2023年7月24日、経済産業者が賃貸集合住宅のLPガス料金について、エアコンなどガスとは無関係な設備の設置費用について、ガス料金に上乗せすることを禁止する方針を決定しました。
報道によれば来春までに関係省令を改正し、罰則規定を新たに盛り込んだ上で2027年度の施行を目指すとしています。
賃貸を専門としていなくても、不動産業者であれば「LPガス料金は高い」という認識を持っているでしょう。
これについては不動産業者に限らず、顧客である一般の方においても同様ですから、賃貸住宅の内見に同行し「部屋は気に入ったけど、LPガスなので見合わせます」と断られた経験がある方も多いでしょう。
全国的には都市ガスが供給されていない地域も多いですから、戸建てのLPガス採用率は高く、分譲マンションにおいてもバルクタンクを設置したオールガスを採用したものもあります。
埋設されたガス管を通じ供給される都市ガス(天然ガス)と比較して、タンクの交換や充填などを必要とするLPガスは割高になりがちですが、賃貸集合住宅のガス料金はその比ではありません。
理由は明確ですが、賃貸オーナーへの営業活動の一環としてLPガス供給会社が配管工事や給湯器などを無償で提供・設置して、その費用は入居者にたいするガス料金に上乗せして回収するという慣例が連綿と続けられているからです。
「損して得取れ」という慣習ですね。これについては細かに解説しなくても、不動産会社のミカタでコラムを読まれている皆様ならよくご存じでしょう。
ですが、その慣例にたいし経済産業省が本格的にメスを入れ、罰則規定を設け省令を定める。
これにより賃貸オーナーから施工後の料金表示について相談されるケースも出てくるでしょうし、何よりも顧客にたいし説明するために現在、公開されている情報について理解しておく必要があるでしょう。
今回は、現在入手できる範囲の情報に基づいて、どのように変更される可能性があるのかについて解説します。
具体的な対応方針と方策
経済産業者では今春から有識者会を開催し、規制について検討していました。
今回の報道はその第6回で、議論がつくされたとして対応方針・実効性確の方策がまとめられ方針として決定されたのです。
とはいえ賃貸集合住宅のLPガス料金が高額であり、料金体系に問題があるとの指摘は、それ以前から度々議題にされてきました。
今回の議論がそれ以前と大きく異なるのは、これまで何度も繰り返されてきた賃貸集合住宅の問題とされた6つの論点を、実効性を伴う3つに再構築して議論を深掘りしたことです。
具体的には「過大な営業行為の制限」、「三部料金性の徹底」、「LPガス料金の情報提供」の3つです。
以降でそれぞれについて詳しく解説していきます。
過大な営業行為の制限
まず「過大な営業行為の制限」です。具体的には以下のように改正方針が定められました。
①LPガス事業者は、賃貸集合住宅または戸建ての消費者とガス契約を自己と締結させることを目的として、賃貸集合住宅のオーナーまたは戸建の消費者等に対し、正常な商習慣を超えた利益を供与してはならない。
②賃貸集合住宅のオーナーまたは戸建の消費者等との間で、LPガス事業者の切り替えを制限するような条件を付した貸与契約等を締結してはならない。
これは賃貸住宅において入居する消費者が、賃貸オーナーが選択したLPガス供給事業者と契約を締結するしかない現状と、戸建てにおいても一度、契約してしまえば長期間に渡り契約が継続されるという実態を踏まえ、LPガス事業者による賃貸オーナー、不動産管理会社、建築事業者、消費者などにたいしての「正常な商習慣を超えた利益供与を禁止する」ということです。
正常な商習慣についての判断基準は、今後、各種施行規則や解釈通達、ガイドラインを参考に検討を続けるとしています。
ですが、よく耳にする「工事代金や設備機器を無料にするからウチを採用してください」という営業トークは、今後、使えなくなる可能性が高いでしょう。
また「損して得取れ」の考えから、工事代金や設備機器無料の見返りとして設けられる契約条項、つまり「LPガス事業者の切り替えを制限する条項」などについても原則禁止されるようです。
