【不動産業務のアウトソーシング】メリットと問題点から考える、利用を検討する際に注目したいポイント

契約は喜ばしいですが、それに付随する業務は面倒です。

とくに重要事項説明書や売買契約書などの作成は、できる営業マンにとって負担な業務でしょう。

ですが間違いがあっては責任追求されますから、手を抜く訳にもいきません。

そうとは理解していても基本的な物件調査を始めとして、最終的に書類を製本し完成させるには相応の労力が必要です。

知見に長けた経験者であっても煩雑な業務ですから、経験の浅い社員では宅地建物取引士の有無によらず時間がかかります。

調査に漏れ落ちがあれば、何度も役所や現地に足を運ぶことになりかねません。

ですが最近は、重要事項説明書や売買契約書の作成を代行してくれ、あまつさえIT重説にも対応してくれるアウトソーシングサービスが増加しています。

ご覧いただいている「不動産会社のミカタ」サイトを運営するミカタ株式会社でも、執筆時点では東京23区内の区分所有マンションに限定されてはいますが、煩雑な調査代行を1件あたり9,800円という手頃な価格で提供しています。

役所調査のミカタ役所調査のミカタ-役所調査代行サービス(サービス停止)

もっとも、これはあくまでも調査だけです。

重説・契約書等の作成代行を請け負ってくれるサービスもありますが、費用は10万円前後が目安です。

対応エリアや納品に要する期間については各社様々ですが、この費用を高い考えるか、それとも安いとするからは依頼する方々の状況や必要性により異なるでしょう。

ですが少人数で営業展開しているのに契約件数が多い場合など、実際に手が回らない状態の時には有り難いサービスです。

アウトソーシングの先進国と言われるアメリカでのアウトソーシング普及率は、NTTデータ経営研究所の調査によれば70%を超えるとされていますが、日本はその半分以下、もっともアウトソーシングが普及している製造業分野でも30%前後だとされています。

不動産業における普及率は10%を下回っているのではないでしょうか?

ですが限りあるリソースを有効活用することが目的のアウトソーシングは、少数精鋭を旨とする不動産業者と親和性が高いのです。有効に取り入れることで業績を上げられます。

そこで今回は、現在提供されている不動産関連のアウトソーシングサービスの傾向や、委託する場合の注意点について解説したいと思います。

不動産業務に関する外部委託の傾向

説明するまでもありませんが、アウトソーシングとは業務の一部を社外へ委託することです。

多少古いデータではありますが、総務省経済センサスによれば不動産業者のほとんどが社員数10人以下(91.5%)であり、そのうち従業者規模1~4人が全体の71.3%を占めています。

不動産,従業員数
不動産業者の多くは営業を主力とした特化型ですから、従業者数の少なさを良い表現にすれば少数精鋭、悪く言えば一通りのことをこなせなければ社員としての役割を果たせないということです。

一通りの業務をこなすとは言っても、不動産業者が行う業務範囲は広い。

物件調査に始まり販売資料や契約書・重説の作成、内見立会に融資申込や広告作成、はてはポスティングまでこなします。

これらの合間に、顧客からの電話相談に応じ、また売上を上げるために必要な営業電話やメール、訪問までこなさなければならない。

生真面目にやればすぐにオーバーワークに陥ります。

新人が「やることが多すぎて営業活動に手が回らない」と嘆き、売上が上がらずに業界を去っていく理由のほとんどが、煩雑で膨大な業務です。

このような煩雑な業務を日々こなしていくのですから、不動産業界のキャリアが長くなるほど仕事に対する要領は良くなっていきます。いい意味で種々選択がうまくなる。

営業会社において何が最も大切かといえば、悩むまでもなく営業活動です。

極端な言い方にはなりますが、売上につながる営業活動以外はたんなる雑用でしかない。

キャリアが長く売上も安定している不動産営業マンが、傍目には余裕があるように見えるのは重要な業務とそうではない雑用を見極め、必要とされる労力の配分をコントロールしているからです。

経験則による豊富な知識があるので煩雑な雑務もスムーズに、かつ効率的にこなせる。

その結果、営業活動に集中できているのです。

これは経験者ならではの「強み」と言えるでしょう。

ですが不動産業者に必要とされる知識の範囲は広く、一朝一夕に身につくものではありません。

そこでアウトソーシングが有用となるのです。

つまり外注できるものは委託して、自社は営業に集中する。

このような前提から採用できるアウトソース先としては以下のようなサービスが存在しています。

●契約書・重要事項説明書の作成代行
●重要事項説明に必要な物件調査
●内見立会の代行
●IT重説代行
●テレアポ代行
●融資申込代行
●広告作成代行
●販売資料作成代行

これ以外にも、便利なアウトソース先は存在していますがすぐに思いつくのはこのようなものでしょう。

これらのサービスはもちろん有償ですから、投下する費用と必要性、そして委託により期待できる売上の増加などを考慮して選択する必要があります。

もっとも、「売上が上がると期待してサービスを導入したけれど、営業マンが『楽』を覚えただけで効果は実感できない」なんて声が不動産業者の集まりで聞こえてきますから、むやみに導入するのはお勧めできません。

アウトソーシング利用のメリット

どのようなサービスを採用するのが自社に適しているかは、会社の規模やサービス導入により期待される効果、従業者のレベルなどによって異なりますが、一般論として考えられるメリットは以下のようなものでしょう。

全体として期待される効果

専門性の高いサービスを提供している委託先を利用することにより、経験不足により懸念されるエラーや不備を防止できると同時に、リソースを節約し営業活動に必要な時間を捻出できます。

