頷ける結果ですが、それ以外にも顧客サービスの向上・マーケティング強化・データ分析と予測の活用・競争力の獲得などがあります。
どのような順番でDXを導入していくのかは各会社の判断次第ではありますが、顧客サービスの向上を重視した場合には、発信力の高いZ世代の動態に着目する必要があるでしょう。
不動産についての情報を得る際には全年齢においてインターネットが主流となっていますが、中でもZ世代は不動産に限らず、情報検索にSNSを利用していることが確認されています。
しかもYou TubeやInstagramなど、長文を読むことなく概略を知ることができるアプリなどの愛用率が圧倒的に高いのです。
さすがに不動産に限って言えば、You Tubeなどにより知ることができる情報量が不足することもあり、ウェブサイトと併用しているようですが、間違いなくキッカケになっているのでしょう。
このような趣向性から伺えるように、Z世代はおおよその情報をより効率的に知ろうとする傾向が高いとされています。
これは表面的に多様な価値観を有する人との接触機会が多く、それにより多様性に対する感受性が高いからではないかと分析されています。
反面、それが個人の価値観に直ちに影響を与えるのかと言えばそうでもなく、他人からの評価を気にするという傾向もあるようです。
価値観や多様性に柔軟に対応しうる性質を持っていると言えるのでしょう。
そのような意味から今後、トレンド発信の中心となるのはZ世代であり、同時に消費の中心になっていくのですから、注目していく必要があるのでしょう。
Z世代が感じているポータルサイトへの不満を知る
効果的なアプローチを検討するためには、Z世代が利用しているサービスと実際に利用したことにより抱えている不満について理解し、それを補うサービスを提供することが必要でしょう。
不動産ポータルサイトやアプリの利用者にたいするアンケート結果での不満点としては「物件の周辺環境がわからない」がトップで、「希望に近い物件が出てこない」、「物件の広さがイメージしづらい」と続いています。
You Tube動画などが好まれる理由は、部屋の広さや間取りなどのイメージしやすいからだとされています。
より効果をあげようと考えた場合には駅から物件までの距離感や近隣環境のイメージを伝達できるような動画を提供すると良いでしょう。
動画を作成するのは相応の労力を必要としますが、効果的な情報が得られるとの印象を与えられればお気に入り登録者やリピーターが増加し、労力に見合うだけのリターンが得られる可能性が高まります。
動画を閲覧した方のそれ以降のアクションとして、不動産会社に相談する・相談はしないまでもそのエリアに興味を持ちポータルサイトなどで検索するなど具体的な行動を起こしています。
より内容を盛り込んだ情報を動画で提供することにより、着実に効果が得られるようになるでしょう。
紹介動画作成時のポイント
前述したように、特にZ世代にたいしての動画広告は「物件の中身がイメージしやすい」「物件の広さがイメージしやすい」など物件動画を見ることでイメージが湧きやすいとして好意的に受け止められています。
また動画を閲覧してアクションを起こす方に共通しているのは、「部屋に対するこだわりが強い」という傾向です。
良い条件の部屋であれば、賃料に比例することが多いのですが、動画をキッカケとして部屋選びをしたかたは平均賃料が7,450円高くなるとのアンケート結果が公開されています。
アンケートは主に賃貸における部屋選びについて調査されていますが、その趣向性は適齢期に入り物件を購入する際にも引き継がれるでしょう。
そのような時代に備える意味でも、早い段階から売買物件についても動画を公開していくのが良いのではないでしょうか。
実際に作成をする場合の配慮としては駅から物件までの状況や、キッチン・トイレ・浴室などの水回りの状態は特に詳しく、リビングからの眺望や各部屋の日当たり状況などは取り入れたいものです。
動画を撮影する際の注意点ですが、一部の動画広告では「抜群」、「買得」、「特選」など原則として使用してはいけない用語を使用しているものが見受けられます。
たとえ口頭やテロップであったとしても誇大表現は許されません。
「不動産の売買及び賃貸の広告に関する公正競争規約」は遵守しましょう。
物件のメリットばかりを強調するのではなく、テロップなどを活用して必要な表示事項についての情報は正しく提供することが必要です。
また成約済み物件については放置せず、動画の削除やSOLD OUTにするなど誤解を与えないよう配慮する必要があります。
まとめ
筆者が不動産業界に入りたての頃は新聞広告やポスティングが全盛でした。
まだインターネットが一般に普及しておらず、携帯電話のアナログ電波を使用する初期のもので料金も高く、所有しているのは一部の職種だけに限定されるような時代です。
それから技術革新が進み、携帯電話は多機能端末であるスマートフォンが全盛となり、ほとんどの情報が手元で入手できる。
ニュースはリアルタイムで配信され、新聞を読まないかたも増加しました。
購読率が下がれば新聞広告の効果も期待できませんから不動産広告もポータルサイトが主流になるのは必然でしょう。
物件写真や図面・基本的な情報などをシステム入力すれば、誰しもが簡単にネットで物件情報を発信できます。
簡易さが魅力でもあるネット広告ですが、一工手間加えなければ数多ある物件に埋もれてしまいます。
同じ労力をかけるならより成果が期待できる広告展開をしたい。
そのためにも各年齢層が利用しているサイト情報や不満などを理解し、選ばれる提案をするよう心がけたいものです。