【知らずに違反していませんか?】正しく理解しておきたい宅地建物取引業者の禁止行為について

筆者はコンサルタント業務として不動産業者と一般の顧客、どちらからの相談も受けています。

顧客からの相談は様々ですが、なかには明らかに宅地建物取引業法で禁止されている、つまり違法性が高いと勘案されるケースが往々にして存在します。

ご存じのように不動産業者は、宅地建物取引業で以下のような行為について禁止されています。

●手付についての信用の供与により契約の締結を誘引する行為
顧客にたいし、手付金を支払わなくてもよい、もしくは分割や後日の支払いも可能であると誤解させ契約を促す行為。

●断定的判断を提供する行為
顧客にたいし必ずしも真実とはいえない程度の情報を、確定的であると提供し契約を誘引する行為。これは過度な期待をもたせ、冷静な判断力を欠く不安定な状況をつくりだすことから禁止されています。

●威迫により契約を締結させる行為
脅しや圧力をかけ契約を締結させる行為ですが、自由な意思決定を妨げるとして禁止されています。

●判断に必要な時間を与えない行為
「すぐに決断しなければ他で売れてしまう」など、急かして契約を誘導する行為です。前述したフレーズはよく耳にする言葉ですが、真偽はともかく、冷静にかつ客観的に判断ができない状態で即断を求める行為は禁止されています。

●勧誘に先立って会社・氏名・目的などを告げず勧誘する行為
飛び込み営業などの場合に抵触することが多い勧誘行為です。勧誘する場合には、事前に社名などの他、その目的について予め告げなければなりません。

●勧誘が拒まれているのに継続する行為
拒否されているのに居座る行為がこれに該当します。

●社会通念上妥当ではない時間帯に電話や訪問する行為
早朝や深夜など、社会通念上「こんな時間に……」と言われる時に電話や訪問をする行為です。
社会通念上妥当ではない時間については、具体的なガイドラインは存在しておらず個人のライフスタイルなどにより変化します。ですが目安としては「貸金業法」で定められているAM8:00~PM9:00以外の時間帯がそれに該当するでしょう。

 

これらは基本的な内容ですので詳しく解説する必要もないと思っていたのですが、一般の方からの相談に応じていると、意図的なのかどうか判断できないまでも禁止行為が常態化している可能性が考えられるのです。

もっとも相談者が過敏に反応している可能性もあるのでしょうから、相談に応じた場合には詳しく調査します。

するとかなりの確率で業者側の行為に問題があると判断せざるを得ないのです。

中でも特に目立つのが手付に関する問題、いわゆる信用供与と購入の意思決定に影響を与える断定的判断の提供です。

今回は、どのような行為が宅地建物取引業法に違反するのかについて解説したいと思います。

取りあえずの手付金は認められない

売主の観点から言えば、最終的に約定した金額が支払われれば良い。

とはいえ契約締結から決済までの間、何があるかわかりません。

購入者が心変わりして契約を反故にする可能性も充分に考えられます。

もっとも、売主が心変わりする可能性もあるのですから、リスクを具現化する可能性は契約当事者双方にあります。

手付金は契約を約するために支払われる金員ですから、まず証約手付の性質を有します。

同時に解約手付もしくは違約手付に分類されますが、慣習としては解約手付である場合が多いでしょう。

手付金は物件価格の2割が目安ですが、話し合いにより1割もしくはそれ以下の場合もあります。

手付金の額は当事者が納得すればたとえ1円でも問題はありませんが、そのような些少な金額を放棄するだけで契約が解除されてしまうのではたまったものではありません。

そこで手付金の額が少額の場合でも違約金の額を総額の2割と約定するのが一般的でしょう。

ですが中には「手付金は2割。それ以下では一切、契約に応じない」という売主さんがいます。

たとえ手付解除できる期間を短くしても、その間、解除リスクがあるのですから気持ちは分かります。

事前審査は承認され、希望する融資が受けられる蓋然性は至って高い。でも手付金は準備できない。

手付金のため金融機関からフリーローンなどで借り入れを行えば、それにより融資が否決されるかも知れません。

取引が成就できなければ媒介業者は報酬が得られません。

そのような時に頭をよぎるのが手付金の貸与もしくは手付金の分割払いですが、これらは信用供与にあたります。

相談のあった一例ですが、相談者の居住している近所で新築建売住宅が建築されました。

興味をそそられ軽い気持ちで見学会に出向きそれなりに気に入ったらしいのです。

ですが目的はあくまでも下見、即断する気持ちはありませんでした。

もっとも気に入っている顧客の兆候を見逃すような営業マンはいませんから、怒涛のクロージングに入ります。

物件について詳細な説明をさせてくださいと言われ、出された書類は重要事項説明書、一通りの説明を終えた後、「すぐに決断しなければ他で売れてしまう」、「手付金は後日で構わないから、既得権を得るため契約書にサインしてください」と促されたとのこと。よせばいいのにサインをしてしまった訳です。

