顧客から販売を依頼された土地の放置車両や、管理を請け負っている賃貸物件への違法な駐車車両の排除は、不動産業者にとって重要な業務の一つです。
放置車両や違法駐車は、占有で生じる物件評価や収益の減少問題だけではなく、犯罪の温床になる可能性や、景観を損なうリスクがあります。そのため看過できる問題ではありません。
監視カメラの設置などの予防策は一定の効果はありますが、すべての物件で実施できるわけではありません。
管理を任されている場合、所有者は不動産業者に対して、適切な方法で速やかに排除することを求めてくるでしょう。
したがって私たち不動産業者には、法的に問題を生じさせず、より効果的に車両を排除できる知見が必要となるのです、
そこで今回は、放置車両や違法駐車車両の実践的な排除方法について、順を追って解説していきたいと思います。
所有者特定までの流れ
放置車両と違法駐車、いずれの場合でも最初に行うのは状況の把握と証拠収集です。
基本は以下の方法によります。
●車種、ナンバープレートの記録
●駐車(もしくは放置)期間の記録
●状況写真の撮影
ナンバープレートが外されている、もしくは窓ガラスが破損している状態の放置車両は、犯罪に使用された、もしくは盗難車両の可能性があります。
そのような場合には、不動産業者から所轄の警察署に連絡し、臨場を求める必要があります。
警察官が必要だと判断した場合には、諸手続きを経たうえでレッカー移動してくれる可能性があります。
ここで注意していただきたいのが、裁判による判決を経ず、放置車等を車両所有者の承諾なしに移動できるのは警察官等の職権(道路法第51条、刑事訴訟法第218条第1項等)だと言うことです。
一般人が所有者もしくは裁判所の許可を経ず移動したり、ましてや車両に損害を与えたりする行為は容認されません。
筆者は以前、旧知の賃貸オーナーから相談を受けたことがあります。
その賃貸オーナーは、車両が放置されたことに腹を立て、車両のフロントガラスに強力な糊でべったりと「駐車禁止」の紙を貼り付けたことにより、車両の所有者から賠償請求されたからです。
気持ちは理解できますが、このような行為は容認されません。
「なんで、そんなことしたんですか」と窘めつつ仲裁に入り、その結果、賃貸オーナーの直接謝罪と、常識的な金銭の支払いで和解に応じてもらえました。
このように、放置車両を勝手に動かす行為や、車両に損害を与える、もしくは所有者の許可なく処分する行為は、「自力救済」として違法になると覚えておきましょう。
例外的に出入り口を塞いだり、歩行者の通行を妨げたりしている場合には、緊急避難として容認されるケースもあります。
しかし、原則として不必要に手を出さないことが大切です。
状況の把握と証拠収集が終了したら、次は所有者の特定です。
違法駐車の場合、短時間で移動するケースもありますから、ワイパーに「無断駐車禁止」の警告書を挟めて様子を見れば、それ以降の駐車抑止に効果があります。
ただし、長期間放置されたままの車両や、同一車両による頻繁な違法駐車については、所有者を特定して注意喚起する必要があります。
所有者情報については、最寄りの運輸支局または自動車検査登録事務所(軽自動車については軽自動車検査協会)に出向き、「登録事項等証明書」を発行してもらうことで確認できます。
登録事項証明書には、現在の登録事項だけが記載される「現在登録証明書」と、新規登録からの履歴が全て記載された「詳細登録証明書」の2種類ありますが、通常の所有者特定調査であれば前者(現在登録証明書)で十分です。
申請書(第3号書式)は国土交通省の専用ページからダウンロードできますので、あらかじめ必要箇所を記載しておくと良いでしょう。
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk6_000021.html
原則として申請には、登録番号(ナンバープレートに記載)と車台番号(車体に刻印された番号)のが必要です(車両登録が抹消されている場合には、車体番号だけで申請が可能です)
車検証にはその両方が記載されていますが、放置車両の車検証が確認できる筈がありません。
そこで申請書の他に、「私有地放置車両関係位置図」を準備して申請します。
