【立証は簡単ではない】立退き正当事由の判断基準

賃貸人の立場は強い。

これは賃貸の目的物が、賃貸人の居住や商業活動などの生活基盤になることから、簡単に追い出されることがないよう規制されているからです。

不動産業者の皆さんならご存じのように、普通賃貸借の契約期間は最低1年、最長は期間の定め無し、つまり無期限です。民法では第六◯四条で賃貸借の存続期限について、「50年を超えることができない」と定めていますが、同時に借地借家法第二九条の2項で「民法第六◯四条の規定は、建物の賃貸借については、適用しない」と定められています。

これにより借地借家法が適用される「借家」については、期限が無しとされるのです。

もっとも、期間を定めることは合法です。

したがってマンションやアパートなどの一般的な普通借家契約においては、契約期間を2年として締結される場合が多いでしょう。

この場合、更新拒絶や立退き交渉が格段に難しくなります。

信頼関係が破壊されるほどの賃料滞納(およそ3ヶ月以上が目安)や、用法遵守義務違反に該当するほどの迷惑行為でもあれば話は別ですが、賃借人の立場が、圧倒的に強いからです。

もっとも正当事由が存在する場合には、賃貸借契約の更新を拒絶することが可能です。

ですが条件は厳しく、借地借家法第二十八条「建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件」で正当事由は以下の場合に限るとされています。

●建物の使用を必要とする事情
●建物の賃貸者に関する従前の経過
●建物の利用状況
●建物の現況
●建物の明渡しと引換に賃借人に対して財産上の給付申出

もっとも、これらは契約期間終了6ヶ月以上前に更新拒絶を通知した際、その意向に反し賃借人が契約更新を主張した場合において、法定更新が合法であるかを判断するための「正当事由」に過ぎません。

ですから要件が具備されているからといって、すんなり立退きが認められる訳ではないのです。

ですが法の定めが誤って解釈されている影響でしょうか、賃貸オーナーの中には、お金さえ払えば簡単に立退いてもらえると考えている人も多く、また経験が未熟なのに、立退交渉を軽く考えている不動産業者も存在しています。

そのような方々が直接交渉を行った場合、もはや修復が困難なほど拗らせているケースが多く、不動産コンサル案件では、そのような状態になってから相談が持ち込まれてきます。

理解していただきたいのは、立退交渉は知識や知見だけではなく、事前調査と、それに基づき綿密に計画を立て、段階的に交渉する意識が大切だということです。

今回は正しく理解を深めたい方に向け、賃貸借契約について解説します。

正しく理解していますか?定期賃貸借と普通賃貸借の違い

建物賃貸借契約は「普通貸家」と「定期貸家」の2種類あるのはご存じかと思います。

ですが定期借家契約は案件自体が少ないため、正確に理解されていないケースが多いようです。

良い機会ですので、この場を借りて解説しておきます。

一般的な賃貸借は普通借家契約で行われます。契約期間は1年以上で更新も可能、契約当事者が更新の意思表示を行わない場合でも期間が満了すれば契約は自動更新されるのが一般的です。

それにたいし定期借家は期間の満了で契約は終了し、更新はされません。

当事者の合意により再契約することは可能ですが、必ずしも従前の取決めが承継される訳ではありません。

賃料や契約期間などについて全く違った内容になることもあるのです。

主な違いは下記のとおりです。

定期賃貸借と普通賃貸借の違い

定期借家は期間満了で確実に退去させることが可能ですから、転勤などを理由に一定の期間のみ部屋を貸出す際や、所有している空家を自身が居住するまで貸出す場合のほか、数年後に建替えを予定している物件などに活用されることが多いでしょう。

