【単身高齢者との賃貸契約は避けて通れない時代】理解を深めておきたい残置物処分に関する取り決めについて

高齢者の単身世帯は増加の一途です。

平均寿命が長くなり配偶者が先に鬼籍に入ることも理由とされますが、一番の原因は未婚化の進展だと言われています。

2020年の国勢調査から生涯未婚率を算出すると男性25.7%・女性16.4%になるなど、調査開始以降としては最高記録にまで上昇しています。

さらに様々な研究機関からの報告を見ると、生涯未婚率は今後さらに上昇するとされています。

晩婚化や生涯未婚率の原因には男女格差の減少や経済的不安、子育て支援の不足など様々な要因が指摘されていますが、解決策について一概に論じられる訳でもありませんし、コラムのテーマでもありません。

生涯未婚率と平均寿命の増加、さらに出生率減少による少子化により日本における人口動態はさらに変動していきます。

不動産業者としては、そのような時代にどのように対応していくかを考えなければなりません。

現在、日本の15歳未満年齢は11.9%と世界で最も低く、65歳以上人口の割合は28.6%と世界で最も高い水準となっています。

人口,割合

65歳以上年齢の割合はさらに増加し、そのうち単身者の割合も同様に増加していくのですから、必然的に高齢単身者からの入居相談なども増加していきます。

少子化により64歳以下である方からの相談件数は徐々に減少していくのですから、65歳以上の方からの相談対応にも積極的に応じていかなければなりません。

不動産の売買であれば、金融機関からの融資などを除けば単身高齢者でも特段の問題は生じないでしょうが、民間賃貸住宅に単身高齢者を斡旋した場合、オーナーによっては入居を拒絶するケースが多いものです。

孤独死や死亡後の残置物問題が念頭にあるでしょうから、断りたくなる気持ちも理解できます。

ですが、人口動態を勘案すれば単身高齢者には絶対に部屋を貸さないとすれば、経年劣化により物件訴求力が減少した賃貸住宅の借り手はいなくなってしまいます。

そのような状態を回避するためには、賃貸オーナーの考えを斟酌しつつも人口動態などについて考慮するよう啓蒙し、かつ単身高齢者に部屋を斡旋した場合に発生が予想される問題を回避するために必要な方法を提案することが大切です。

今回は単身高齢者と賃貸借契約を締結する際に問題とされる、「残置物の取り扱い」について解説したいと思います。

大半は、単身高齢者に斡旋したくないと考えている

(公社)全国宅地建物取引業協会連合会が令和2年8月に行った「住まい支援の連携強化のための連絡協議会」の資料として公開しているデータを見ても、高齢者にたいし民間賃貸住宅の斡旋を積極的に行っていると回答した宅地建物取引業者は、わずか7.6%でした。

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「高齢者世帯の諸状況により判断する」との回答が56.1%となっていますが、これには単身高齢者が含まれていないと考えるのが妥当でしょう。

実質的には消極的であると回答した11.5%と合わせて、およそ67%の不動産業者は単身高齢者に賃貸住宅を斡旋することについて消極的であると言えるのでしょう。

不動産業者や賃貸オーナーが単身高齢者との賃貸契約を敬遠したがるのは、「認知症」と「孤独死」に対する懸念が最も多いとされています。

前者では発症による奇行や家賃滞納、後者では事故物件となる危険性のほか残置物の撤去に関する問題が包括されます。

賃借人の死亡時において残置物の処理が問題とされるのは、物件内に残された家具などについての所有権が相続人に継承されるからです。

相続人の有無や、その所在が明確であれば連絡し引き取ってもらえば良いだけですが、そうではない場合、処理に苦慮することになります。

それらのリスクについて賃貸オーナーに説明し、納得してもらうのも一苦労ですが、斡旋をする自社の手間やリスクも当然に考えなければなりません。

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孤独死を未善に防ぐには、見守りサービスを実施する福祉系の法人や団体との関係を構築していくしかありません。

これが機能していれば、認知症による奇行が際立ってきた際の対処や、孤独死が発生した場合においの発見も早くなり、告知事項に該当しない可能性も高くなるでしょう。

将来的には、「単身高齢者の斡旋なくして業績が維持できない可能性がある」と理解して、早い段階から専門家とのネットワークを構築し見守り体制を強化していく必要があると言えるでしょう。

