【管理組合総会もIT化が可能に?】カスハラ防止策も含むマンション標準管理契約書の改訂ポイントを解説

管理を専門にしていなくても、オーナーや賃貸人からの無理難題にたいして辟易することがあります。

管理を専門として分譲マンションの管理組合から委託を請けている場合には、組合員から管理人にたいしての侮辱、人格否定発言、深夜の電話などカスタマーハラスメントが問題視されるようになりました。

管理業務を請け負った以上は所有者や住人からの要望に対応し、時に感情的な発言をされるのは致し方がないところではありますが、どこまで容認できるか、その程度については検討の余地があります。

とくに組合の理事長に人格的な問題がある場合、派遣した管理人が理不尽さに耐えきれず次から次へと離職してしまうケースもあるほどです。

一昔前ならほとんど耳にすることはありませんでしたが、最近は管理会社の方から管理組合にたいして管理契約の継続を辞退するケースが増加しているようです。

管理業務の継続契約時における相見積もりは普通で、継続したければ従前の契約金額を見直して欲しいと要請されることもあるでしょう。

市井企業の懐具合がどのように評価されているのか分かりませんが、最低賃金の引き上げや燃料費などの高騰、さらに表層化しているカスハラ対応などの要因について考慮して金額の妥当性を検討する必要があります。

その結果として採算が合わないと判断される場合には、管理契約を継続する必要はないと判断するしかないでしょう。

安定収入が途絶えるのですから管理を請け負っている企業としては痛手ですが、そう判断せざるを得ない事情も存在しているのです。

このような現状を憂慮した国土交通省は令和5年9月11日付けで、カスハラ防止措置や人材不足に対応するために必要なデジタル化などについてを盛り込んだ、「マンション標準管理委託契約書 改訂版」を公表しました。

注目される改訂ポイントは、IT化対応・カスハラ対応・環境変化対応(居住者の高齢化などによる環境変化)の3点です。

今回は物件管理を行う上で、念頭に置きたい改訂内容のポイントについて解説します。

標準契約書の意味を理解する

今回、改訂されたのは、「マンション標準管理委託契約書」及び「マンション標準管理委託契約書コメント」です。

ご存じのように、国土交通省が管轄業界に向けて公表している一連の標準契約書は一般的な基準やルールなどを定めた文章とされます。

これにより、契約当事者間の権利や義務、契約の公平性や透明性などを明確にして紛争などを防止する目的があります。

いわば、モデルもしくは雛形として、一貫性を確保するために用いられる大切なツールです。

端的に言えば、標準契約書を参考にして約款などに用いれば、それに抵触する紛争が生じた場合にも、判断基準が明確になると考えて差し支えありません。

ですが、組合や管理業者により異なる個々の状況や必要性に対応し、適宜その内容が追加・修正・削除により活用される趣旨であることは念頭におく必要があるでしょう。

標準契約書の改訂と適用範囲

改定された標準契約書(PDF)を直接確認されたい方は、下記のURLで開かれる国土交通省の専用ページから確認できます。

https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_fr3_000001_00015.html

マンション標準管理委託契約書及びマンション標準管理委託契約書コメントの改訂

詳細な内容については、紹介したページから直接確認していただくのが良いでしょう。ですが改訂ポイントについて手短に把握したい方に向け改定された標準契約書の条項と同時に、改訂の趣旨について解説を続けます。

今回改訂された管理委託標準契約書は、2020年4月に施行された「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(管理適正化法)」第2条第6号に定める管理事務について、管理組合が管理業者に委託することを想定し作成されています。

第2条第6号で定める管理事務とは「マンションの管理に関する事務であって、基幹事務(管理組合の会計の収入及び支出の調定及び出納並びにマンション(専有部分を除く。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整をいう。以下同じ。)を含むものをいう」と定義されています。

ですから、同条第三章で定められている「マンション管理計画認定制度及び民間団体が行う評価制度に係る業務」のほか、警備業法に基づく警備業務、消防法に定める防火管理者が行う業務などは対象とされていませんので注意しましょう。

それらを管理業務の一環として受託する場合には、標準契約しにその旨の条項を追加しなければなりませんが、改訂コメントでは本契約と別個の契約にすることが望ましいとされています。

改訂ポイントについて

具体的な改訂ポイントの概要は以下のとおりです。

マンション標準管理委託契約書及び同コメントの改訂

以下で詳細な改訂内容と、その考え方について解説していきます。

①書面の電子化及びIT総会・理事会等DXへの対応

書面の電子化は時代の趨勢です。

不動産に関連する売買契約などが電磁的方法でその一切を行えるようになったのですから、管理業務の委託契約においても電磁的方法が推奨されるのは当然の流れだと言えるでしょう。