ただし最近、リースバックでの定期借家トラブル相談が増加しています。所有者は不動産をリースバック会社に売却し現金が得られます。

その上で賃貸借契約を締結し、賃料を支払うことで住宅に住み続けられます。

この場合、賃貸借契約は普通借家、定期借家のどちらで契約するかは当時者が自由に決められるのですが、リースバッグの条件を定期借家に限るとしているケースがあります。

一般の方は、その違いを正確に理解していません。

定期借家契約であっても、「合意により新たな契約を締結できるので心配いりません」などと説明されれば、契約が更新できるものと勘違いするでしょう。

期間が満了すれば契約は終了し、再契約するかどうかは当時者の自由です。ですからリースバッグ会社が不当に賃料を引き上げても、契約の締結を拒んでも合法です。

当然、問題なく更新ができると思っていた賃借人は「聞いていた話と違う」となるでしょう。

更新の有無は生活基盤となる住居に関する重要な要素です。

そのような問題を抑止するため、国土交通省は定期借家契約の標準書式を公表しているのです。

https://www.mlit.go.jp/common/001479829.pdf

定期賃貸住宅標準契約書

また契約締結時においては「この契約は更新がなく、期間の満了により終了する」旨を、別紙にて添付・説明するのが望ましいとして、承諾書例も公表しています。

定期賃貸住宅契約についての説明

またリースバックによるトラブル相談では、修繕に関するものが多いようです。

あくまで賃貸借なのですから、賃借人の責に帰さない設備機器等の修繕義務は、賃貸人であるリースバック会社にあるはずです。

ですがこの修繕に関する取り決めが曖昧にされている場合が多く、賃借人負担とされているケースが多いようです。

標準契約書でも契約期間中の修繕に関しての修繕義務は、賃借人の責に帰すべき特段の事由が存在しない限りは賃貸人がその責を負うとしています。

これに限らず、賃借人からの申出による契約の中途解除や、一部滅失時の賃料減額、再契約に関する条項などについて、指針となる約款が設けられています。

普通借家契約との違いを理解するためにも一読しておくと良いでしょう。

正当事由の立証

賃貸借契約を締結する場合、余計な手間をかけず確実に退去してもらいたいと考える場合に定期借家契約は有用です。

顧客から所有不動産を賃貸運用したいとの相談が寄せられた場合に備え、前項で普通借家と定期借家の違いを解説しました。

ここでは普通貸家契約において更新拒絶が認められた具体的な事例を紹介していきます。

1. 債務不履行等による信頼関係の破壊

賃料滞納のほか、賃貸人が仮払いしている電気・ガス・水道料金等の滞納や更新料の未払などの他、再三の注意しても改善されない迷惑行為などが存在する場合には信頼関係の破壊に該当します。

2. 賃貸人が自ら居住するため(立退料の支払あり)

その他にも「自己所有の必要性が生じた場合には賃貸契約を解除して、賃借人は賃貸人にたいし本件物件を引き渡す」とした約定を、普通借家契約で定めておいたことにより、立退料の支払いなしに正当事由が認められた判例(東京地裁昭和60年2月)があります。

もっとも約款で定めたからと言って、直ちに正当事由が認められた訳ではありません。

所有物件に住まなければならない特段の理由(間借りした親戚の家が狭い、親との同居を検討しているなど)が判断基準になっているからです。

3. 老築化による建替

このケースでは数々の判例が見つかりますが、ポイントは建替えの必要性と、具体的な計画の立証です。

「建替えを予定しているので……」なんて理由では認められません。

建築会社が作成した図面、見積書、建築計画書などにより、具体的な計画が進められていることを立証し、同時に建物の老朽化により予想される賃借人への影響(建築士による建物現況調査結果による危険度判定など)などの証拠が必要になります。

「立退き料を支払いたくない」は通用しない?

賃貸人の中には、「正当事由があるのだから立退き請求は合法だ。したがって立退料は支払わない」なんて方もおられます。

確かに、更新拒絶要件が存在する場合や信頼関係が破壊される程度の賃借人の債務不履行や迷惑行為があれば、立退料を支払わずに退去させることは可能です。

ですが、それは賃借人が説得に応じて自主的に退去した場合を除けば、裁判による他ありません。

たとえ賃料が滞納され信頼関係が破壊されたとしても、賃借人の了解を得ず荷物を搬出する行為や、鍵を交換するような行為が認められる訳ではありません。

明渡訴訟を行ない「勝訴」の判決(もしくは和解)を得たうえで、それでも退去に応じない場合に限り、裁判所に強制執行を申し立てることで初めて実現できる手段です。

裁判には時間もかかりますし、訴訟や弁護士費用、強制執行に必要な運送業者や荷物の一時保管場所を手配するなど手間や費用も必要です。

そのような手間や費用をかけるぐらいなら、妥当な立退料を支払い、納得して立退いてもらうことが一番です。

立退料を賃借人に対する迷惑料と捉える方もおられますが、確かにその一面がありますが正確には「正当事由の補完」です。

正当事由については冒頭で解説しましたが、それらは例示的な性質のもので、最終的には総合的な観点により判断されます。ですから、一部該当しているからと、直ちに正当事由が認められないことについては、これまで解説してきた通りです。

そのような不完全な正当事由を補完するのが、立退料なのです。

ですから諸条件によって金額は変化します。それでも賃貸人は「相場ってものがあるだろう」と、目安金額を知りたがります。

その場合、あくまで目安ではありますが下記の表が参考になるでしょう。

立退料,目安金額

実務的には、老朽化が著しい戸建賃貸の場合、「震災などで建物が倒壊して、万が一のことがあったら心配なので」と説得し、引越代と移転先の敷金・前家賃だけを負担することで、快く退去してもらう場合もあります。

よくいきなり訪問して、「〇〇円支払うのですぐにでも退去して欲しい」などと切り出されたとの話を耳にしますが、悪手です。

正当事由と諸条件を勘案し、コミュニケーションを取ると同時に信頼関係の構築を心がけ対応していくことが大切なのです。

まとめ

今回は立退正当事由を中心に、立退交渉の依頼に備えるために必要な基礎的知識について解説しました。

立退交渉に関しては、「不動産会社のミカタ」寄稿記事でもテーマを変え、何度かお届けしています。

本来、立退交渉は弁護士の専従業務ですから、私たち不動産業者が手掛けるべきではありません。

ですが弁護士への依頼は費用や敷居が高いなどの理由からでしょうか、私たちに相談が持ちかけられることが多いものです。

立退交渉は容認されませんが、賃貸人の要望を伝達し、それに対する賃借人の意見を聞き取る、いわばメッセンジャーとしての役割まで禁止されている訳ではありません。

私たちは、借地借家法の規定や関連法について相応の理解しています、ですから、活動中に当事者から助言やアドバイスを求められることもあるでしょう。

それに対応したからと言って、直ちに非弁行為だと糾弾される訳ではありません。

自分たちの業務範囲を理解して、バランス感覚を持ち対応することが大切なのです。

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