【正確に理解できていますか?】覚書・合意書・協定書の使い分けと違いについて

不動産業者が宅地建物取引業法第37条書面、いわゆる重要事項説明書を作成するにあたって役立つアプリである役所調査のミカタ(不動産会社のミカタ提供」を利用して、越境についての例文を検索すると、以下のようなものが確認できました。

越境,例文

本来であれば越境が確認された場合、決済までに根本的な問題を解決(撤去もしくは移設など)できるのが最善ですが、塀や樹木、ガレージなど簡単に移動できないケースもあります。

その場合には越境しているという事実関係を当事者同士で確認し、解決できる時期が到来した際にはそれを行うことを約し取引をすすめます。

まさに役所調査のミカタで確認できる例文のとおりです。

このような時に約定を記す書類として覚書・念書・約定所・協定書など、どの書式名称を用いれば良いのかで悩むこともあるでしょう。

ですが、そもそもの話としてこのような合意文書は、その名称や形式により優劣はあるのでしょうか?

今回は、文書作成時に悩みがちなこれら書式に関して解説したいと思います。

合意内容が書類名称により左右されることはない

いきなりで恐縮ですが、合意を記す文章は書類名称などによる法的な優劣はありません。

ですから、記載される内容が要件を満たしてさえいれば、名称はどれを用いても問題ないのです。

そのように解説すればそれで話が終わってしまいますので、書類名称について一般的に認知されている内容について紹介しておきましょう。

●約定書
約束し定めた事項を記載し、当事者間で取り交わす証書
●合意書
当事者間で、取引内容などの事項について合意したことを称するため作製される。
●同意書
相手方が将来的に予定する法律・事実行為について、あらかじめ同意していることを証するために作製される
●覚書
当事者同士が行った約束・合意内容について失念を防止するためにまとめられた証書
●念書
後日証拠になるよう、念のため記される書面
●承諾書
相手方からの提案や依頼・要求に納得したことについて、その意思表示について記載した書面

関連する証書としてすぐに思い浮かぶのは以上のようなものですが、相手方に差し入れることが多い承諾書を除けば、名称の違いにより認識されている表現は違っても作成し締結される目的はほぼ同じです。

つまり相手方と交渉し、合意した内容について後日紛争を防止するために作製されているということです。

このような目的を理解すれば、どの名称を用いても問題がないことは理解できるでしょう。

合意書もしくは同意者の書き方などをサイトで検索すれば、もっともらしい記載例が数多く出てくるでしょうが、結局は簡易的な契約書に過ぎないのです。

ですから名称で悩むより、合意内容が漏れなく記載されているかについて考える必要があるのです。

書式名称で悩む必要はない

前述した各合意書面は、一般的にA4用紙1枚に収まる程度にまとめられます。

契約書のように数枚にもなる約款などを盛り込むのであれば、はなから契約書として作製したほうが良いでしょう。

書式名称で記載された内容が法的に左右されることはないのですから、自分が一番気にいった名称、例えば合意書や同意書などで統一するも良し、作成時の気分次第で毎回、変えても良いわけです。

タイトルも含め、書類名称についてはその程度の認識で良いのですが、肝心なのは合意された内容について正しく記載することです。

記載内容や順番は契約書に準じる

それでも書式名称に悩むのであれば、いっそ無しでも構いません。

ただし、これらの書類は全て「誰と誰がどのような内容について合意したのか」を証する書類ですから、まずそれが形式として表示されていなければなりません。

取引を行う当事者の名前が記載されていますが、合意書などで記載される前文がこれになる必要があります。

〇〇(以下「甲」)と〇〇(以下「乙」)は、以下の通り合意(もしくは同意)した。

この一文が前文になります。

冒頭で紹介した「役所調査のミカタ」の記載例文に基づき作成する合意書(越境物に関しての取り決め)であれば、「地番〇〇番 所有者〇〇(以下「甲」)と地番〇〇番 所有者(以下「乙」)は、乙所有地に及ぶ甲所有の越境物に関し、以下の方法と時期に撤去することにつき合意した。」などと記載することになります。

