【不動産トラブルを回避するには?】消費者相談の傾向から考える

不動産業はトラブルが発生しやすい業種とされています。

公的な資料で産業別のクレーム発生率がまとめられている訳ではありませんが、PIO-NET(消費者生活センター間の収集ネットワーク)を見ると、賃貸アパート・マンションに関する相談件数が、2年連続3位にランクインしていることが確認できます。

産業別,クレーム発生率,PIO-NET

賃貸に限らず、インターネットやSNS上の口コミを集計したランキングでも、不動産業全般のトラブル発生は10位前後で推移しています。

実際の推移として「住まいるダイヤル」と運営する公益社団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの集計結果(2022年)を見ると、総数は上昇傾向にあることが分かります。

公益社団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの集計結果,相談件数の推移

相談者の傾向を見ると、およそ90%は消費者からの相談ですが、地方公共団体や業者からの相談が残り約10%あるとされています。消費者から寄せられる相談は「住宅のトラブル」の割合が高く、事業者からの相談は「知見相談」、そのうち約6割はリフォームに関するものです。

売買に関する相談については買主側の割合が高く、全体の8割弱を占めています。

主な相談内容は「解約(手付放棄など)」や「媒介業者の責任(説明内容や過不足)」です。売主側からの相談もありますが、少数派で、「解約」や「媒介依頼や報酬」に関しての相談が8割以上を占めています。

賃貸借に関しては、「原状回復問題」やそれに関する「敷金返還」、「設備の不備や瑕疵」が相談の多くを占めています。

このように不動産業にはトラブルが常に潜在している。それを理解し、私たちは対処策を考える必要があるのです。

回避するためには適切なポイントを理解し、発生時に速やかに解決するために必要な知識を身につける必要があります。

そのため相談センターに寄せられている問題や傾向を把握し、これらを防ぐために必要な対策を考えることも重要です。

今回は、不動産トラブルの傾向と、防止するために必要な注意について解説していきます。

クレームの根本原因を知る

クレームを受けて喜ぶ方はいないでしょう。

そんなことは当然で、理由を解説する必要もありません。ですが不思議なもので、クレーム処理が上手い営業マンほど成約率の高い傾向が見られます。

結局のところ、ビジネスの成功は問題解決能力と密接に関連しています。

顧客が希望する物件と、予算や諸条件等との乖離による隔たりを、折衷案の提示や不足する知識を補いながら解決していく。それが成約に繋がるのです。

その際、提案に必要なのが幅広い不動産関連知識と経験に基づく知見、そして最新の市場動向や物件情報です。

この基本は、トラブル解決の場合も同様です。クレームや他の問題が発生した場合には、迅速に対処する必要があります。そのためには根本的な原因を速やかに把握し、改善案を立案する能力が求められるのです。

解決が苦手な方は、問題に対して積極的に取り組もうとする意欲が不足しており、なぜ問題が生じたのかについて理解が不十分です。さらに取り敢えずの措置で誤魔化し、先送りしようとする傾向が見られるのです。

クレームの根本原因を知る

根本的な原因が理解できていなければ、提案する解決方法も的外れとなり、無駄に時間が経過します。時間が経つにつれ、元々は些細なはずの問題が大きくなってしまうことがあるのです。

具体的な相談傾向を知る

問題解決能力を高めるには経験が不可欠です。しかしながら、初めてトラブルに遭遇した際、特に初心者は挫折感を感じることがあります。

経験年数が短いため、初心者は熟練者と比較して許容応力度が低いと言えます。問題が発生した場合、根本原因を見極めることが難しく、「叱られた」、「注意された」という事象に意識が向いてしまう傾向があります。

しかし、経験者でもこのような傾向が見られることがあります。大切なのは問題の根底を見極めることです。

問題が何かを理解することで、適切な対策や心構えが身につけられます。

そこで、東京都住宅政策本部民間住宅部不動産課から公開されている、令和4年度「不動産取引に関する相談及び宅地建物取引業指導等の概要」を参考に、売買と賃貸に関する相談傾向を見てみましょう。

不動産取引に関する相談及び宅地建物取引業指導等の概要

売買においては、解約や媒介業者の責任(説明)、契約不適合(瑕疵)、損害賠償が最も多い相談事例として挙げられています。

解約に関しては、手付放棄と白紙解約の判断についての相談が多く寄せられています。特に、ローン特約に関する相談が目立ちます。

特約があるので安心して契約を行ったにもかかわらず、融資が承認されず白紙解約を求めたところ、他の金融機関を探すよう言われ、解除に応じないケースです。

また、業者の説明に関する相談も数多く確認されています。必要事項が十分に説明されていない、もしくは虚偽の説明をされたなどです。それ以外にも、自然災害の影響に関する説明や、建物の現況に関する記載内容についての相談も増加しています。

賃貸で最も多いのは「原状回復」についての見解に関する相談ですが、「設備の不備・瑕疵」についての相談も増加しています。

この傾向は売買も同様で、利用に支障がないと告知された設備が、実際には使用できないなどのトラブル相談です。

これらの相談事例を知れば、不動産における様々な問題点が明らかになるでしょう。問題解決能力を高めるためには、こうした事例を知り、適切な対処法を検討しておくことが重要なのです。

