【顧客に説明できますか?】災害の激甚化に備えるレジリエンスについて

2050年までに達成すべき脱炭素化に伴い、視点を変えて検討が必要な課題として災害の発生を踏まえたレジリエンス強化があります。

レジリエンス(resilience)は、一般化するまでは物理学や心理学で用いられる専門的な用語でした。もともと「回復力」や「弾性」、「適応力」を意味する英単語です。

ですがこの言葉、最近では様々なニュアンスで用いられることが多くなりました。例えば企業や人物評などで用いる場合です。この場合の意味は「逆境に対する忍耐力」が備わっていると評する場合が多いでしょう。

日本語の意味合いとしては「しなやかな回復力」と捉えた方が良いかも知れません。

不動産業界においても、この言葉には注目が必要です。近年、政府が本腰を入れ推奨し、その影響もあって顧客から注目されているのが「レジリエンス住宅」だからです。

レジリエンス住宅

住宅は快適に暮らせることが最も大切ですが、それと同時に家族を守る「城」としての機能が求められます。大規模震災が発生した際に、命を奪う原因となってはなりません。

そのために必要なのが耐震性や制震性であり、さらに断絶されたライフラインが復旧していない状態でも生活するために必要なエネルギー自給、そして無駄なエネルギーを使用しなくても室内環境が維持できる断熱性能です。

激甚災害が多発している影響もあるのでしょう、近年は建築都市計画、環境分野等で注目を集め、専門家による研究も進められています。

需要も増加傾向にあると言われていますが、その注目度とは裏腹に理解が今ひとつ進んでいない印象を受けます。

私たち不動産業者間で、「レジリエンス住宅について説明して下さい」と質問したら、正解率はどの程度になるでしょう。

今回は「レジリエンスとは何か」、その概念について解説してきたいと思います。

レジリエンス住宅とサステナブル住宅の関係性

レジリエンス住宅は災害や緊急事態に対する耐性を持つ住宅と定義されます。ただし、防災性や耐久力だけではなく、以下のような要件が求められます。

●ZEH基準相当の断熱性能
●バリアフリー性
●防犯性能
●創エネ設備
●耐震性能・防火性能
●地域で想定される防災対策
●停電時にも家電を使用できる設備機器の採用
●生活用水や非常食の収納庫
●避難経路や避難口に考慮した間取り

もっとも上記の要件を満たしたからと言って、公に「当社で販売しているのはレジリエンス住宅です」と表現できる訳ではありません。これらは概念の一部に過ぎないからです。

もっとも、そのように表現を用いたからと言って何らかの罰則を受ける訳ではありません。ただし、正確に理解している方からは冷笑されるのがオチですからお勧めできません。

レジリエンス住宅と同様に、最近耳にするようになった「サステナブル住宅」があります。この言葉は持続(sustain)とAble(~できる)を併せた造語で、「持続可能な」との意味を持ちます。

そのためサステナブル住宅は地球環境に配慮すると同時に、資源の持続可能な利用を考慮した住宅を指しています。

つまり積極的な再生可能エネルギーの使用、大気汚染によるヒートアイランドを抑制するための二酸化炭素排出量の抑制、そして住まう人にとってやさしい住宅であることです。

なんとも漠然としていますが、実は構造や機能性等をどのようにすればレジリエンス住宅やサステナブル住宅と呼称できるかについては定義も明確ではありません。

防災性や耐久力を重要視するレジリエンス住宅にたいし、持続可能性を追及するサステナブル住宅、これらの概念は文字にすれば異なるように見えますが、異なる側面を強調しつつも共通する目標を持っているからです。

日本でサステナブル住宅の普及に努めているJSBC(一般社団法人 日本サステナブル
建築協会)では、サステナブル住宅をレジリエンスの上位概念として捉えています。つまり、サステナブル住宅を造るためにはレジリエンスを高める必要があるとの考え方です。

