電気料金の小売が全面自由化されたのは2016年4月のことです。
執筆時点でほぼ9年目となる訳です。
資源エネルギー庁によれば、2023年3月時点における全電力量に占める新電力のシェアは、家庭用の低圧分野で約23.8%とされています。
下記のグラフが作成された2023年7月には26.1%でしたから、新電力シェア率が減少していることが確認できます。
もっとも、2021年をピークに一進一退を繰り返している様相ですから近視眼的に判断できるものではありません。
選択肢が多いのは、消費者にとって有利だからです。
政府は2030年までに、新築住宅の平均でZEHの実現と目指すと同時に、全住宅の5件に1件をオール電化住宅にすることを目標としています。
地球温暖化防止するためには、二酸化炭素排出量の削減に期待できるオール電化住宅の割合を高める必要があるとの考えからです。
ZEH要件としてオール電化は必須とされてはいませんが、太陽光発電と相性が良いのは間違いありません。
住宅性能や採用している設備機器、契約電気形態などにより、気象条件や延床面積が同じでも、月々の電気料金が大きくことなります。
私たち不動産業者がオール電化住宅を手掛ける場合には、メリット・デメリットを正しく理解した上で説明する必要があるのです。
火を使わないから安全で光熱費の管理がしやすいなどのメリットが挙げられる一方で、大規模停電時のリスクなどのデメリットもまた存在しているのです。
そこで今回は、電気料金の価格推移と今後の展望のほか、電力プランを選ぶ際に注目したいポイント、設備交換時の注意点などオール電化住宅の取扱時に必要な知識について解説していきます。
電気料金の値上がりは確実?
電気料金が値上がりすると、より強い影響を受けるのがオール電化住宅です。
2022年、ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的な燃料価格の高騰による影響が未だ継続していることで、電気料金は高値で推移しています。
その影響をより強く受けたのが、新電力各社です。
新電力会社は、大手と比較して価格が割安ですことを訴求力としていました。
ですが2022年のピーク時、自由料金(低圧)の平均価格は40円/kWhまで上昇したのです。
この額は2016年4月の電力自由化以前から提供されている「規制料金(従量電灯)」、つまり電力自由化に伴い懸念される大手の独占状態を抑制するため、経過措置として大手に義務付けられた金額を上回るものです。
各電力会社の判断で自由に設定できる自由料金が、規制料金を上回っている状態では新電力会社は苦しい戦いを強いられます。
実際に、小売電気事業者の登録数は2022年1月まで増加を続けてきましたが、先述した燃料価格の高騰以降は採算が合わず、事業廃止や解散する事業者が増加しました。
2023年10月末時点での小売電気事業者の登録数は731者とされています。
消費者が新電力会社を選択するのは、大手より料金が安く、サービスが充実していると考えるからです。ですが原油価格の高騰により、大手よりも供給価格が高くなることがあります。
これを抑制するためには、かなりの努力が必要です。
もっとも無理が過ぎれば、経営破綻に繋がります。
そのためサービスの大幅な変更や電気料金の引き上げなどが行われました。
消費者の期待に応えられないと、トラブルが発生します。
実際に国民生活センターへ寄せられる小売電力に関しての相談件数は増加しています。
執筆時点(2024年3月)、大手電力会社の平均価格は31円/kWh前後で推移しています。
最高値と比較して値下がりしていますが、依然として安定した状況ではありません。
さらに2024年5月には、激変緩和措置として政府が実施している家庭用低圧電力への支援金(3.5円/kWh)が縮小される見込みとなっています。
支援縮小による電気料金の値上げが懸念されているのです。
オール電化住宅を検討される方の多くは、小売電気料金の価格推移に不安を持っています。
顧客からの質問に備える意味でも、市場動向には留意しておきたいものです。
電力プランを理解する
物件引渡時に、顧客に電力会社を紹介する、もしくは加入手続きをサポートする必要があるかについては意見が分かれるでしょう。
電力自由化により新電力会社の数も増加し、契約先の選択肢も広がりました。
紹介するのであれば、なぜお勧めなのか根拠を示す必要があります。
そのためには電力会社を比較して、相応の知見を身につけておく必要があるでしょう。
電力会社の紹介は不動産業者の義務ではありません。
下手に紹介するよりも、「自己責任でお選びください」とのスタンスを保持する方が安全かもしれません。
ですが、オール電化住宅特有といえる電力プランの基本は覚えておく必要があるでしょう。
大手電力会社に限らず、最近では新電力会社からも、オール電化住宅向けに様々な電力プランが提供されているからです。
オール電化住宅の料金プランは、原子力発電の余剰電力を利用するために夜間の料金単価を低く設定しているのが特徴です。
そのため相応の電力が必要なヒートポンプでの湯沸かしについては、割安な時間帯の電力を利用すると言った具合です。
また電力プランの中には、土日や祝日に割安な電力を提供する「休日プラン」をものもあります。
電力プランは、電力会社により様々です。
