【トラブルに備え理解を深めたい】隣地境界からの距離と、落水についての法的見解

不動産業者にとって建築基準法や民法は、切っても切り離せない法律です。

これらは不動産業者の必須資格である宅地建物取引士試験において必ず出題されることから、説明は不要かもしれません。

これは、個々の差異があるかも知れませんが、不動産業者には基本的な法律知識の習得が期待されているからです。

もっとも、トラブル解決の拠り所である「民法」は、あくまで「私人間の日常生活において、一般的に適用されるルール(法律)」に過ぎませんから、条文の援用だけで解決できる性質を持ちません。

ですから、不動産関連法の習得を背景に、私たちには実践的な解釈や運用が求められます。

例えば、契約に関与した顧客から、『雨天時に隣家の軒先からの落水が、我が家の敷地に降りそそいでくる。早急に何らかの対策を講じるようお願いしたい』などと連絡が入ったとします。

雨は自然現象です。隣地境界からの外壁距離や、建物配置や屋根の形状、降雨量の強さによって多少なり降り注ぐことはあるでしょう。

「お互い様なので我慢してください」と言いたいとことですが、民法第218条で「土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の構造物を設けてはならない」と定められています。

具体的な落水量については雨天時に確認するほかないですが、降雨量によらず降り注いでくるようであれば、隣地所有者が民法の定めに反しているとの誹りを受けるのは仕方がありません。

通常、不動産業者は物件内見時には隣地境界からの距離や、隣家の屋根形状(当該物件を含む)から落水の可能性やトラブルについて予測して説明することは少ないでしょう。

そのような場合、後ろめたさもあるため、『対策を講じるよう隣家と交渉しろ!』と要求されれば、抗うことも困難です。

しかし、これらの問題を解決するのは容易ではありません。

そもそも雨水が敷地内に落水してくる場合、隣家に対して屋根の軒先の一部を切除するなどの防止措置を求めることは可能でしょうか?

そこで今回は民法や建築基準法、判例などを参考に境界からの距離や、具体的な対策について解説したいと思います。

法の定めによる隣地境界からの距離

外壁からの距離について定めた民法の規定は、不動産業者なら誰しも知っていることでしょう。

具体的には下記条文による民法第234条1項の規定です。

「建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない」

また続く同法第235条では

「境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダ含む)を設けるものは、目隠しを付けなければならない」と規定されています。

ところが続く同法第236条で、「前ニ条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う」とされていることについては、あまり知られていません。

つまり地域によって別な慣習がある場合、それに従えば良いとしているのです。

これには当事者同士の合意も含まれます。

つまり慣習がある、または当事者双方が納得している状態であれば、五十センチメートル以内の距離で建築しても問題ないのです。

ちなみに民法の定めに反したからと言って、公的機関からの罰則(民事での責任追求は除く)を受けることはありません。

このように民法による隣地境界からの距離は、非常に曖昧な定めなのです。

続いて建築基準法を見てみましょう。

第63条(隣地境界線に接する外壁)で以下のように定めています。

「防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる」

この場合、慣習や当事者合意は要件とされていません。

特定の用途地域において、規定された耐火基準を満たせば隣地境界に接して建築できるとしているのです。

確かに繁華街のビルなどを見ると、人が通り抜けできる隙間など存在せず、まるで一棟にしか見えないような状態で建築されているのを見かけます。

民法に違反するかのような建築基準法の規定ですが、これに関しては平成元年9月の最高裁判例で以下のような見解が示されています。

「建築基準法第63条の定めは、同条所定の建築物に限り、その建物については民法第234条1項の規定の適用が排除される旨を定めたものと解するのが相当」としているのです。

つまり、建築基準法第63条は民法第234条の特則にあたるとの判断です。

これにより、隣地境界からの距離については建築基準法が民法に優先される。

ですが、建築基準法では、特定の用途地域において耐火基準を満たした場合、隣地境界に接して建築できる旨を定めているだけです。

結局のところ隣地境界からの距離については、唯一無二の定めが存在していないということです。

隣地境界からの距離は軒先、それとも壁芯?

家,虫眼鏡

さて曖昧に運用されているとはいえ、特定の用途地域を除けば民法第234条1項(隣地境界から五十センチ離さなければならない)は遵守されています。

誰しも隣地と揉めたくありませんから、敷地に余裕がある場合、それ以上の距離を取る場合も多いでしよう。

ところが、カーポートや車庫についてはその限りでもないようです。

車庫のサイズに法律の規定はありませんが、国土交通省による標準駐車場条例によれば幅2.3m以上、奥行5m以上とされています。

この場合、敷地は約12㎡以上、必要です。

採光やアプローチにも影響しますから、隣地境界ギリギリの設置を考える方が多いでしょう。

もっとも、指示をしなくても車庫の施工業者は隣地から五十センチメートル離して組み立てるでしょう。

ですがその場合、外壁(もしくは車庫基礎の外面)を基準として計測します。

屋根形状によっては、庇が隣地境界の垂直直線上ギリギリになる場合もあるでしょう。

この場合、屋根の勾配によっては雨水が隣家に降り注ぎます。

これにより、車庫を組み立てた途端にトラブルが勃発することもあるのです。

そこで車庫も含めた建物全般について、あくまで五十センチメートル離すことを前提にした場合の起点を考えてみましょう。

起点は屋根または庇の各先端から鉛直に下ろした線が地表と交わる部分なのでしょうか、はたまた建物の側壁(出窓がある場合はその側壁)または「壁芯」を基準とすれば良いのでしょうか?