この前文に続く「以下」の部分、これが具体的な合意内容です。

合意内容を複数に分け記載する場合、「条」とするか「項」を用いるかで悩むこともありますが、実はこれについても法的な定めはありません。

単純に項目を分けたい場合には各条項の頭に1.2.3と数字を割り振るだけでも構いませんし、もちろん格式を重んじて重厚感を醸すため、第1条としても構いません。

覚書

越境物の撤去についての覚書であれば、越境物の事実についての事実確認(双方立会いが原則)、越境物の所有者、撤去の時期、第三者へ売却もしくは譲渡する場合の継承義務が漏れなく記載されていれば、基本的な要件は満たします。

参考までにと筆者がざっくり作成した上記の覚書も、表現は別として要件は満たしているはずです。

もっとも合意内容については話し合いの結果次第ですから、記載内容については合意事項に基づき内容も変わります。

場合によっては合意管轄裁判所についても記載する必要があるでしょうから一概には言えません。

後日紛争を防止するために締結される書面なのですから、漏れ落ちがないか精査して作成する必要があるでしょう。

前文・条項につづき最後に必要なのが後文です。

これについては売買契約書の署名欄の前に記載されている一文を思い出してください。

売買契約書

売主や買主を「甲」及び「乙」に変更し、売買契約などの文言を削除、そして「以上の通り合意したので、本覚書を2通作成し~」とすれば良いのです。

ちなみに筆者が作成した覚書例の書面には作成年月日を入れてありますが、厳密には明記する必要はありません。

ただし、双方の予定が合わずに署名欄に記載される日付がことなることもありますし、実際に合意した日から署名するまで日数が経過することもありえます。

それにより問題が発生する可能性もありますから、筆者は合意した日を推定できることを目的として作成年月日を記載するようにしています。

覚書などにも印紙は必要?

勘違いされている方が多いのですが、覚書や合意書は契約書ではないのだから印紙を貼付する必要がないと思われているようです。

印紙税法では書式名称の違いで課税対象を仕分けしている訳ではありません。

記載された内容に基づき課税文章であるかどうかの判断をするのです。

ですから「覚書だから印紙は不要」と考えるのは間違いで、記載内容によっては印紙の貼付が必要だと覚えておきましょう。

例えば契約金額・支払い方法や期日・期間の変更・停止条件や解除条件・損害賠償の予定などについて変更する場合など、原契約が存在し、その内容を変更するために作成された覚書や合意書は課税文書になるということです。

貼付が必要な印紙(課税金額)は、作成した書面が第1号から第20号までに分類されるどの課税文書に該当するかで変わりますが、不動産の場合は契約書の内容を変更する場合の覚書・合意書などが該当しますので、第1号もしくは第2号のどちらかに所属するケースの場合であると理解しておけば良いでしょう。

文書,印紙税額

金銭の授受(売買代金の増額などを含む)について盛り込まれていない約定書面については、まず課税文書になることはありません。

まとめ

筆者が今回解説したような約定書面を作成するときは、「約束したのだから遵守してくださいね」というような比較的軽い取り決めの場合は「覚書」、相手方に厳格さを求める場合には「約定書」を書式名称にしています。解説をお読みいただいた皆様は理解されていると思いますが、書式名称により法的効力に違い生じる訳ではありません。

一般の方が社会通念上、書式名称から受け取るであろうイメージに基づき、気分次第で使い分けています。

書式名称については所詮、その程度のものです。

でも約定内容については細心の注意を払います。

後日紛争を防止し、かつ問題が生じた場合には証拠書面にもなるものですから簡易表現を心かげつつも漏れ落ちがあってはいけません。

原本2通を作成し、当事者双方が持ち合うのが基本ですが、プレッシャーを与えておく必要があると思慮する場合には公証人役場に出向き「確定日付」を得るようにしています。

確定日付とは、公証人により確定した日付を付与する、つまりその日にその証書(文書)が存在していたことを証明するために私署証書に日付のある印章(確定日付印)を押印した日のことです。

約定した内容について証明されるものではありませんが、覚書などの約定書面はその日付が重要な意味を持つことが少なくありません。

後日紛争を防止することも目的ではありますが、「覚書は公証人役場で確定日付を得ています」と強弁すれば、何やら絶対に守らなければ大変なことになると認識される可能性に期待できるからです。

確定日付の手数料は1件につき700円(執筆時点)ですから、金銭的な負担はそれほどでもありません。

また法務省が運営している「登記・供託オンライン申請システム」を利用すれば、電子文書にたいしても確定日付を得られます。

合意書面についての知識を学んだついでではありますが、覚えておくと良いでしょう。

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