トラブルを防止するために必要なこと

不動産トラブルを防止するため、私たち不動産業者は以下の点に留意する必要があります。

●顧客要望を正確に理解し、物件売買(賃貸)に重要な判断を与える内容については特に丁寧に、理解が得られるまで説明を行う。

一般の方が不動産関連用語や関連法を聞いて理解が及ぶものではありません。そのため、そのような専門性の高い説明を行う場合には、可能な限り分かりやすい表現で、端的に説明する必要があります。

また理解の程度を確認し、必要があれば再度、表現を変えて説明する必要があるのです。

独りよがりで説明したつもりになってはいけません。不動産トラブルでは「説明した」、「いや、聞いていない」などのやり取りが多いことに留意しましょう。

そのためにも交渉経緯を記録する習慣を心がけておくと良いでしょう。

●物件状況については正しく把握し、物件状況報告書を鵜呑みにするのではなく、詳細な確認を実施する。

「物件状況報告書」を売主・貸主等に記載してもらう際には、虚偽の告知をするとトラブルに発展する可能性があることを説明し、正しい記載を促す必要があります。

そこを抑えておけば、告知通りの性能を有していない場合において私たちの責任は回避できます。

ですが、責任は回避できてもトラブルには巻き込まれます。そのため、可能な限り、告知内容に齟齬がないかを確認する配慮は必要です。

相談窓口には、「過去の浸水履歴についての説明は必要ないのか」などの問い合わせがよく寄せられているからです。

行政の相談窓口にはその他にも、排水設備は整備されていると説明されたのに、実際は高圧洗浄を実施しなければ使用できないなど、建物現況報告書の記載内容についての相談が増加しています。

●防災意識の高まりを理解し、防災関連法の理解を深めると同時に重要事項説明では義務付けられていない建築物の耐震性や地耐力などについての知見を深め、説明できるように備える。

最近では、自然災害が多発したことにより消費者の危機意識も高まっています。

土砂災害警戒区域や崖条例など、説明が義務とされている内容については当然に説明を行っているでしょうが、時に理解の程度を確認し、時間をかけ十分に説明する必要があります。

また説明義務はありませんが、地耐力や建物の耐震性能などについて質問があった際、説明できるよう理解を深める努力は怠らないようにしましょう。

●「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」を熟読し、業法の運用解釈についての知見を深める。

法条文は大切ですが、それを丸暗記しても実践ではあまり役立ちません。条文以上に大切なのが、解釈と運用です。

不動産業者に密接に係る法律としては、一番に宅地建物取引業法が挙げられます。

その運用と解釈については、国土交通省が公開している「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」を熟読しましょう。令和5年12月28日以降の最新版は下記のURLから確認できます。

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001716270.pdf

また賃貸においては、2020年4月に改正法が施行された以降も、原状回復に関するトラブルが多数確認されています。

下記に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」のリンク先を紹介しておきますが、改めて賃貸人と賃借人それぞれの負担について、理解を深めましょう。

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html

●不動産に関してのトラブル事例や判例については常に情報収集を心がけ、自身と顧客を守るための知見を深める。

最近は特に、高齢者から「業者に安く買い叩かれた」との相談が急増しているほか、その親族からも「判断能力が低下している売主との契約が有効とされるのか」と言った問い合わせが増加しているとのことです。

このような傾向は成人年齢引き下げにより、若年層にも見られるようです。そのどちらも、判断能力や経験値の不足により、適正な判断ができない方々です。

そのような懸念がある方々にたいし、強引な勧誘をしない。またそのような懸念を周囲から抱かれないように、販売や契約に至った経緯や、契約書面が法に抵触していないかを吟味して、疑義が生じないよう注意する必要があります。

また貧困ビジネスに関しての相談も、最近は増加しているようです。具体的には生活保護費を騙取(へんしゅ)するため、虚偽の重要事項と37条書面(契約書)を交付して、実際には敷金・礼金がないのに、その授受があると役所に申請し、広告宣伝費名目で当事者から徴収していた事例などです。

このような行為は当然に違法ですから処分の対象とされますが、日頃からトラブル事例や、不動産に関しての判例などについて情報収集を心がけ、広く知識を学ぶよう心がけたいものです。

まとめ

不動産業者には、宅地建物取引業法だけではなく民事法を含め幅広い知識が必要とされます。

また知識だけでは片手落ちで、それらを理解した上で高度なレベルの判断が求められるのです。

そのような観点から言えば、大変難易度の高い職種です。

ですから企業内の属人的な知識の承継だけではなく、日頃、自ら学ぶ意識を持ち、また実践経験を通じ知見を蓄積していく必要があるのです。

例えば媒介業務で買側を担当とした場合、物件紹介、売担との交渉、各種書類作成及び説明、決済・引渡が一連の流れです。

ですが実務においては税務や法律相談、ローン付や登記の手配、建物状況調査の依頼など購入に付随する様々な業務が必要となり、それぞれに関する知識と、必要に応じ連携する人脈(各士業)が必要になります。

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不動産営業は個人商店の要素が高いので、知識や知見、人脈を個人として保有していれば業務は円滑に行えるでしょう。ですが、それでは組織や後進の成長に期待できません。

知識を組織知(組織としての知識)として蓄積し、承継するためには円滑なコミュニケーションが必須です。

不動産トラブルを防止するには個人と組織、その両方が知見を深め対応していく必要があるのです。

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