残置物の取り扱い

見守り体制が確保されれば、残る問題は残置物処分です。

これについては、賃貸借契約に先立ち指定した受任者と賃借人(委任者)の間で、①賃貸借契約の解除②残置物の処理に関する死後事務委任契約を締結しておく必要があります。

この場合、受任者を誰にするかが問題となりますが、まず推定相続人が存在するかを確認することが必要です。

存在する場合には推定相続人に受任者となるよう承諾してもらうことになりますが、これはそう簡単にはいきません。

推定相続人が存在しない場合、もしくは説得が困難な場合には住宅確保要配慮者支援法人(居住支援法人)や管理業者などの第三者が受任者となります。

もっとも、管理業者が受任者となることについて国土交通省はあまり推奨していません。

賃貸人の利益を優先する可能性が高いと考えられているからです。

管理業者が受任者となること自体は違法とされていませんが、あくまでも委任者の利益のため誠実な対応が求められていることを理解しておく必要があるでしょう。

多くの場合、住宅確保要配慮者支援法人の一択になります。

住宅確保要配慮者支援法人とは、単身高齢者に限らず低額所得者・被災者・障害のある方など住宅の確保に特に配慮を要する方々にたいし、家賃債務保証の提供や相談、見守りなどの生活支援などを実施する法人として都道府県から指定されている法人です。

居住支援法人制度

国土交通省のホームページで民間支援法人の一覧が確認できますので、該当するエリアの法人を探してみると良いでしょう。

委任者及び受任者の承諾が得られれば、大枠としての委任事項は下記2点です。

①賃貸借契約の解除
賃借人の死亡時に、賃貸人との合意によって賃貸借契約を解除する代理権を受任者に付与します。

②残置物の処理に関する死後事務委任契約
賃借人の死亡時、残置物の廃棄やあらかじめ指定した送付先への送付事務を受任者に委託します。また、廃棄が必要ない換価できる残置物の取り扱い事務についても、あらかじめ相談し委託します。

稀に受任者を賃貸人とするケースを見かけますが、利益相反による対立が発生する可能性もあることから推奨されていません。

状況によっては、賃借人の利益を一方的に害する恐れがあるからです。

このような考え方から、受任者を賃貸人とした場合には民法第90条(公序良俗)や消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)により、委任条項が無効とされる可能性がありますので注意が必要です。

注意したい条項

賃貸借契約書に残置物の処理等に関しての条項を盛り込むか、もしくは別途に委任契約書等を作成し契約書に添付するかは自由とされていますが、筆者は後者をお勧めしています。

契約書等に盛り込む文言については、国土交通省から公開されている『残置物の処理等に関するモデル契約条項』を参考にして必要に応じ加筆・修正すれば良いのですが、条項はかなりの分量があるからです。

具体的な各条項については、下記URLから国土交通省のページを確認すると良いでしょう。

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000101.html

以下で、ポイントとなる条項について解説をしていきます。

(本賃貸借契約の解除に係る代理権)
『委任者は,受任者に対して,委任者を賃借人とする別紙賃貸借契約目録記載の賃貸借契約(以下「本賃貸借契約」という。)が終了するまでに賃借人である委任者が死亡したことを停止条件として,①本賃貸借契約を賃貸人との合意により解除する代理権及び②本賃貸借契約を解除する旨の賃貸人の意思表示を受領する代理権を授与する』

これは委任者である単身高齢者などが、自らの死亡時における賃貸借契約の解除に係る代理権を授与する規定となります。

基本的には賃貸人と代理人による合意解除を前提としていますが、死亡時の発見が遅れ、賃料が支払われずに債務不履行として賃貸人から解除が申出られる場合もあるでしょう。

委任者の死亡が停止条件とされてはいますが、そのような場合に賃貸人は受任者にたいし意思表示をすることで効力を発生させられます。

(残置物処分に係る事務の委託)
『委任者は,受任者に対して,本賃貸借契約が終了するまでに委任者が死亡したことを停止条件として,次に掲げる事務を委託する。 ① 非指定残置物を廃棄し,又は換価する事務 ② 指定残置物を指定された送付先に送付し,換価し,又 は廃棄する事務 ③ 指定残置物又は非指定残置物の換価によって得た金銭及び本物件内に存した金銭を委任者の相続人に返還する事務』