「割安な時間帯を活用して、いかに効率良く電力を使用し電気代を下げるか」が大切なのです。
問題点としては、一般的な料金プラント比較して昼間の電力単価が高く設定されていることです。
例えば北海道電力の場合、一般的な家庭が使用する従量電力Bで、最初の120kWhまでは35.44円/kWh(2024年3月末まで)となっています。
オール電化住宅向けの電力プランである「エネとくスマートプラン」の場合、夜間・日・祝は29.06円/kWhですが、日中は38.04円/kWhと、従量電力Bと比較して2.6円割高になっています。
割安となる夜間時間帯当は電力会社によって22:00~8:00、1:00~6:00など様々ですが、具体的に電力会社を紹介はしなくても、オール電化特有の電力プランの基本を理解してアドバイスすると良いでしょう。
「洗濯やドライヤーなどの家電を使用する際には、できるだけ夜間の時間帯を利用すると電気料金が節約できます。例えば22:00から翌8:00までの間は、日中より割安な料金で電力を利用できます。それを意識すれば、少しでもお得になります」と言った具合です。
給湯器の交換は至難の技
オール電化住宅を紹介する場合に覚えておきたいのは、間取によってはメンテナンス時に大変な苦労をする可能性があることです。
代表的なのが貯湯ユニットの交換です。
室外に設置されている場合は問題ありませんが、積雪地帯などでは室内に設置されます。
その場合、交換には大変な労力が必要となるからです。
ガス給湯器の場合、一般家庭で採用される号数(水温+25℃のお湯が1分間に出る量)は、20~24号の範囲です。
号数が大きいほど、一度に沢山のお湯を使用できます。
号数は都市ガス、LPガス、給湯器メーカーによらず共通で使用されています。
これは給湯器の型番にも盛り込まれており、給湯器本体横などに貼られているシールと見れば、号数を確認できます。
国内給湯機シェア率首位と言われているRinnai(リンナイ)製品を例に上げれば、型番はRUF-205SAW(B) MBC-155V(A)となっています。
アルファベットに続く数字の二桁(205SAW)に注目すれば、商品が20号であると分かります。
型番についてはメーカーごと規則性が設けられています。
Paloma(パロマ)の給湯・暖房一体式給湯器であればDH-CE2016SAWLと言った具合です。
十分な湯量が確保できる給湯器のサイズは、外型寸法でH(高さ)600・W(幅)469・D(奥行)240しかありません。
それにたいしオール電化の給湯システムは、一般家庭向けの標準サイズ(460リットル)でも、外型寸法はH(高さ)2200・W(幅)700・D(奥行)800ほど、重量も70kgはあります。
新築時は、室内の壁ボードを施工する前に搬入できますから問題ありませんが、既築住宅で電気貯湯ユニットの搬入・搬出は大変な労力を伴います。
かろうじてドアの開口部は通せますが、間取りによっては廊下を曲がりきれず、ルートも見つからない場合があります。
場合によっては、壁の一部を撤去して搬入・搬出する必要が生じる場合もあります。
電気貯湯ユニットの寿命は15年前後が目安ですが、実際には20年以上、使用されている方も多くおられます。
ですが、いずれは交換が必要になるでしょう。
また地震の影響で電気貯湯ユニットの固定足が破損し、傾いたことで使用不能になるケースもあります。
あまり意識しない部分ではありますが、覚えておくと良いでしょう。
媒介業者の説明はどこまで必要か?
オール電化住宅を扱う場合、顧客にたいしどの程度まで説明を行えば義務を果たしたと言えるのか諸説あるでしょう。
一般的な見解としては、付帯設備表により付帯している設備の有無と故障、不具合の告知を行えば、各設備機器の使用方法や注意点などまで説明する必要はないとされています。
ただし付帯設備表への記載時注意事項として、可能であれば使用年数を記載して、引渡し後、買主が当該設備を保守するうえで参考となる情報を記載することが推奨されています。
取扱説明書や使用説明書、保証書等について引継ぐことも必要です。
オール電化住宅からの住替えであれば、買主も使用方法等について理解しているでしょうが、そうではない場合には戸惑いがあるでしょう。
例えばライフスタイルによって十分に検討が必要な電気の契約プランや、電気温水器の湯沸かし時間設定方法などについてです。
義務ではないにしても、顧客の不安を払拭するのは宅地建物取引業者の道義的責任です。
基本的な内容を説明できる程度の基礎知識は備えておきたいものです。
まとめ
今回はオール電化住宅を扱う場合に備え抑えておきたい予備知識について解説しました。
火を使用しないので安全である反面、電力に依存することの弊害については理解が必要です。
地震発生時に大規模な停電が発生した場合に受ける影響もそうですが、先行き不透明な電気料金の推移にも、顧客は不安があるでしょう。
日本の電気料金が割高なのは間違いないのですが、世界的に見ればイギリスやイタリアよりは安くなっています。
オール電化住宅と相性の良い太陽光発電について相談される場合もあるでしょう。
増加を続けるオール電化住宅については、私たちが取扱う機会も増えていいきます。
信頼される業者であるために、関連知識について拡充していく必要があると言えるでしょう。