これらに違反した場合、30万円以下の罰金など具体的な罰則が設けられる予定ですが、それについてはまだ検討中であり後続を待つ必要があります。
三部料金性の徹底
LPガス料金が高いと言われる根底には、上乗せにより料金体系が不明瞭となっていることも理由に上げられます。
そこで以下のような改正方針が決定されました。
①ガス料金に係る料金は、基本料金、従量料金及び設備料金とし、消費者にこれらの料金を請求するときは、算定根拠を通知しなければならない。
②設備料金として、配管及びガス器具等ガスを消費する場合に用いられるものの利用に関する料金以外を請求してはならない。
③消費者とガスを消費する場合に用いられる器具が設置された建物の所有者が異なる場合(たとえば賃貸集合住宅)において、消費者にガス料金を請求するときは、配管及びガス器具等ガスを消費する場合に用いられるものの利用に係る料金を請求してはならない。
この定めにより、これまで不明瞭であったLPガス徴収料金の明細は、基本料金、従量料金、設備料金の三部料金について作成されることになり、それぞれ幾らなのかが明確に分かるようになります。
これにより従来まかり通っていた電気エアコンやインターホンなどの設備使用料金をガス代に上乗せするような手法は通用しなくなります。
賃貸集合住宅においてそれらの設備を賃貸オーナーが設置している場合には、その費用については家賃に含まれるものと解されたことから、今後、改正を見越して家賃の見直しを検討するオーナーが増加する可能性もあるでしょう。
LPガス料金の情報提供
最後の対応方針はLPガス事業者にたいする努力義務規定です。
①LPガス事業者は、事前に、入居希望者に直接又はオーナー、不動産管理会社、不動産仲介業者を通じて、ガス料金等を提示するよう努めなければならない。
正しく実施されているという話は耳にしませんが、令和3年6月に、私たち不動産業者にたいして国土交通省並びに経済産業省から、トラブル防止のためLPガスを利用している賃貸マンションに顧客を斡旋する場合、努力義務としてガス料金に関しての情報提供を行うよう文書が発せられていますが、それと同様の内容です。
不動産業者が今後、心がけること
今回、解説を行った内容はあくまで現在入手できる情報に基づいている内容ですから、詳細な内容については公布を待つ必要があります。
現在の予定としては公布から3ヶ月を経過して施行されるとなっています。
注意したいのは、施行日以降、今回解説した内容に抵触する新規契約が禁止されるのは当然として、既存契約の更新も禁止されるということです。
管理会社に従事しているかたはもちろん、自社で管理を手掛けている場合には施工前までに今回の改正ポイントを理解して、ガス料金の内訳変更や家賃の見直しなど、賃貸オーナーと協議して対策を講じる必要があるでしょう。
また管理を手掛けていなくても、LPガスを利用している賃貸集合住宅を紹介する場合に必要な知識として理解しておくことが必要でしょう。
まとめ
今回はその改正内容から賃貸集合住宅をメインとして解説を行いましたが、戸建てにおいてもLPガスを採用し、その配管工事無料や設備機器の貸与を巡る約款に基づき、解約時の清算を巡るトラブルが多く存在しており、それによる裁判事例も確認できます。
筆者もそのような判例について注視していますが、判例では戸建ての所有権が取得されると同時に付合によりそれらの所有権も消費者に移転されているという見解に立つ場合が多く、その不動産を第三者に売却した場合、ガス供給解約時に配管を買い取るとい定めた合意事項自体が原始的に不可能とされ、LPガス事業者が敗訴しているケースが目に付きます。
これは配管や設備機器は不動産の一部とされ、独立した存在ではないという強い付合があるとの考えによるものですが、不動産業者としてはそのような判例を参考にしながら、法施行が及ぼす様々な影響を勘案し、適切な対処法を検討していく必要があると言えるでしょう。