【反対意見が収まらない】4号特例縮小による不動産業者への影響

2025年の省エネ適合義務化と同時改正される建築基準法の「4号特例」縮小に関し、いまだ反対意見が収まらないようです。

もっともどれだけ反対しようが、すでに国会審議で可決されていますから否応なしです。

反対意見の多くは木造建築を手掛ける設計士からのもので、理由は業務の負担増加が一番ですが、計算方法が分からないなども含まれているようです。

不動産業界からも「専門知識のある設計士が行っているのだから、従来どうりで良いのでは?」などの反対を擁護する声が囁かれているようです。

もっとも、媒介業務と並行し、「増築」を伴うリノベーション工事を提案している会社では「構造的に適合しない住宅ばかり扱っているのに、一体、どうすれば良いんだ」なんて頭を抱えているところもあるのですから、憶測に過ぎませんが死活問題に直結する方もいるのでしょう。

既存不適格建築物にたいし、建築確認申請が必要とされる程度の工事を行う場合、建物全体を現行法に適合させる必要があります。

基準が厳しくなればその影響を諸に受けます。

このような理由から「賛成」、「反対」が入り交る状況が続いていますが、施行されれば従うほかありません。

ただし、正しく理解しておきたいのは、工務店や設計事務所、建築士のみに影響を及ぼすと思われがちな改正法は、少なからず私たち不動産業者にたいしても影響があるということです。

今回はなぜ4号特例縮小が改正されたのか、その背景も含め不動産業界に及ぼす影響について解説したいと思います。

新耐震基準以降に建築されたから安心と考えるのは間違い?

既築住宅の内見中に顧客から、「この家は地震があっても大丈夫ですか?」と質問された場合、「新耐震基準に適合しているから大丈夫です」と回答したり、長期優良住宅や住宅性能表示制度については耐震性に関し、より厳しい基準を満たす必要があることから、それを根拠として「大丈夫です」と答えたりする方が多いのではないでしょうか?

このように答えるのは、建築確認申請時に耐震性について正しくチェックされているとの信頼があるからです。

ご存じかと思いますが、日本は世界第7位の地震大国です。気象庁のデータによれば、世界規模で発生しているマグニチュード6.0以上の地震のうち、およそ17.9%は日本周辺で発生しているとされています。

ですから顧客が耐震性について心配するのは当然です。

1981年6月1日以降から施行された『新耐震基準』は、震度6~7で倒壊・崩壊しないことを基準としています。

私たちはそれ以降に建築された住宅については基準に適合しているから大丈夫と考え、それを口にするのです。

ですが、信頼に基づき建築されているはずの木造一戸建住宅について、その多くは構造計算が行われず、有資格者の「勘」に基づき設計された住宅に過ぎないとしたらどうでしょうか?

建築基準法では第20条で、全ての建築物にたいし構造計算を義務付けています。

日本の建築法規では耐震性を重視しているのですから、これは当然なことです。

ですが一般住宅のほとんどが該当する木造2階建、延面積500㎡以下の住宅、所謂「4号建物」については、構造計算をしていなくても設計審査を通過してしまう。

なぜなら現行法では、建築士が設計を行った場合は構造関係規定等の審査を省略できるとしているからです。

これは『住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)』に基づき耐震等級が表記された住宅も同様で、構造計算をしていなくても最高等級である「3」もクリアできる。

無論、壁量・耐力壁配置を始めとして柱や梁、接合部、基礎などの強度が適合していることが条件ですから、仕様規定に基づき「壁量計算」は行われているでしょう。

ですが偏心率、柱引抜計算まで行っているかとなれば、とたんに雲行きが怪しくなる。

建築士が設計を行えば構造関係規定等の審査を省略できると解説しましたが、「提出しなくても良い」とはされていますが、「構造計算を行わなくて良い」とはされていないのです。

ですから、本来であれば構造計算を行わないことは「違法」なのです。

ですが、管轄省である国土交通省を始め、地方行政の担当者も実態を把握していない。さらに提出が不要とされているのですから、本当に構造計算が行われているかどうかについて調査も行われない。

計算結果は提出不要で、行っているかどうかの調査も実施されない。したがって、構造計算の費用や手間を省略しようと考えるのも不思議ではありません。

しかし、そのような状態で十分な耐震性は確保できているのでしょうか?

