【心が折れる前に理解しておきたい】不動産業界におけるカスハラ傾向と対策

不動産営業は主に、高額な財産である「住まい」を扱う仕事です。

無論、事業用の土地や収益ビルを扱う場合もありますが、専門としていない限りは個人への斡旋が多いでしょう。

そのため単なる物件売買ではなく、顧客のライフプランに寄り添い理想の住まいを斡旋する、いわばパートナーのような存在になるのが理想です。

そのためには顧客の要望を正確に把握する必要があります。

希望条件はもちろん、ライフスタイルや家族構成、将来の展望などを丁寧に聞き取り、真意の理解に努めるのです。

営業マンと顧客が対等な関係を構築するのは理想ですが、実際はある程度「へりくだる」ことで心理的距離を縮め、親しみやすい雰囲気を作り出さねばなりません。

この場合、へりくだりは弱みではありません。

信頼関係を築き、真のニーズを引き出すために有効なコミュニケーションテクニックですから、不動産営業のほとんどは少なからず行使しているでしょう。

しかし程度が過ぎると調子の乗るきっかけを与え、悪意のある顧客からの不当要求や、ハラスメントの発生リスクが高まります。

特に自信過剰で放漫なタイプや、上から目線で接してくるタイプには注意が必要です。

不動産営業の離職理由は上司からのパワハラや契約件数の不振、不規則な労働時間や給与面など様々ですが、「クレーム対応が辛い」との理由も多いからです。

日本では「クレーム=苦情」と認識されていますが、本来は「請求」や「主張」を意味する言葉です。

したがって正当なクレームは業務改善や新たなサービス開発につながるとして、主張の本意を理解し適切に対応すれば良いのです。

しかし先述した放漫タイプなどからのクレームは、時として営業マンのプライベートや労働環境までを害するレベルにまで発展します。

不動産営業は顧客の下僕ではありません。

テクニックとしてへりくだっても、あくまで対等な関係です。

したがって社会通念上著しく不相当な態様については、毅然として対応する必要があるのです。

今回は正当な主張とカスハラの見分け方、さらに企業として構築しておきたいカスタマーハラスメント対策について解説していきます。

カスハラ対策は、企業にこそ求められる

不動産営業はその性質上、業務の大半を個人で完結することが多い職種です。

したがって顧客からのクレームで報告を受けても、個人の裁量で解決しろと指示することが多い。

ですが熟練者であれば対応できても、経験の浅い営業マンでは困難でしょう。

そもそも顧客からの要求が正当なクレームなのか、それともカスタマーハラスメントに該当するのかを判断せずに自分で解決しろと指示するのは酷です。

社員10名以下の事業所が95.5%(出典:国土交通省不動産産業ビジョン2030)を占める不動産業界ですから、人的な制約により、個々の案件を詳細に把握するのが難しいのかも知れません。

しかし労働契約法第5条(労働者の安全配慮義務)により、企業には従業者の身体や精神が害されることがないよう配慮する義務が定められていることを、経営者や管理職は理解しておく必要があります。

顧客からのカスタマーハラスメントによって営業マンが精神疾患などを発症した場合、企業が損害賠償請求を受けるリスクがあるのです。

それだけではありません。宅地建物取引業法第65条1項第3号で定められた「業務に関し他の法令に違反し、宅地建物取引業者として不適当であると認められるとき」に該当するとして、監督官庁(国土交通大臣又は当道府県知事)から指示や業務停止命令を受ける危険性があるのです。

カスタマーハラスメントの傾向

厚生労働省が公開している「カスタマーハラスメント企業対策マニュアル」によれば、過去3年間のハラスメント相談の第3位に「顧客からの著しい迷惑行為」が上げられています。

過去3年間のハラスメント相談件数の傾向

しかも「年々件数が増加している(19.4%)」とする回答結果が、「減少している(12.1%)」を上回っているのです。

受けた行為の内容としては、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)」が52.0%、続いて「名誉毀損・侮辱・ひどい暴言」が46.9%となっています。

受けた顧客等からの著しい迷惑行為の内容

さらに金品要求や土下座の強要などの「著しく不当な要求」、「暴行・傷害」となっています。

脅迫や暴行・傷害など刑法違反に該当する場合は、警察への相談を検討できます。

しかしそれ以外については、判断基準が明確に示されていません。適切に個別判断するためには、定義とカスタマーハラスメントの傾向を理解しておく必要があります。

カスタマーハラスメントの定義

厚生労働省はカスタマーハラスメントを以下のように定義付けています。

厚生労働省,カスタマーハラスメント,定義

また要求内容が妥当性を欠く場合や、要求を実現するための手段や態様の程度について、それぞれ以下のような例をあげています。

厚生労働省,カスタマーハラスメント,定義

厚生労働省,カスタマーハラスメント,定義

厚生労働省,カスタマーハラスメント,定義

実際の事例では、SNSやマスコミへの暴露をほのめかした脅しや、具体的な個人名は伏せているものの、企業名や役職などで容易に特定できる表現で、不動産口コミサイトに書き込まれた例もあります。

また長時間、同じ質問や話を繰り返し、疲れて対応ミスが生じたことを理由に責め立てるなどの事例も散見されますが、どの程度の段階でカスタマーハラスメントに該当するかにうては、一括りに判断できません。