住まいのレジリエンスを高めましょう

その考えに基づき、レジリエンス度を「免疫力」、「土壇場力」、「サバイバル力」に分割したチェックリストを下記ホームページ上で公開しています。

https://www.jsbc.or.jp/research-study/casbee/tools/resilience_checklist.html

レジリエンス度,自宅

一般の方に向けに作成されたチェックリストですので専門性が必要な問題形式ではありませんが、回答していくことによってレジリエンス度がどの程度満たされているかを確認できます。

チェックリスト,レジリエンス

チェックリストを一読すればすぐに分かりますが、断熱性能や耐震性などが一定水準以上であるからと言って、そこに住まう方が自ら備えを行っていなければサステナブル住宅やレジリエンス住宅であるとはいえないのです。

私たちはZEH水準で求められる耐震性・断熱性・省エネ設備・再エネ設備の導入などを満たした住宅を斡旋することはできますが、それに追加して行えることは、顧客にたいし災害時の備え方などについて説明するまでです。

レジリエンス住宅であると呼称するためには、基本性能を有した上で、災害に対しての準備を怠りなく整える必要があります。それが出来るのは顧客だけなのです。

覚えておきたいレジリエンス住宅と健康の関係

レジリエンス住宅は「住まいが命を守る」という命題を達成できる住宅です。ですが、それは激甚災害に対する耐震性能等だけではありません。室内環境が健康に与える影響を忘れてはならないからです。

レジリエンス住宅と健康の関係

一定以上の省エネ性能が確保されると、月々の電気料金等が削減されます。さらに創エネ設備を導入すれば、利益を生み出すことも可能でしょう。

省エネ性能を満たす前提として求められるのが断熱性能です。つまり、外気温等の影響を受けにくい性能が必要です。これを達成することで少ないエネルギー消費でも快適な室内環境を維持できるのです。

これにより浴室やトイレなど、室内の寒暖差によるヒートショックの発生を低減できます。さらに、以下のような健康被害が抑制できるとされています。

●高血圧症の防止
●循環器疾患の予防
●熱中症の予防
●身体活動の活性化

レジリエンス住宅と健康の関係

住環境が居住者の健康維持増進に影響を与えることについては多くの研究が行われています。それらの研究論文などを読むことも大切ではありますが、そこまでしなくても住環境が居住者の健康に与える影響について認識することは容易です。

政府機関等の動向を見れば、判断できるからです。

たとえば国土交通省の場合、高齢者が安心に自立して暮らせるストック住宅が増加するよう、住生活基本法に基いて住生活基本計画を策定し、それを達成するために活動しています。

新たな住生活基本計画の概要

また厚生労働省も過去に、「快適で健康的な住宅に関する検討会議」を実施しています。さらに、WHO(世界保健機構)が世界の医学論文をレビューする形で、住宅性能と健康の関係性について言及していることから、もはや異論をはさむ余地はありません。

WHO暖かい住まいと断熱などを勧告

私たちは住宅性能により得られる効果が、省エネルギー性による経済的効果という限定的なものではなく、家族の「命」に影響を及ぼすことを理解したうえで、分かりやすく顧客に説明する必要があるのです。

まとめ

今回はレジリエンスの概念を中心に解説しました。

お読みいただいた方は理解されたと思いますが、物件を販売する私たちが「この住宅はレジリエンス住宅です」と表現すれば不適切な言い回しになります。住まう人の協力なしに実現できないのが、レジリエンスだからです。

「この住宅はレジリエンス度が高く、そのため……」と、耐久性や堅牢性、激甚災害に耐えうる基本性能についてを説明したうえで、さらに備えについて補足するのです。

大手のハウスメーカーなどはホームページなどで「レジリエンス」という表現を採用していますが、あくまで各社が考える理念として、「当社はレジリエンスな住まいを推奨しています」と言ったニュアンスに留めています。

筆者の知る限りですが、「レジリエンス住宅を販売しています」と言った表現を採用しているところはありません。ですが、顧客の中には、レジリエンス住宅やサステナブル住宅と言った商品が存在しているのだと誤解している方もおられます。

私たちにはレジリエンスやサステナブルという概念が、相互に補完し合う関係であると理解したうえで、どのような選択基準で住宅を選べば、レジリエンス性を活かし安全気に、かつ快適に暮らせるを説明する必要があるのでしょう。

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