【詐欺被害を防止するため理解を深めたい】本人確認の実施と、疑わしい取引の届出について

真面目に業務に従事してれば、犯罪とは無関係でいられる。

残念ながら、これは幻想です。

価格が高額となる不動産取引は犯罪者のターゲットとして狙われやすいからです。

したがって私たちは、顧客が被害に巻き込まれないよう配慮が必要です。

無論、顧客だけではありません。

自身が犯罪被害に合わないよう注意する必要もあります。

犯罪収益移転防止法(正式名称_犯罪収益移転防止に関する法律)が施行されたのは平成20年3月のことです。

法制定当初において、43の業種と事業者(現在は電話転送サービス事業者などが追加され、46事業者となっています)が「特定事業者(法22項)」に位置付けられました。

特定事業者は銀行を始めとしてファイナンスやクレジット事業者などの各種金融機関を筆頭に、宝石・貴金属取扱や各種士業が名を連ねますが、宅地建物取引業者(第36号)も含まれています。

特定事業者には、事業者ごとに義務とされる業務範囲が指定されており、宅地建物取引業者にたいしては、売買の媒介および代理が対象とされています。

したがって交換や賃貸の媒介については、宅地建物取引業法の適用範囲ではありますが、犯罪収益移転防止法の適用はありません。

ですが、暴排条例の遵守や、後日紛争を回避する意味においても当事者の本人確認を徹底すると同時に、記録を残す必要があるでしょう(義務ではなく任意です)

特定事業者である私たちには、該当する取引を行う際に講ずべき措置として、3つの義務が科せられています。

日頃から実務をこなされている皆さんは、当然にこれらの措置を実施されていることと思います。

ですが、義務だから最低限、応じておけば良いと言った類のものではありません。

思わずも犯罪に加担する、もしくはそれらによるトラブルに巻き込まれた場合、不利益を被るのは顧客や皆さん自身です。

「そう簡単に被害になど遭わない」と楽観されている方は、下記の「疑わしい取引の年間通知件数」の推移を見ると良いでしょう。

疑わしい取引に関する届出は、増加しているのです。

無論、「届出=犯罪件数」ではありません。

犯罪収益防止に関しての認知が高まると同時に、担当者の経験値が増したことにより報告件数が増加したという背景もあるでしょう。

ですが犯罪は多様化し、いつ、私たちが巻き込まれるか分かりません。

今回は本人確認方法と、疑わしい取引の見抜き方について解説します。

本人確認の重要性

宅地建物取引業者に求められる確認事項は、個人の場合、①本人特定事項(氏名・住所・生年月日)②取引を行う目的③職業です。

法人の場合は事業内容と、実質的支配者の確認及びその者に係る本人特定事項が追加されます。

研修などを行うと、「共同媒介の場合、それぞれの業者が自社の顧客にたいし本人確認を実施していれば良いのですよね?」と質問されます。

これは一部正解ですが、正答ではありません。

原則論としては、「契約当事者全ての確認を行う」が正解です。

ただし、複数の業者が関与する取引などにおいて、当事者全員の本人確認を行ない、記録するのは現実的ではありません。

そこで、「取引に関与するすべての宅地建物取引業において、必要に応じ確認記録を検索できる状態であるとき」に限り、一者が本人確認等の措置を実施すれば足りるとされているのです。

ですから、共同媒介で当事者の態度や言動に不審を抱くような場合には、相手方業者にたいし、本人確認記録の開示を要求すべきです。

開示された内容に不審な点がないか精査するのは当然ですが、よしんば記録が残されていない場合には、取引を延期するなどの措置を講じる必要があります。

厳しいようですが、本来、全ての契約当事者について本人確認等の実施が必要なのです。

相手方業者の確認が杜撰であったことにより、犯罪に加担する結果になってはいけません。

共同媒介だからと言って、媒介業者の義務や責任まで按分される訳ではありません。

これは、物件調査や重要事項の記載内容等についても同様です。

相手方が作成した書面であっても、記載漏れや虚偽の内容があった場合には、連帯して責任を問われるのです。

「相手が適正に業務を行わなかったら……」なんてのは、言い訳にはなりません。

先述したように、指定取引時の確認や記録の保存は宅地建物取引業者に課せられた義務です。

そのため行政庁による報告・資料要請・義務違反者による是正命令などを怠った場合、懲役もしくは罰金刑が科せられるのですから、軽く考えてはなりません。

そこで本人確認の実施方法についておさらいしておきましょう。

本人確認は、運転免許証・パスポート・マイナンバーカードなど、公的機関が発行した顔写真付きの証明書類を用いるのが原則です。

記録保存のため、原本を提示してもらうのです。

この場合、「写しは必要か?」と思われる方もいるでしょう。

公的機関が発行した顔写真付きの証明書類については、提示してもらい確認する、所謂「提示のみ法」で良いとされています(写しを取ることが禁止されているわけではありません)。

