不動産を仕事にしていると、顧客から「信頼できるリフォーム会社を紹介してください」と言われることがあるでしょう。
新築価格の高騰により、早々に購入を諦めて程度の良い既築物件探す方が増加しています。
価格の2極化が指摘される不動産ですが、駅近や立地条件の良い物件は高値に推移していますが、新築と比較すれば割安です。
そこで築年数にはこだわらず築古物件を狙い、リノベーションやリフォームの予算を計上したうえで購入を検討する方が増加しています。
資材高騰の影響でリフォーム価格も上昇していますが、総額を比較しても「安く」仕上がる可能性は高い。
各種ポータルサイトなどでも「予算を抑え、手頃な価格でお洒落な家に住む」なんて特集を展開すし、購買意欲を煽っています。
そのような宣伝効果によるのでしょう。
既存住宅の取引件数が増加傾向にあるのは喜ばしいことですが、注意しなければならないのはリフォーム工事に関連するクレームです。
(公団)住宅リフォーム・紛争処理支援センターが、弁護士会と連携して消費者の相談に応じる「専門家相談」の件数を見ても、例年、リフォームに関する相談が全体の約半数を占めています。
建築知識を有している方ならご存じのように、クロスや設備機器の交換ならいざしらず構造や断熱に干渉する工事は簡単ではありません。
新築を手掛けるよりはるかに難しい。
なんせ既存部分を破壊して施行する訳ですから、建築に関しての豊富な知識がなければ迂闊に手を出せません。
顧客は不動産業と建築業を混同し、「不動産業者だから建築も詳しい」と思っている方も多いようですが、手掛ける分野がまったく違う。
都市計画関連法や各種建築法規などには精通していても、具体的な工事内容や工法、気密の取り合いや断熱性能に影響を与える部材の選定などについての知識を有していない方も多いでしょう。
餅は餅屋の例えではないですが、余計なクレームを抱え込まないためには専門分野以外の領域には手を出さなないことです。
ですが斡旋した業者から「紹介料」が支払われることから、勤務先の会社がリフォームの斡旋を推奨しているケースもある。
これにノルマが課せられている場合には、積極的に売り込みをしなければならないでしょう。
ですがどのような形であれ紹介すれば、問題が生じた場合に責任が問われる可能性があります。
とくに増改築を含む、建物自体の用途や機能変更までを行い資産価値自体を高めるリノベーション工事については、説明するにも相応の建築知識が必要です。
意図せずに誤った説明をする可能性もあるでしょう。
その場合、関与の程度によっては宅地建物取引業法上の説明義務違反に問われる可能性があります。
リフォーム工事の斡旋を行うかどうかについては、様々な意図や考え方もあるでしょうから深くは言及しません。
しかし、リフォーム工事等に関するクレーム傾向を理解することにより、注意点についての理解が深まることでしょう。
そこで今回は、(公団)住宅リフォーム・紛争処理支援センターが毎年公開している『住宅相談統計年報』を中心に、問題を生じさせないためのリフォーム受注について考えたいと思います。
クレームの内訳と内容
『住宅相談統計年報2022』のデータから、相談傾向を確認してみましょう。
相談で最も多いのは「不具合が生じている」の74%です。
次いで「内容が異なる契約と工事」、「契約に関するトラブル」と続きますが、その比率は高くありません。
それでは具体的に、不具合はどの部位で生じているのか?戸建では屋根・外装・内装の順、マンションでは内装・屋根・外装の順になっています。
マンションを始めとする集合住宅は、共有持分となる外壁や屋根について、単独では工事を実施できないのですから、順位の違いも納得できます。
各種住設機器などについては、品番や色の間違いなどを除けば新品を設置しているのですから、不具合があっても保証により補修・交換が請求できますので大掛かりなクレームに発展しないのでしょう。
それにたいし外壁や屋根、内装についてのクレームは根が深い。
外装や屋根については、工事終了後すぐに雨水浸透したなんて根本的な問題はまず発生しないでしょうから、その多くは色の違い、剥離、工事遅延、追加請求などではないでしょうか。
内装についてはデザインを含め「思っていたのと違う」なんて主観的なクレームも多いものです。
クレームを主張する顧客が求めるのは第一に補修、次に損害賠償、もしくはその両方です。
この傾向は新築物件でも同様です。
工事前の詳細な説明で、クレームの大半は事前に防止できる
筆者はハウスメーカーの勤務経験があり、そこで営業を統括する立場にいたものですから担当者の対応では収まらないクレームに数多く対応しました。
その経験を基に原因を分析すると、以下の2つに大別されます。
- 契約と施工内容の不一致
- 施工不良
施工不良については逃げ隠れできませんから、補修などで対応するしかない。
その場合、実際に損害が発生している場合には、その賠償についても検討する必要があります。
ですが契約と施行内容の不一致に関してのクレームは、説明不足など不誠実な対応により発生しています。