そのため企業としては、厚生労働省の「カスタマーハラスメント企業対策マニュアル」を参考にした独自マニュアルの作成が必要なのです。

判断基準が明確になれば、早い段階で企業が介入できます。

多様な知識が必要とされる不動産営業を相応レベルまで育てるには、長期間の教育訓練が必要です。カスタマーハラスメントにより心が折れての離職は可能な限り防止したいものです。

理解しておきたい判断基準

適切なクレーム(主張)とカスタマーハラスメントは似て非なるものです。

しかし、その基準が明確ではないため、適切な判断基準を知る必要があります。

そのためには、まず主張の原因となっている事実関係や状況について、主観を交えず確認する必要があります。

そして相手方の求められている要件(謝罪、原状回復、金銭的和解等)を把握し、それが法令や信義則に照らして適当かどうかを判断するのです。

時に感情が高ぶり、意図せず大声を出すことは誰しも起こり得ることです。

しかし暴力的、威圧的、侮辱的、差別的などの表現が継続する状態は常識を逸脱していると判断できます。

冷静に発言や要求内容を把握し、その妥当性を勘案したうえで緩やかに終結させるのが妥当と判断される場合もあるでしょうし、状況によっては厳格な判断を下す必要もあるのです。

これらの判断は営業個人に委ねるより、企業として事業主もしくは管理職が判断し対応するのが得策でしょう。

そのためにも企業としての基本姿勢や判断基準を明確にすると同時に、営業を含む従業者にたいし「自社基準に照らし相当ではないと判断される場合については、組織的に対応する」旨を、周知しておくことが大切なのです。

もっとも全日本不動産協会が実施した調査によれば、このようなカスタマーハラスメント対策が構築されている不動産業者数は、全体の21%にとどまっていたようです。

具体的な対応と対策

カスタマーハラスメントであると判断される場合には、可能な限り複数で対応する必要があります。

また内容が深刻であると判断される場合には、一次対応者に代わって直属の管理職が対応する配慮も必要でしょう。

一次対応者だけで応対している場合、時間帯や状況によってよって対応できない場合があります。

「連絡がつかない」などを理由に二次クレームが発生する場合もありますから、複数人で情報を共有し、その誰もが対応できるよう備えておく必要があります。

またそれぞれの対応者が判断を誤らないよう、誠意のある対応を心がけると同時に、状況理解と事実確認を徹底しながらその記録を残す必要があります。

その際の注意点は以下のようなものです。

証拠収集

ハラスメントであると判断した場合は、その時点から録音・録画を行う。

その場合、対面、非対面によらず「後日紛争に備え、これ以降のやりとりについては録画(または録音)させていただきます」と断りを入れます。

その際、「なんで録音(もしくは録画)する必要があるんだ!」と声を荒らげられることもありますが、「録音(もしくは録画)されて不都合なことはありますか?」と返答すると同時に、後日の水掛け論防止に必要であると説明しましょう。

この方法は、携帯電話でのやり取りでも有効です。

実際に、録音(もしくは録画)を宣言した時点から相手方のトーンが下がることがよくあります。

迂闊に謝罪しない

こちらに「非」があるのなら謝罪は当然です。

しかし、正確に状況が把握できていない段階で謝罪してはなりません。

「そちらに非があるから、謝罪したのだろう」などの口実を与えることになるからです。

必要に応じ「不快な思いをされたことについて、お詫びもうしあげます」など、事実と確認できる部分についてのみ、謝罪するのです。

また「詫び状を書け」、もしくは土下座を強要された場合は「ご意向を検討したうえで、後日、連絡させていただきます」と伝え、速やかに交渉を打ち切ります。

納得ができず、かつ精査もされていない文章を迂闊に書いてはなりません。

明確に意思表示する

長時間にわたり居座りや拘束、電話対応を強要された場合や、早朝、深夜に執拗に携帯電話に連絡してくるケース。

それ以外にも対話中、侮辱的発言や名誉毀損、人格を否定する発言などが繰り返される場合には、「今後、このような行為を行わないで欲しい」旨を宣言したうえで、居座りの場合は退去を促し、電話の場合は通話を切ります。

また、「殺されたいのか」などの発言や、反社会的勢力とのつながりをほのめかす、もしくは「SNSへ書き込んでやる」などの脅迫的言動にたいしては対応できない旨を伝えると同時に、「これ以上、そのような発言を続けられるなら警察に相談させていただきます」と伝えると良いでしょう。

まとめ

不動産業界はクレーム産業であるとよく言われます。

一般の方が一生に一度きりとの思いで購入する高額財産であると同時に、時に理解が及ばない様々な法律が関係しているのですから、クレーム発生率が高いのは頷ける話です。

先述したように、適正なクレーム(主張)にたいしては真摯に対応しなければなりません。

また、こちらに「非」がある場合には謝罪も当然でしょう。ときに金銭的な和解提案が必要かも知れません。

ですが根拠のない謝罪要求等など、全てに応じる必要はありません。

社会通念上不相当な要求については、脅迫や恐喝、強要や名誉毀損などの刑法罰に該当する可能性もあるのです。

「お客様は神様」なんて言葉もありますが、誰しもが売り手になるし買い手になるのが商習慣です。

どちらが偉いと言ったものではありません。

双方が節度と信頼を持って相対する必要があるのです。

したがって、カスタマーハラスメントであると判断される事案にたいし、へりくだった対応をする必要はないのです。

企業としての判断基準を明確に示すと同時に、個人レベルでも知見を深め、時に毅然と対応する必要があるのです。

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