ただしマイナンバーカードについては、裏面に個人番号が記載されていますので、写しをとったり(表面は可)、個人番号を控えるような行為をしてはなりません。

諸事情により公的機関が発行した顔写真付きの証明書類の提示ができない場合には、健康保険証や国民年金手帳、印鑑登録証明書(契約書等に押印した印鑑に限る)で代用できますが、その場合は補完書類(公共料金の領収書等)の確認が必須とされています。

当事者が法人の場合には、法人の登記事項証明・印鑑登録証明を提出してもらうのは当然として、取引担当者の本人確認書類についても、個人取引と同様、従う基準があります。

また、法人の業務内容や行政指導の有無などについても、予め調査しておくと良いでしょう。

また、戸籍謄本や抄本、住民票の写しなどで代用を求められる場合もありますが、写しの提示は確認したと見なされません(免許証等の写しを提示された場合も同様)原本を提出してもらう必要があります。

犯罪収益移転防止法によらずとも、代理権のない無権限者が、その身分を偽り権限者であるように欺罔して取引を持ちかけてくるケースがあります。

地面師などはその典型ですが、それ以外にも、真の所有者からの承諾を得ず売買を持ちかけてくる親族などもこれにあたります。

この場合、所有者であると誤認させるため、本人確認書類(住民票など)や委任状などを準備して交渉を持ちかけてきます。

先述したような方法で、本人確認を徹底すれば、成りすましは未然に防げる訳ですが、おざなりにすると騙されます。

またIT取引が全面的に解禁されたことにより、媒介依頼や契約まで非対面で行えるようになりました。

利害関係者が許容すれば、一度も顔を合わせず取引が行えるのです。

この場合、本人確認書類またはその写しの送付を受けます。

さらに、書類に記載されている顧客や法人代表者などの住所や所在あてに、取引に係る文書などを書留郵便など、転送不要郵便物(居住していない、もしくは住所が誤っている場合には転送せず、差出人に返還される郵便物)で送付を行ないます。

それ以外には、電子署名法もしくは公的個人認証法に準じる方法も選択肢の一つです。

IT取引の普及に伴い非対面での取引は増加していますが、本人確認の重要性は変わりません。

いかなる状況においても、本人確認や取引意思の確認は、その言動等に惑わされず確実に行う必要があるのです。

疑わしい取り引きはこう見破る

冒頭で解説したように、「疑いのある取引」については報告義務が設けられています。

ですが、法律では基準が示されていません。

怪しいと感じるかどうか、その判断基準は任意とされているのです。

国土交通省は、下記のようなケースは疑わしい取引に該当するとして、報告が義務であるとのバブリックコメントを公表しています。

目を通せば、確かに怪しいと勘案される内容です。

ですが、公務員がその与信力を活かして不動産投資を行う場合もありますし、一般の会社に勤務されている方が投資家として成功を収め、多額の現金で買い増す場合もあるでしょう。

また相続により、多額の現金を保有している場合もあります。

不動産投資家の中には見切りが早く、短期間のうちに売買を繰り返す方もいます。

パブリックコメントの類型に合致するからといって、直ちに報告が必要とされる訳ではないのです。

大切なのは、購入資金の出どころやその整合性のほか、顧客の属性、取引状況などを総合的に勘案し、合理的な判断を行うことです。

そのためには定められた手順を遵守し、経験を蓄積することが必要です。

判断するために必要な情報を、注意深く収集し、適切に判断できる能力を育てていくのです。

疑わしい取引の報告はどこに行えば良いの?

皆さんが「疑わしい取引」であると確信した場合、どこに、どのような形で報告すれば良いのでしょうか。

正解は特定事業者ごとの所轄行政庁です。

ですから、宅地建物取引業者の場合、国土交通大臣免許においては国土交通大臣に、都道府県知事免許の場合には都道府県知事に届出ます。

届出は文書によるほか、インターネットを利用することも可能です。

報告様式については、JAFIC(犯罪収益防止対策室)の公式ウエブサイト(下記アドレス)で確認できます。

https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/index_g.htm

これらの手続きにより、疑わしい取引の情報を適切な行政機関に報告することができます。

疑わしい具体的なケース

筆者は同業他社から、「このような商談を持ちかけられたのだが、どう思う?」と助言を求められることがあります。

そのような経験を参考に、疑わしい取引の具体例を幾つか紹介しておきます。

①「至急資金が必要になった」との理由で、買取可能(近隣相場の6~8割前後)な金額での売却を打診してくる。

※急に資金が必要となり、その資金を確保するために手持不動産を売却することはよくあるケースです。

ですが、急いで売却したいからとはいえ、「少しでも高く売りたい」というのが人情です。

相場より著く低い金額を、先方から持ちかけてくる場合は疑ってかかる方が良いでしょう。

②交渉当事者が、意思決定に関する決定権を有していないように感じられる(提案にたいして即断できない、相談してから後日改めて回答するなど)

※契約日を決定する際、「家族と相談してから」などと言われることは多いものです。

それ自体は問題ないのですが、相談相手の姿が見えてこない(実際に会ったことがない)のに、交渉相手が常に決定の留保を繰り返す場合、決定権を持つのは誰かを確認する必要があります。