先述した「思っていたのと違う!」と言うクレームも、予め説明をしていれば防げていた可能性が高い。
例えばサイディングなどの外装材を交換する場合、ショールームなど室内灯で見る外壁見本の色と、太陽光の下で見るのとでは色合いも変わります。
実際に色が変わっている訳ではありませんが、光のあたり具合でまったく違う色だと錯覚してしまうのです。
またサイズの小さな外壁見本で得る印象と、外壁に張り巡らされた際のイメージはかなり隔たりがあります。
施工後のイメージとしてCGを利用しても、所詮は「絵」です。
実際とはかなり異なります。
外壁塗装の色についても同様です。
色見本で指定しても、広い面積に塗布されれば明るく見えるものです。
また曇りの日など、時間帯や光のあたり方によっては暗く感じる場合もあります。
このようなクレームが入った場合、色や外壁見本を持って訪問し、現地で壁に並べ色確認を行うことはよくあります。
このように光の加減によって、同じ色でも印象が変わるという点を説明していれば、クレームは防げていたかも知れません。
施工業者の紹介に留まる場合には、信頼できる業者選びを徹底し、自ら関与する場合には、丁寧な説明が欠かせません。
そのために相応の知識は必要とされますが、それは関与する者の責任です。
努力して学ぶしかありません。
見積もり1社の危険性
筆者は不動産に関連する様々な相談に対応するコンサルタントですから、時折、リフォーム工事の見積もり金額が妥当なのかについて相談されることがあります。
その際、ひと目見て「避けるべき」とするのは一式表示が並んでいる見積書です。
例えば「クロス張替工事一式」なんてのは典型ですが、どの程度のグレード(品番)のクロスを、どの部位でどれだけ使用しているのか、また人区をどの程度で読み込んでいるのかなど一切、分かりません。
「キッチン交換工事一式」なんてのも同様で、キッチンのグレードやオプションの有無、廃材処理や諸経費の内訳も判断できない。
これは工事途中、もしくは終了後に追加請求を行う悪徳業者の典型ともいえる見積書です。
そのような見積もりは論外として、比較検討のため最低2~3社から見積もりを取得するのが原則です。
例えばクロス工事の場合、品番や㎡数の単価を比較すれば、およそ適正金額が見えてくるでしょう。
知識がなくても、比較することである程度は判断できます。
ですが(公団)住宅リフォーム・紛争処理支援センターに相談している方の67.8%は、1社からの見積もりで契約してしまっている。
これでは問題が生じるのも、ある意味で自業自得の面があります。
顧客が私たちを信頼し、紹介業者1社だけと商談し依頼することは多いかも知れませんが、紹介すれば道義的に責任が生じます。
丸投げにはせず見積書を確認し、内容を精査することは必要でしょう。
とくに近年は、リノベーション工事が盛況であることから、リフォーム関連の請負金額が高額になる傾向が続いています。
金額の多寡とクレーム件数は、必ずしも比例するものではありませんが、請負金額が高くなるほど工事内容も増加しますから、それだけクレームが発生する可能性も増すでしょう。
関与する場合は十分に注意すること。
そうでなければ慎重に紹介する必要があります。
極端ではありますが、そのような割り切りが大切かも知れません。
まとめ
リノベーションという用語は世間でも広く認知されるようになりましたが、その概念についての理解が深まっているとはいえません。
これは一般の方だけではなく、不動産業者においても同様でしょう。
リノベーション工事済み住宅との広告を見かけたので工事内容を見ると、浴室・キッチン・トイレなどの住設機器とクロスを交換しただけだったりする。
これはリノベーションではなくリフォームです。
リノベーションは『用途や機能変更までを行い資産価値自体を高める』ための工事を指し、断熱性や耐震性なども含め適用させる概念です。
中古住宅を新築並みに再生させると言い換えてよいかも知れません。
それにたいしリフォームは、部位ごとの機能性向上を意味します。
目的が重複しているため混同されるのは仕方がありませんが、不動産のプロである私たちはもう少し厳格に取扱うよう心がけたいものです。
性能向上を伴わない改修に関しては、適切な表現を用いる配慮が必要なのです。
例えば分譲マンションの場合、リノベーションと表現できるのはスケルトン状態まで内部を解体し、内断熱による断熱改修を実施、さらに必要に応じて開口部にインプラスサッシを導入して省エネ性を向上する、それと同時に間仕切り壁を新たに設け、住設機器は全て交換する。
そのレベルまでの工事を実施して、はじめてリノベーション工事実施済みと表現できます。
平成25年には東京地裁で、フルリノベーション工事実施を前提とした売買契約について、迂闊な説明を行ったことにより調査不足と指摘され、媒介業者が責任を問われた裁判例も存在します。
リフォーム工事にどの程度関与するかは、慎重かつ詳細な検討が不可欠だと言えるでしょう。