状況の把握と証拠収集の重要性については先述しましたが、場所の特定・車種、ナンバープレート、駐車(もしくは放置)期間の記録や写真は、私有地放置車両関係位置図を作成する時にも使用できます。
ただしこの書類は、申請地により書式が異なりますので、あらかじめ最寄り陸運局へ確認する必要があります。
登録事項等証明書が取得できれば、記載された住所宛に書面郵送、訪問などの手段でアプローチが可能になります。
ただし登録事項等証明書に記載された住所地から引っ越していた場合は、さらにひと手間必要になります。
記載された住所に居住していない場合
登録事項等証明書に記載される所有者の住所は、車検証の登録住所と一致します。
ただし、車検と同時に住所変更を申請される方が多いため、実際の居住地と異なる場合があります。
また、登録が抹消されている車両は、公道での走行が認められていないため、住所変更は記載されません。
このような場合、住民票を取得して現住所を追跡することになります。
私たち不動産業者は、顧客の依頼により住民票を代理取得することがあります。
しかし、委任状なしで第三者の住民票を取得することは、原則として認められていません。
正当な理由があり、かつ請求の根拠となる証拠書面等の写しを提示すると同時に詳細な使用目的を説明し、行政機関の承認を得られれば、委任状なしでも取得できる可能性はあります。
しかし、認められる可能性は低いでしょう。
職務上請求が可能な弁護士に依頼するのが無難です。
相手先への通知
所有者が特定できたら、書面で相手に通知します。
後日紛争を避ける意味でも、内容証明有郵便の利用をお勧めします。
書面には、少なくても以下の内容を明記しましょう。
●駐車場所
●駐車期間
●撤去要請期間
●撤去されない場合の措置
内容証明を利用する場合は同封できませんが、そうでない場合は駐車場所や期間を記載する代わりに「私有地放置車両関係位置図」を同封しても良いでしょう。
筆者の経験上、ほとんどのケースではこの作業により問題を解決できます。
しかし、それでも問題が解決できない場合は所有者が相応の悪意を持っていると判断するほかありません。
これまでの証拠を携え、市区町村の放置車両担当窓口や警察に相談するのも一つの方法ですが、実際のところ、あまり有効な手段とは言えません。
違法駐車や車両放置は、刑法第130条による建造物侵入罪の構成要件を満たしますが、同時に私有地という個人の財産権行使は、個人間の私的関係の問題であるともされます。
したがって行政解釈としては、「私的関係による権利侵害の救済は、司法(裁判所)がつかさどる」との見解が示されるのです。
つまり、個人間で解決しなさいとの判断です。
最後の手段は法的手続き
最終的な手段としては、「法的な手続き」によるほかありません。
この場合、民法709条で規定されている「不法行為に基づく損害賠償請求」を行うか、放置車両の強制排除を求め提訴し、土地明け渡しの強制執行判決を得る必要があります。
強制執行の判決が得られれば、執行官が査定して無価値であると判断した場合(価値があると判断された場合は、競売に移行します)、廃棄処分が可能になります。
どちらを検討するか(併用も可能)は土地の所有者次第ですが、いずれにしても不動産業者が手を出せる範疇ではありません。弁護士に依頼して手続きすることになります。
まとめ
今回は放置車両や違法駐車の対策として、所有者の特定方法や排除方法の基本を解説しました。
今回、解説した内容で、通常の問題は解決できると思いますが、やっかいなのはナンバープレートが外された放置車両です。
車体番号さえ確認できれば、詳細登録証明書(新規登録からの履歴が全て記載された書類)を入手して、履歴順に調査を行い放置した個人を特定できる可能性はありますが、刻印はボンネットを開けたエンジンルームの奥や、運転席シートの下などに施されているケースが多く、車両に触れず確認することはできません。
朽ち果てた車両であれば話は別かも知れませんが、確信犯は車体番号を削りとっているケースが多く、その場合は所有者を特定する方法がありません。
個人救済と受け取られないよう最善の注意をはらい目的を達成するには、さらに専門的な知見が必要とされます。
今回は、基本的な対応方法を焦点としているため、専門性が必要な手法等についての説明は割愛しましたが、大切なのは基本です。
不動産のプロとしては、基本を忠実に抑えておきましょう。