これについては下記、昭和58年の東京高裁判例が参考になります。

「境界線からの距離は、建物の屋根または庇の各先端から鉛直に下ろした線が地表と交わる線と境界との距離を測るのではないと解される」

これにより、現在では外壁(外面)からの距離を起点とするのが一般的です。

裏付けとしては、平成4年の東京地裁による裁判例が参考になります。

民法第234条で定める距離の起点について、「建物の側壁又はこれと同視すべき出窓その他の張出し部分との最短距離を測るものと解される」との判断を示したからです。

もっとも、隣地からの距離が適切であるということと、降り注ぐ雨の問題は別の話です。

新たに車庫や住宅を建築する場合において屋根の庇が隣地境界の垂直線上に及ぶケースでは、勾配を逆にするほか雨樋を設けるなどの配慮が必要です(民法第218条)。

対策を求めるのは困難?

民法第234条(隣地との距離)第2項では、「規定に違反して建築をしようとする者がある時は、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる」と定めています。

ただしこれは、建築中(建築計画を含む)に限りとされています。

ですから、竣工された住宅等にたいし屋根形状の変更を請求することを認めているのではありません。

民法第234条ではその後半で、「建築に着手した時から1年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる」としているからです。

この定めにより、雨水が注がれることを根拠に、隣家にたいし軒先の切除や形状変更を求める要求が、法的に争った場合に認められる可能性は低いことが分かります。

これについては東京地裁の平成4年裁判例が参考になるでしょう。

同様の趣旨で争われた裁判において、「他人が隣地に建物を建てて生活することが認められている限り、これによってある程度侵害を受けることは避けられないというべきである」とした後に「近隣者間において社会生活を円満に継続するためには、居住生活の過程で不可避的に生ずる法益侵害を互いに受任することが必要」としました。

つまり「お互い様」という考え方について言及したのです。

ですが、明らかなる侵害がある場合に「泣き寝入り」しろとは言ってません。

どのような場合に損害賠や差止め請求できるかについて言及しているからです。

具体的には、「社会的受任の限度を超えた生活侵害のみが、違法なものとして、不法行為や差止請求や損害賠償の対象となるものと解される」と表現しました。

お馴染みの「受任限度」です。

受任限度は、「被害の程度」、「加害の態様」、「公益性」、「地域性」、「先住性」、「被害者の特殊事情」、「継続性」、「公法的基準」、「利害関係者の対応」など、様々な要素を総合的に勘案し判断されますので、主観的な意見が簡単に認められることはありません。

結局のところ解決策は?

『対策を講じるよう隣家と交渉しろ!』と言われた場合、まずは今回、解説で理解された内容を説明すると良いでしょう。

つまり、「明らかなる違法建築でもない限り、許容される程度の侵害は避けられない」ということ、そして、「屋根の形状変更や切除の要望を強制することはできない」という2点についての説明です。

加えて、受忍限度についての説明も行っておきたいものです。

そのように「理」を諭しても、『屁理屈を言ってないで、対処しろ!』と言われることもあるでしょう。

その場合においては、実際の落水がどの程度のものなのか雨天時に確認する必要があるでしょう。

それも、幾つかの降雨量の状態を確認し、動画を撮影する必要があるでしょう。

その上で、社会通念上許容される程度のものであれば、エビデンスを提示して再度、説得を試みます。

それでも隣家に掛け合えと強要されれば、対応策は2つです。

「コンプライアンスに反する代理交渉はできません」と断るか、「あくまでもお願いとして、先方に伝えてみます」と回答するかです。

隣家に相談に伺う際にも、「法」を根拠にゴリ押しするのではなく、エビデンスを提示した上で「お隣も困っておられるので……」とした上で、防止策について一緒に検討できないかとの姿勢で望みたいものです。

さて、それでも決着がつかない場合、後は当事者同士で争ってもらう他ありません。

その場合、損害賠償の請求はどの程度認められるのでしょうか?

判例等を調べて見たのですが、具体的な損害賠償額について適当なものが見当たりませんでした。

具体的に損害が生じているならイザ知らず、そうではない場合、請求の判断基準がないからです。

主張が法的な根拠を持たないとして「不受理」とされる場合もあるでしょう。

事件として受理されても、具体的な損害が生じていない状況では費用倒れ、つまり徒労に終わるケースも多いことから、裁判所はおそらく「和解」を勧めるでしょう。

結局のところ双方が歩み寄り、無理のない範囲で対策を検討するのが得策なのです。

まとめ

今回解説した隣家からの落水に限らず、マンション上下階における「音」の問題のほか、町内会の加入や会費、ゴミステーションの管理状況など、およそ様々な相談やクレームが、私たちに寄せられることがあります。

問題があるとされる場合もあれば、許容範囲でしょうと言いたくなるものまで様々です。

顧客からの相談であれば真摯に対応する必要はありますが、社会通念上問題のある要求に対しては、毅然とした対応を取る必要があります。

私たちに裁定する権限はありませんが、相応の知見を有していれば、それに基づき説明し、解決策を提案することはできるでしょう。

ビジネスで大切なのは、「人」と「人」との関係性です。

対等な関係性を念頭に、問題解決に取り組むよう心がけたいものです。

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