ですが帰宅して夫婦で話し合うと、あまりにも性急すぎたし購入するならもっと真剣に検討すべきだと気がつく。

そこで件の営業マンに電話を入れ断りを入れると「すでに契約が成立しているのだから口頭ではお受けできません。手付金を収めていただき、それを放棄していただき解約手続きを行います」と言われたとのこと。

最近は少なくなりましたが昔はよく耳にした話です。

相談者当人が交渉を重ねても手付金を支払えの一点張りでラチがあかず、人づてに紹介され筆者に相談がきました。

筆者がその会社に弁護士を帯同して出向き、提訴も裁判外調停も辞さないが、そもそも手付金の後日払いは誘引行為であることを指摘して道理を説くと、会社の上席が飛んできて簡単に事態は収束しました。

金銭の名目を変えても無理がある

前項で紹介したケースは宅地建物取引業法における基本的義務に反しています。

具体的には宅地建物取引業法第31条1項の「信義誠実の原則」を基礎とした、同法第47条3号の「契約の締結を誘引する行為」に抵触します。

事例において、もし手付金ではなく「預り金」もしくは「予約金」などの名称で預かったとしても同様です。

その返還を拒んだ場合には違法性が指摘されます。後日、全額を入金するとしてとりあえず少額を徴収しても同じで、名目によらず手付金の性格を有すると判断されるものについては信用供与の対象になります。

紹介した事例は極端ですが、預り金名目の金銭について返還に応じないトラブルは多く、宅建協会や国民生活センターなどにおいても消費者向にたいして注意喚起を行っています。

判断に必要な時間を与えない行為とは

即断即決が営業の基本。

不動産に限らずクロージングは、その場で結論を引き出すために行われます。

それ自体、なんら非難されるものではありません。

顧客が持つ不安ヒアリングしそれを一つずつ解決しながら判断材料を提供し、決断に導くのが営業の醍醐味だと言えるでしょう。

ですが「考えている余裕なんてありません」、「グズグズしていると他の買い手が手を上げてしまいますよ」、「こんないい物件は二度と出会えないかも知れません」などと怒涛のごとく詰め寄るのはクロージングとはいいません。

強引に売り込むことではなく、顧客の不安や疑問を解消し、決断のきっかけを与える建設的な行為がクロージングです。

根底に相互信頼、協力関係が内在している必要があるのです。

そもそも、出会ったばかりでは信頼関係も何もありません。

いかに短時間で顧客から信頼を得られるかは営業スキルの問題ですが、根底に信頼関係があるのは間違いありません。

もっとも、信頼関係を凌駕するのが物件力で、こればかりはどれだけ営業力があっても太刀打ちできません。

「営業としてはアナタが一番だったけれど、〇〇さんから紹介された物件が気にいったので……」との断り文句を少なからず耳にします。

顧客が積極的に時間的な余裕を求めていなかったとしても、購入の意思決定を明示していない以上は検討中だと言うことです。

一通りクロージングを終え決断を迫る。この時には沈黙がおとずれます。

不慣れな営業マンは沈黙に耐えきれず先に言葉を発してしまうのですが、クロージングを終え「ご検討のほどはいかがですか?」と決断を促した後はひたすら沈黙に耐える。

「サイレントクロージング」もしくは「沈黙のクロージング」と呼ばれる手法です。

沈黙を顧客が破り「今回は見合わせます」、「もう少しゆっくり考えてから」などの言葉が発せられれば、商談は次回に持ち越しです。

「なんでですか、そんなことでは他で契約されてしまいますよ」なんて言葉をついではいけません。

判断に必要な時間を与えない行為になってしまうからです。

まとめ

営業には熱意が必要です。

その熱が正しい方向に向かうのであれば有益ですが、空回りするようでは問題です。

思いが過ぎれば、今回、解説した宅地建物取引業で禁止されている領域に足を踏み込むからです。

営業研修などで雑談していると、「今月は◯件決めました」と自慢気に報告されることがあるのですが、「決めた」との表現に筆者は違和感を受けます。

決断するのはあくまで顧客自身です。

営業マンの仕事は顧客が判断するために必要な情報を提供し、不安が残らないようサポートすることです。

自身の営業力を誇示したいのかもしれませんが、顧客の決断力を過小評価し、根拠のない思い上がりに繋がらないか懸念をいだきます。

顧客が不動産営業に求めている資質を理解して、実直に努力できる営業マンこそがコンスタントに実績をあげられるということでしょう。

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