コスト効果

契約書・重要事項説明書の作成代行を例に考えてみましょう。

アウトソーシングに必要な費用の目安は平均して10万円前後と、けして安い金額とはいえません。

ですが知見の豊富なエキスパートが、物件調査を始め一連の書類作成を代行してくれるのですから、自社で必要なのは誤記表示や記載漏れがないかなどのチェックだけです。

営業マンのスキルや物件所在地など諸条件により調査や作成に要する時間も変化しますが、売買実績がある分譲マンション(この場合、新たに取得するのは物件状況報告書と専有部分の登記簿程度ですから、早い方なら2時間もあれば作成できるでしょう)などを除けば、熟練の営業マンでも1~2日は必要になるでしょう。

会社の平均契約件数が5件/月で、そのうちアウトソーシングが必要ない分譲マンションの契約が2件程度あるとすれば、月の平均で必要とされる委託費用は30万円~が目安です。

作成のために専従の事務方などを採用すれば、給与が20万円前後としても販管費はその倍、およそ40万円弱を見込まなければなりませんから、考えようによっては「安い」とも言えるでしょう。

また契約件数が減少しても販管費が少なくなることはありませんが、アウトソーシングでは委託しなければ費用が発生することもありません。

物は考えようなのでしょう。

売上増大

アウトソーシングは不動産業務の特定領域を、プロに委託することにより前述したような効果を得られます。

アウトソーシングする目的の根底には「売上増大」があります。

つまるところ、少数精鋭であるリソースを営業に集中させ結果を残して欲しい。

これが達成できなければ、単に営業マンに「楽」をさせる結果に終わったと嘆くことになるのです。

そのために必要なのが、効率化によって得られた時間をいかに営業活動に集中させるかの対策でしょう。

そのために必要なのが委託先を決定する前の話し合いと意識付けです。

これを怠ると、会社が勝手にアウトソーシングを採用したのだから自分たちには関係ないという意識が生まれてしまうのです。

アウトソーシングの問題点

前項で例示したアウトソースは、一通りの業務を営業マン自らがこなせるという前提のもと、雑務に分類される業務を軽減できるサービスです。

便宜的に「雑務」と表現してはいますが、おざなりにして良い業務は一つもありません。

全ての業務を満遍なくこなせる前提で、相応の労力と時間が必要な業務をアウトソーシングして営業活動に集中することが目的です。

不動産業者の中には離職率の軽減を目的として物件調査や重説作成、融資申込、広告作成などの業務をあえて分業化しているところも存在しています。

「営業マンは知恵がつき、何でも一人でこなせると自信を持った順から辞めていく」と嘆く経営者も多いのですから、あえて分業制を採用している場合もあるのでしょう。

先述したように、従業者規模1~4人が全体の71.3%を占める業界ですから、「営業以外は何もできません」ではその会社では通用しても、転職すれば役立たずのレッテルを貼られます。

実際に筆者が不動産会社に役職者として勤務していた時代、「〇〇ホームでは売上が常にトップで、〇〇団地なんかは全体の1/3は私が販売しました」と鼻息荒く転職してきた営業マンがいました。確かに営業トークは流暢でしたが、書類作成や物件調査、融資申込業務なんかはまったくできない。

「前の職場では、そんな雑用はすべて専門の部門で行っていましたから……」と言い訳していましたが、馴れない業務に時間を割かれペースを崩したせいもあるのでしょう、思うように契約実績も上がらずやがて離職していきました。

業務効率化はもちろん大切ですが、それ以前に従業者規模の小さな不動産業者ではオールマイティーが求められます。

「人を育てる」という観点からいえば、基本的な教育訓練をおざなりにしてアウトソーシングサービスを利用させるのは推奨できません。

また筆者は部下の契約案件で重要事項説明を説明している最中もしくは説明後に、「営業マンから説明を受けていた話と違う!」と言われ契約ができなかった経験が何度もありますが、これは私道や道路計画による再建築の制限、近隣の嫌悪施設の有無や物件状況報告に関してなど、本来であれば事前に説明をして納得を得ている必要のある重要な説明を怠ったことにより発生しています。

なかには営業マンが「まったく知りませんでしたので説明していませんでした……」と、まるで人ごとのように言い訳する例もあるのですから始末に終えません。

調査能力などに知見があれば、販売図面や物件を一目見ただけで「この点は大丈夫かな?」なんて「感」も働くのでしょうが、そのような経験もなく他人任せにしていては成長が望めません。

そのような問題点が生じる可能性については、事前に検討しておきたいものです。

まとめ

隙間産業がビジネスになりうるというのは古くからの定説ですが、現在、アウトソーシングとして提供されている各種サービスは、「この業務は面倒なので、誰か代わりにやってくれれば助かるな……」と皆が思うような物が提供されています。

たとえばIT重説代行は厳密に言えば宅地建物取引業法違反ですが、自社の社員として指揮命令下におき従業者証を発行するなどの体裁を整えれば、必ずしも違法とはなりません。

物件案内代行については賛否あるのでしょうが、そもそも内見は必ずしも従業者による必要はありません。

自社の営業マンの手が回らないときなどには便利でしょう。

もっとも、アウトソーシング先の対応スタッフのスキルが心配ではありますが、対応できず機会損失になるぐらいなら委託するのも手です。

今後も、不動産業務に関してのIT化の推進や各種法改正などにより、隙間を狙ったアウトソーシングサービスは広がりを見せていくのでしょうが、あくまでもそれらを採用するのは成約件数を伸ばすこと、ひいては売上の増加です。

自社のリソースを棚卸し、どの業務をアウトソーシングすれば最大限の結果が得られるかを勘案し、自社に最適なサービスの導入を判断すれば良いでしょう。

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