標準管理契約書では第25条に記載されています。

標準管理契約書,第25条

この場合に利用される電磁的方法については、その提供も含め管理組合の了承は必要とされますが、提案側(管理会社)としてはIT重説や電磁的方法による契約書面の提供方法に準じる形を採用すれば問題ありません(改訂版コメントで具体的な要件を羅列していますが、IT重説などの手法を超える内容ではありません)

②担い手確保・働き方改革に関する対応

管理業法第3条「管理事務の内容及び実施方法」の四で、「等」の一言が追加されました。

建物・設備管理業務(別表第4に掲げる業務)

最近に始まったことではないのかも知れませんが、常駐管理員などに対しての組合員によるカスハラ問題は後を絶ちません。

当然のことですが、管理会社は管理契約に基づき管理する義務を負いますが、従事している管理員は下僕ではありません。

そのような悪しき労働環境などについての噂が蔓延しているからでしょうか、管理員の離職率は高く、あらたに募集しても応募者が現れない状態が表層化しているようです。

週一で新聞に掲載される求人広告を見ても、毎回、管理業務の募集がされているところを見ると慢性的な人手不足はおそらく事実なのでしょう。

標準管理契約書では、第12条第4項でその旨が表現されています。

標準管理契約書,第12条第4項

これにより、管理組合や管理業者は管理員の基本業務や清掃・労働条件の見直しを迫られるでしょう。

その場合には必要に応じ、管理組合にたいし労働時間に関する法制度の概要や平成31年から順次施行されている「働き方改革関連法」、「時間外労働の上限規制」、「年次有給休暇の確実な取得」などの趣旨を説明し、理解を促したうえで契約内容について理解を促すことが望ましいとされています。

また無分別に組合員から指示されるなどの理不尽を防止することを目的として、標準管理契約書第8条では以下のように表現されています。

これはカスハラを未然に防止するために新たに追加された条文ですが、組合員等が管理員などに対して行う情報の伝達や相談、要望などを一切妨げるような趣旨ではありません。

管理組合として管理業務についての指示を行う場合であることについて留意しておく必要があるでしょう。

③マンション管理業の事業環境の変化対応

これも管理業法第3条(管理事務の内容及び実施方法)に包括される改訂です。

マンションは多くの住人(組合員)が生活する場所ですから、快適に生活できるよう維持管理を行う必要があります。

建物は適切に維持管理されなければ老朽化が促進されますから、それを防止するため長・中・短の維持管理についてルールが策定されます。

管理業者による管理対象部分は原則として敷地及び共用部分に限定されますが、専用部分における設備(配管・配線など)は、共有部分と一体として管理する必要が生じます。

それらの管理に関しては、管理組合からの依頼があった場合には本契約に盛り込めます。

ここまでは至く当然なのですが、最近、問題となっているのが組合員の高齢化問題です。

このような環境変化についての対応も、管理会社は迫られるようになりました。

つまり身体が不住になった方や認知機能が低下された方への対応です。これらの方にたいし、何の取り決めもなく個別対応していては組合員間で不公平感が募るでしょう。

そこで、そのような便益提供を管理業務に含める場合には、それを享受する組合員にたいし、提供する業務内容に応じ個人の費用負担が発生する可能性について留意することを原則としました。

もっとも標準管理契約書では、これに関する記載を確認することはできません。

かなり個別的な内容になることから、これに関しての取り決め事項を管理委託契約書に盛り込む場合には、その内容について充分に精査する必要があるでしょう。

また管理業法第9条(緊急時の業務_改定前第8条)において孤立死(孤独死など)が文言として追加されたのも注目されるポイントです。

標準契約書では、以下のような条文で表現されています。

管理業法第9条(緊急時の業務_改定前第8条)

専有部分において犯罪を原因とする死亡や孤独死が発生した場合、警察等に対する対応などについて管理組合と管理業者の役割分担の判断が難しいケースも想定されることから、あらかじめ協議しておくことが望ましいとされています。

まとめ

今回解説した内容は、改訂さらた内容のうちもっともポイントとなる部分についてのみです。

改訂内容の詳細についてはマンション標準管理委託契約書の新旧対照表におけるコメントを確認する必要があるでしょう。

マンション標準管理委託契約書,改訂版

公表された標準契約書がそのまま利用できるなら良いのですが、実際は管理組合の意向や管理を受ける側として対応できる範囲を協議した結果、追加・修正・削除を余儀なくされるでしょう。

その際には、改訂内容とその趣旨について充分に理解していなければ応じることもできません。

国土交通省から提供されているマンション標準管理委託契約書の新旧対照表におけるコメントは全体で20ページ程度のものです。

読み込むのに多少の労力は必要ですが、時間をかければ難しいものではありません。

不動産のプロとしては、内容に精通するためにも読み込むことをお勧めいたします。

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