残置物の処分に関しての委任条項ですが、廃棄もしくは換価、指定物の送付、換価した際に得られた金銭の取り扱いがポイントです。

廃棄や換価、もしくは送付する場合にも指定残置物をリスト化し、廃棄してはならないものについてはそれを示す指標を貼付しておく必要もあります。また、送付先の氏名または名称・住所なども明らかにしておかなければなりません。

そのため下記のような準備を行い、指定残置物(廃棄や換価を希望しないもの)とそうではない物(非指定残置物)を具体的に示しておく必要があります。

①指定残置物リストの作成
② 廃棄してはならない物であることを示す指標を貼付するなど,当該動産が指定残置物であることを示す適宜な措置。

指定されないまま委任者が死亡するのは避けたいところですが、指定残置物が指示されていない、もしくは送付先の住所が明示されていない場合などにおいては、一定期間経過後に受任者において換価もしくは廃棄できるものと考えられます。

そのため条項には「指定残置物を送付することが困難な場合」を確実に加えておきたいものです。

換価して得られた金銭は委任者の相続人に返還しなければなりませんが、その存否や所在が明らかではない場合には「供託」しなければなりません。

また、残置物については委任者の死亡後、賃貸人から速やかな撤去を求められることもあるでしょう。

送付先(遺言執行者)が明確であり、かつ送付を求められれば、それに従い発送手続きを取れば良いのですが、原則は送付を含む換価や廃棄を行うには、委任者が死亡してから一定期間の経過(目安は3ヶ月間)が必要とされます。

ですから委任者の死亡が確認された以降、3ヶ月間程度は空家状態のまま、賃貸したままの状態を維持しなければならないのです。

そのような点についても、賃貸人に理解を促しておく必要があるでしょう。

もっとも、家賃さえ支払われれば、その点に関してはそれほど心配する必要はないかもしれません。

そのような家賃や、諸々の事務処理に伴う経費の出処ですが、モデル条項では以下のようにされています。

『受任者は,本契約に基づく委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは,委任者の相続人に対し,その費用及びその支出の日以後における利息の償還を請求することができる』

『受任者は,指定残置物又は非指定残置物の換価を行った場合及び本物件内に金銭が存した場合にあっては,委任者の相続人に対し,換価によって得た額及び本物件内に存した金銭の合計額を第1項の費用及び利息に充当した上で残額を返還することができるものとする』

つまり、一旦は諸々の経費は受任者の立替えとなりますが、その金銭に予め取り決めした利息を加算して、最終的に精算できるとしているのです。

心配なのは、換価などにより得られた金銭では、事務処理に要した費用が賄えない場合です。

約款モデルでは、そのような場合においては相続人にたいし返還を求めることができるとされています。

もっとも、相続人の有無や所在が明らかではない場合には返還を求める相手先がいません。

そのような場合には、第三者弁済の同意を盛り込んだ上で、「敷金を求償権の弁済にあてる」として、そこから回収する方法などが考えられます。

また一定期間が経過してから廃棄や換価をするため、非指定物を移動する場合には第三者(賃貸人・管理会社等)立会いのもと、残置物の状況を確認・記録しなければならないことについては念頭に置く必要があるでしょう。

まとめ

今回は単身高齢者との賃貸契約時に弊害となる、残置物の処理を中心に解説を行いました。

具体的な契約書や委任状・指定残置物リストなどについては、コラム内で紹介した国土交通省の『残置物の処理等に関するモデル契約条項』を詳細に読み込んで、必要に応じ加筆・修正して使用するのが一番です。

ですから、条文全体については紹介をしませんでした。

それよりも、単身高齢者の増加はこれからさらに加速することを理解していただき、そのような方々との契約を忌諱していては、業績を維持していくことが難しくなる可能性がある。

それについて私たちが率先して理解し、賃貸オーナーを説得できるようにならなければ、いずれ共倒れになってしまう可能性があるのです。

懸念される理由は、認知症や孤独死が発生した場合に必要な諸々の手間です。

それらについては福祉系の法人や団体との関係を構築すると同時に、残置物処理の対策を講じていればかなりの負担やリスクを軽減できるでしょう。

他社との差別化を図ると同時に自社の業績を安定させるには、あえて積極的に取り組まれていない分野に目を向ける必要があるのではないでしょうか。

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