構造計算が行われていれば被害が減少していた可能性がある

平成28(2016)年4月14日に発生した熊本地震は、最大震度7という記録的な地震でした。

内閣府による情報によれば物的被害として全壊約8,300棟、住家被害は16万棟にのぼるとされています。

そのうち住家被害については、新耐震基準に適合している住宅がかなりの数含まれているようです。

冒頭で解説したように、新耐震基準で建築された住宅は、震度6~7では倒壊・崩壊しないはずです。

ところが国立研究開発法人研究所他が運営する『都市構造都市化計画』の提供データを見ると、新耐震基準で建築された建物の倒壊を確認できます。

地震により発生した土石流などによる被害であれば納得もできますが、データを見る限り必ずしもそうではない。平坦な土地での倒壊が確認されているからです。

あくまで仮説ですが、もし倒壊した住宅に構造計算が行われていたなら被害は軽減されていた可能性があります。

感覚で「OK」では信頼できない

一般住宅(木造)の建築確認申請を行うためには木造建築士、二級建築士、一級建築士いずれかの資格が必要です。

それではそのような有資格者のみが設計を行っているかと言えばかならずしもそうではない。

工務店などの営業担当がCADを利用して設計・提案した図面が、ほとんど手直しもされず申請されることはよくある話です。

筆者も某ハウスメーカーに勤務していた時代もありますが、提案図面は自ら作製していました。

無論、顧客提案前に有資格者によるチェックを受けるのですが、ほとんど手直しされた記憶がありません。

採光基準や壁倍率による耐震性などの基本さえ理解してしまえば、未経験者でも早々に作成できてしまうのが木造建築の設計です。

顧客要望でかなり大空間となる吹き抜けを設け、構造的に不安なので確認すると、「ま、大丈夫じゃない」なんてお墨付きを気軽に貰えるものですから、不安を覚えることも少なからずありました。

設計に関する有資格者であっても、その知見や経験には差があります。

やはり逃げ隠れできない構造計算が行われた方が安心できるというものです。

では4号に該当する木造建築物について、具体的に構造計算が行われている件数はどのくらいあるのかと言えば……公にされていません。

ですが、大手ハウスメーカーや地域で信頼を得ている優良工務店を除けばほとんど行われていないのが実情ではないでしょうか。

改正ポイント

2025年4月から施行される4号特例のポイントは下記の①と②です。

まず「審査省略制度」の変更、もう一つが建築確認申請の際、これまで一定の条件下では提出不要とされてきた構造・省エネ関連の図書について、例外なく提出が必要になったという2点です。

まず基本として覚えておきたいのが、建築基準法改正により従来の「4号建築物」は「新2号建築物」もしくは「新3号建築物」に分類されることです。

このうち「新3号建築物」については、従来通りの「審査省略制度」が適用され、構造計算の提出が不要とされています。

もっとも「新3号建築物」は延べ面積200㎡以下の平屋が対象ですから、ほとんどの木造住宅が「新2号建築物」に分類されます。

また、新築時だけではなく大規修繕・模様替の場合も構造計算の提出が必須とされる点も押さえておきましょう。

顧客にとっては安心に繋がるが……

現行法では設計士、審査機関の都合が優先されてきましたが、2025年4月1日以降に建築確認が申請される木造建築については、どの工務店やハウスメーカーに依頼しても構造計算が行われ、耐震性について審査される。

つまり遅ればせながら、ユーザーにとっては安心できる状態になるのです。

ですが既築住宅を購入し、リノベーションを行って居住しようと考える方については、安心材料が増えると同時に費用の増加が懸念されます。

例えば増築を考えた場合です。

10㎡を超える増築工事(準防火、防火地域においては下限なし)については現行法でも確認申請の提出が必要です。でも4号物件ですから、審査省略制度が適用されます。

ですが2025年4月からは、建物全体について構造計算が必要とされます。対象は増築部分だけではありません。

新築であれば必要な部分だけ剛性を強化するだけで済ますが、既築住宅については増築以外の部分についても耐震性能を強化する工事が必要になるかもしれません。

さらに新耐震基準以前に建築された物件については、大掛かりな工事が予想されます。

新築価格の高騰により活性化している既存住宅市場に与える影響は少なくないでしょう。

まとめ

現行の戸建住宅における壁量計算は、1981年に施行された新耐震基準に基づいています。

なんと42年前に定められた基準が、そのまま継続してきたのです。

今でも話題にのぼる『姉歯事件』は、2005年11月17日当時に建築士事務所を開業していた姉歯秀次一級建築士にたいし、「構造計算書の偽装があった」として国土交通省が公表したことに端を発しています。

偽装が行われそれがまかり通ったのは、建設業界にある過剰なコスト削減競争(姉歯事件については鉄筋量の過剰な削減)と、当時は杜撰であった建築確認申請や検査でした。

そこで構造計算や耐震性能偽装がクローズアップされ、事態を重く見た国が2007年6月20日に建築基準法を改正したのです。

これにより構造計算を含めた建築確認申請の手続きは強化されました。

ですが不思議なことに一般住宅については審査が省略されたまま、構造計算を行っていなくても審査を通過できる状態が継続されてきたのです。

つまり42年前の基準のまま、かつ構造計算が行われているかどうかも分からない状態で量産され続けてきたと言うことです。

有識者はこの状態が危険であると警笛を発し続けてきましたが、今回の改正でやっと正常化されました。

これは、既存建築物が取り引きの大半を占める私たちにとっても喜ばしいことです。

ですから私たち不動産業者は今回の改正ポイントについて、それにより生じるメリットを正しく説明できるようになるのはもちろん、リノベーションを前提として既築住宅の購入を検討している顧客にたいしては、費用が増加する可能性を含め説明できるよう備えたいものです。

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