反社会的組織などが資金を提供し、別人名義の名前で不動産を購入しようとする場合に多いケースです。

③自宅ではない場所を交渉や契約場所に指定してくる。また、勤務先や自宅に連絡や訪問して貰っては困ると念を押され、常に携帯電話への連絡を指定される。

※勤務先の確認までは義務ですが、会社の実態や事業内容の調査まで求められている訳ではありません。

ですがトラブルに巻き込まれないためには、それらの調査を行う習慣をつけると良いでしょう。

疑い始めればキリはありませんが、名刺を貰ったから安心と考えるのは間違いです。

提供された名刺に記載されている場所に、会社が存在していなかったケースもあるからです。

携帯電話への連絡のみを指定され、自宅や勤務先への連絡をしないように念を押されるような場合には、会社の実態調査や在籍確認などを行なうことをお勧めします。

④宅建業免許を有していないのに、共同媒介を持ちかけてくる(社名はそれらしい屋号が付けられている場合が多い)。

※宅建業の免許を有していない、もしくは免許業者に在籍していないにも拘らず、共同媒介を持ちかけてくるケースがあります。

〇〇商事など、不動産に関連するような名称が用いられることが多いのですが、免許業者ではない相手と共同媒介など成立しません(そもそも、宅地建物取引業法違反です)。

線の細い、もしくは不確かな情報だけをもって活動するにわか不動産屋(宅建業免許の有無によらず)は、「走り屋」と揶揄されますが、信頼できない相手の話には乗らないことが大切です。

⑤取引日や場所、決済日や振込先などを突然変更してくる。当事者名義ではない口座に、契約金や決済金の振り込みを要求してくる。

※取引前日や当日などに、突然、場所や取引方法などの変更を要請された場合は注意が必要です。

契約調印の締結場所が、当日、いきなり変更され、事前に説明を受けていた事務所とは異なる事務所で締結したことにより、手付金を搾取された事件(転売人なりすまし事案)では、媒介業者に善管注意義務があったとして、賠償責任が命じられています(東京地裁H30.3.29)

アクシデントがあっても、臨機応変に対応し契約等を締結するのが私たちに求められる資質ですが、突然の変更依頼の理由が合理的に納得できない申出である場合には、取引を延期するなどの措置が必要でしょう。

⑥身分などについて詳細を尋ねると「そんなに煩く言うのなら、他に買い手もいるからそちらに話を持っていく」など、質問を妨げるような態度を取る。

※当事者が拒んだからと言って、本人確認を疎かにしてはなりません。

本人確認とその記録を徹底することは、私たちに課せられた義務です。

疎かにすれば、自らにペナルティが科せられることを忘れてはなりません。

2017年6月1日に大手ハウスメーカーである積水ハウスが、土地の売買をめぐる詐欺被害により、63億円の被害にあったのは記憶に新しいところです。

この事件で暗躍したのが地面師グループです。

所有者に成りすました女性は、パスポートと印鑑証明を提示して本人確認に応じています。

これだけの高額案件ですから、本来であれば「裏とり(真に所有者である当人であるかを、近隣への聞き込み調査の実施や、血縁者への打診で確認する)」が実施されるのですが、「他にも買い手がいて急いでいる」などの理由で、行われませんでした。

利害関係者の中には、「この取引は怪しい」と問題視する声も多かったようです。

例えばパスポートの表記がおかしかった(後に偽造パスポートであることが発覚した)ほか、自分の誕生日を忘れる、干支を間違える、自分の住所を間違えて記載するなど、疑わしい点が数多く見られたようです。

また取引時には様々な理由をつけて権利証を持参せず、本人確認情報で登記申請を申し出たほか、決済金についても銀行振込ではなく、換金が容易で引き出し記録も残らない預金小切手を指定してくるなど、疑わしい点が多々あったのです。

舞台は、不動産業界の皆が注目する好立地の土地でしたから、取得を急いだとの背景もあったのでしょう。

ですが、疑わしい点があれば徹底して調査を行ない、場合によっては取引を延期、もしくは中止していれば被害を未然に防げていたかも知れません。

まとめ

今回は犯罪収益移転防止法についての解説と同時に、本人確認の重要性、そして疑わしい取引の見分け方と、そのような事案が発生した場合の報告義務について解説しました。

犯罪収益移転防止法は、犯罪による収益が組織的犯罪を助長するために使用されることから、その防止を図るために施行されています。

マネー・ロンダリングとテロ資金供与の防止、それを徹底することにより資金面から犯罪組織の撲滅を図るのが趣旨です。

特定事業者である私たちは、この趣旨に沿って確認を行うのですが、義務とされているから徹底するだけでは足りません。

本人確認等を杜撰にすれば、心ならずも犯罪に巻き込まれることになるのです。

顧客や自身の保全と図る意味でも、疑わしい取引を防止するための措置は徹底したいものです。

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